細胞レベルで病理を追及して治療法を考えるのが西洋医学的発想で、現代医学の中心となっており
一方東洋医学は、体全体をみて経験的にその原因と対策を考察するのですが、
この物語に登場するいくつかの医術(オタワルの医術、清心教医術の新派と古流、花部流医術など)の中には
東洋医学的な発想に加えて、人の寿命は不公平とも思えるほど一律ではないが、それを否定せず、あるがままの人の体を尊重する
命が長らえるために何でもするという治療を良しとしない、心が幸せに死ぬための治療を優先するときもある
どの流派の医療従事者も、患者をなんとかしたいという純粋な気持ちに変わりはない。
物語は、どちらの医療を支持する者が皇帝となるか、そんな政治の駆け引きの中で起こった食中毒事件。
暗殺かそれとももっと複雑な策略か?
上橋さんの策略はすごく深く頭がこんがらがりそうですが、上橋さんの卓越した文章力で乗り越えられます。
そして、見えない水底に橋がつながるようにこれらの医療は、おだやかに共存する。
「部分が組み合わさって全体になっても、見えないものがすでに私たちにはぼんやりと感じられる」という言葉が印象的
私たちの体は、部分の集合体であると同時に、人と人のつながり、自然とのつながりなどから成り立っている
「鹿の王」の続編ですが、それを未読でも十分楽しめます。