「まちづくり」とは?・・・・「終の栖」のまちづくり:近江八幡市の試み

2007-07-09 21:24:39 | 居住環境

 「まちづくり」という「あいまいな」言葉が使われだしたのは、日本では1970年代の後半ぐらいからだろうか。
 「あいまいな」というのは、何か「ばら色のイメージ」をともなうが、よく見てみるとその実態が浮かんでこないからだ。そうでありながら、建築にかかわる人びとの多くが、比較的好む言葉なのは事実である。そのあたりに、建築にかかわる人たちの(もちろん、すべてではないが)「思想」を見るような気がしてならない。近ごろでは、狭隘な敷地に建て売りさばく建売住宅の業者まで、「まちづくり」の語を使ったりする。


 よく見かける「まちづくり」は、「地域社会の活性化」、端的に言えば町の「経済」の活性化(=潤すこと)を求める例である。そして、そのネタとして、先に紹介した「大内宿」のように、地域の「歴史的遺産」を「観光資源」として、「観光」客を誘致し、簡単に言えば「金を落させる」ことを求める例が多いのではないか。町の人びとの暮しの視点が欠落するのが常。だから、「歴史的遺産」を有する町が脚光を浴びる。そういった「資源」のない地域では、「まちづくり」のきっかけがない・・・みたいだ!

 この最も早い、時間的に言うと最も古い例は、「伝統的建造物群保存地区」制度の「はしり」となった、中山道の「妻籠(つまご)宿」。
 そこは今、どうなっているか。
 訪れる人は年毎に減り、人を呼ぶべく、あるいは生活を維持すべく建屋を改造しようにも、「資源」である「歴史的遺産」の形状維持がネックになり、四苦八苦している。時間が止められているのだ。
 最も早いがゆえに、問題点の現われ方もまた、最も早かったのである。そして、これこそが、「伝建地区」制度の内包する最大の問題点なのだ。

 「価値のある過去の遺産」を、「絶滅危惧種」として、保護し維持することの意味は、たしかに一定程度は認めることはできる。
 しかし、その一方で、人びとが「今」なすべき「日常の営為」について、何も問わず、また問われないで来たからこそ、そしてまた「遺産」を商売のネタとしか考えて来なかったからこそ、さらに、その「商売」で得た金で「遺産」の維持ができると考えてしまったからこそ、そしてさらに、町中に人がいること:人数が多いことを「活性化」と考えてしまった、つまり、町に暮す人、そうでない人の別なしに人数の多少でものを見てきてしまった・・・、これらのことが、こういう結果を生んだのだ、と私は思う。人は、博物館の中では生きられない。
 おそらく、この先多くの「伝建地区」で、同様の問題が起きるに違いない。同時にこれは、「世界遺産」のはらむ問題でもある。


 このようななかで、今あたりまえになっている「まちづくり」とは全く対極にある例を、先日のNHK・TVの介護問題の特集で知った。
 滋賀県近江八幡市の『「終の栖家(ついのすみか)」のまちづくり』である。
 ここ数回紹介してきたように、近江八幡は近江商人発祥の地。見事な町並も残っている。
 早速、無理を承知で近江八幡市に問い合わせたところ、資料を紹介いただいた。
 平成18年(2006年)3月発行の『第3期 近江八幡市 総合介護計画』である(近江八幡市 健康福祉部 高齢福祉・介護課 編集発行、A4判約250頁。頒価1000円、送料別)。

 この計画書の冒頭に、「総合介護計画」の「総合」は、介護は高齢者にとどまるものでなく、障害者なども含め介護が必要な市民すべてを対象とした事業計画であるという思いを込めて名付けています、との説明がある。つまり、この計画は「介護保険法」の趣旨の実現を契機に考えられたものだが、高齢者だけを対象には考えていない、ということ。
 この計画の「理念」と「施策の方針」そして、その実施・実現例を、同計画書から要約して引用・転載する。

1.基本理念
 この計画は、本市が標榜する『終の栖』づくりを実現するために、市民が介護が必要になった時でも住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう、社会全体で連帯して介護を支え、個人としての尊厳に基づいて当たり前の権利として介護(予防)サービスを利用できるようにする介護保険法の理念はもちろんのこと、市民の福祉の増進および生活の安定向上を図ることを目的として、下記の理念を策定した。
 ①個人としての尊厳
 ②個人としての能力を活かした、自立した生活の保持
 ③個人としての遺志による選択
 ④共同連帯による地域支援
 ⑤社会参加と計画の参画
 (各項の詳しい説明は省略)
2.具体的な考え方
 ①平成27年(2015年)を見据えた取り組み
  注 平成27年 戦後ベビーブーム世代が65歳以上になる年
 ②市民参画による計画策定
 ③市民・事業者・行政の間でのパートナーシップそして責任に基づく運営
 ④住み慣れた日常生活圏域での在宅介護の重視
 ⑤低所得者への配慮
 ⑥健康の保持増進と寝たきり予防施策の充実
 ⑦障害者の支援

3.高齢者支援体制整備の重点事項
 ①高齢者の権利擁護の充実
 ②要介護状態になる前からの介護予防サービスの充実
 ③地域密着型サービスを中心とした在宅介護の充実
  日常生活圏域ごとに、「通える」「泊まれる」「訪問を受けられる」ことができる
  小規模多機能型居宅介護中心の地域密着型サービスの基盤整備を推進、
  定員30人以上の特別養護老人ホームなどの大型施設の整備は極力控える。
 ④包括的・継続的マネジメントの充実
  地域包括支援センターに「高齢者・障害者総合相談センター」を設置。
 ⑤認知症高齢者支援の体制整備 
 ⑥総合相談の充実
  高齢者だけではなく、「障害」「子育て」など、個人ではなく家族を視点にお
  いた幅広い「ワンストップサービス」の相談体制の推進
 ・・・
4.地域密着型サービス施設の展開
 市内にある民家の空家を利用した「民家改修型小規模デイサービス施設」を、「近江八幡市・地域包括支援センター」のブランチとして「地域密着型サービスの拠点施設」とする。

 この「民家改修型施設」に使われている建物には、建設後170年の町家や築25年の最近の住居まで、種々ある。

 また、この小規模施設の運営は、すべて地域の人たちのボランティア:NPO法人でなされていることも注目してよい。
 最近、怪しげなNPOが増えているが、これは正真正銘のNPO。これによって、町の人たちの「連帯意識」が徐々に醸成されているようだ。

 近江八幡は、すでに紹介したように近江商人のつくった町並が遺っていて、「伝建地区」にも指定されいる。
 しかし、近江八幡で行われているのは、指定建物だけに目をやらず、また古いものを単なる「観光資源」として扱うのではなく、そしてもちろん、空家=無用のもの、廃棄すべきものとして扱うのではなく、市民の共通の「生活財産」として有効に活用しよう、という施策と言うことができる。
 これは、昔ならあたりまえのことだったのだが、《現代の常識》から言えば、見事な発想の転換である。

 町中にある空家が、有効に活用されだした結果、かなりの活気がよみがえってきているようである。町なかを歩く人に、観光客だけではなく、地元の人たちが増えた、ということ。

 つまり、多くの「まちづくり」とは異なり、近江八幡では、どのような「まち」にするか、目標が明確な「まちづくり」である、と言えばよいだろう。
 その目標がすなわち「終の栖」。これほど明快な目標はない。
 
 上掲の写真は、平成17年に市の広報に載せられた空民家募集の記事と、「民家改修型施設」の2実例。いずれも同計画書から。 
コメント (2)
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