私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

イサム・ノグチ原爆慰霊碑建立の勧進(7)

2023-01-29 13:12:50 | 日記・エッセイ・コラム

 6年前、2017年2月、私は『オペ・おかめ』という擬似サイエンスフィクションのようなものを出版しました。その一部をコピーします:

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 五人が着地する新千歳空港には、かつては「キャンプ・千歳」と呼ばれる米軍の広大な空軍基地と電波通信施設があった。冷戦時代には大陸弾道ミサイルを探知追跡するレーダーシステムがあって、それは1975年に機能を停止して撤去された。しかし、最近は、世界核戦争に備えて、元の場所に新しいレーダーシステムが設置され、ミサイル迎撃ロケット発射装置も多数配備されたと、しきりに取り沙汰されていた。ピョンヤンやウラジオストクあたりから発射された大陸間弾道ミサイルを捕らえるには千歳は格好の位置にある。裏を返せば、千歳は先制核攻撃を受ける可能性が大きい。(コピー終わり)

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 近頃、政府は、相手の先制攻撃の食欲を鈍らせるために日本国内に自衛隊の地下基地施設を増設することを提案しています。過去に、沖縄は言うに及ばず、東京にも、いや、全国にわたって、我が国は大小あらゆる地下壕施設を設置していました。私の家でもいわゆる防空壕を掘り、福岡大空襲の時にはそれに潜り込みました。しかし、それが米軍に沖縄侵攻や本土都市空襲をためらう気をもたせたでしょうか? 馬鹿も休み休み言って頂きたい。千歳周辺の軍事施設の現状の報告こそ、首相の口から是非聞きたいものです。そして、私は、世界核戦争勃発を目前に控えるこの世界史的に重要な時点で、札幌のモエレ沼公園にイサム・ノグチ原爆慰霊碑を建設する決意を日本政府が世界に宣言することを強く求めます。これこそ、プロパガンダという卑しい見地からでさえ、「百利あって一害なし」のウイン・ウインの賭けでありましょう。賭け金は安いものです。広島原爆慰霊碑(正式称号:広島平和都市記念碑)の当初工費は三百万円。今のお金でも、30億円もあればイサム・ノグチ原爆慰霊碑建立は可能なのではありますまいか? この頃頻りに話題になっている戦車の値段は一台10億見当、まあ三台分、日本の軍事予算が40〜50兆と取り沙汰されている現在、30億は涙金です。何しろ「兆」とは一万「億」のことですから。

 小説『オペ・おかめ』の最初の事件は、アメリカ大統領の保養別荘地キャンプ・デイビッドで起こります。大統領とイスラエルの首相が、二人にこやかに並んで芝生に立ち、イスラエルの米国大使館のテルアビブからエルサレムへの移転設置が完了したことを世界に向かって宣言したその場に、色鮮やかな蜂鳥と見える敏捷な飛行物体が二つ飛来して、大統領と首相の顔面に迫り、両人の鼻の前の中空で停止して、強力な睡眠剤らしきものを吹きかけて飛び去ります:

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その直後、大統領と首相は、申し合わせたように、あの9・11の日、ニューヨークのツイン・タワーズが崩れ落ちた時と同じく、世界中で何千万か何億の人間たちが、今、テレビ・スクリーンの前に釘付けになって、二人の世界の権力者が並んで崩れ落ちる劇的シーンを凝視しているに違いなかった。(コピー終わり)

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 実際の、イスラエルの米国大使館のテルアビブからエルサレムへの移転は、私が小説を書いた時から1年後に実現しました。話の中の、蜂鳥の姿をした物体は今で言うドローンです。大統領と首相は72時間の昏睡状態から無事目を覚まします。

 2020年1月3日、イランの高名な将軍ソレイマーニーはイラクのバグダード国際空港のそばを車で走行中にリーパー(Reaper)と名付けられた米軍のドローンの攻撃を受け、同行者4人(8人という報道もあります)と共に惨殺されました。「リーパー」は、「死に神」のこと、しばしば、長柄、長刃の草刈り鎌を持つ姿に描かれます。ソレイマーニーの遺体は原形を留めないほどにひどく焼けただれ、本人照合は、常日頃、身に付けていた指輪によって行われました。将軍ソレイマーニーの葬儀の日には、イラン、イラクなど、中東の各地で計数百万の人々が街頭にあふれました。追悼と怨念の情は中東の人々の心中に、今も、脈打っています。ドローンによる要人暗殺の立案実施はバラク・オバマ大統領に発したものです。

 タイトル『オペ・おかめ』の“オペ”は“オペレーション”-手術、軍事作戦-にかけてあり、“おかめ”はイサム・ノグチの一つの彫刻作品のタイトルです。1990代、四国の牟礼にあるイサム・ノグチの旧居『ノグチ屋』を訪れた私は、その屋内にひそかに置かれていた“おかめ”を実際に見ました。今はどこにあるか知りません。私の胸には、このイサムノグチの「おかめ」の像と浦上天主堂の「被曝マリア」の像が焼きついています。それが小説『オペ・おかめ』を産んだとも言えます。これは小説と呼べるものではないかもしれません。プロからも親しい知人からも、「登場人物のキャラクターが作り上げられてない、薄っぺら」と批判されました。

 『オペ・おかめ』を小説呼ばわりすることが僭越であれば、イサム・ノグチ原爆慰霊碑建立の勧進帳の一部をなすパンフレットとして読んで戴ければ幸甚です。

藤永茂(2023年1月29日)


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2 コメント

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福島菊次郎さんの本を見て (山椒魚)
2023-02-02 18:52:30
図書館から、福島菊次郎さんの「戦争がはじまる」と「戦後の若者たち」の2冊を借りて見ました。
そのなかで「戦後の若者たち」の前書きといえる「犯罪者は誰か」という文章の最後に「私はこの記録を、60年代から70年代にかけて続いた熾烈な反権力闘争に関わったすべての人々が、ただ往時を偲ぶだけの”戦友会誌”にはしてもらいたくない。その時代が、今厳しく私たちの所在を問い直している、と思うからである。---あなたは今何をしているか」と書かれています。
 あのころの世代の子供達が今戦争に前のめりに成っているのを見ると、あの頃の世代の思想の曖昧さがわかるのではないでしょうか。少なくとも私は、生存の実存的危機に直面した時になお揺らがない思想を持ち得てはいなかったということだけは自己批判的にいうことができます。悲しいことですが。
 板付基地(福岡空港)の近くに住んでいますが、1日一回は自衛隊の飛行物体が飛び立つのが観察されます。一昨日は輸送機が、昨日はファントムが境はヘリが飛び立ってゆきました。少なくとも1日一度は自衛隊機が空港を利用しています。自衛隊は戦争をやる気満々の様に感じられます。
今「戦争がはじま」ろうとしているような気がします。
あなたは今何をしているか (藤永茂)
2023-02-03 15:08:49
山椒魚様
「あなたは今何をしているか」という問いに
私も忸怩たるものがあります。昔は「海ゆかば」を口ずさむ若者の一人でした。今も安楽椅子反戦論でお茶を濁している老人の一人、街頭に出る力もありません。コメント投稿有難うございました。   藤永茂

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