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平安夢柔話

いらっしゃいませ(^^)
管理人えりかの趣味のページ。歴史・平安文学・旅行記・音楽、日常などについて書いています。

平家物語を知る事典

2006-04-01 17:22:56 | 図書室2
 ここしばらく「図書室2」では「源氏物語」に関する本を紹介してきましたが、本日は「平家物語」に関する本を紹介させていただきます。この本には昨年、大河ドラマ「義経」の感想を書く上で大変お世話になりました。


☆平家物語を知る事典
著者・日下力 鈴木彰 出口久徳 発行・東京堂出版
税込価格・2,940円

[出版社商品紹介]
文学作品でありながら、源平争乱を描いた歴史書『平家物語』を、「あらすじ」「名場面」「登場人物」などに分けて平易に解説。

 では、目次と内容を紹介いたします。なお、各項目の☆以降はえりかによる紹介文です。

1 『平家物語』を知るために
☆『平家物語』の主題や作者について、物語が成立した当時の時代背景、様々な写本、さらには物語全体の簡単なあらすじを紹介。

2 『平家物語』巻別あらすじ・名場面20
☆『平家物語』各巻のあらすじをわかりやすく解説してあります。20の名場面も紹介されています。『平家物語』をまだ読んだことのない方には予習が、すでに読んだことのある方は復習ができるのではないでしょうか。
 各巻のあらすじの冒頭には主要登場人物の年齢も掲載されていて便利です。

3 『平家物語』の主要登場人物(有王;安徳天皇 ほか)
☆『平家物語』に登場する人物52人を紹介。
 清盛、義仲、義経といった主役級の人物はもちろん、有王や藤原実定・藤原邦綱といった脇役(これが結構嬉しかったりします)、巴や小宰相、祇王や祇園女御など女性達も取り上げられています。各人物達の『平家物語』での動向と、史実が対応して書かれています。「『平家物語』ではこんな活躍をしているのだけど、この人物は実際にはどんな人物だったのかしら?」という疑問に答えてくれます。
 また、各人物に関する史跡の写真も掲載されています。
*私の好きな平家の公達ベスト3の教経、重衡、知盛も取り上げられていました。大感激です!

4 『平家物語』をさらに知るために(物語の性格;享受と展開 ほか)
☆1の「『平家物語』を知るために」をさらに発展させ、詳しく解説してあります。

付録(鎧・装束等図;人物関係略系図 ほか)
 年表や、『平家物語』と源平時代に関する本の紹介コーナーもあります。


 文字通り、『平家物語』をより深く、より楽しく味わうための本です。この本1冊で、『平家物語』のあらすじや登場人物、時代背景、最新の『平家物語』研究の成果がわかると思います。『平家物語』や源平時代に興味のある方には絶対にお薦めです。

 なおこの本には今井検校による平家琵琶『横笛』のCDもついています。平家琵琶を聞きながらゆっくりと『平家物語』の世界に浸ってみるのも良いものです。


☆携帯電話のカメラから写真をUPする簡単な方法をようやくマスターできました。今後の「図書室」の更新は、私の手許にある本の表紙の写真は、できる限りUPしたいと思っています。
 

もっと知りたい源氏物語

2006-03-03 20:45:46 | 図書室2
 誕生日のプレゼントとしてだんなさんに買ってもらった本、「もっと知りたい源氏物語(大塚ひかり・著 日本実業出版社)」、3週間ほど前に読み終えました。新しい発見が色々あって大変興味深い内容の本でした。先日UPした「源氏物語の現代語訳の本 ~その2」でも予告しました通り、本日はこの本について紹介したいと思います。

 なお、当ブログの2006年1月27日の記事「今日は誕生日♪」に「晴れのち平安」のなぎさんがこの本についての記事をトラックバックして下さっていますので合わせてご覧下さいね。

☆もっと知りたい源氏物語
 著者・大塚ひかり 発行・日本実業出版社 本体価格・1500円

[出版社商品紹介]
光源氏の恋愛遍歴から、絶妙な口説き文句、衣食住のしきたりや登場人物にまつわる謎、物の怪伝説まで、長編物語の世界を一気読み。

 では、目次と内容を紹介します。各項目の☆以降はえりかによる紹介文です。

1章 恋の駆け引きでわかる人物キャラクター―愛とセックスは『源氏物語』に欠かせな

☆源氏物語の登場人物の身体的特徴、光源氏の女性に対する口説き文句などがまとめられています。特に光源氏の口説き文句を読んでいると、「口がうまい」と思うと同時に、「この人、実際にいたらちょっと嫌な男かも…」という気がしました。
 光源氏のモデルとなったと思われる歴史上の人物の紹介もあって、こちらも興味深かったです。

2章 衣食住でわかる光源氏がいた時代―物語が書かれた背景を読み解く
☆「源氏物語」の背景となっている平安時代の暮らしについて迫っています。「源氏物語」にはあまり描かれていない平安時代の食事についての話が面白かったです。上流貴族の姫君は食べないことが上品だったとか…。

3章 土地や建物にまつわる伝説・風習―人間関係やイメージを巧みに演出
☆光源氏が住んでいた二条や六条は縁起の悪い土地だった。宇治十帖は「日本書紀」のウジノワキイラツコの伝説が下敷きとなっているなど、興味深い話が満載です。

 4章 物語をリアルにする影の主役たち―バラエティに富んだ召使の役割
☆「源氏物語」には女房たちの役割が重要な位置を占めている。特に物語が終盤になるにつれてその色が濃くなるとのこと、なるほどと思いました。女房たちに注目して「宇治十帖」を読むと全く違った面白さが味わえるかもしれません。

5章 趣味や特技に託されたメッセージ―出世や運命をも左右する重要アイテム
☆「源氏物語」の登場人物の趣味についての話は興味深かったです。そしてその中でも、「絵画」という趣味が物語に大きな影響を与えているとのことです。

 6章 物語を支配する闇の力“物の怪”―オカルト的な要素が象徴するもの
☆物語前半を支配した明石の入道の夢のお告げ、柏木の夢に登場した猫、入水しようとしたところを助けられた浮舟にとりついていた怨霊は実父の八の宮……など、とても興味深かったです。 

7章 多くの謎に包まれた『源氏物語』―作者・紫式部の人物像に迫る!
☆「源氏物語」や紫式部には謎がいっぱい。紫式部はどのような目的で「源氏物語」を書いたのか、唐突に終わる「源氏物語」のラスト、「源氏物語」は本当に完結したかなどの謎に挑んでいます。ネタ晴れになるのでここでは答えを書きませんが、非常に納得のいく説明が成されています。

巻末資料 『源氏物語』をより身近にするために―時代の評価を追う
☆千年の間、「源氏物語」はどのように読まれてきたのでしょうか?時代を追って説明されています。
 また、「源氏物語」関連の本の紹介ページもあります。

 以上のように、「源氏物語」の面白さが色々な角度から味わえる本です。少しでも「源氏物語」に触れたことのある方なら充分楽しめると思います。お薦めです。
 私はこの本を読んで「源氏物語」や平安時代にますます興味が出てきました。「源氏物語」の現代語訳もまた読み返してみたいです。そして、いつになるかわかりませんが原文でも読んでみたいですね。

「源氏物語」の現代語訳の本 ~その2

2006-02-14 11:32:46 | 図書室2
 先日の「源氏物語の現代語訳の本 ~その1」の続きということで、本日は残りの2タイトルを紹介させていただきます。


☆新源氏物語 全3巻
 著者・田辺聖子 発行・新潮社
 価格・上巻=660円 中巻=700円 下巻=660円
☆新源氏物語 霧深き宇治の巻 全2巻
 著者・田辺聖子 発行・新潮社 価格・各580円

 この本は、「新源氏物語」で光源氏を主人公にした正編を、「新源氏物語 霧深き宇治の巻」でそれ以降の続編を描いています。

 なお私は、「霧深き宇治の巻」は購入してあるものの未読です。なのでこれから述べるのは、正編の「新源氏物語」のみの感想です。すみません…。宇治編もできるだけ早いうちに読んでみたいですが、その前に正編を再読したいと思っています。

 では、「新源氏物語」の感想を書かせていただきますね。

 一口で言うと、とにかく「面白い」です。面白さは私が読んだ「源氏物語」の現代語訳の中ではNo1です。

 まず、登場人物が生き生きしています。好色だけどその中に優しさと格好良さのある光源氏、気配り上手の紫の上……。幼い夕霧と雲居雁が可愛らしかったです。降嫁したばかりの女三の宮の幼さもとても具体的に描かれていて、目に浮かぶようでした。
 また、末摘花のお兄さんの坊さんの「あっそう」という口癖は笑えましたし、大夫の監や近江の君の方言丸出しの田舎っぽさは、素朴でユーモラスに感じました。

 物語に織り込まれている和歌は手紙形式のようになっており、読んでいてとてもわかりやすかったです。登場人物の会話もとても現代的です。人物一人一人の行動や心の動きも詳細に描き込まれており、読んでいて退屈さを全く感じませんでした。

 しかし、こちらの本にも現代語訳としての難点があるのです。

 まず、「源氏物語」冒頭の「桐壺」の巻が完全にカットされており、この本で読者はいきなり17歳の光源氏と逢わされることになります。「空蝉」巻(田辺訳は実は三巻目の「空蝉」から始まっています。この「空蝉」の巻で「帚木」と「空蝉」の内容が語られます。)の初めの方で「桐壺」巻のストーリーが3ページほどでまとめられていますが、田辺訳で初めて「源氏」に触れる読者は果たして光源氏の複雑な生い立ちを理解できるのだろうかと、ちょっと心配になってきます。田辺さんにはぜひ、「桐壺」巻もユーモラスな文章で訳して欲しかったと、ちょっと残念に思います。

  それと、著者の田辺さんによると思われる創作や書き加えが多いことです。
 例えば、この田辺訳には玉鬘と髭黒大将の最初の逢瀬が描かれています。玉鬘は最初髭黒大将を嫌がって拒否するのですが、次第に彼の優しさに引かれていき、「この人と生涯を供にしよう」と決心するといった、なかなか感動的なシーンです。
 しかし、この部分は原文にはありません。原文では「真木柱」の巻の冒頭で読者は、髭黒大将は弁のおもとという女房の手引きにより、玉鬘の寝床に忍んでしまった。」という事実を突然知らされることとなるのです。

 でも、このあたりは田辺さん独自の「源氏物語」の世界ということで、それはそれで良いのかもしれません。そして私も、そんな田辺さん独自の「源氏物語」の世界を存分に楽しませていただきました。
 とにかく、田辺訳の面白さ、入りやすさは保証しますのでお薦めです。

 なお、この田辺訳には人物関係図や年表は一切ついていません。なので系図や年表のついている「源氏物語」の解説書や、前回紹介した「円地文子の源氏物語」などを参照しながら読むと、更に内容がよくわかると思います。


☆瀬戸内寂聴訳 源氏物語 全10巻
 著者・瀬戸内寂聴 発行・講談社
価格・箱入り=各2650円 真相版=各1365円

 瀬戸内寂聴さんが小説「女人源氏物語」を刊行した後に取り組まれた「源氏物語」の現代語訳の完訳版がこの本です。

 この現代語訳について瀬戸内さんは、「源氏研究」という雑誌の対談で、「書き加えや省略をすることなく、原文に忠実に訳した。」と述べられています。そのため原文に非情に近い訳だと思われます。

 「源氏物語の現代語訳の本 ~その1」でも書きましたが、「源氏物語」は女房の昔語りというスタイルで書かれたものだと言われています。そのことを裏づけるように、瀬戸内さんの訳は「です・ます調」で、「なさいました」「ございました」というような尊敬語も多く、読んでいると「本当に女房の昔語り」というイメージを受けます。そして、難しい言葉を多用することもしていないため、大変わかりやすいです。和歌の現代語訳もすーっと頭に入ってくるような感じで興味深く感じました。最近読んだエッセー「もっと知りたい源氏物語」でも、著者の大塚ひかりさんは「瀬戸内氏の訳は原文への敬意とわかりやすさを感じる」と述べておられますが、私も全く同感です。

 ただ、原文に忠実であるために長ったらしくて退屈さを感じてしまう場面もあります。「帚木」の巻で、光源氏、頭中将、、左馬頭、式部丞の4人が女性についてのあれこれを語り合う「雨夜の品定め」などがその典型です。瀬戸内訳でこの部分を読んだとき、「左馬頭の女性論の話って、こんなに長かったのね!」とびっくりしました。とにかく一人で10分くらいしゃべっているのではないかという感じでしたので…。こうしてみると「源氏物語」というのはやはり古代の物語であり、現代とは多少感覚のずれがあるのかもしれませんね。

 しかし、「源氏物語」の作者紫式部が優れた教養の持ち主であり、宮廷のあらゆる面に通じていたのだということを、瀬戸内訳を読んで痛感しました。
 というのは、「源氏物語」を注意深く読むと、「白氏文集」などの中国の古典、「日本書紀」などの日本の古典からの引用があちらこちらに散りばめられているのです。また、「天徳内裏歌合わせ」や道真左遷などの歴史的事項も物語の中に隠されています。。

 それから、紫式部が生きていた頃の宮廷の行事、風俗、風習、官位制度などもあちらこちらに出てきて、それがとてもリアルに描写されているため、「これって作り物語ではないのかも…」という錯覚さえ受けました。このような錯覚を受けたのは瀬戸内訳だけです。それは、「源氏物語がそれだけ優れた文学作品であることももちろんですが、瀬戸内訳が原文に忠実な訳であるため、1000年前に描かれたすばらしい世界をそっくりそのまま、私たちの目の前に再現して下さったおかげだと思います。

 この瀬戸内訳は、巻末に解説や年表、参考資料もついていますので、初心者の方でも充分楽しめると思います。正統派の「源氏物語」の世界を純粋に楽しみたい方には絶対お薦めの訳です。

☆次回の「図書室2」の 更新は、今回ちょっと触れた大塚ひかりさんのエッセー、「もっと知りたい源氏物語」を紹介したいと思っています。

 

「源氏物語」の現代語訳の本 ~その1

2006-02-06 11:21:55 | 図書室2
 「源氏物語」は私の愛読書ですが、お恥ずかしながら実力不足のため原文で読むことができません。(原文を読んでもせいぜい3分の1理解するのがやっとです)いつか原文でも読めるようになりたいなとは思っているのですが、いつになることやら…。

 そこでお世話になっているのが現代語訳ということで、私が今までに読んだ「源氏物
語」の現代語訳4タイトルを2回に分けて紹介させていただきたいと思います。
 今回はその第1回目ということで、2タイトルを紹介します。


☆円地文子の源氏物語 全3巻
 著者・円地文子 発行・集英社 価格・各700円

 20年近く前、私が初めて「源氏物語」に触れたのがこの本でした。
 現在は集英社文庫から出ていますが、当時は「わたしの古典」というシリーズに入っていました。(第6巻~8巻)。本のとびらに和紙を使ってある、とてもしゃれた本でした。

 さて、本の内容ですが……、この本は「源氏物語」の完訳を成し遂げた円地さんが「わたしの古典」シリーズのために書き下ろした縮訳版です。つまり、「源氏物語」の小説としての味わいを大切にしつつ、物語のあちらこちらに書かれている行事や宴の情景描写を省き、簡潔に3巻でまとめたものです。また、各巻の初めにはその巻のストーリーと登場人物の紹介・系図がついています。そのため、初心者には大変わかりやすいと思います。
 文体は「である」調、和歌の現代語訳もついています。

 ただ、完訳では単行本10冊にもなる「源氏物語」を300ページ弱の本3冊でまとめるのは無理があるなと感じる部分もあります。源氏が夕顔と会ったのは六条御息所の許を訪ねる途中だったという、円地さん独自の解釈がしっかり書かれているのは良いのですが、あちらこちらを端折っているような所も結構あるのです。
 まず、「玉鬘十帖」と呼ばれる巻々がかなり端折られています。この本を読んだだけでは、光源氏と玉鬘の微妙な心の動きがいまいち伝わってきません。
 そして、「夕霧」「匂宮」「紅梅」「竹河」の4帖は完全にカットされています。この本ではあくまでも、「光源氏と薫の物語」というスタンスで書かれているためだと思われます。

 でも、このような短所だけではありません。

 最終巻「巻三」一冊に収められた「宇治十帖」は、かえって無駄な部分がすっきりとそぎ落とされ、大変わかりやすい物語になっているのです。主人公たちの行動や心の動きも、かなり詳細に描き込まれています。なので私は、この円地訳を読む限りでは正編より宇治十帖の方が親しみやすく感じました。巻三の「宇治十帖」だけでも読んでみる価値は充分あると思います。

 なお円地さんには、完訳版の「源氏物語」もあるようですが、こちらは未読です。かなり評判の良い訳のようなので、私も機会があったらぜひ読んでみたいと思っています。


☆与謝野晶子の新訳源氏物語 全2巻
 著者・与謝野晶子 発行・角川書店 セット価格・3300円

 縮訳版の「円地文子の源氏物語」に物足りなさを感じていた私が次に読んだのがこの与謝野晶子訳の「源氏物語」でした。なぜ与謝野さんの訳にしたかと言いますと、行きつけの視覚障害者向けの図書館にたまたま置いてあったからでした。

 なお、私が読んだ本は上で紹介したものではなく、河出書房新社から発行されていた日本古典文庫というシリーズに入っていたものでした。(現在では絶版のようですが)全三巻でしたが、一冊一冊がとても厚い本でしたので、「これなら玉鬘のこともよくわかるし、夕霧や匂宮三帖もちゃんと掲載されているはず…」と思ったのでした。そして、この与謝野訳はその部分に関しては充分満足できるものでした。

 ただ、こちらも難点はあります。

 まず、和歌の現代語訳がついていません。それと、文体は「である」調なのですが、あまりにも歯切れが良すぎてみやびに欠ける部分があります。「源氏物語」は女房が昔語りをするというスタイルで書かれたものだとも言われていますが、与謝野訳はどう読んでも女房の語りとは思えません。
 そして最近知ったのですが、与謝野訳はかなり原文からはみ出しているようなのです。つまり、原文を短く縮めたり、独自に書き換えたりしている部分がかなりあるとか…。そのような点を考慮すると、初心者向きではないようです。

 この項の最初の方でも書きましたように「円地文子の源氏物語」では端折られていた「玉鬘十帖」や「夕霧」・「匂宮三帖」に関しては満足できたのですが、初めて読んだときの感想は「ちょっと難しすぎてわかりにくい。」でした。

 ところが、与謝野訳を最初に読んでから約10年ほど経った頃、急に光源氏に会いたくなり、もう一度読んでみたのです。そうしたら何と、面白い、面白い…!その間に私は、瀬戸内寂聴さんの「源氏物語」をもとにした小説「女人源氏物語」(2005年5月30日の記事を参照して下さいね)や、いくつかの「源氏物語」の解説書を読んでいました。なので「源氏物語」に関する知識が増えていたせいもあると思います。現代語訳のない和歌の意味は相変わらずよくわかりませんでしたが、それでも充分楽しむことができました。

 昭和初期に出版されたのにもかかわらず、今でも版を重ねているということは、与謝野訳が名訳だからに他ならないと思います。ある程度「源氏物語」に触れたことがある方にはお薦めの訳です。

☆次回の「図書室2」の更新では、ここ5年くらいの間に読んだ田辺聖子さんと瀬戸内寂聴さんの訳を紹介したいと思っています。

田辺聖子の小倉百人一首

2005-07-09 14:15:41 | 図書室2
 私が歴史上の人物について一番最初に興味を持ったのは、小学校4年生のころ、家にあった百人一首のカルタを見たときだったと思います。
 その時、家族と「坊主めくりゲーム」というのをやっていました。中央にある百人一首の絵の入った方の札を重ねて、それを一人ずつ順番にめくっていきます。そして、坊主が出たら手許にある札は全部没収、逆に姫が出たら没収されている札をすべてもらえるというゲームでした。
 そのときに、「どうか姫が出ますように…」と祈りながらめくったのを思い出します。

 ところで、その姫様は全員とても素敵で、きれいに描かれていました。長い髪の毛と彩りのきれいな衣装を見て、子供心にもとてもあこがれたものです。そして、「この姫様達は大昔に実際に生きていた人なのだろうけれど、いったいどういう生涯を送ったのかしら。」ととても興味を引かれました。今考えると、私と平安時代との最初の出会いはこの時だったように思えます。
 でも、その姫様たちについて自分で調べてみることはしませんでした。ただ、小学6年の社会科で歴史を習ったとき、「紫式部」「清少納言」「小野小町」といった百人一首のカルタで見た姫様の中の数人の名前が教科書に載っていて、とても嬉しかったです。そして、そのような有名な方々は百科事典にも載っていたので調べることができましたが、大多数の姫様のことは載っていなかったので、残念ながら調べることができませんでした。

 その後私は彼女たちのことをすっかり忘れていました。再び思い出したのは二十代の前半、平安時代に本格的に興味を持ったときでした。そして、「百人一首の歌人たちのことをもっと詳しく書いた本はないかしら…」と思っていたときに出版されたのが、この「田辺聖子の小倉百人一首」です。

  この本は、百人一首に収められた百首の歌の現代語訳とその歌が読まれた背景はもちろん、私が一番知りたかった作者についてのエピソードなどがわかりやすく書かれていました。特に、小さい頃にあこがれた姫様たちのことを知ることができたのがとても嬉しかったです。

 またこの本は、百人一首の歌人たちの紹介と共に時代背景や歴史的なエピソードも盛り込まれています。なので、読みながら平安時代を中心に、飛鳥~鎌倉前期の歴史についても楽しく勉強できると思います。

 私はこの本を読んで、今まで知らなかった興味深いエピソードをたくさん知ることができました。
 例えば、宇多天皇は一時臣籍に降下して「源定省」と名乗り、父の光孝天皇の侍従をつとめていたこと、三跡の一人として有名な藤原行成の父義孝は、大変な美男で宮中の人気者だったが若くして亡くなってしまったこと、……などです。

 特に面白かったのは、平兼盛と壬生忠見の所に書かれてあった「天徳内裏歌合わせ」のエピソードでした。

 天徳内裏歌合わせとは、村上天皇御代の天徳四年(960)三月三十日に内裏にて行われた歌合わせです。歌合わせとは左右に分かれて歌の優劣を競うという優雅な遊びなのですが、この時の歌合わせは当代の有名歌人や殿上人が勢揃いした大がかりなものだったようです。
 そして宴もたけなわになった頃、右方から出されたのが平兼盛の「忍ぶれど 色にでにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」で、左方から出されたのが壬生忠見の「恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか」でした。
 どちらも優れた歌なので甲乙つけがたい……、と判者が迷っているとき村上天皇が「忍ぶれど…」と口ずさんだために、右の平兼盛が勝ちになったと言われています。
村上天皇ご自身は、判者と同様、どちらも甲乙つけがたいので取りあえず二首とも口ずさんでみようと思ったようですが…。
もしこの時天皇が、「恋すてふ…」の歌を先に口ずさまれていたら、壬生忠見の勝ちになっていたかもしれませんね。

 この本はこうした興味深い話が満載です。百人一首と平安時代を中心とした歴史の入門書としてお薦めです。そして、この本を読んで興味を持った歌人がいたら、その歌人についてさらに深く調べてみる……というのもきっと楽しいと思いますが…。

☆田辺聖子の小倉百人一首  田辺聖子著
 角川文庫 735円(税込み)

 

女人源氏物語

2005-05-30 09:01:17 | 図書室2
 本日は久しぶりに本の紹介をしたいと思います。

 瀬戸内寂聴著 『女人源氏物語』

 私がこの本と出会ったのは約15年ほど前です。題名の通り、『源氏物語』に登場する女君やおつきの侍女たちが語るという、全く新しいスタイルの『源氏物語』です。
購入してきてから、あっという間に全5巻を読んでしまいました。

 この本の良いところは、とにかくわかりやすくて入りやすい所です。この本を読む前に私は円地文子さん訳と与謝野晶子さん訳の『源氏物語』を読んでいたのですが、登場人物の性格や行動などいまいちわかっていなかったところがありました。そんな私でしたが、瀬戸内さんの『女人源氏物語』を読んで、今までぼんやりとしていた部分がはっきり見えたという気がしました。

 例えば藤壺の宮がその良い例です。
 藤壺の宮という人は、原文や現代語訳を読んでもなかなか人物像がつかめない人です。唯一、光源氏と二人で六条御息所の娘(後の秋好中宮)の入内について密談する場面で、「やり手でしたたかな女性なんだな」というイメージを受ける程度でしかなかったのでした。

 しかし彼女は、光源氏の父桐壺院の女御でありながら物語の最初の方で光源氏と密通し彼の子供を身ごもってしまいます。その皇子は桐壺院の皇子として育てられ、その皇子がやがて帝位につく。その後、光源氏と藤壺の宮はそのことに一生苦しむこととなる。さらに光源氏は晩年、降嫁してきた若い女三の宮を柏木という若い男性に密通され、二人の間に生まれた子供を自分の子として抱かなければならなくなったという因果応報が、『源氏物語』の大きなテーマの一つです。なので、藤壺の宮は重要な登場人物なのですが、物語を読んでいると非常に影が薄く感じられます。
おそらく紫式部は、物語の中でも大変身分が高い藤壺の宮(彼女は先帝の皇女で、後に桐壺院の中宮となります。)という女性に配慮し、わざと影を薄くして描いたのでしょう。
なお、光源氏と藤壺の宮の出会いを綴った「かがやく日の宮」という失われた巻があったという説もあるようですが、詳しいことはわからないというのが現状です。

 それはともかくとして、『女人源氏物語』には藤壺の宮の侍女、弁の君の口を通して彼女と光源氏の出会いや心の動きがかなり具体的に描かれています。特に、光源氏が元服して左大臣の娘葵の上と結婚したとき藤壺の宮は、「葵の上さまは私より一つ年下だけなのね。」ということを言ったという記述があります。ここを読んだとき、「そうなんだ!藤壺の宮は葵の上をかなり意識していたのだ」と、まるで目からウロコが落ちるような気がしました。 
 このように、この『女人源氏物語』は「なるほど!」というエピソードが満載です。現代語訳だけでは『源氏物語』があまりよくわからなかったという方には絶対お薦めの本です。

☆単行本
①女人源氏物語 上〔新装愛蔵版〕 瀬戸内 寂聴 著
1999/06 2,940 小学館
②女人源氏物語 下〔新装愛蔵版〕 瀬戸内 寂聴 著
1999/06 2,940 小学館

☆文庫本
①女人源氏物語 1 瀬戸内 寂聴 著
1992 480 集英社
②女人源氏物語 2 瀬戸内 寂聴 著
1992 480 集英社
③女人源氏物語 3 瀬戸内 寂聴 著
1992 460 集英社
④女人源氏物語 4 瀬戸内 寂聴 著
1992 460 集英社
⑤女人源氏物語 5 瀬戸内 寂聴 著
1992 480 集英社