私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

白いヘルメット( White Helmets )

2016-10-05 22:09:58 | 日記
 今年のノーベル平和賞が「白いヘルメット」に与えられないように祈っています。もし与えられれば、それは、あまりにも情けない、悲しいことですから。いや、情けない、悲しい、などと個人的な感情の中に佇んでいることは、私のような者にも許されないのかもしれません。「白いヘルメット」がこれだけ前面に押し出されてきたということは、リビアに続いて、シリアも、米国によって、破壊されつくしてしまう前兆と考えるべきでありましょう。リビアでもシリアでも、若者たちは、大学まで無料で進学できました。医療保健制度も、米国などとは比べ物にならないほど、立派でした。
 去る9月25日、シリア情勢について、ロシアに先立って、米国の国連大使サマンサ・パワーが講演し、その中で幾度も「白いヘルメット」の名を上げて、その勇敢無私の行動を称え、その要員に対するロシア/シリア空軍の攻撃の非難を繰り返します。例によって、5歳の少年と、もう一人、5歳の少女を材料にして、御涙頂戴のストーリーが繰り広げてあります。サマンサ・パワーの講演は、虚偽と、悪意と、挑発に満ち満ちた実に読むに耐えない内容で、英語風に言うならば、I am going to throw up というところです。

https://usun.state.gov/remarks/7453

この後、ロシアの国連大使ヴィタリ・チュルキンが講演する番になると、サマンサ・パワーはフランスと英国の代表とともに席を立って退場し、チュルキンの講演を聞きませんでした。

http://russiaun.ru/en/news/sc_salp

このチュルキンの講演とパワーの講演を比較すると、いろいろのことが学べます。
 問題の「白いヘルメット」の正体を教えてくれる記事も多数存在しますが、我々日本人の間では、十分な情報が流されていない状況で、米国側のプロパガンダに乗せられている向きも多いのではないかと思います。グローバル・リサーチの次の記事は有用です。Youtubeにも多数の資料があります。

http://www.globalresearch.ca/the-real-syria-civil-defence-exposes-natos-white-helmets-as-terrorist-linked-imposters/5547528

https://www.youtube.com/watch?v=LS1Nx8L3QTk


藤永茂 (2016年10月5日)

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アサド大統領のインタビュー、虚偽を拡散しつつ他人に説教する人たち (桜井元)
2017-02-05 08:56:07
以前にも申しましたが、池上氏と山口氏だけがシリアに関する虚偽情報を流しているわけでは当然ありません。日本のジャーナリストや学者にはそういう人物が大勢います。ただ、このお二人は影響力が大きいのです。池上氏は報道解説の分野での知名度はダントツですし、リベラルで良識的な思想の持ち主と目されています。子ども向けに人権の本を書き、日弁連では憲法や平和についての講師に招かれています。

https://www.amazon.co.jp/1-%E3%81%84%E3%81%A1%E3%81%B0%E3%82%93%E8%BA%AB%E8%BF%91%E3%81%AA%E6%86%B2%E6%B3%95-%E4%BA%BA%E6%A8%A9%E3%81%AE%E8%A9%B1-%E6%B1%A0%E4%B8%8A%E5%BD%B0%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%A8%E5%AD%A6%E3%81%B612%E6%AD%B3%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB1-%E6%B1%A0%E4%B8%8A-%E5%BD%B0/dp/4055012292/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1486085831&sr=1-2&keywords=%E6%B1%A0%E4%B8%8A%E5%BD%B0%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%A8%E5%AD%A6%E3%81%B612%E6%AD%B3%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB

http://www.nichibenren.or.jp/event/year/2014/140827.html

山口氏も、世の中が右傾化するなかでリベラル派の重鎮として名が知られています。安保法案反対運動などでは中心的に活動されました。世のなかでは、このお二人のイメージは「リベラル」「良識」「知的」というものでしょう。それだけに彼らの発する虚偽情報は危険なのです。

「マスコミに載らない海外記事」を運営される方の翻訳をご参照ください。以前にもご紹介したジョン・ピルジャー氏の「見えざる政府の内実:戦争、プロパガンダ、クリントン & トランプ」という記事です。世にリベラルと目される者たち、著名なジャーナリストや大学教授が語る虚偽情報ほど危険なものはないとあります。信用と権威から人々に虚偽情報が容易に刷り込まれやすくなります。

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-f084.html

ちなみに、このお二人が本当に頼りになるリベラルの星なのかどうかは疑問であり、なかにはこういう声もあります。

http://blog.goo.ne.jp/minamihikaru1853/e/9d28917e56f1579f4ca8d8ee4bb4a345

池上氏はユニセフの支援者としても顔を出していますが、紛争の犠牲となる子供たちの支援よりも、そういう悲劇が生まれないように紛争の真実を報道するジャーナリストの仕事をこそ全うしていただきたいものです。

http://www.unicef.or.jp/special/msp/ike.html

山口氏は、同じくどこがリベラルなのか疑問の国際政治学者・藤原帰一氏と組んで、「新外交イニシアティブ」という外交問題のシンクタンクを立ち上げています。これを読んで賛同する者は寄付してくれという「設立趣意書」なるものを読みましたが、これのどこが従来の外交とは違う新機軸なのでしょうか。政府間外交以外の交流などなんら真新しいことではなく、外務省ですらNGOなど民間の役割を語っています。日米関係を軸に、周辺国との関係推進などというのも外務省の方針とどこが違うのでしょうか。おまけに、設立趣意書の最後の文章などは、安倍首相が真珠湾訪問で発したメッセージそのものではないですか。

山口二郎氏らの「新外交イニシアティブ」設立趣意書
http://www.nd-initiative.org/about-nd/nd-address/

外務省が掲げる日本の外交方針
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2016/html/chapter1_02.html#s10202

とにかく、池上氏と山口氏が発した虚偽につき、誠実に訂正・謝罪をすること(他人にあれだけ厳しくお説教をしているのですから当然のこと)を強く求めます。それはけじめとか、読者への礼儀というレベルの問題ではなく、影響力を行使して世の中に拡散した虚偽の「汚染洗浄」「毒消し」を自身が責任をもって行うということが必要だからです。
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アサド大統領のインタビュー、虚偽を拡散しつつ他人に説教する人たち (桜井元)
2017-02-05 08:49:15
さて、あいかわらず虚偽情報をテレビで拡散する池上氏ですが、彼はかつて朝日新聞の誤報問題(従軍慰安婦に関する吉田清治氏の虚偽証言)をめぐってこう主張しました。

一時朝日新聞から掲載を拒否された池上氏のコラムから
「過ちがあったなら、訂正するのは当然。でも、遅きに失したのではないか。過ちがあれば、率直に認めること。でも、潔くないのではないか。過ちを訂正するなら、謝罪もするべきではないか。…裏付けできなければ取り消す。当然の判断です。…こういう記事が出たら、裏付け取材をするのが記者のイロハ。…今回の検証記事では、他紙の報道についても触れ、吉田氏の証言は他紙も報じた、挺身隊と慰安婦の混同は他紙もしていたと書いています。問題は朝日の報道の過ちです。他社を引き合いに出すのは潔くありません。今回の検証は、自社の報道の過ちを認め、読者に報告しているのに、謝罪の言葉がありません。せっかく勇気を奮って訂正したのでしょうに、お詫びがなければ、試みは台無しです。…新聞記者は事実の前で謙虚になるべきです。過ちは潔く認め、謝罪する。これは国と国との関係であっても、新聞記者のモラルとしても、同じことではないでしょうか」

社内外の批判を浴び朝日新聞がコラム掲載に踏み切った際の池上氏のコメントから
「私はいま、「過ちては改むるに憚ることなかれ」という言葉を思い出しています。今回の掲載見合わせについて、朝日新聞が判断の誤りを認め、改めて掲載したいとの申し入れを受けました。過ちを認め、謝罪する。このコラムで私が主張したことを、今回に関しては朝日新聞が実行されたと考え、掲載を認めることにしました」

池上氏のこの主張と態度は当時、称賛されましたが、それだけに自身の誤りに対しても誠実に訂正をすべきでしょう。事は、言葉や数字の単純ミスなどではなく、重大なシリア紛争に関する根本的な事実誤認・虚偽報道なのですから。

ちなみに、従軍慰安婦への日本軍の関与や強制性については、吉田氏の証言が崩れても他の諸証拠によって立証は揺るがないものです。このことについては、歴史学者・田中利幸氏の二つの文章をご参考までに添付します。

http://peacephilosophy.blogspot.jp/2014/09/the-yoshida-seiji-testimony-that-asahi.html

http://peacephilosophy.blogspot.jp/2014/09/blog-post_23.html

ところで、山口二郎氏の方はといいますと、シリアに関する虚偽情報をいまも拡散し続けているかどうかはわかりません。しかし、シリアについて虚偽を述べた新聞のコラムにはその後訂正を出していません。それどころか、同じコラム欄に以下のような文章を書いていました。

「オバマ大統領は最後の記者会見で、「私たちの民主主義にはあなた方メディアが必要だ」と訴えた。事実を顧みないという意味の「ポスト真実」という言葉が世界を覆い、権力の虚偽を批判することの重要性がかつてなく高まっている時、正鵠を射た退任会見だと感心した。日本でもポスト真実を開き直って実践する動きが広がっている。特に、東京MXテレビの「ニュース女子」という番組で、沖縄における基地建設反対運動に関するデマをまき散らしたことは、メディアの劣化が瀬戸際まで来ていることを意味する。ネット上でデマが蔓延するのはむしろ常識に属するが、地上波のテレビで噓八百を並べることはないと視聴者は当然視してきたはずである。…あの番組では、本紙の論説副主幹なる人物が司会を務め、デマや中傷を止めようとはしなかった。翌週の同じ番組では、抗議があったことを紹介したが、報道に間違いがあったとは認めなかった。ゆえに、司会者はこの種のデマに賛意を示しているとみなすしかない。ジャーナリストの職業倫理にもとるのではないか」(東京新聞1月22日「本音のコラム」)

報道の価値を語るオバマを高く評価した部分には本当に驚きました。「オバマは報道の自由を侵している」という次の記事などを、山口氏はどう受け止めるのでしょうか。オバマ政権の提灯記事を書いてきた者たちを「よくやってくれた。君たちのような存在が必要だ」とオバマが褒めるのは当然のことでしょう。その反面、真の批判者や情報リーク者に対しては、歴代大統領以上に容赦なかったのがオバマです。

http://www.huffingtonpost.com/2014/10/06/obama-hates-press-james-risen-new-york-times-leaks_n_5940960.html

それはそれとして、山口氏は、これだけ虚偽・デマをメディアをとおして拡散することをとがめ、それを見過ごし訂正も謝罪もしない態度を職業倫理にもとるとまで批判するのですから、他人を批判した以上は、ご自分の拡散した虚偽情報についてもしっかりと訂正・謝罪をしていただきたいものです。

(以下つづく)
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アサド大統領のインタビュー、虚偽を拡散しつつ他人に説教する人たち (桜井元)
2017-02-05 08:48:09
池上氏は『僕らが毎日やっている最強の読み方』という本を書くほど自他ともに認める読書家ですが、先ほどの国枝氏の本などは読まれたのでしょうか。シリアについて職業人として人々に解説する仕事を引き受ける以上は、元シリア大使が書かれた新書くらいは読まれるべきでしょう。それを読めば主流メディアの見方に疑問が生ずるはずで、番組での解説のように主流メディアの見方をそのままなぞるような図式化はできないはずです。

https://www.amazon.co.jp/%E5%83%95%E3%82%89%E3%81%8C%E6%AF%8E%E6%97%A5%E3%82%84%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E6%9C%80%E5%BC%B7%E3%81%AE%E8%AA%AD%E3%81%BF%E6%96%B9-%E6%96%B0%E8%81%9E-%E9%9B%91%E8%AA%8C-%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88-%E6%9B%B8%E7%B1%8D%E3%81%8B%E3%82%89-%E7%9F%A5%E8%AD%98%E3%81%A8%E6%95%99%E9%A4%8A-%E3%82%92%E8%BA%AB%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%91%E3%82%8B70%E3%81%AE%E6%A5%B5%E6%84%8F-%E6%B1%A0%E4%B8%8A-%E5%BD%B0/dp/4492045910/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1485615226&sr=1-1

ちなみに余談ですが、この本の共著者である佐藤優という人物も怪しいですね。政治や社会の問題を論じるのにわざわざ難解な数学や物理の知識などを持ち出し、しかもその知識が間違いだらけだという批判がなされています。まさにソーカル事件の日本版をやっているような人物です。左派系、リベラル系の媒体でよく執筆していますが、どうしてこういう人物を重用するのか理解に苦しみます。

話を戻します。池上氏はあいかわらず「シリアは独裁国家、アサド大統領は独裁者」と言いますが、本当に国民の人権を蹂躙し、国民生活など顧慮しない独裁者なのでしょうか。以前に、カダフィ氏の革命後のリビアにおける国民生活の水準を、具体的データをもとに藤永先生が示してくださったのにならって、国連のミレニアム開発目標に関する報告書から検証してみました。

http://www.undp.org/content/dam/rbas/report/MDGR-2010-En.pdf

まず報告書から2008年段階のGDPがわかりましたが、約5兆円です。日本のGDPが約500兆円ですから100倍の開きです。ただし、人口規模の違いがありますから単純比較はできません。シリアの人口は当時約2000万人、日本は1億2800万人、したがって、1人当たりのGDPではその差は15倍くらいというところでしょうか。ちなみにシリアのGDPの5兆円は、日本の防衛予算くらいです。けっして経済的に豊かな国ではありません。米国からの長年の経済制裁、少ないODA援助額、地球温暖化が影響している砂漠化や旱魃などの問題、米国が起こしたイラク戦争から逃れてきた大量の難民の受け入れなど、人為あるいは自然の苦難のなかで、社会主義から改革開放へのシフトを含めて国家経営を模索しつつ、国民生活の向上に努力した経緯がわかるデータでした。貧困対策、教育、医療、公衆衛生インフラ、情報通信インフラ、女性のエンパワーメント、環境問題対策など多くの指標で順調に成果をあげてきました。

余談ですが、外務省のODA解説を見ますと、日本はGNI比率が本当に低いですね。国際社会での「応分の負担」をしていないことがわかります。説明の最後に「先進国がODAを減らさないのは、先進国にとって、途上国が平和で安定し、発展していくことが、自らの安定や繁栄につながっているという認識が浸透しているからだと思われます。どの国もODAは国際的な責任であるとともに、外交の重要な手段であるという考え方に立って実施しています。また、最近では、援助はその国のイメージ向上などに役立つといわれることもあります」とありますが、なんとも浅ましい言葉ですね。国内の所得再分配機能にあたるのが国際のODAであり、まさに富める者が貧しき者に手を差し伸べるものであり、人間の平等、社会的公正の理念に根差すものであるはずです。「援助する側の商売の利益になる、援助すれば外交上相手がいうことを聞いてくれる、援助すれば自分のイメージが上がる」 よく外務省がこんな文章を堂々と掲げられるものだと驚きました。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/11_hakusho/hayawakari/hayawakari.html

「ODAが少ないのは、先進国といえども余裕がないんだ」と言う人もいるかもしれません。しかし、本当に余裕がないのでしょうか。2010年の日本のODAは約110億ドルですが、例えば、イラク戦争には3兆ドルをかけており、また、タックスヘイブン(租税回避地)を経由した税金逃れは計7兆~25兆ドル(700兆~2500兆円)に上るとされています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%82%92%E4%B8%8D%E5%B9%B8%E3%81%AB%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AE%E6%88%A6%E4%BA%89%E7%B5%8C%E6%B8%88_%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%AF%E6%88%A6%E8%B2%BB3%E5%85%86%E3%83%89%E3%83%AB%E3%81%AE%E8%A1%9D%E6%92%83

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM07H1L_X01C16A0EAF000/

話を戻します。シリアは貧しい国ながらも、国連の指標を見てもわかるように、国民生活向上に着実に努力を重ねてきました。国枝氏の本にもありますが、アサド大統領はつつましい生活で知られ、私腹を肥やす独裁者像とはかけ離れています。しかし、その長年の努力も、テロリストとそれを支援する欧米や周辺国のために水泡に帰してしまいました。シリアの通貨は2011年の紛争後、急激に通貨安に陥り、これだけでも物価が高騰していることがわかります。さらに物資不足のなか需給関係からくる物価高騰も打撃となっているでしょう。教育も、医療も、インフラも、これまで積み上げてきたものがすべて破壊され、すばらしいパルミラ遺跡などの歴史遺産・観光資源も失われました。戦死者、難民の問題ばかりに目が向きますが、国家経済、国民生活の基盤が破壊され尽くした問題も深刻です。

http://www.xe.com/ja/currencycharts/?from=SYP&to=JPY&view=10Y

(以下つづく)
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アサド大統領のインタビュー、虚偽を拡散しつつ他人に説教する人たち (桜井元)
2017-02-05 08:45:16
以前に、シリアに関するテレビ解説や新聞コラムをめぐって、ジャーナリストの池上彰氏と政治学者の山口二郎氏を批判しましたが、その後もお二人はテレビや新聞の媒体をとおして訂正も謝罪もしていないようです。それどころか、池上氏はまたもシリアに関する虚偽情報をテレビで流していました。「池上彰のニュースそうだったのか!」という番組で、テロについて解説していたのですが、この中で、ロシア大使がトルコで殺害された事件に触れ、犯人が「アレッポを忘れるな」と叫んだことに着目し解説を進めました。以下、書き起こします。

池上氏
「シリアではそもそも独裁のアサド政権が独裁者でずっと君臨していたわけですね。それに対して反対する反政府勢力が立ち上がって争ってもうすでに5年以上経っているということですね。特にアレッポというのはその反政府勢力の最重要拠点だったんですが、去年12月、ここをアサド政権軍が制圧してしまいました。それによってアサド政権は内戦では圧倒的優位になって、反政府勢力が壊滅的な打撃を受けてしまっているというわけですね。これまでは反政府勢力がたいへん強い力を持っていたのに、突然ここへきてアサド政権が強い力を持ったのはある大国がアサド政権を助けてくれたからなんですね。(ゲスト出演者席に向かって)生稲(いくいな)さん、さあ、どこの国ですか?」

生稲晃子さん
「ロシア」

池上氏
「はい、そうですね。このロシアがアサド政権を支援したというわけですね。シリアのアサド政権とたいへん仲良しなんですね。ロシア軍の基地も実はシリアにあるので、ロシアとしてはアサド政権をなんとか守りたいという思いがあった。そこでロシアはですね、反政府勢力をとにかく壊滅させようとして反政府勢力を空爆していた。これによってアレッポの反政府勢力が壊滅状態になってしまった」

ここで映像と音楽をバックにナレーションが入ります。
「ロシアがアサド政権を支援、そして欧米は独裁のアサド政権を倒したいと反政府勢力を支援。ニュースではシリアの「内戦」と言いますが、いわば大国の代理戦争が起きているんです。それによって難民が出ているのはご存知のとおり。実はその難民を生んでいる大きな原因がロシアの空爆。反政府勢力だけでなくシリアの一般人も無差別に爆撃しているとの報道もされているんです。これに対して怒ったのがトルコ」

池上氏
「反政府勢力を支援しているのは欧米、そして実はトルコなんですね。というのは、トルコのエルドアン政権はアサド政権が大嫌いなんですね。中東での大国同士のいがみ合いっていうのもありますし、同じイスラム教ですけれどもトルコがスンニ派に対してシリアのアサド政権はシーア派系ということがありトルコはアサド政権がとにかく嫌い、というのがあるだけではなくて、トルコの人たちってですねロシアと伝統的に仲が悪いんですね」

ゲスト諸氏
「へえ~」

池上氏
「すぐ近くに大国ロシアがありますと、ロシアの脅威というのをトルコの人たちは感じていて、一般的にトルコの人たちって結構ロシアのことが嫌いなんですよ」

ゲスト諸氏
「ふ~ん」

池上氏
「だからよくトルコの人は非常に親日だっていうでしょ。なんで親日か? 日露戦争のとき日本がロシアをやっつけたから」

ゲスト諸氏
「へえ~」

池上氏
「それ以来、日本のことが大好きだっていう人が実はいっぱいいるくらい、いわゆる一般の市民の感情としてロシアが大嫌いなんですね。そのロシアによってアレッポの反政府勢力が壊滅状態になってしまった。トルコとしては反政府勢力を応援していたのに、それがロシアによって壊滅的になってしまったっていうことを、あの警察官はそれを怒っていたんですね。だから「アレッポを忘れるな シリアを忘れるな」と言ったんではないかというふうに見られています。あくまで個人としてロシアが許せなかったのでああいう行動に出たのではないかと言われてるんですね。で、さらに話はこれで終わりではない」

再びナレーションが入る
「いくらロシアが憎いからといって、それでテロまで起こすのはあくまでごく一部。問題はこの先にある。憎しみの連鎖。私たち日本人もけっして無視してはいけない国際問題や民族問題。それが終わりの見えない悲劇を生んでいた(ここで、ガレキから子供を救助する男性の映像が流れますが、左上にホワイトヘルメットのマークがあります。ホワイトヘルメット提供の映像です)」

長くなるので文字起こしはここまでにしますが、こういう調子で、またも「アサドは独裁者、ロシアは独裁者の後ろ盾、空爆で民間人を無差別に殺害している」などという見方を視聴者に植え付けていました。

(以下つづく)
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アサド大統領のインタビュー、虚偽を拡散しつつ他人に説教する人たち (桜井元)
2017-02-05 08:42:35
リンクの貼り付けに失敗しました。失礼しました。

アサド大統領のインタビュー(地上波版)
ttp://www.dailymotion.com/video/x59273l_%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98x%E6%98%9F%E6%B5%A9-%E5%86%85%E6%88%A6%E5%8B%83%E7%99%BA%E5%BE%8C%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E5%88%9D%E3%81%AE%E5%8F%96%E6%9D%9020170119news23_news

アサド大統領のインタビュー(CS放送版)
https://www.youtube.com/watch?v=BnR-8NrMu54


あるブロガーの方がこのインタビューについて感想を書かれていて、藤永先生のブログにも言及されていました。

http://gabasaku.asablo.jp/blog/2017/01/25/8332889

「真偽はともかく」という箇所が先生のお気にさわらなければと思うのですが、良い意味でスケプティカルな方のようで、物事の判断を慎重にされる方のようです。いずれにしましても、シリアの紛争に関して関心をもたれる方々が、先生のブログに注目されていることはうれしいことです。この方のブログの最後には、こうありました。

「アサド大統領の会見で、最後に触れた、国民のPTSD問題についての言葉は特に印象に残った。今まで、一国の最高権力者が、国民の心の荒廃について深く憂慮している、その問題こそがいちばん深く、解決困難だと述べる姿を見た記憶がない。CSのニュースバードでは解説役として国枝昌樹氏(元シリア全権大使)を呼んでいたが、彼もこの点に触れていた。「人の頭をサッカーボール代わりにして遊んでいる子供たちが、正常な精神で大人になれるはずがない」と。こうした問題を自ら口にするアサドは、計算ずくでそういう言葉を発しているのだろうか? そうは思えなかった。今回のインタビューも、国枝昌樹氏がインタビュアーだったらよかったのに。現地に行くのが大変なら、今の時代、ネット回線で対談もできるだろうに。用意した質問をたどたどしく読み上げるだけならインタビュアーはいらない。国枝氏のような人が行って、少しでも生の会話に引き込めれば、アサドの素顔ももっとよく見えてきたはずだ。」

私も同感です。星氏のひどいのは、アサド大統領に語る時は「アレッポ解放(liberate)」と言い、字幕では「アレッポ制圧」と変えるような不誠実だけでなく、番組のなかで、「アサド氏の戦争責任は免れがたい」などというコメントをしている点です。彼の固定観念はひどく、いったい現地に何を見に行ったのでしょうか。

国枝氏の『シリア-アサド政権の40年史』(平凡社新書、2012年)を読みましたが、反政府側の情報操作や、欧米・周辺国の思惑などを、紛争の早い時点ですでに看破されており、元シリア大使としての知見をもとに冷静に書かれている良書です。新書サイズですが、中東・シリアの歴史的背景や、複雑な地域事情、国内事情も丁寧に解説されており、バシャール・アサド氏の人物像や改革志向もよくわかりました。この国枝氏、シリア紛争の当初は地上波の報道番組でもよくゲストに呼ばれていたのですが、その後はすっかり見なくなりました。

『シリア-アサド政権の40年史』
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2-%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%83%89%E6%94%BF%E6%A8%A9%E3%81%AE40%E5%B9%B4%E5%8F%B2-%E5%B9%B3%E5%87%A1%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E5%9B%BD%E6%9E%9D-%E6%98%8C%E6%A8%B9/dp/4582856446/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1486251397&sr=1-1&keywords=%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2+%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%83%89%E6%94%BF%E6%A8%A9%E3%81%AE40%E5%B9%B4%E5%8F%B2

(以下つづく)
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アサド大統領のインタビュー、虚偽を拡散しつつ他人に説教する人たち (桜井元)
2017-02-05 08:32:53
しばらく前に「TBSニュース23」の星浩キャスターがアサド大統領にインタビューをした映像が放送されました。番組では、本来30分近くあったインタビューのうち8分ほどに短縮されていましたが、CS放送では全体が放送されたようです(TBSのサイトにしばらくアップされていましたが、残念ながら現在は削除されています)。地上波版、CS放送版ともに動画投稿サイトで見ることができますので、以下にご紹介します。

アサド大統領のインタビュー(地上波版)

アサド大統領のインタビュー(CS放送版)

地上波でカットされた中には、例えば次のようなアサド大統領の言葉もありました。視聴者に、日々流される主流メディアと対立する見方を伝えるうえで重要な部分でしたが、これを地上波で流さなかったのは、時間の問題だけでなく、やはり自分たちが今までもそして今も流しているシリア報道の図式が崩されるからでしょう。

「(米国の)主要メディアと様々な組織・ロビー団体が1つの組み合わせになっていることはきわめて明白です。ジョージ・ブッシュ政権発足の2000年以来17年近く続いた米国の破壊的な政策と利害関係があるため、彼らは(米国の対外政策の)変化は必要ないと考えているのです。直接的にせよ、代理戦争にせよ、アメリカは戦争ばかり起こしてきました。そして、様々な企業やロビー団体、メディアはこうした問題と利害関係を持っているのです。ほとんどの場合、経済的な利害関係でしょう。ですから、テロとの戦いや、他国の主権の尊重、ロシアや中国などとの関係改善を通じた国際関係の緊張緩和といった方向性の政策に対して、彼らがことごとく邪魔をするのは明らかです」

「率直に言ってイスラム国はアメリカの管理下で生まれたものです。2006年にISはイラク国内だけに存在していました。シリアで紛争が始まるとISIS(イラク・シリアのイスラム国)を名乗り、後にトルコはイスラム国を支援しました。イスラム国は、石油を輸出し資金を得て戦闘員を勧誘するのにシリアの油田を使いましたが、トルコはこの石油の密輸に直接的に関わっていました。エルドアン大統領自身がイスラム国に関与し共犯関係にあります。ですから、トルコやアメリカがイスラム国との戦いに本気で参加するとは期待できません。…トルコのエルドアン大統領はムスリム同胞団ですが、彼は本能的・先天的にイスラム国やアルカイダに共感的であり、密接な関係にあります。エルドアン大統領は彼らと同じ思想を持ち、彼らから離れることができないのです。イスラム国やヌスラ戦線と戦っていると見せるためエルドアン大統領はいくつか工作を行っていますが、実際は彼は日々それらのテロ組織を支援しています。彼の支援なしにそれらの組織は生き残れないのです」

「(アメリカを中心とした)連合が何を成し遂げたでしょうか。何も成し遂げていません。イスラム国は連合の空爆開始後に勢力を拡大してきました。率直に言って、この空爆は見せかけだけの空爆でした。2015年9月、ロシアの軍事行動で初めてイスラム国の勢力は縮小し始めました。(アメリカ中心の)あの連合は何も成し遂げていません。イスラム国と戦っていたシリア軍の兵士を殺害し、シリア独立以来70年間築き上げたシリア人のインフラを破壊しただけです。」

(以下つづく)
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難民の悲劇、白いヘルメット、NGO、情報ロンダリング (桜井元)
2017-01-10 06:18:52
難民問題から話が脱線してしまいました。ネット上に、リビアのカダフィ氏が「アフリカから欧州への難民やテロリストの流出を食い止めてきた壁がリビアであり、お前たちは今それを空爆しているのだ」と、NATOによる空爆開始から間もない頃に警告を発していた映像を見ることができました。カダフィ氏の予言どおりの悲劇がいま起きてしまっているわけです。予見可能性、回避可能性が十分にあった事態をあえて引き起こした欧米の責任はきわめて重いと言わざるを得ません。

https://www.youtube.com/watch?v=NLflLdIJeMw

ちなみに、この動画は、ロシアのInessa Sさんという方によるものですが、非常に良くまとまっています。腐敗した王政を打倒し、数多くの部族間の根深い対立もうまく調整して、短期間でアフリカ髄一の現代都市、公共インフラ、教育・医療・社会保障、生活レベル向上を達成したカダフィ氏の異才がうまくまとめられています。こうした革命後のリビアの奇跡は、藤永先生も以前に紹介してくださいました。

「リビアの惨状(2)」
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/f3145df57d0db92c15e94d9f4decc5b3

カダフィ氏は、アフリカ一の埋蔵量を誇る石油の取引を国際社会と再開するためにも、欧米側の不当な経済制裁をどうにか解除せねばならず、そのための交換条件とされた国防計画の放棄をのみましたが、直後にだまし討ちに遭い「アラブの春」に乗じた欧米からの軍事攻撃を受け、最後は公正な裁判にもかけられずに残虐に殺害されてしまったと、このように動画は、異色の革命家・カダフィ氏の功績と悲劇を描いています。動画の最後に、カダフィ氏殺害を確認した時のヒラリー・クリントンの笑顔が出ますが、改めてぞっとします。

米国ではこのほど「ヒラリーかトランプか」の二者択一となり、日本ではこれから「小池百合子か既成政党か」の二者択一になるのでしょうか。おそらくマスコミはそうした選択肢の構図で世論を誘導していくのでしょう。しかし、こんな「疑似選択」のマヤカシが、本当にあるべき民主主義の姿なのでしょうか。

「2016/09/02 に公開」という表記の下にあるInessa Sさんの説明文もとても示唆に富むものでした。

「西側諸国は、権威的リーダーの存在を毛嫌いする。現代の民主主義国家は、責任というものを抹消するために都合のよい使い捨てのリーダーを求めている。しかし、もう一つの世界(藤永先生のブログ『フィデル・カストロ(1)』へのコメントで、『私は黙らない』さんが書かれた『今とは別の世界の可能性』、海坊主さんが書かれた『欧米中心の世界から異質に見える社会』と通じます)では、リーダーとは、選挙活動で勝つことに最も多くを注ぎ込む者のことをいうのではない。リーダーとは、4年間の任期中だけご立派に見えるようにポストに居座る者のことをいうのではない。リーダーとは、在任中に人民に押し付けた物事についての責任を任期が過ぎればきれいに抹消される者のことをいうのではない。民主主義国家は、我々の正しい言葉の意味を改悪し、『権威者』(authoritarian)と『独裁者』(dictator)とを一緒くたにしてしまっている。真のリーダーはごく稀にしか現れないものだが、人民がそのことを認識するとき、その人物は長くリーダーであり続ける。そして民主主義国家はそうした人物をこきおろすのに躍起になる(長期のリーダーを自らが据え付けた場合だけは別だが。【訳注】これはハイチのデュヴァリエなどの傀儡独裁のことを指すのでしょうか)。」

「権威的」リーダー(長期にわたり人民に責任を負ったカストロ氏やカダフィ氏)と、「民主的」リーダー(無責任にコロコロ変わる日本の首相や東京都知事など)と、どちらがリーダーとして立派なのでしょうか。

私は「民主主義」の価値を強く信奉していますが、それでも、帝国主義に蹂躙され混乱・疲弊した地域のリーダーたちが懸命に統治を図ろうとする姿に対して「独裁だ」「反民主だ」とおとしめることには強い反発を覚えます。日米の官僚・政治家たちが高飛車に掲げる「価値観外交」などに対しては、「そこに誇れる民主主義はあるのかい?」と突っ込みたくなります。Inessa Sさんの動画と文章は、「民主主義」国にいる自分自身を謙虚に見つめさせる、そんな示唆と刺激に富むものでした。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BE%A1%E5%80%A4%E8%A6%B3%E5%A4%96%E4%BA%A4
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難民の悲劇、白いヘルメット、NGO、情報ロンダリング (桜井元)
2017-01-10 06:03:09
NGOの問題については、藤永先生は以前から厳しいご指摘をとおして私たちに警鐘を鳴らしてくださっていました。

「伊藤和也さんは他のNGOに殺された」
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/364f8cb22145a097a1282b8dbed926cb

「Add Women and Stir (3)」
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/f7000abf7d69629c4098ab2fa36e4edb

最近、NGOの危険性について次のような記事を読むことができました。たいへん示唆に富む良い記事でした。

タイトルは「NGOs: Grassroots Empowerment or Tool of Information Warfare? (NGO:草の根の支援者か、情報戦の道具か?)」
http://www.globalresearch.ca/ngos-grassroots-empowerment-or-tool-of-information-warfare/5548697

犯罪にからむ汚い金をいったん銀行を経由して洗浄する「マネー・ロンダリング」という言葉をもじって、NGOの問題の機能を「情報ロンダリング」と名付けていました。政府などが直接的に発する情報よりも、NGOを介して発する情報の方が、受け取る人々の印象も良くなり、信頼性も上がるというカラクリです。

「白いヘルメット」もまさしくそうした存在に当たるのでしょう。反政府武装グループが直接的に発する情報よりも、「人命救助NGO」が発する情報の方が世界中の人々に浸透しやすいという巧みな情報戦略です。

この「白いヘルメット」は、第二のノーベル賞とされる「ライト・ライブリフッド賞」の2016年の受賞者となりました。反原発の市民科学者・高木仁三郎氏、「もったいない」という日本語を世界に広めた環境活動家 ワンガリ・マータイ女史、「構造的暴力」「積極的平和」の概念で有名なヨハン・ガルトゥング氏などが受賞している有名な賞です。「白いヘルメット」の受賞は、この賞の権威をおとしめ、同賞史上最大の汚点となるものでしょう。

余談ですが、ヨハン・ガルトゥング氏についてのWikipediaの説明の中で、注目すべき部分がありました。ガルトゥング氏は、「積極的平和主義」という自分の言葉を安倍首相が正反対の意味で盗用していると痛烈に批判しているそうです。また、言葉の問題だけでなく、安倍政権が目下進めている日本の方向性(日米軍事一体化、集団的自衛権、海外での武力行使)そのものを厳しく批判しています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%B3%E3%82%B0#.E6.97.A5.E6.9C.AC.E3.81.A8.E4.B8.AD.E6.9D.B1.E6.83.85.E5.8B.A2.E3.81.AB.E3.81.A4.E3.81.84.E3.81.A6

「白いヘルメット」をめぐっては、著名な俳優で映画監督のジョージ・クルーニー氏が映画化を企画しているとのこと。受賞や映画化で「白いヘルメット」がますます権威づけられ、シリアをめぐるプロパガンダの「情報ロンダリング」がこれまで以上に推進されていくことを恐れます。

http://eiga.com/news/20161225/8/

先にご紹介した記事「NGOs: Grassroots Empowerment or Tool of Information Warfare? (NGO:草の根の支援者か、情報戦の道具か)」の初出先はSouthFrontという団体のサイトですが、この団体の自己紹介の中に、「アメリカのCNNが流した湾岸戦争時のフェイク・ニュース(捏造ニュース)」とありました。YouTubeで録画映像を見ることができました。

https://southfront.org/about-southfront/

https://www.youtube.com/watch?v=jTWY14eyMFg

現地からの生中継ではなく、実際はスタジオのセットで撮影されていたわけです。空・建物・木々などの背景のほか、風、防空サイレンなどの小細工まで入れつつ、記者は「イラク軍の毒ガス使用」を印象づけるよう「ガスマスク」をかぶる演技までしています(7:00)。今から見ると、ドリフターズのコントで使うような安っぽいセットですが、このような虚偽報道が実際に流されていたとは驚きです。

今では情報技術が格段に向上していますし、NGOを使った「情報ロンダリング」という巧妙な手法も登場しており、ニセ情報を見極めるのはますます難しくなっています。多くの人々の命がかかっている緊迫した状況下で、テレビカメラの前でふざける記者の人間性もさることながら、湾岸戦争時、日本のメディアがこのような実態のCNNを高く評価しその映像をしきりに流していたことが、本当に情けなく、罪深いことだと改めて感じました。
(以下つづく)
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難民の悲劇、白いヘルメット、NGO、情報ロンダリング (桜井元)
2017-01-10 05:58:02
番組では、難民の弱みにつけこみ高額をふっかけて密入国を手配する闇業者の存在を伝えていました。しかし、ネット上には以下のような記事があり、状況はもっと複雑であることを知りました。

https://gefira.org/en/2016/12/04/ngos-are-smuggling-immigrants-into-europe-on-an-industrial-scale/

https://gefira.org/en/2016/11/15/caught-in-the-act-ngos-deal-in-migrant-smuggling/#more-14995

https://gefira.org/en/2016/11/16/moas-is-there-to-pick-you-up/

https://gefira.org/en/2016/11/15/death-road-to-europe-promoted-on-the-web/

一番目の記事によれば、NGO(具体的には、MOAS, Jugend Rettet, Stichting Bootvluchting, Médecins Sans Frontières, Save the Children, Proactiva Open Arms, Sea-Watch.org, Sea-Eye and Life Boat)、密入国業者、EUと通じ合っているマフィアなどが、彼らの行動の連絡調整役を務めるイタリア沿岸警備隊の手助けのもと、人々の移送を「違法に」行っているというのです。「NGOの動機は金銭なのか政治的なものかは不明だが、例えばMOASという組織はマルタ共和国の軍人(移民の扱いに冷酷なことで知られる人物)が運営するもので、イタリアへの移送によって少なくともマルタへの移民が減っていることは間違いない」とあります。

二番目の記事では、イタリア沿岸警備隊から海上に待機しているNGO所属の船に対して、移民たち(記事は難民ではなく移民と表記しています。以下「移民」)がまだリビア国内にいる時点にもかかわらず(来たる「海難」の十数時間も事前に)、「救助地点」がどこになるかが通知されている、ということが暴露されています。このオペレーションでは113人が救助されましたが、3歳の子供を含む17人が行方不明になりました。奇妙なのは、比較的近くにいたイタリア船籍のタグボートがリビアの港から「海難」地点まで向かいながらも「救助」には参加せず岸まですぐに戻る動きを示している点などです。イタリア船籍のタグボートが引き返した後に、「海難」地点に到達したNGO船が「救助」活動に当たっています。さらに奇妙なことに、「救助」後のNGO船は、「救助」地点から比較的近くて安全に行けるチュニジアの港(日頃からNGO船が頻繁に出入りしている港)にではなく、わざわざ遠方のイタリアの港に向かったというのです(移民はイタリアまでの運賃を支払わされたそうです)。こうしたことから、「海難」と「救出」と「欧州への移送」は、NGOや政府当局が絡んですべて事前に計画しているものであることが推測できます。

三番目の記事は、MOASというNGOに関わる人間たちの素性についてです。代表を務めるのは、アメリカ人のChris Catramboneという人物で、米国議会勤務の経験があるほか、保険の調査員としてアフガニスタンやイラクなど危険な地域に渡航経験があり、その後、保険・苦情対応・危機対応・情報活動などを扱う会社を自ら設立、2013年には稼いだ金の一部をあててMOASをマルタ共和国に立ち上げました。Ian RuggierというMOASのメンバーは、もとはマルタの軍人で、移民への厳しい取り締まりを担当していました。記事は、「移民削減を任務としていた男が、移民の擁護者へと変わった。サウロがパウロになったのだろう(聖書から)」と皮肉っています。Robert Young Peltonという人物はMOASの戦略担当で、民間軍事会社ブラック・ウォーターの設立者と懇意にしていた過去があります。このように、MOASとマルタ軍・米軍との関係は深く、移民を弾圧していた軍人が指揮しており、民間人を無慈悲に扱うことで知られる軍事会社ブラック・ウォーターともつながっているというような組織です。そもそも、米軍のアフガン・中東・北アフリカなどでの作戦に乗じて財を成した男が設立した組織であって、これらの諸外国を破壊して難民危機を生み出すなかで稼いだ金が、今度は、数多くの難民を闇ルートで欧州へ移送し、欧州を不安定化することへと使われているのです。

四番目の記事には、WatchTheMedなどのNGOが、移民たちに対して、闇ルートでの移動にあたっての指導・助言を提供していることが、事例を通して紹介されていました。闇の業者だけでなくNGOが率先して大量の移民・難民の違法かつ危険な移送事業に関わっていることがわかります。

以上の記事から見えてくるのは、難民たちの過酷で危険な移動の背後には、闇の密入国業者レベルにとどまらず、表では正義の慈善事業の看板を掲げるNGOの魑魅魍魎たちや政府当局を含めて、もっと巧妙で、もっと大がかりなシステム、巨大なネットワークがあるということです。
(以下つづく)
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難民の悲劇、白いヘルメット、NGO、情報ロンダリング (桜井元)
2017-01-10 05:51:21
たびたびの、しかも長文での投稿を失礼いたします。先生のブログを通して学んできたことを少しでも反映できれば幸いですので、どうかご容赦ください。

難民をめぐる厳しい内容のニュースが、相次いで伝わりました。

①国際移住機関(IMO)が統計を発表。2016年の移民・難民死者数が約7,500人に、過去3年間の合計は18,501人に達する。

http://www.iom.int/news/world-fatalities-migrants-refugees-approach-7500-2016-three-year-total-tops-18501

②欧州に厳しい寒波到来、難民・路上生活者に死者。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170109/k10010833101000.html

①の記事にある表を見ますと、「地中海」と「北アフリカ」での死者数とその伸びが突出しています。「リビア侵略」「シリア侵略」によってこれらの地にカオスが生じ、人々が命がけで脱出を図っている結果です。記事によると、IMOで把握できていない死者も相当いるようで、実際は発表された数字を上回るものと見られています。

この正月、ジャーナリスト・池上彰氏の報道特番があり、「難民問題」を取り上げていました。リビアから地中海を渡って欧州を目指す「地中海ルート」と、トルコからバルカン半島を経由し陸路で欧州を目指す「バルカン・ルート」があると説明したうえで、バルカン・ルートにあるセルビアの難民キャンプなどを現地取材しました。dailymotionで録画映像を見ることができます。三分割の動画のpart1の途中(25:52くらい)からpart2にかけてが「難民問題」を扱った部分です。

http://www.tv-tokyo.co.jp/ikegamiakira/

http://www.dailymotion.com/video/x57adqc_%E6%B1%A0%E4%B8%8A%E5%BD%B0%E3%81%AE2017%E5%B9%B4-%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%81%AB%E8%A1%8C%E3%81%8F-2017%E5%B9%B41%E6%9C%883%E6%97%A5-170103-p1_fun

http://www.dailymotion.com/video/x57cdjp_%E6%B1%A0%E4%B8%8A%E5%BD%B0%E3%81%AE2017%E5%B9%B4-%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%81%AB%E8%A1%8C%E3%81%8F-2017%E5%B9%B41%E6%9C%883%E6%97%A5170103-p2_fun

池上氏は主流メディアと同様に、シリアでの紛争を「内戦(シリア国民同士の対立)」と呼び、「外国勢力(欧米・トルコ・周辺湾岸諸国)による侵略」と「シリア政府軍による国防戦」という構図ではとらえていません。シリア政府軍側にはロシアが付きましたがこれは「主権国家・シリア」の「正統な政府」による「正当な支援要請」にもとづくもので、国際法上なんら問題はありません。一方の反政府武装グループに人員・資金・武器を提供し続けてきた外国勢力の行動は、明らかに国際法違反となります。ここはしっかり押さえるべき点だと感じます。

番組では、ソーシャル・メディアで「独裁者アサドによる虐殺から救ってください」と訴える一人の女性の動画が流されましたが(part1の27:03)、信憑性をどのように確認したかも明らかにせずそのまま流していました。以前にご紹介したカナダの女性記者エヴァ・バートレットさんは、アラブ系のイギリス・メディアの記者との対論(露骨な妨害で「対論」の体をなしていませんでしたが)で、自分は現地で実地に取材しているが、西側の記者は信憑性の怪しい人物が発するソーシャル・メディアを根拠にしていると批判しました。池上氏が番組で流した女性の動画の信憑性は大丈夫なのでしょうか。

https://www.youtube.com/watch?v=3JFEmCKHVME

さらに池上氏は、政府軍によるアレッポ「解放」をアレッポ「制圧」と呼び、アレッポ市民が政府軍・ロシア軍による「虐殺」の渦中にあるという伝え方をしました。アレッポで昨年末に起きたことがなぜ「解放」なのかは上記動画でバートレットさんが詳しく述べています。バートレットさんはまさに池上氏の特番で流されたような虚偽情報の「毒消し」に奮闘しているわけですが、池上氏のプロパガンダ拡散の罪は非常に重いと言わざるを得ません。

先のコメントで批判した政治学者の山口二郎氏もそうですが、影響力のあるジャーナリストや知識人たちは自らが発信する虚偽情報の持つ意味についてもっと深刻に考えるべきでしょう。あらゆる職業人は仕事の致命的なミスで非常に重い責任をとっています。食品を扱う者は営業停止にすら追い込まれ、医者や看護師も細心の注意を日々要求され、設計士も建築家も些細なミスでも多額の賠償や建て直しを要求されます。中東の多くの人々の命がかかっている重大事を、素人ではなく職業人として世に伝えるジャーナリストや学者であるならば、もっと自身の言葉の重みを自覚すべきです。「間違っていました」では済まされません。他の職業人並みの責任を負ってほしいものです。

番組で唯一評価できたのは、難民キャンプの実態をよく伝えていた点です。本当に過酷で悲惨な状況にあることが伝わりました。池上氏が取り上げなかった「地中海ルート」については、上記IMOの最新の統計のとおり、最悪の数字が示されました。
(以下つづく)
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横溢するプロパガンダ、翻弄される愚者、声なき戦争犠牲者 (桜井元)
2016-12-26 05:23:16
以下は、ロシアのテレビ局RT(Russia Today)のスタジオを介して行われた、バートレットさんとイギリス・メディアの記者とのやりとりです。

ttp://dissidentvoice.org/2016/12/spotting-propaganda-disinformation-and-fraudulent-arguments-on-the-aleppo-front/#more-64987

バートレットさんは4回もシリア入りして、反政府勢力(彼女は「テロリスト」と明言していますが)の支配地域から逃れてきた人たちを国内避難民受け入れセンターなどで丹念に取材しています。同国のシリア人ジャーナリスト、独立系のジャーナリストたちとも連携して密な取材を構築しています。一方のイギリスの記者は、シリアからのソーシャルメディアを情報源にしているとのことで、司会者からも「それは信用できるのか」と問われると「個人は特定できている。現地にいるイギリスの救援活動家だ。彼らの送ってくる情報に疑いはない」と反論していました。まずこの時点で、取材の態勢、取材活動の厚み(質・量)において、両者にかなりの差が出ていることがわかります。

しかも、この番組では「対論」の体をなしていませんでした。イギリスの記者はバートレットさんが現地の情報の核心部分(国内避難民から聞いた証言)を話そうとすると露骨な妨害を繰り返すのです。バートレットさんへの人格攻撃(「アサドとロシアの手先」「ジャーナリストの資格も能力もない」「彼女をここへ呼んだのは恥だ」)から始まり、咳払い、嘲笑、野次、相手の発言の途中で話をかぶせるなど、あの手この手で妨害をしてきます。さすがにバートレットさんも何度も、話を最後までさせるよう相手に要望・抗議し、司会者も注意するというありさまでした。

バートレットさんは妨害されながらも、現地からの情報として伝えるべき要点を冷静に話し続けていました。アレッポ東部の反政府側地域から西部の政権側地域に避難した人たちの話では、東部では武装勢力(テロリスト)たちによって食糧をおさえられて人々は困難な状況にあるそうで、西部に逃れようとすれば暴力で阻止されるのだといいます。そして、政権側の西部地区に逃げることができれば、そこでは住宅も食糧も医療ケアも提供されているという証言内容でした。この部分を話そうとすると、イギリスの記者は声をあげて相手の発言を封じているわけです。

またバートレットさんは、アレッポ西部の住民たちは何年もの間、連日のごとく、東部を支配する「ヌスラ戦線」「アル・ゼンキ」「自由シリア軍」その他の武装勢力からの無差別攻撃にさらされてきて、これまでに1万1千人もが犠牲になったが、あなたがたはそうした実態を伝えてこなかったと批判します。

シリア政府軍とロシア軍は、アレッポ東部から西部への人道的脱出ルートを開き、東部地域を解放することにより、東部に暴力的に囚われていた人たちを救い出し、また東部からの無差別攻撃を終わらせることで西部の人たちにも安全をもたらしたのだと全体像を説明していました。

最後に司会者から、「フェイス・ブック」が始めたというニセ情報排除機能(検閲)についてコメントを求められた彼女は、「検閲はフェイス・ブックだけではなく、あらゆる場で起きている。都合の悪い発言を封じ込めようとする今回の相手などもそうした検閲側の一人でしょうね」と皮肉りました。

「ロシア=悪玉」視のマスコミ報道は、ウクライナ、シリアのほかに、米国大統領選での民主党メール・ハッキング容疑があります。当のウィキリークスのジュリアン・アサンジ氏は「情報源はロシアではない」と断言しているのですが、CIAもオバマ大統領も、「ロシアの仕業だ」と非難しており、後者の主張が日本のマスコミでは「既定路線」になっています。しかし、日本のマスコミが伝えないネット上の英文記事を読んでみますと、当の米国内でも批判的な見方が出ていることがわかりました。

まず、CIAとFBIとでは判断に差があり、FBIはかなり慎重になっているということ。さらに元情報機関のベテランたちの中に、状況から判断してこれはハッキングではなく内部に侵入した者(あるいは民主党内部の者)による盗取の可能性が高い(外部記憶装置にコピーするなどして)と、CIAの主張に異論を唱えている人たちがいるということです。彼らは、米国の諜報システムは世界中のあらゆる情報を追跡できるレベルにあり、CIAがロシアからのハッキングだと言いつつ、その決定的証拠を提示できないでいるのがそもそもおかしい、と訴えています。

ttp://dissidentvoice.org/2016/12/the-medias-emphasis-on-russian-hacking-is-a-diversion/

ttps://consortiumnews.com/2016/12/12/us-intel-vets-dispute-russia-hacking-claims/

プロパガンダがマスコミに横溢し、それに視聴者が翻弄される状況が続いています。今回のコメントのタイトルの中にある「愚者」には当然に私も含まれます。藤永先生のブログをとおしてようやく目からウロコが落ち、別の角度からの情報を読む機会をどうにか得ることができてはいるものの、プロパガンダに翻弄されやすい愚者には違いありません。

しかし問題は、一般市民の愚者よりも、マスコミ人や知識人たちの愚昧ぶりの方がはるかに大きいということです。失礼ながら冒頭の山口二郎氏もそこに含まれます。なぜ今回このように強い調子で批判するかといいますと、以前にジョン・ピルジャー氏の論をご紹介しましたが、「影響力のあるメディアや知識人の発するものは戦争の凶器となる」からです。現代の戦争はプロパガンダによって支えられており、それを拡散する者は罪深い存在になります。市井の庶民と違って、メディアや知識人は、真実を探求することを使命とし、かつ、それで食べている人たちです。その職責と影響力を考えれば、市井の人とはその過ち、愚昧さに対する責任の重みがはるかに違ってきます。「一億総懺悔」はおかしい、責任には軽重がある、とは家永三郎氏の説かれたことですが、まさにそのとおり。プロパガンダに翻弄される愚者の責任にも軽重があります。

いま、シリア情勢を論じている日本のメディア関係者、知識人の中で、その罪深さを免かれている者がどれほどいるでしょうか。
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横溢するプロパガンダ、翻弄される愚者、声なき戦争犠牲者 (桜井元)
2016-12-26 05:12:02
先日(12月18日)、東京新聞のコラムに政治学者の山口二郎氏がシリア情勢をめぐってこう書きました。

「欧米のメディアではシリア・アレッポの人道危機が連日、報道されている。民間人の殺戮はシリア政府軍の仕業であり、背後にロシアが存在することは常識である」

「(日ロ)首脳会談後、一部ニュースはロシアのラブロフ外相がシリアやウクライナ東部の情勢について、日ロ首脳が認識を共有したと述べたと報じた。これが事実だとしたら、日本を除くG7各国がシリアの平和的解決を求めているさなか、世界的なセンセーションである」

日本はG7の一員として、残虐なアサド政権とそれを支援するロシアに対して、毅然とした態度をとるべきであり、シリアの平和的解決に向けて苦心している西側諸国の足並みを乱してはならない、というお叱りです。

床屋談義で市井の人たちがマスコミから得た知識をもとにこうした意見を吐くのならまだ許せますが、論壇で影響力のある著名な政治学者が、一定部数を誇る新聞の紙面で、しかも読者にとっては敷居が低く目にしやすいコラムという場を使って、このようなことを述べているとなると、話が違います。これは断じて捨て置けません。

いまシリア情勢について正確な事実を伝えようと孤軍奮闘しているジャーナリストにエヴァ・バートレット(Eva Bartlett)さんという女性記者がいます。パレスチナ問題の報道でも有名な方です。彼女は危険なシリアの現地に勇敢にも何度も入り、そこに生きる人々の声を丹念に拾い、シリアで起きていることを自身の目で確かめ、欧米主流メディアが流す「アサド政権・ロシア=悪玉」「反政府武装勢力・欧米=善玉」という誤情報、プロパガンダの「毒消し」に奔走しています。

以下は、国連での記者会見の場で起きた、ノルウェー・メディアの記者とのやりとりです。

ttp://dissidentvoice.org/2016/12/the-agenda-of-corporate-media-is-regime-change-in-syria/

ノルウェーの記者は、「あなたは、我々西側メディアには報道の裏に政治的意図があると言い、我々記者や現地にいる国際機関が虚偽情報を流していると批判する。では、西側メディアの裏の意図とは何なのか、我々記者や国際機関がなぜ虚偽情報を流す必要があるのか、教えてほしい。また、空爆や虐殺の実態を現地から伝える声を虚偽だと言える根拠は何なのか」と問います。

これに対して、彼女はまずこう返しました。「現地にいる国際機関と言いますが、具体的にアレッポ東部にはどのような国際機関が存在するのですか」と(動画の1:20時点)。しばらく相手からの答えを待ちますが、相手は何も答えることができませんでした。ノルウェーの記者は、自分たちのシリア報道の情報源としている現地国際機関なるものの具体的な名称すら答えられないのです。いかにそうした情報の根拠が薄弱であるかがここからも窺えます。

彼女はこう続けます。「いいでしょう、私の方でお答えしましょう。現地には国際機関の人間など一人もいないのです。(現地に人員を置いていない)国際機関の情報源は、イギリスに拠点を置く(一人の男による)『シリア人権監視団』(Syrian Observatory for Human Rights)であり、『シリア人権監視団』の情報源は『白いヘルメット』(Syria Civil Defense, the White Helmets)です。この『白いヘルメット』は元イギリス軍人によって2013年に設立され、1億ドル相当を米国、英国、EU、その他諸国から支援されました。彼らはアレッポ東部などで人命救助をしているとされていますが、現地の人々の間で彼らの存在を知る者など一人もいませんでした。また、彼らは中立の立場だとされていますが、銃器を持ち、シリア政府軍兵士たちの遺体の傍に立つ姿が見られています。さらに、彼らの映像には、同一の少女が別の救出現場とされる映像に何度も使いまわされてもいます。ですから、彼らの示すものは信用できません。『シリア人権監視団』も、『白いヘルメット』も、匿名の活動家なる者たちも信用できません」

次にもう一つの質問について彼女はこう答えます。「メディアの裏の政治的意図は何かという質問ですが、『シリアの体制転換』です。例えば、今日のニューヨーク・タイムズや先日のデモクラシー・ナウなどを見てもわかるとおり、彼らは、シリアで起きている事態をいまだに『内戦(civil war)』と表現しており、また、2012年まで反体制側は非武装・非暴力だったと報じ続けています。どうしてそんな報道を続けることができるのでしょうか。これらはまったくの虚偽です。また、シリア政府軍がアレッポ東部の市民を攻撃しているとも報じていますが、テロリストが支配するアレッポ東部から逃れてきた人たちは皆、まったく反対の事実を証言しています。それなのに、どうしてそんな報道を続けることができるのでしょうか」と。

以下のサイトもこの会見の場面を伝えるものですが、いくつかおまけの部分があります。

ttps://sputniknews.com/middleeast/201612111048424532-eva-bartlett-press-conference-syria/

ここには、バートレットさんが指摘した「白いヘルメットが使いまわしているという同一少女の画像」のほか、「白いヘルメットの正体(欧米政府からの資金の流れを示す図。中立・独立という表の顔とは裏腹の欧米政府との濃密なつながりを示す図)」や「シリアの反体制派が当初から非武装・非暴力ではなかったことを証明する一例(シリアの警察官が彼らによって銃撃されるシーンの動画)」、そして、会見のその後のやりとりの中で触れられた「シリア政府軍・ロシア軍によるアレッポの病院への攻撃という虚偽報道(ロシアが提供した衛星画像を見れば、攻撃されたとされる前後で病院の形状に変化がないことがわかる)」など、彼女の提示した事例を視覚的にとらえることができるように工夫されています。

ここで、デモクラシー・ナウについて一言させてください。私はこれまで同局をアメリカの良心的ジャーナリズムと受け止めてきましたし、その基本的な評価は今も大きく揺らいではいません。先日投稿させていただいたコメントでも、ダコタ・アクセス・パイプラインをめぐる先住民の闘争や、チョムスキー氏とベラフォンテ氏の対談などは、ここから引用しました。

しかし、バートレットさんが言うように、たしかにシリア情勢をめぐってはデモクラシー・ナウには問題ありでした。以下のリンク先のとおり、白いヘルメットを肯定的に評価しています。世界中で話題になった救急車に座るオムラン少年の映像や、アサド政権が毒ガスを使用した証拠だとする映像など、「白いヘルメット」が次々と提供してくる映像を無批判にそのまま伝えています。

ttps://www.democracynow.org/2016/10/13/the_white_helmets_as_syria_death

ttps://www.democracynow.org/2016/8/19/headlines/syria_viral_pic_of_boy_after_airstrike_draws_attention_to_humanitarian_disaster

ttps://www.democracynow.org/2016/8/2/headlines/syria_activists_area_where_helicopter_shot_down_attacked_with_gas

オムラン少年の映像の何が問題かについては、下記サイトなどが参考になります。最近ではまた、英語でツイッターを発信する7歳の少女バナ・アベドちゃんが話題になりましたが、その信憑性もすでに疑問視されています。彼女は英語が母語ではなくアラビア語で生活しており、あの年齢で英語でツイッターを発信することは不可能だと、バートレットさんも別の場で触れていました。いたいけな子どもたちを利用して人々の情動に訴える悪辣なプロパガンダは後を絶たないようです。

ttp://www.moonofalabama.org/2016/08/the-wounded-boy-in-orange-seat-another-staged-white-helmets-stunt.html

ttp://www.thecanary.co/2016/08/19/the-man-behind-the-viral-boy-in-the-ambulance-image-has-brutal-skeletons-in-his-own-closet-images/

「シリア政府軍による毒ガス使用」という情報の虚偽性(証拠の捏造)も、別のところでバートレットさんが糾弾していました。毒ガスはむしろ反政府テロリスト側が使用した疑惑が濃厚です。

デモクラシー・ナウのシリア報道は、同局の汚点となるものであり、たいへん残念なことです。贔屓の引き倒しにならぬよう、非は非として厳しく批判されねばならないでしょう。

(以下つづく)
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ツィッター上に (千早)
2016-10-17 00:44:40
おもしろい画像が出ています。
正直に言うと、これだけでは はっきり見えないので
なんとも言えないが、 過去にもアメリカのテロの
被害者、犠牲者、遺族などを同じ人間が何度も(つまり別人を)
演じているのは目撃されていますので

私も過去、クライシス・アクターズのサイトまで紹介したし
http://insidejobjp.blogspot.com/2013/01/blog-post.html
今回のは、同じ少女が3ヶ月の間に3度も
ホワイト・ヘルメットに助けられたそうでw
https://twitter.com/HalayjHalayk/status/787240563955359744
まさに、茶番です。
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チキンレース (グッキー)
2016-10-09 23:32:14
ロシア最後の警告https://jp.sputniknews.com/politics/20161009/2875379.htmlシリア政府軍を攻撃すれば撃墜する。

欧米プロパガンダでシリア政府軍を攻撃準備http://www.labornetjp.org/news/2016/1009doro2
この世の地獄!~無差別空爆と虐殺にさらされるシリア民衆

チキンレース、どこまで行くのか?
米大統領選次第?  
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ノーベル賞のみならず、 (千早)
2016-10-08 18:24:02

国際的な動きを示す団体や行事など
すべてイルミナティが作ってきたもの。

過去の同賞受賞者に、大量殺人犯のキッシンジャーや
温暖化人為説で大嘘ついた、実は核産業等とも繋がってる
アル・ゴア、そして最初のInauguration Day当日から
パキスタンで一般市民に爆弾落としていたオバマなど
奴等の「好印象を人々に与える」誤誘導のための
似非機関であることは歴然としています。

とらこあらさんが書いている change.org も、
9/11後にガンガン出てきた他の諸団体と同じで
(GetUp! avaaz.orgなど)すべてイルミナティが用意したもの。

レーニン(イルミナティの手下)でしたっけ?
反対勢力が問題なら、
その反対勢力を(誤)誘導すればいいとか言ったの。

すべてコントロールされています。
世界市民の大半が昏睡状態のなか...

<議会制民主主義>からして、最悪な詐欺なのに
おとなしく選挙に行って投票し、実は<会社>の
「政府」と自称する詐欺犯罪者たちにみんなで
税金から罰金から、言われるまま払ってるから
奴等が巨大な力を持って、そこら中を破壊している。

その現実を直視して、反撃しない限り
負けです。
http://insidejobjp.blogspot.com/2016/06/or.html

私は4年以上、違憲の(日本の住民税にあたる)
似非地方政府が「払え」と言ってくるものや、
同じく違憲の水道代を支払い拒否しています。

色々脅されるが、「政府が本当に会社ではなく、
政府である証拠を見せろ」とずっと要求してきて
裁判所から、似非地方政府の弁護士事務所から
ヴィクトリア警察やシェリフ事務所等々、
誰一人として反証を見せられるものがいず、
まだ無事に家で暮らしています。

本気で、本当に効果のある方法で反撃しない限り
実は工作員かもしれないポール・クレイグ・ロバーツ
が語っている(リンクが今届いたばかりで
聞いてない)とおりで、
<じきに、みんな死ぬ(殺される)のかも>しれません。
https://www.youtube.com/watch?v=PAPBKWxqlaQ
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ノーベル賞 (とらこあら)
2016-10-07 12:47:38
追加コメントです。
ホワイトヘルメットがノーベル賞候補であることに反対する、シリア連帯運動のバネッサ・ヴィーリーによる、同じくChangeでの署名運動は、このサイトから「コミュニテイーの基準を破った」という理由で削除されたそうです。http://www.syriasolidaritymovement.org/2016/10/03/do-not-give-the-nobel-peace-prize-2016-to-the-syrian-white-helmets/
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ホワイトヘルメット (とらこあら)
2016-10-07 12:35:00
シリア連帯運動(Syria Solidarity Movement)が、スエーデンのライト・ライブリーフッド基金(Right Livelihood Foundation)がホワイトヘルメットに賞を与えたことに抗議し、撤回するように署名運動をChange.org で行っています。撤回しなくてはいけない理由が詳しく書かれていて参考になります。https://www.change.org/p/ole-von-uexkull-retract-the-award-given-to-the-nato-white-helmets?recruiter=45417840&utm_campaign=signature_receipt&utm_medium=email&utm_source=share_petition
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