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平安夢柔話

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管理人えりかの趣味のページ。歴史・平安文学・旅行記・音楽、日常などについて書いています。

伊勢物語 謎多き古典を読む

2009-05-18 10:58:38 | 図書室2
 今回は「伊勢物語」について解説した本を紹介します。

☆伊勢物語 謎多き古典を読む
 著者=杉本苑子 発行=中央公論新社・中公文庫

本の紹介文
 『伊勢物語』は在原業平の恋愛遍歴を描いた、作者不詳の歌物語である。複数と思われる作者たちは、なぜ業平を主人公に選び、どんな世界を彼に託して描こうとしたのか。物語の裏にみえかくれする、慚愧にみちた宮廷の恋物語をすかしてみて、作品成立にまつわる謎を読み解く。

目次
 『伊勢物語』の、うさんくささ
 軽み、そして鄙びと貧
 アウトローの自覚
 業平に至る血の系譜
 二条ノ后と惟喬親王
 物語を生んだ心理的母体

*現在では絶版のようです。興味を持たれた方、図書館か古書店を当たってみて下さい。


 「伊勢物語」は、「昔 男ありけり」で始まる125編の短い歌物語集です。私は、この「伊勢物語」という古典が大好きです。なぜ好きかというと、この物語の主人公に擬せられている在原業平が好きだから、更に、彼の生きた時代に興味があるからです。そして、歌物語という物語形式が何か軽快で、読んでいてわくわくします。でも、読めば読むほどわからなくなり、ますます謎が深まっていく…、そんな不思議なところも興味をそそられます。

 この、「伊勢物語 謎多き古典を読む」は、本の内容紹介文と目次から興味を引かれ、6年前に初めて読みました。ちょうど、同じ杉本苑子さんの山河寂寥 ある女官の生涯」と同じ頃に読んだのですが、「山河寂寥」の紹介でも書きましたように、その頃、家の引っ越しなどでごたごたしていて、あまり集中して読むことができませんでした。それと私の知識不足も手伝って、読み終わったあと、「伊勢物語」がますますわからなくなってしまいました。

 今回、6年ぶりに再読してみたのですが、これを読んで「伊勢物語」に関する謎が解けたかどうかと尋ねられれば、残念ながらノウと答えることになりそうです。おそらく、「伊勢物語」に書かれたエピソードは史実なのか、物語がどのように成立したのか、業平とはどんな人なのかに関しては、永遠に謎のままなのかもしれません。

 でも、この本に書かれている内容は6年前に比べると理解できたかなという感じがします。そこで、本の内容をかいつまんで紹介しますね。

 まず冒頭の「『伊勢物語』のうさんくささ」の書き出しの部分で著者の杉本苑子さんが、『伊勢物語』はよくわからない古典である』と、私と同じことを言っていてびっくりしました。
 そのあと、伊勢物語がなぜわかりにくく、うさんくさい古典であるかを述べ、その最も顕著な例として69段を紹介していました。この段は、主人公の男と伊勢の斎宮が密通する話ですが、書き加えのオンパレードとか。特に最後の、「斎宮というのは清和天皇御代の斎宮、文徳天皇皇女で惟喬親王の妹の恬子内親王である」というのは完全に後世の書き加えだそうです。つまりこの段で描かれている話はフィクションであり、しかも中国の古典を下敷きにしている話だとか。でも、真相は誰にもわからないようです。こうしてみると69段はちょっと頭が混乱してしまいそうな章段ですよね。

 次の「軽み、そして鄙びと貧」と「アウトローの自覚」では、『伊勢物語』の中から著者が興味を引かれている段(東下りや筒井筒の話など)を選び出し、原文と訳を紹介しながら、『伊勢物語』の魅力や特徴を解説しています。

 そしてその次の「業平に至る血の系譜」では、在原業平とはどのような人だったのかに触れ、桓武天皇→平城天皇→阿保親王と、業平の祖先たちの数奇な歴史を紹介しています。

 その次の「二条ノ后と惟喬親王」では、再び伊勢物語本文に戻り、業平と関係の深かった二条ノ后藤原高子と惟喬親王が登場する章段の原文と訳を紹介し、二人の不遇の生涯にも触れています。

 そして最後の「物語を生んだ心理的母体」では、再び業平やその祖先たち、特に父の阿保親王の生涯に触れ、彼らがいかに藤原氏に利用され、運命を狂わされてきたかが強調されています。

 更に、「伊勢物語」のモデルがなぜ業平だったのか、著者の推論が述べられていました。つまり業平は、藤原氏が手中の玉として入内を切望していた高子と通じることによって藤原氏に挑戦した。そして、そんな業平の行為は、藤原氏に手も足も出ない廷臣たちにとっては痛快だった。そんな業平像が人々に語り伝えられていくうちに、業平は偶像化され、人々のアイドルとなり、『伊勢物語』が生まれる心理的母体が作られていったのではないか…と、著者の杉本苑子さんは述べていましたが、非常に納得がいく説だと思います。つまり、業平を偶像化した人達によって、物語の書き加えもされたのかもしれませんね。

 以上、この本の内容を簡単に述べてきましたが、私のつたない説明ではすべてを伝えることはできないです…。『伊勢物語』や在原業平、平安時代前期の歴史に興味のある方はぜひ、この本を手に取って欲しいと思います。

 私は、この本を再読して、『伊勢物語』の全文をもう一度読んでみたくなりましたし、在原業平や当時の歴史を調べてみたくなりました。確かに杉本さんもおっしゃっているようにわかりにくくて厄介な古典ですが、これからも私は『伊勢物語』とつき合っていきたいと思います。


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今昔物語 ~古典の旅6

2008-11-07 10:54:49 | 図書室2
 今回は古典エッセーの紹介です。

☆今昔物語 ~古典の旅6
 著者=安西篤子 発行=講談社

もくじ
 道成寺と蛇の話
 六角堂と隠形の男の話
 勧修寺と高藤の話
 護王神社と時平の話
 仁和寺と碁打ち寛蓮の話
 瀬田の橋と紀遠助の話
 伏見稲荷と重方の話
 羅城門と盗人の話
 内舎人と安積山の話
 大和国の箸墓と蛇の話
 解説・説話の宇宙 篠原昭二

*この本は、文庫版では「今昔物語を旅しよう」というタイトルになっていますが、現在では単行本・文庫本ともに絶版になっているようです。興味を持たれた方、古書店か図書館を当たってみて下さい。


 18年ほど前に講談社から刊行された、女性作家11人が古典の舞台を訪ねて綴るエッセー、「古典の旅」シリーズ(詳しくはこちらをご覧下さいませ)の1冊です。

 「今昔物語集」は、1120年頃に成立した説話集で、全31巻(そのうち3冊が欠巻)、千余りの話が収められています。この本ではその中から10編を選び、それぞれの話のストーリーと物語の舞台となった場所の紀行文が収められています。

 また、それぞれの物語の歴史背景や、著者による考察も書かれているので、大変面白いです。

 例えば、道成寺と蛇の話、これは安珍・清姫の伝説で有名な話ですが、伝説と「今昔物語」に収められた話では少し内容が違っています。伝説の清姫は未婚の若い娘ですが、「今昔物語」の女主人公は数年前に夫を亡くした未亡人となっています。著者の考察では、蛇となって情念の炎を吹き出すというのは、若い娘よりもすでに男を知り、長いこと愛に飢えていた未亡人の方がふさわしい」とのことでした。これにはなるほどと思いました。また、この話の背景となっているのは、平安時代から流行し始めた熊野詣とのことでした。

 さて、この本に収められた10編は、ほのぼのとしたユーモラスなもの、オカルト的なもの、悲劇的なものなどバラエティーに富んでいてどれも大変面白いのですが、私は勧修寺と高藤の話が一番好きです。

 閑院左大臣冬嗣の孫、藤原高藤は15、6の頃、山科に狩りに出かけて雨に降られ、1軒の家に一夜の宿を借ります。そこでその家の娘と契りを交わし、形見に刀を置いて立ち去ります。数年後、ようやくこの家を再び探し当てて訪ねたところ、高藤と娘の間には小さな女の子が生まれていました。高藤はこの母娘を京の自邸に引き取り、末永く幸せに暮らし、女の子は長じて帝の妃となり醍醐天皇をもうけます。何か、おとぎ話のように素敵な話だと思いませんか?
 つまり、高藤が宿を借りた家は山科の豪族、宮堂弥益の家で、高藤が契った娘は宮堂列子、二人の間に生まれた娘は宇多天皇の更衣となった胤子です。「今昔物語」の登場人物というと、下級貴族や武士、庶民が中心というイメージがあったのですが、高藤の話のような天皇のルーツに関わる話もあったのだと、とても新鮮に感じます。
 紀行文では宮堂弥益が住んでいた邸跡に建てられたという勧修寺が取り上げられていました。私も10年ほど前に訪れたことがあるのですが、庭園が美しかったです。「ああ、ここが高藤と列子のロマンスの舞台になった場所なのね」と想いをはせると、夢がわいてきてわくわくしました。

 このように、「今昔物語」の中の10編の話が丁寧に、興味深く紹介されている本です。この本を読むと物語の舞台を訪ねたくなります。「今昔物語」への入門書としても最適ではないでしょうか?こちらで以前に紹介した古典の旅シリーズ、「百人一首」「更級日記」「源氏物語」と共にお薦めです。

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阿部光子の更級日記/堤中納言物語

2008-10-12 10:24:13 | 図書室2
 今回は古典の現代語訳の本の紹介です。

☆阿部光子の更級日記/堤中納言物語(わたしの古典10)
 著者=阿部光子 発行=集英社

本の内容
 自分の生涯を爽やかに綴り、日記文学の中でも特に愛されている菅原孝標女の『更級日記』。「虫愛づる姫君」など、ユニークな発想にみちた短編集『堤中納言物語』

 今から20年ほど前、集英社から「わたしの古典」というシリーズが刊行されました。

 このシリーズは、現代の女性作家二十数人による古典の現代語訳のシリーズで、「古事記」「萬葉集」から始まり、「源氏物語」「枕草子」「伊勢物語」などの平安時代の古典、「平家物語」「太平記」といった軍記物、「東海道中膝栗毛」「好色五人女」「南総里見八犬伝などの江戸時代の古典も取り上げられているバラエティーに富んだシリーズでした。しかも読みやすくわかりやすい訳で、趣味で古典に親しみ始めたばかりの私も楽しく読むことができました。
 その後、集英社文庫から文庫化されたようですが、残念ながら現在では絶版のようです。興味を持たれた方は図書館か古書店を当たってみて下さい。

「源氏物語の現代語訳の本 ~その1」で、このシリーズの第6巻~8巻に収められている「円地文子の源氏物語」を紹介しています。

 さて、このシリーズの第10巻として発行されたのが、今から紹介します「阿部光子の更級日記/堤中納言物語」です。

 では、目次と内容を紹介させていただきますね。

☆更級日記

目次
 第一章 京への旅
 第二章 親しい人々との別れ
第三章 花紅葉の思い
 第四章 春の夜の形見
 第五章 夢幻の世を

 今年は、「更級日記」の作者、菅原孝標女の生誕千年に当たるので、久しぶりに「更級日記」の現代語訳を読んでみようと思い、この本を手に取ってみました。

 「更級日記」に関しては、「更級日記 ー古典の旅5」でも触れたので詳しくは書きませんが、菅原孝標女による40年にわたる人生の回想記です。

 今回、読んでみて感じたことは、「自分の人生を客観的に、淡々と書いている」ということです。それでいて、夢と現実の違いに悩む様子や、親しい人たちとの別れの悲しみ、旅行中に見聞した事柄が詳細に書かれていて、読むものの心に迫ってきます。やはり孝標女は物語好きだけあって、文才があると感じました。

 また、和歌の贈答の多さも目立ちます。平安時代は、和歌を詠むことが日常的だったということを改めて実感させられました。

 それと、歴史上の人物も多く登場します。
 上総から帰郷した孝標女が最初に住んだ家は、一条天皇の皇女、脩子内親王が住んでおられた邸宅の隣でした。孝標女が宮仕えしたのは、後朱雀天皇の皇女、祐子内親王の許です。
 また、結婚後の孝標女は初瀬詣でをするのですが、その道中には藤原隆家の子、良頼が登場してきます。それから、孝標女は宮中にて、公達と夢のような語らいをするという、物語に出てきそうな体験もするのですが、その公達というのは宇多源氏の源資通です。孝標女は、平安中期の貴族社会にしっかりと身を置いていたのですね。


☆堤中納言物語

目次
 このついで
 花桜折る少将
 よしなしごと
 冬こもる空のけしき
 虫愛づる姫君
 程ほどの懸想
 はいずみ
 はなだの女御
 かひあわせ
逢坂こえぬ権中納言
 思はぬ方にとまりする少将

 「更級日記を」読んだついでに、こちらも読んでみました。とても面白かったです。

 「堤中納言物語」は、11世紀中頃に成立したと推定される短編集で、短編10編と断章1編から成り立っています。しかし、作者も成立過程も不明なようです。

 ただ、天喜三年(1055)5月三日に行われた六条斎院物語合わせに、小式部という女房が、「逢坂超えぬ権中納言」という代で、「君が代の 長きためしに あやめ草 千尋にあまる 根をぞ引きつるという歌を出詠しているので、「逢坂超えぬ権中納言」に関してはこの小式部の作と推定されているそうです。
 この「逢坂超えぬ権中納言」という話は、歌合わせや根合わせでは優れた才能を発揮して宮中の人気者になるのに、想いを寄せている姫宮とはなかなか契ることができないという、ちょっと情けない中納言の物語です。そのため、宮中での催し物が色々出てきます。特に、中納言を初め公達による管弦の描写は読みながらわくわくしました。

 さて、この短編集で、私が特に好きなのは「虫愛づる姫君」、眉毛も抜かず、お歯黒もつけず、毛虫の監察に夢中になっている風変わりな姫君の物語です。この姫君は、作者の願望だったのかなと思ったりしました。

 あと、姫君と間違っておばあさんを連れてきてしまう「花桜折る少将」、自分の主人を花にたとえるという優雅な物語「はなだの女御」、「伊勢物語」の筒井筒の話を連想させられる「はいずみ」なども面白いです。

 このように、この「堤中納言物語」は、平安時代の貴族たちの生活の一場面を切り取ったような作品が収められていて、平安好きにとってはたまりません。そして、どの作品もユーモラスで、それでいてちょっとほろ苦い味わいがあります。唐突に終わる話も多いですが、「そのあとどうなったのかしら?」と想像の翼を広げられるのも楽しいと思います。

 以上の2作品でぜひ、平安の雅で哀れ深い世界ををお楽しみ下さい。


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源氏物語の脇役たち

2008-04-25 10:01:26 | 図書室2
 今年2008年は「源氏物語千年紀」ということで、今回も「源氏物語」関連の本の紹介です。

☆源氏物語の脇役たち
 著者・瀬戸内寂聴 発行・岩波書店 税込み価格・1575円

出版社による本の紹介文
 源氏物語の魅力は,筋の面白さもさることながら,物語を織り成す登場人物たちの性格の書き分け,心理描写の克明さにある.源氏に愛され,そろって不幸になっていく女たちは,すべてヒロインの貫禄を具えている.朱雀院,頭の中将,弘徽殿女御,源典侍,近江の君など脇役たちが,いきいきと行間から立ち上がってくる.

もくじ
朱雀院/頭の中将/明石の入道/惟光/
大夫の監/髭黒の右大臣/蛍兵部卿の宮/横川の僧都/
右大臣/弘徽殿の女御/源典侍/近江の君/
秋好中宮/花散里/八の宮/
浮舟の母(中将の君)/弁の尼/女房たち


 「源氏物語」の魅力は筋の面白さはもちろんですが、紫の上や明石の上、六条御息所といった個性的な女性がたくさん登場するところだと思います。しかし、そういったヒロイン級の女性たちだけでなく、脇役にも魅力的な人たちがたくさん登場するところも面白いです。そういった脇役たちの軌跡に迫ったのがこの「源氏物語の脇役たち」です。

 まず一番最初に紹介されているのが朱雀院です。寵愛していた朧月夜を源氏に密通され、密かに思いを抱いていた秋好中宮は、源氏と藤壺の策謀によって冷泉帝のもとに入内することになりその恋もかなわず…、といった、何かというと源氏に邪魔されてばかりいるけれど、そのことをちっとも恨まない、人のいい人物に描かれている人です。しかし朱雀院は、最愛の女三の宮を源氏に降嫁させることにより、本人はそういった意識は全くなかったのですが、結局は源氏に復讐を果たした…という瀬戸内さんの見解はなるほどと思いました。

 その次に紹介されているのは、源氏の親友であり、ライバルでもある頭の中将です。私、この人結構好きなのですよね。須磨で隠遁生活を送っている源氏を訪ねていくところなど、「いい男だなあ」と思います。

 「明石の入道が物語に果たした役割は大きい。」「惟光さん、夕顔の巻では大活躍ね」「横川の僧津、なかなかいい味出しているけれど、源氏物語に出てくるお坊さんってやっぱりおしゃべりね。横川の僧津も、浮舟のことを明石中宮にしゃべってしまうし。」など、この本を読み進めていくに従って、源氏物語の魅力的な脇役たちに魅了されます。
 右大臣や弘徽殿の女御のようなちょっと悪役っぽいキャラクターも、源典侍や近江の君のようなお笑いキャラも、すごく愛しく感じます。大夫の監のような、物語のワンシーン、ツーシーンにしか登場しない端役にまで、一度読んだら忘れられないような個性的で魅力的な性格を書き分けている紫式部ってすごいと改めて思いました。

 また、物語の所々にほんのちょっとだけ顔を出すキャラクター、惟光や源典侍、秋好中宮などですが、彼ら彼女らの軌跡がまとめて書かれているので、それぞれの人物の人生をたどれるようなきがして興味深いです。

 圧巻なのは、ラストの「女房たち」の章です。
 ここでは、藤壺の侍女の王命婦、夕顔の侍女の右近、浮舟の乳母子の右近、そして、やはり浮舟つきの侍女で右近より少し若い侍従、さらに源氏のいわゆるお手つき女房の中納言、中将などが紹介されています。彼女たちは源氏と女君の恋の手引きをしたり、女君の相談相手になったり、他の女のもとから朝帰りする源氏をこらしめたりと、物語に大きな役割を果たしています。彼女たちがいなかったら、「源氏物語」は成り立たないと思いました。
 また、彼女たちにもそれぞれ人生のドラマがあるのですよね。特に、浮舟の侍女の侍従の軌跡を読んだ時、そのことを強く感じました。

 このように、「源氏物語」を違った角度から色々楽しめる本だと思います。お薦めです。

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源氏物語と東アジア世界

2008-03-25 09:40:58 | 図書室2
 今回は、「源氏物語」の研究者、河添房江先生のご著書を紹介いたします。

☆源氏物語と東アジア世界(NHKブックス 1098)
 著者・河添房江 発行・日本放送出版協会 税込み価格・1218円

本の内容
 「あなかしこ、このわたりに若紫やさぶらふ」と『紫式部日記』に記されて千年。以来、日本固有の美意識の源流として称揚されてきた『源氏物語』だが、果たして、本当に和の文学の極致と言えるのか。七歳で異国人である高麗人と出会い、その予言を起点に権力への道を歩みはじめた光源氏の物語を、東アジア世界からの“モノ・ヒト・情報”を手がかりに捉え直す。『源氏物語』を古代東アジア世界に屹立するヒーローの物語として読み直す、気鋭の野心的試み。

[目次]
序章   いま、なぜ『源氏物語』と東アジア世界なのか
第一章  「いづれの御時にか」の時代設定
第二章  鴻臚館の光る君
第三章  異人・高麗人の予言
第四章  「光る君」伝承の起源へ
第五章  紫式部の対外意識
第六章  黄金と唐物
第七章  転位する唐物
第八章  表象としての唐物
第九章  唐物による六条院世界の再生
第十章  光源氏世界の終焉
第十一章 光源氏没後の世界と唐物
終章   「国風文化」の再検討


 紹介文にもありますように、この「源氏物語と東アジア世界」は、光源氏を「東アジア世界のヒーロー」ととらえ、源氏物語を唐や高麗からの人・物(唐物)・情報(漢籍)から読み解いたものです。源氏物語のストーリーを追いながら、特に物語に出てくる唐物(唐や高麗からのいわゆる舶来ブランド品です)にスポットを当て、源氏物語を再検討しているところが新鮮でした。

 特に私が興味を引かれたのは、第十章で書かれている女三の宮と唐物を巡る物語です。

 女三の宮は、父である朱雀院から譲られた「唐物」に囲まれて光源氏に降嫁したこと、柏木との密通の原因となる「唐猫」について、更には、彼女の出家後に行われた女三の宮持仏開眼供養にも、光源氏が用意した「唐物」が重要な位置を占めていたこと、つまり、「唐物」は、女三の宮の人生に大きな影響を与え、光源氏の凋落の原因ともなったことも書かれています。その中でも、猫好きの私には、女三の宮の身代わりとも言える唐猫についての記述が興味深かったです。

 その他、平安京内の鴻臚館にて幼い光源氏の占いを行った人物を「渤海国人」とし、渤海国の歴史にも触れられていたところも興味深かったです。この国は高句麗の復興を目的として建国され、奈良~平安朝の我が国にたびたび使節を送ってきていたのですね。更には光源氏がこの渤海国人から様々な豪華な「唐物」をプレゼントされ、この「唐物」が「梅枝」の巻に登場し、六条院の栄華に大きな影響を与える…、このあたりは非常に面白いです。

 このように、「源氏物語と東アジア世界」では、「唐物」が、光源氏の栄華と凋落にいかに重要な位置を占めているかが強調されています。今まで、「唐物」に注目して「源氏物語」を読んだことは全くなかったのですが、今度読むときは注目してみます。…というか、「源氏物語」ってこんなところからも考察ができるのですね。やっぱり奥の深い物語です。

 ところでこの本は、昨年11月に出版されたのですが、河添先生は今年の3月にも、「光源氏が愛した王朝ブランド品」というご著書を出されました。こちらも、「源氏物語」と「唐物」について考察なさったものですが、「枕草子」や「落窪物語」に出てくる唐物にも触れられているそうです。こちらもぜひ読んでみたいと思います。

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百人一首の作者たち

2007-10-30 14:28:11 | 図書室2
 今回は、百人一首関連の本の紹介です。

百人一首の作者たち(角川ソフィア文庫)
 著者=目崎徳衞 価格=700円 発行=角川学芸出版

内容
激情型の小野篁、女好きな在原業平、何ごとにも秀でた大納言公任、単純な陽成院…。王朝時代を彩る百人一首の作者たちは百人百様だ。王朝和歌の碩学が、『古今集』『後撰集』『大鏡』などに描かれる人間模様や史実、説話を読み解きながら、作者の新たな魅力を紹介。歌だけではうかがい知れない、百人一首の雅な世界へと誘う。作者の心に触れ、百人一首をより深く味わうエッセイ。

[目次]
 序章 王朝文化の系譜―百人一首とはいかなるものか
 1章 万葉歌人の変貌―人間化と神化と
 2章 敗北の帝王―陽成院・三条院・崇徳院
 3章 賜姓王氏の運命―良岑父子と在原兄弟
 4章 古代氏族の没落―小野氏と紀氏と
 5章 藤氏栄華のかげに―夭折の貴公子たち
 6章 訴嘆の歌と機智の歌―文人と女房の明暗
 7章 遁世者の数奇―能因より西行へ
 終章 定家と後鳥羽院―百人一首の成立


 この本は、著者の目崎先生のお言葉を借りると、「百人一首」の解説書ではなく、百人一首の作者たちの人間模様と、400年にわたる文化史を描いたものです。なので、特に奈良・平安時代の歴史に興味のある方は楽しく読める本だと思います。私も興味深く、楽しく読ませていただきました。

 特に私が興味を引かれたのは、2章と5章です。

 2章では、タイトルの通り陽成天皇、三条天皇、崇徳天皇について述べられていますが、もっとも紙数が裂かれているのは陽成天皇です。

 陽成天皇は藤原氏の謀略によって退位させられたこと、陽成天皇と宇多天皇の対立、更には陽成天皇の皇子元良親王の破天荒な生き方にも触れられています。元良親王と、宇多天皇の出家後の寵姫である藤原芳子(藤原時平女)の密通の話も興味深いです。

 5章では、文字通り藤原氏の人たちについて触れられています。

 「百人一首」の作者の藤原氏の人たちのうち、政界に君臨したのは藤原師輔と藤原忠通だけだという記述はなるほどと思いました。藤原伊尹も摂政になっていますが、2年足らずで世を去ってしまった上、子孫が不遇だったために数には入れなかったのだそうです。

 このように、藤原氏の百人一首の歌人には、不遇な人たちが多いとのこと。そしてその中で、左近衛中将という将来を期待された官職に昇りながらも、突然陸奥守に左遷されてしまった藤原実方の伝説に彩られた生涯について詳しく紹介されていました。

 この他にも、天智天皇が百人一首の冒頭におかれた理由、在原行平・業平兄弟のこと、記氏や大江氏などの古代豪族の末裔歌人のこと、僧侶や女房たち、後鳥羽院と定家の関係と百人一首の成立事情など、興味深い論考が収められています。特に女房たちに関して、平安中期の女房たちの歌は生活の中で詠まれたもの、それに対して院政期の女房たちの歌は歌合わせで詠まれたものという記述は、その時代時代の女房たちの立場がわかって興味深く感じました。

 このようにこの本は、百人一首に興味のある方はもちろん、最初の方でも書きましたが奈良・平安時代の歴史に興味のある方にもお薦めの1冊だと思います。ご興味を持たれた方はぜひ手に取ってみて下さい。

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私家版かげろふ日記

2007-01-24 10:35:20 | 図書室2
 今回は、少し異色の「蜻蛉日記」の現代語訳の本を紹介します。

☆私家版かげろふ日記
 著者=杉本苑子
 発行=文化出版局(単行本) 講談社(文庫版)

☆本の内容紹介
 「私は身分違いの相手に想われ、玉の輿に乗った女である。」並外れた美貌と作歌の才に恵まれた平安朝の一女性が、浮気の絶えない夫との生活から女同士の確執、一人息子への溺愛ぶりまでを赤裸々に綴る。無類に面白い千年前の記録を、大胆かつしなやかな日本語で生き生きと再現させた現代人必読の日記。

*図書館で借りた本なので画像はありません。ご了承下さい。

 タイトルの通り、杉本苑子さんによる独自の、蜻蛉日記の現代語訳です。

 「蜻蛉日記(かげろふ日記)」は、藤原倫寧の女で藤原兼家の妻の一人となり、兼家との間に道綱を産み、のちに「藤原道綱母」と呼ばれることになる女性が、兼家との20年にわたる結婚生活をつづったものです。テーマはズバリ、「一夫多妻の世界」、夫の浮気に悩み、時には、時姫や町の小路の女や近江など、夫の他の妻たちに嫉妬する様子が赤裸々に描かれています。また、夫の病気により夫婦の愛情を確認したり、息子のことを心配したり…といった、愛憎と悲喜こもごもの日常が淡々と描かれており、その内容は、書かれてから千年経った現在でも共感できる部分が多い日記です。

 この本は、そんな「蜻蛉日記」を現代的にわかりやすく訳したものです。外来語も多く使われており、会話も現代的で親しみやすいです。

 この現代語訳の大きな特徴は、原文にはあまり書かれていない当時の政治情勢を、本文の中にうまく盛り込んでいることだと思います。兼家と言えば右大臣師輔の三男、つまり若い頃から政権の中枢の近くにいた人で、最終的には摂政にまで出世した人物です。なので、兼家と当時の政治情勢は切っても切れないものなのです。

 たとえばこの本では、冷泉天皇即位、その弟守平親王立太子の事情が詳しく描かれています。実は、冷泉天皇と守平親王は村上天皇を父に、藤原安子を母に持つ同母兄弟ですが、二人の間にはもう1人、為平親王という同母兄弟がいました。つまり、守平親王は兄の為平親王を飛び越えて皇太子に立てられたのです。
 これには、為平親王が、当時左大臣で実力者であった源高明の女を妃にしていた…という理由があったようです。「もし為平親王が天皇になったら、舅の高明が実権を持ってしまうかもしれない。」という、藤原氏の人たちの思惑があったのでしょう。そこで強引に、守平親王を皇太子にしたのではないか…とこの本に描かれています。
 さらにこの本には、道綱母の兄の「あんたの夫の兼家も、守平親王立太子に一役買ったかもしれないぜ」というせりふが出てきます。道綱母はそれを聞き、「男の世界はおぞましい」と思ったのでした。この場面を読むと、「兼家という人物は若い頃から野心家だったのだな」というイメージを強く受けます。

 その他、上で述べた為平親王の舅、源高明が左遷された事件「安和の変」のこと、兼家と兄の兼通の対立といった政治情勢についての事柄がたくさん出てきます。「道綱の加冠役は、醍醐天皇の皇子として生まれ、臣籍に下って源姓を賜り、政界では左大臣にまで昇りながら、後に兼通の陰謀によって実権のない一親王に戻されてしまった源兼明だったのか…という事実に改めて気づかされたりもしました。

 また、道綱母はわりと交際範囲が広いなとも感じました。兼家の妹で村上天皇の後宮に入り、「貞観殿尚侍」と呼ばれた藤原登子、兼家の異母妹で源高明の妻となった愛宮などとも交際があったようです。これらの人々との様々なエピソードも面白いです。

 しかし、何と言ってもこの本で一番光っているのは兼家です。確かに女好きで浮気者で、道綱母を悩ませる男ですが、とにかく明るくてユーモラスで、私はこの兼家という人、結構好きなのですよね。
 そして道綱母も、そんな兼家のことが大好きだったのではないか…と思います。
 もちろん、この本は道綱母の語りで話が進行しますので、彼女の行動や心の動きも生き生きと描かれています。 夫に対して素直になれず、その上いつまでも子離れできない道綱母、何か身近に感じます。そんな両親の間で右往左往する道綱くんもなかなかかわいい。この3人、とても魅力的です。

 そしてラストには嬉しいことに、「その後の蜻蛉日記」と題して、道綱母のその後の様子もまとめられています。彼女が養女にした「兼家が一時通っていた女に産ませた娘」がその後どうなったのか、ずっと気になっていたのですが、どうやら円融天皇に入内した藤原詮子の女房になったようです。もちろん、兼家や道綱のその後についても書かれています。

 ただ、この本では和歌の贈答部分など、省略されている部分も多いようです。今度はぜひ、正統派の「蜻蛉日記」の現代語訳も読んでみたいなあと思いました。

 なおこの本は、1996年に文化出版局から単行本として出版され、その後、講談社文庫からも刊行されましたが、現在では単行本・文庫本ともに絶版のようです。興味を持たれた方は図書館か古本屋で探してみて下さい。これから「蜻蛉日記」に触れようと思っていらっしゃる方、「蜻蛉日記」の時代背景を知りたい方には特にお薦めです。

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源氏物語 ー古典の旅4

2006-09-06 09:00:00 | 図書室2
 「百人一首」「更級日記」に引き続き、今回も「古典の旅」シリーズからの紹介です。こちらもかなり気に入っている本です。

☆源氏物語(古典の旅4 瀬戸内寂聴著)
*文庫版は「源氏物語を旅しよう」というタイトルになっています。

 では、最初に目次を紹介しますね。

物語という旅への誘い
廬山寺 紫式部邸宅址
琵琶湖
高島三尾里
塩津
逢坂関跡
石山寺
武生

京都
 東寺/羅城門址/西寺址/朱雀門址/朱雀門址碑/大極殿址/神泉苑/平安神宮/京都 御所/夕顔 の宿跡/鳥辺野/河原院址/三条宮址/京都文化博物館別館/東三条院址 、閑院内裏址/二条院址/鞍馬寺/ 大学寮址
嵯峨野
 仁和寺/野宮神社/大堰川畔/清涼寺
小野の里
初瀬
 椿市/長谷寺 
宇治
 宇治神社/宇治上神社/平等院/宇治川
八瀬

解説・虚構としての「源氏物語」          鈴木日出夫
「源氏物語」の梗概 清水 好子


 平成四年五月、結婚5周年を迎えた私たちは、2泊3日の京都旅行に出かけました。その際、この「源氏物語 古典の旅4」を片手に京都や嵯峨野を歩きました。

 京都の町並みを見ながら、「このあたりに紫の上が住んでいたんた!」と想いをはせたり、嵯峨野の竹林を見たときはこの本の口絵の竹林の写真と見比べ、「わ~、同じだ!」と感動したものです。
 また清涼寺では、「ここが出家をした光源氏が晩年を過ごしたお寺のモデルなのね。」と感動し、平等院では夕霧に想いをはせました。あの時の旅は「源氏物語に想いをはせる旅」だったような気がします。

 …と、前置きが長くなってしまいました。では、この本の内容を紹介しますね。

 この本の前半では、主に紫式部ゆかりの史跡を紹介しています。紫式部が住んでいた邸宅のあった場所と推定される廬山寺、紫式部が「源氏物語」を書き始めたという伝説の残る石山寺はもちろん、父為時とともに下った紫式部が見たであろう風景も紹介されています。

 後半では、「源氏物語」の主な舞台となった京都(平安京)から、出家をした浮舟が住んでいた八瀬まで、様々な土地や旧跡、史跡、寺社が紹介されています。その土地が舞台になった各場面も、時には原文を交えて紹介されています。須磨や明石、大宰府が紹介されていないのが残念ですが、これだけでも充分「源氏物語」の舞台を楽しむことができると思います。

 また巻末には、「源氏物語の梗概」と題して、物語の各巻のあらすじも紹介されています。これを読んだあとに「源氏物語」の現代語訳を読んでみるというのも、この長大な物語に親しむ一つの方法ではないかと思います。

 この本を読むと、紫式部ゆかりの土地や「源氏物語」の舞台となった土地のことがよくわかると思います。特に、「源氏物語」の舞台となった土地のことがわかれば、より「源氏物語」に親しみが増すように思えます。その意味でこの本は、「源氏物語」のガイドブックと言えそうです。この本を片手に京都やその周辺、琵琶湖畔や武生を歩いてみるのも楽しいのではないでしょうか。
  

更級日記 ー古典の旅5

2006-08-20 19:30:48 | 図書室2
 2006年7月15日に紹介した「百人一首」に続いて、本日も「古典の旅」シリーズからの紹介です。このシリーズの中で私が最も気に入っている第5巻の「更級日記(杉本苑子著)」を紹介いたします。

*文庫本は「更級日記を旅しよう」というタイトルになっています。

 では、最初に目次を紹介しますね。


はじめに

道をたどる
 父菅原孝標のこと
 上総の国を出立
 武蔵国竹芝へ
 相模の国と足柄山越え
 駿河の国から遠江へ
 三河から尾張、美濃
 近江から京へ

心をたどる
 孝標女の周辺
 「源氏物語」へのあこがれ
 父の帰京と兄のこと
 結婚
 参籠 
 夫の任官と突然の死

 おわりに
  
解説 物語への憧憬


 「更級日記」は、菅原孝標女(1008~?)が表した回想記です。物語にあこがれていた夢見がちな少女が、13歳の時に父の任国であった上総国から京に上り、色々なことを体験しつつ大人の女性となり、宮仕え、結婚、子育て、小旅行、そして夫の死と、40年にわたる自分の人生を振り返って書いた日記文学です。夢と現実のギャップに悩む一人の平凡な女性の姿は、現代の女性とも通じるものが十分あるような気がします。

 この本はその「更級日記」を二つに分け、「道をたどる」では孝標女が上総介の任期を終えた父や家族とともに上総から京へ上っていく紀行文の部分を、「心をたどる」でその後の回想記を扱っています。そして、この本には読んで得するところがたくさんあるのです。

 まず、この本を読んでいると知らず知らずのうちに「更級日記」の詳しい内容がわかるようになっています。所々に原文も引用されていますので、古典の勉強にもなると思います。

 しかし、この本はそれだけではありません。「古典の旅」シリーズの目的に沿い、著者の杉本苑子さんが「更級日記」に出てくる土地を訪ね、史跡や寺社などを紹介しています。時には「更級日記」の内容から離れ、その土地にまつわる伝承や伝説、歴史など(東海道の島田宿や新居の関所について)にも触れられていてとても読み応えがあります。

 さらに、平安時代の官位制度などをはじめとする「更級日記」の時代背景、作者菅原孝標女の家族や周辺人物のことも詳しく書かれています。この本を読んで私は、孝標と一緒に上総国に下った女性(孝標女の継母)が高階氏の女性で、貞子中宮や伊周・隆家兄弟と血縁だったこと、孝標が蔵人を務めていた時の蔵人頭が藤原行成であったことなど、興味深い事実をたくさん知ることができました。こうした歴史事項に触れているあたりは「さすが歴史小説家の杉本苑子さん!」だと思います。

 以上のように、200ページちょっとの本ですが大変内容が濃く、それでいてわかりやすいです。この1冊を読めば「更級日記」により興味が増すと思います。自信を持ってお薦めしたい1冊です。
 
「百人一首 ー古典の旅8」はこちら

百人一首 ー古典の旅8

2006-07-15 12:17:46 | 図書室2
 15年ほど前、講談社より「古典の旅」という全12巻のシリーズが刊行されました。このシリーズは、女性作家11人が古典の舞台を旅して綴るという企画で、読みやすい文章と豊富な写真で古典の世界を色々な角度から楽しむことができるシリーズでした。ご参考までにラインナップと著者を列挙しますね。

 1.万葉集(大庭みな子)
 2.伊勢物語/土佐日記(津島佑子)
 3.枕草子(田中澄江)
 4.源氏物語(瀬戸内寂聴)
 5.更級日記(杉本苑子)
 6.今昔物語(安西篤子)
 7.平家物語(永井路子)
 8.百人一首(竹西寛子)
 9.とはずがたり(富岡多恵子)
10.好色五人女/堀川波鼓(岩橋邦恵)
11.おくのほそ路(田辺聖子)
12.東海道中膝栗毛(田辺聖子)

 このシリーズは刊行されてから5年ほど経った頃に文庫化され、題名も「万葉集を旅しよう」「源氏物語を旅しよう」という風に改題されました。しかし現在では単行本、文庫本供に絶版のようです。これだけ豪華な著者とラインナップなのに…と思うと残念です。

 さて、今から紹介しますのはこのシリーズ第8巻の「百人一首(竹西寛子)」です。

 最近私は百人一首にはまっています。歴史好きの私は元々、百人一首の歌人たちに興味があったのですが、最近では歌そのものにも興味が出てきました。色々な解釈ができるし、和歌から作者の息づかいが伝わってくるような気がします。本当に奥が深いですね、和歌って…。
 さらに、今年の4月に京都に旅行したこともあり、京都やその周辺をあつかった紀行文を読みたくなりました。そして、「百人一首」と「京都周辺の紀行文」という、現在の私が興味のあることを合わせた本がまさに、「古典の旅」シリーズの「百人一首」だったわけです。この本を読むのは刊行当時以来2回目なのですが、当時はこの本で紹介されている場所にはほとんど行ったことがありませんでした。なので今回の方がずっと楽しく読むことができました。

 では、この本の目次を紹介しますね。

嵯峨野・小倉山/京都御所/上賀茂神社・下鴨神社/比叡山/宇治山・宇治川/
三笠山/天の香具山/竜田川・三室山/初瀬/吉野の里・吉野山/
逢坂の関・逢坂山/大江山・天の橋立・由良/住ノ江・高師の浜/難波潟・高砂/須磨・淡路島・松穂の裏/田子の浦・富士/末の松山・松島/隠岐
あとがき
解説 季節美と情念とことば
百人一首一覧

 この本では、百人一首の歌が詠まれた場所や歌に出てくる場所を著者の竹西寛子さんが訪ねて回り、その土地の様子や、歌が詠まれた背景を紹介しています。「百人一首」のすべての歌が網羅されているわけではありませんが、「土地や歌枕から和歌を鑑賞する」という、また違った角度から百人一首を楽しむことができる本です。

私は 久しぶりにこの本を本棚から取りだし、まず目次を見てわくわくしました。「京都御所」「下鴨神社」といった今年4月の旅行で訪ねた所、嵯峨野や宇治、松島といったかつて行ったことがある所などが紹介されていました。しかも写真が豊富なので、本を読みながら旅行をしている気分になることができました。

 また、冒頭で百人一首百首の歌を選んだ藤原定家の山荘のあった嵯峨野を、ラストでその定家と深い関わりがあった後鳥羽上皇が、承久の変の後に流された隠岐を紹介していて興味深く感じました。
 この本で紹介されている土地も、地元の田子の浦と富士は別として、京都と松島にしか行ったことのない私です。今度はぜひ飛鳥や天の橋立、できれば隠岐にも行ってみたいと想いを新たにしました。

☆この「古典の旅」シリーズは他にも何冊か所有していますので、折に触れて紹介していきたいと思っています。

☆最初の方でも書きましたが、この本はすでに絶版となっています。興味を持たれた方は図書館か古書店で探してみて下さい。