私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

Alexandra Valiente, Libya 360

2014-12-10 22:10:32 | 日記・エッセイ・コラム
 アフリカ大陸で一番輝いていた国リビアが米欧の凶暴な暴力によって滅ぼされた(今のリビアはもはや国ではありません)頃から、私は、Libya360°というサイトに気づき、それ以来、大変お世話になっています。他のところでは読めないような充実した有用な情報がしばしば掲載されているからです。

http://libya360.wordpress.com

近頃の例で言えば、12月4日のウラジーミル・プーチン大統領がロシア連邦議会で千人以上の聴衆の前で行った年次教書演説についての記事です。その短い要約はロシアNOWというサイトに日本語で出ていますが、要約と全文(英語訳)では、有用さの点で比較になりません。

http://jp.rbth.com/politics/2014/12/05/51345.html

この内容はクレムリンの正式の英訳文を転載したものです。:

http://eng.news.kremlin.ru/news/23341

1時間以上にわたるプーチンの講演のムービーもありますが、その同時通訳は印刷されている英訳全文と細部では同じでありません。
 このプーチンの講演から受ける印象は貴重なものです。オバマの典型的な講演のスタイルと比較すると、プロパガンダとヒポクリジーの要素は遥かに少なく、多くの具体的な政策の詳細が述べられています。プーチンがオバマより段違いにsane な政治家であることがよく分かります。
 この例が示すように、Libya360°というサイトは、現在の世界を正しく把握する為に有用な情報や基礎的な資料を豊かに提供しています。無残に滅ぼされたリビアという国の怨念の甲高い絶叫が聞こえてきても何の不思議もないのですが、そうではないのは、その編集者であるアレクサンドラ・バリエンテという名の女性のお陰であると思われます。ネット上で少し調べてみましたが個人的な事はよく分かりませんし、私にとっては、Libya360°というサイトが提供してくれる恩恵を享受するだけで十分です。彼女自身の筆になる古い(2011年)の記事が、もう一つの私の好きなサイトであるAxis of Logic に出ていますので、参考に掲げておきますが、

http://axisoflogic.com/artman/publish/Article_63703.shtml

ここで彼女が読者としてコメントしている、Lizzie Phelan というこれまた女性のジャーナリストが陥落直前のリビアの首都トリポリからの報道記事は、いま読んでも胸が詰まります。

http://axisoflogic.com/artman/publish/Article_63691.shtml

 アレクサンドラ・バリエンテの紹介はこの位にして、今日の話題に入ります。
 10日あまり前のLibya360°に「Aleida Guevara Provides Inspiration at 10th Latin America Conference」という見出しでアレイダ・ゲバラさんの興味ぶかい講演のことが報じられていました。

http://libya360.wordpress.com/2014/11/30/aleida-guevara-provides-inspiration-at-10th-latin-america-conference/

チェ・ゲバラの長女でキューバの小児科医のアレイダ・ゲバラは、キューバ親善大使としても、国際的によく知られた人です。日本にも何度か来て、東北の罹災地を視察し、広島など各地を訪れて講演をしています。この11月から12月にかけては英国を訪問して、幾つか講演をしたようです。11月29日(土)にはロンドンのコングレス・ハウスという場所で、“Latin America 2014”という集会が催され、彼女はそこでューバについての講演を二つしました。これで10回目となる集会の主要な目的は、キューバという国に対する国際的な理解と支持を高めることにありますが、「キューバは来るべき世界のモデルとなりうる」というのがアレイダ・ゲバラの講演の主要メッセージだと思われます。その可能性、現実味を端的に示した最近の事例は、西部アフリカでのエボラ出血熱の伝染に対するキューバの反応でした。
 このLibya360°の記事によると、15,000 人の保健医療関係のキューバ人が、今回、進んで西部アフリカ行きを志願したようで、アレイダさんもその一人でした。結局、選抜された数百人がまずエボラ熱の伝染地帯に送り込まれましたが、彼らは自らを感染の危険に晒して、住民の中に入り込んで行きました。これが他の国々からの派遣団員と際立って異なる点でした。すでにボリビア、メキシコ、ニクアラガでエボラ対策要員の訓練を開始しており、キューバでエボラ熱に関する学会を主催して、これには米国の医師たちも参加しました。実は、今回は、これまでと違って、世界保健機関(WHO)の側から直接キューバにエボラ危機対処への出動要請がありました。
 現在、キューバから派遣されて国外66カ国で働いている保健医療関係要員の数は、ベネズエラに11,000人、アフリカに4,000人など総計50,731人、“しかし、数は重要でない。大事なのは彼らがあげている成果だ。幼児死亡率は確実に下がっている。これこそ重要だ”とアレイダさんは強調します。
 しかし、米国政府はこのキューバの「医療外交」の成功を嫌悪し、それを切り崩そうとして、国外で働いているキューバの医師たちに働きかけて米国への帰化を、依然として、誘っています。
 ロンドンでのこの集会のあと、アレイダ・ゲバラさんは12月4日にはレスター大学、5日にはシェフィールド大学で学生たちに語りかけています。4日の招待講演のタイトルは“A better world is possible”で、これはボリビアのモラレス大統領の「良く生きよう」の呼びかけと同質の呼びかけです。レスター大学のスティーヴ・メルイッシュ博士は「キューバは政治的な謎(enigma)だ。キューバはヨーロッパの社会主義国たちとソ連が崩壊した後も生き残り、その後も今日まで西欧のキューバ批判論をものともせず生きている。その保健医療制度、無償の教育制度、反帝国主義闘争への支援、そして、災害救済に関する国際主義的行動で称えられるキューバという国は、発展途上国の多くの人々にとってインスピレーションである」とアレイダ・ゲバラの国を学生たちに紹介しました。

藤永 茂 (2014年12月10日)

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2 コメント

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Alexandra Valiente, Libya 360 (おにうちぎ)
2014-12-13 13:41:48
毎週水曜日の定期便ブログを楽しみに読んでおります。
「戦争が始まるとき最初に打ち倒されるのは「真実」である」という言葉があるそうですが、これは単純化が過ぎるでしょう。現代社会では日常が「非真実」に満たされている気がします。現在日本のいかがわしい根拠しかない総選挙の周辺でも主流の情報は「非真実」でしかありません。安倍政権の為してきた政策の延長に何が見えますか、それに同意するのですか? という真の問い掛けは目くらましにより矮小化されています。
世界を眺めるとき、「私の闇の奥」ブログの訴えるところは「真実」に違いないと観じて、わたしの見る領域とは別の領域からの情報を読んでいます。今回はキューバ、この不思議な社会主義長寿国、米欧情報ルート以外には日本に知られること余りに少ない国、中南米の米国支配脱却を目指す国からみた大先輩。
そこに見た文、「その保健医療制度、無償の教育制度、反帝国主義闘争への支援、そして、災害救済に関する国際主義的行動で称えられるキューバという国は、発展途上国の多くの人々にとってインスピレーションである」はその通りですが、発展途上国という限定詞がもったいないのではないでしょうか。日本から見ても、保健医療・教育・農業・災害救済などでまねてよいことが山ほどあるように思います。(以上)
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LibyaとSyria (黒曜石)
2015-02-13 01:50:37
blog.conflictive.info というブログを見ていたら、Syria360°というサイトの記事の翻訳が載っていました。

[リンク記事]「この戦争は ISIS を標的したものではない、アサドを狙ったものである
http://blog.conflictive.info/?eid=179614

こちらで藤永先生が御紹介されているLibya360°とは姉妹サイトのようで、左上にリンクも並んでいれば、Alexandra Valiente さんの記事がこちらにも幾つも載っています。(私の拙い英語力ではなかなか理解が難しいのですが、それでも少しずつ読んでみようかと思います)

以下、御紹介がてら「blog.conflictive.info 」さんの記事から、翻訳部分を一部だけ引用させていただきます。

This War is Not Aimed at ISIS, But at Assad  By Dan Glazebrook 2014年10月3日
http://syria360.wordpress.com/2014/10/03/this-war-is-not-aimed-at-isis-but-at-assad/

先週木曜日、わたしは長期に渡って被害を受けるイラク人民をまたもや爆撃すべきかというイギリス議会の討論を見ていた。そして、そこにおける、これまでのイギリスの中東政策がどれだけ誤っていたかということを認める議論の多さは印象的であった。

占領によって国家を機能不全にしたことこそ ISIS がイラクに勢力拡大することを許したという現実と同様に、過去3年間西側がシリアの武装反乱を支持し続けてきた――資金、武器、訓練(広報活動をも含む)をあらゆる反乱兵に提供してきた――ことが、ISIS を強大化、あるいは生み出しさえしたかということが、すべての政党の議員から繰り返し述べられた。しかし、そういった主張をする議員のすべてが、政府の提案に(“しぶしぶ”、“憂鬱ながら” etc etc etc)賛成票を投じると言うのだ。暗に主張されているのは、たしかに過去3年間(あるいは11年間)私たちは間違ったことをしてきたが、いまはその誤りを正すチャンスだということである。その「けだもの」を生み出す手助けをしてしまったからこそ、今私たちはその消滅を手助けしなければならない、と。

中東に対するイギリスの戦争は、ほとんどの場合同じ論理によって正当化されてきた。リビア爆撃は、イラクに対するイギリスの処置――地上軍による占領――が非生産的で人々の憤激を生み出したという認識に基づいていた。だから西側の空軍が支援するリビア人(あるいはカタール人)部隊を使ってカダフィを失脚させたことは、なにはともあれ2003年のイラク侵攻における「誤り」の「克服」なのである。しかし、2003年のイラク侵攻自体、イギリスがその地域の「独裁者」を支持してきたというそれまでの「誤り」に対する反省に基づくものとされていた(これは、イラク国家の犯罪とされるものをイギリスがすべて支援してきたと指摘を受ける度にトニー・ブレアが使った論理で、彼はそれを自らの戦争の正当化に使った)。そして、1980年代にイギリスがサダム・フセインを支持していたことそれ自体が、外務省がピックアップした傀儡王を支持してきた1950年代の政策からの見識ある進歩なのだと堂々と見せかけられていたのである。つまり、そのようなイギリスの外交政策の変遷は、「これまで私たちは誤りを犯してきた。しかしいまはそれを正すのだ」、「これまでの軍事介入は間違っていたが、今回の軍事介入はその誤りを正すものだ」、「かつて行った暴力は罪深いものである。しかし、今回の暴力はその罪を償うものだ」という主張をともなってきたのだ。

しかし、その暴力がこれまでの罪を償うということはない。見掛けとは裏腹に、内実は何も変わっていないからである。実際、イギリスの外交政策についての真摯な自己批判といったものはあった試しがなかった。次の殺戮を正当化するときにしか自己批判といったものは現れないのである。自己批判がそうあるべきものとして、つまり惨事に対する詳細な反省としてではなく、新たな流血の序章としてしか登場しないのだ。結局のところ、イギリスの外交政策は何も変わっていない。西側から独立した発展の可能性の息の根を止めるということが、いつもながらの目標なのである。イギリスが支援してきた王が、イラクの近代化を唱える勢力をもはや抑えることができなくなったとき、イギリスはバース党右派のクーデターを支援することによって共産主義者の影響力を圧殺しようとした。そのバース党がイラク国家の近代化に成功したときには、イギリスは全力でイラクにイランとの戦争をけしかけた。そして両国の富を浪費させ、かれらの発展を何十年も引き延ばさせたのである。そしてその戦争が終わって3年も経たないうちに、イギリスはイラクのインフラを破壊する空爆に参加し、引き続いてイラクは世界がそれまで経験したことのない壊滅的な経済制裁を受けることになった。その制裁は50万人もの子どもの命を奪い、国連の高官は彼らが呼ぶところのその「大虐殺政策」に抗議して3人連続で辞職した。イラクが完全に武装解除され経済制裁の「法的」な口実が尽きようとしていたとき、2003年の軍事侵攻が起こった。その戦争は、宗派主義を制度化する憲法を課し、その体制下における「民主主義」とは、お気に入りの宗派の利益を最大化するために他の人々すべてを犠牲にすることとなった。その結果、スンニ派は政府の和解不可能な敵となり、現在起こっている悲劇をもたらすこととなった。毎回、どの軍事介入においても結果は驚くほど一貫している――イラクが自国の大きな発展可能性を実現する能力はつねに妨害され後退させられてきたのだ。ダマスコ途上のパウロの回心のようなイギリス議員の180度の転向にしても、よくよく見てみれば、より戦術的な対処でしかないのである。

そして現在もそれは同じなのだ。新しい敵である ISIS に対するものとされている今回の戦争は、3年にもわたるシリア国家に対する戦争の継続であり、そしてそれ自体、北アフリカ、西アジア、そしてグローバルサウス全体の諸国家の発展と独立に対する何世紀にも及ぶ戦争の継続なのである。

(以下、まだ続きますが、興味を持たれた方は上記リンクより、読まれてください)
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