平安夢柔話

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田辺聖子の小倉百人一首

2005-07-09 14:15:41 | 図書室2
 私が歴史上の人物について一番最初に興味を持ったのは、小学校4年生のころ、家にあった百人一首のカルタを見たときだったと思います。
 その時、家族と「坊主めくりゲーム」というのをやっていました。中央にある百人一首の絵の入った方の札を重ねて、それを一人ずつ順番にめくっていきます。そして、坊主が出たら手許にある札は全部没収、逆に姫が出たら没収されている札をすべてもらえるというゲームでした。
 そのときに、「どうか姫が出ますように…」と祈りながらめくったのを思い出します。

 ところで、その姫様は全員とても素敵で、きれいに描かれていました。長い髪の毛と彩りのきれいな衣装を見て、子供心にもとてもあこがれたものです。そして、「この姫様達は大昔に実際に生きていた人なのだろうけれど、いったいどういう生涯を送ったのかしら。」ととても興味を引かれました。今考えると、私と平安時代との最初の出会いはこの時だったように思えます。
 でも、その姫様たちについて自分で調べてみることはしませんでした。ただ、小学6年の社会科で歴史を習ったとき、「紫式部」「清少納言」「小野小町」といった百人一首のカルタで見た姫様の中の数人の名前が教科書に載っていて、とても嬉しかったです。そして、そのような有名な方々は百科事典にも載っていたので調べることができましたが、大多数の姫様のことは載っていなかったので、残念ながら調べることができませんでした。

 その後私は彼女たちのことをすっかり忘れていました。再び思い出したのは二十代の前半、平安時代に本格的に興味を持ったときでした。そして、「百人一首の歌人たちのことをもっと詳しく書いた本はないかしら…」と思っていたときに出版されたのが、この「田辺聖子の小倉百人一首」です。

  この本は、百人一首に収められた百首の歌の現代語訳とその歌が読まれた背景はもちろん、私が一番知りたかった作者についてのエピソードなどがわかりやすく書かれていました。特に、小さい頃にあこがれた姫様たちのことを知ることができたのがとても嬉しかったです。

 またこの本は、百人一首の歌人たちの紹介と共に時代背景や歴史的なエピソードも盛り込まれています。なので、読みながら平安時代を中心に、飛鳥~鎌倉前期の歴史についても楽しく勉強できると思います。

 私はこの本を読んで、今まで知らなかった興味深いエピソードをたくさん知ることができました。
 例えば、宇多天皇は一時臣籍に降下して「源定省」と名乗り、父の光孝天皇の侍従をつとめていたこと、三跡の一人として有名な藤原行成の父義孝は、大変な美男で宮中の人気者だったが若くして亡くなってしまったこと、……などです。

 特に面白かったのは、平兼盛と壬生忠見の所に書かれてあった「天徳内裏歌合わせ」のエピソードでした。

 天徳内裏歌合わせとは、村上天皇御代の天徳四年(960)三月三十日に内裏にて行われた歌合わせです。歌合わせとは左右に分かれて歌の優劣を競うという優雅な遊びなのですが、この時の歌合わせは当代の有名歌人や殿上人が勢揃いした大がかりなものだったようです。
 そして宴もたけなわになった頃、右方から出されたのが平兼盛の「忍ぶれど 色にでにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」で、左方から出されたのが壬生忠見の「恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか」でした。
 どちらも優れた歌なので甲乙つけがたい……、と判者が迷っているとき村上天皇が「忍ぶれど…」と口ずさんだために、右の平兼盛が勝ちになったと言われています。
村上天皇ご自身は、判者と同様、どちらも甲乙つけがたいので取りあえず二首とも口ずさんでみようと思ったようですが…。
もしこの時天皇が、「恋すてふ…」の歌を先に口ずさまれていたら、壬生忠見の勝ちになっていたかもしれませんね。

 この本はこうした興味深い話が満載です。百人一首と平安時代を中心とした歴史の入門書としてお薦めです。そして、この本を読んで興味を持った歌人がいたら、その歌人についてさらに深く調べてみる……というのもきっと楽しいと思いますが…。

☆田辺聖子の小倉百人一首  田辺聖子著
 角川文庫 735円(税込み)