私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロジャバ革命の命運(2)

2017-09-24 22:53:15 | 日記・エッセイ・コラム
 2014年にデリゾール市周辺の油田地帯(石油、天然ガス)を制圧したISはデリゾール市を包囲して攻略しようとしましたが、空港を含む市内を死守する政府軍は、最小限の武器弾薬と市民への食料の空輸を受けて頑強に抵抗を続けていました。
 2016年9月17日、米国が主導するいわゆる有志連合空軍がデリゾール空港を防衛する政府軍を爆撃して兵士90人が死亡しましたが、米国はシリア政府軍の拠点をISのそれと間違えて誤爆したと、全く開いた口の塞がらない真っ赤な嘘を申し立てたのです。兵士90人の損失は、戦闘中としては大打撃です。この米空軍“誤爆”のおかげでデリゾール空港が一時はIS軍の手に落ちたとも伝えられました。IS軍が、アサド政権打倒のための米国の傭兵であることをこれほどあからさまに示した猿芝居は滅多に観賞することはできません。実質的に同じ猿芝居が今回もデリゾール市周辺の攻防戦で繰り返されています。シリア政府軍の最精鋭部隊がラッカ南部を素通りしてデリゾール市に向かって急進撃し、市を包囲していたIS軍を瞬くうちに撃破する事態に直面した米国は、ラッカでお互いに殺し合いをさせていたクルド人軍YPGとIS軍を急遽デリゾール地域に送って、デリゾール市を制覇してユーフラテス川の東岸に侵攻しようとするシリア政府軍を阻止しようと試みました。YPGとISが力を合わせてシリア政府軍と戦うという構図です。デリゾール市からユーフラテス川を東に渡れば、その周辺にはシリア最大の油田地帯が広がっています。米国はYPGの司令官に「もしシリア政府軍がユーフラテス川東岸に進出を試みるならば、シリア軍は我が軍の攻撃にさらされるであろう」という脅しの声明を出させましたが、9月18日、19日には、政府軍の大部隊がユーフラテス川を渡ってしまいました。ラッカとデリゾールの距離は百数十キロです。詳しいことは次の記事を参照してください。同様の報告は他にもいくつか見つかります:

http://www.moonofalabama.org/2017/09/syria-russia-accuses-us-of-attacks-direct-coordination-with-al-qaeda.html#more

こうしてデリゾール市からユーフラテス川を東に渡った地域に広がるシリア最大の油田地帯の争奪戦が始まりましたが、米国の代理軍としてのYPGとシリア政府軍の衝突がすでにいくつも報告されています。これはロジャバ革命にとって実に由々しき重大な事態であり、私にとって現時点での最大の関心事でありますが、詳しくは次回に記述することにして、以下には、明日行われるイラクのクルド人自治区の独立の賛否を問う住民投票について、日本のマスコミが全く触れていない、しかし、甚だ重要な事柄を簡単に指摘したいと思います。それはイラクのクルド人自治区政府のバルザニ議長と自治政府の軍事組織ペシュメルガの本質あるいは正体についての認識の驚くべき欠如です。汚い言葉を使えば、バルザニは米国、イスラエル、トルコ(エルドアン大統領)の回し者、傀儡です。バルザニとペシュメルガは、本気で「ロジャバ革命」を推進してきたクルド人たちの強い嫌悪の対象なのです。これは最も注目に値する厳然たる事実です。今回の住民投票の真の目的は、三千万人のクルド人の悲願実現への第一歩を踏み出すことではなく、中東の混乱を収束に向かわせないための大芝居を打つことにあります。大向こうを欺くファルスです。詳しくはまた次回に。

藤永茂(2017年9月24日)

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1 コメント

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Unknown (近藤英一郎)
2017-09-25 17:02:57
お元気でいらっしゃって、本当に安心致しました。
ブログ記事が 途絶えていた間、<アメリカ・インディアン悲史>を読んで過ごしておりました。何度読んでも、この本を書いた人と、この本に書かれた人々の愛情と悲しみがあまりに深いため、早く読み終えてしまうのが 訣れのようで切なく 勿体なく、寂しい、という本当に稀な 書。そして、約半世紀の時が流れ、私は、この本を書かれた時の先生のお年をとっくに超えました。いまも真摯で暖かく、そして孤独な 愛情深い藤永茂という稀な人。その書と人柄に触れえた幸運を、天に感謝しております。
どうぞ 末永く おん身お大切に、我々をお導き下さい。
本題と全く関係の無い事を書きまして、申し訳ありませんでした。
私は今もウィーンで、四重奏のヴィオラを弾いております。
また、先生のお好きなメナヘム・プレスラーの90才のお祝いの時、シューベルトの<鱒>や ドヴォルザークのクインテットを共演したエベーヌ四重奏団と云う、とても若い人達の演奏なども楽しんでいます。
彼らのドビュッシーのカルテットは 美しいです。これが西洋の美だという美しさ。
そして、今 まぬがれ得ない崩壊の途を辿る世界。その淡い光芒のような。
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