漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
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窪美澄著「晴天の迷いクジラ」覚書・他人でも

2012-07-31 | 
この本の著者窪美澄さんが今年の4月の読売新聞「本よみうり堂」に顔写真とともに
紹介され、その記事の中の見慣れた漢方の写真にすぐ目が釘付けになった。
窪さんの「お気に入り」★漢方薬 婦宝当帰膠、紅沙棘、だって。
へ~、さっそく切り抜いて保存したっけ。

で、最近ぶらっと本屋に入って立ち止まったら、
そっと呼びかけるようにこの本が私の足元にあるじゃない。
ああもう・・と中を開くことなく買ってしまった。
帰宅しておもむろに本を開くと1ページの見出しが「ソラナックスルボックス」
おお、これも薬剤師ならおなじみの名前だ。ふ~む、うつの話か?・・・



世話好きの母親の偏愛にあぶれた次男坊の由人、
生んだ赤ん坊を愛せず逃げた野々花、
一人目を急病で亡くした経験から異常に神経質な母に束縛され自傷癖がついてしまった正子、

まったく関連のない3人それぞれの話に登場する父親の影はごく薄く、
やっぱり家庭は母親のものなのだなあと思う。
だが女たちはどうしてこうも偏屈に曲がってしまうのか。
そう考えながらも、あるあると納得している自分はやはり女であると変な次元で納得させられる。

うまくいかない環境で生きるうち、どうにもならなくなって自殺を考えたのに
なぜか他人を救おうとしてしまう妙な心理。
そんな3人が、迷い込んだクジラを見ながら過ごす時間、交わす不器用な会話。

南の港町、湾に迷い込んだクジラは耳が聞こえないのか泳いで行く方向がわからない。
何日も湾の浅瀬でしだいに体力を失っていく。
だけどクジラもこんな3人を見ていたら救いたくなったのかなあ。
生きていくのは難しいけどこんな他人がいるから生きていきたいと思う。

窪美澄 1965年東京都稲城市生まれ