漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
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西加奈子著「ふくわらい」正直な会話で人とつながる

2015-11-05 | 
この絵は西加奈子さんの作品・定が体に掘り込んだ刺青
他人の顔のパーツしか見ようとしない若い女性「定(さだ)」。
顔のパーツでふくわらい遊びを頭の中でしてしまう。
それは、他人とコミュニケーションをとろうとしていない状況なのでしょうか。
それでも定は、他人を真正面から顔をとことん見る。

編集者となった定と、次々と登場する癖の強い作家との会話はすっとんでいる。
何を伝えようとしているのか、ちんぷんかんぷんだが、定は真摯に会話する。相手も一生懸命しゃべっている。

「大学でてんだろう。わかんねえのかよう」
とかいいながらも、定の質問にひとつひとつ答えるプロレスラーの守口。
後半、守口の心の葛藤がとても丁寧に会話されて胸が熱くなる。そして彼の人となりが明確になる。

幼いころから福笑い遊びに熱中し、小学生くらいからは紀行作家の父との旅の中で生々しい経験(人肉を口にする経験も)をするという、傍から見ればかなり変わった人物の定。
だけど、俗な先入観のない彼女のまっすぐな会話によって人の物語が深まっていく。

お互いに、見えている一部「先っちょ」が互いの存在のすべてであり、捉え方は人によって異なるので様々な存在の形になるけど、それで繋がりができあがる人間社会。

言葉にするってことは難しいけど言葉で正直に伝える努力をせねばと思う。
そして定みたいに穴の開くほど観察して相手を知ろうと努力することも、ある意味相手への礼儀だとも思った。

解説は、上橋菜穂子。

西加奈子 1977年 イラン生まれ