毎週の黒田塾の研修会で、黒田先生の実務を中心とした講義に時々挟まれる人間模様の話し、時に笑いが起こります。20数年にわたり係わったお仕事が遺言や相続。生々しい実態の数々がそこにはあった事でしょう。長い年月を経て語られる話しも面白いのです。
今回からは「遺産分割協議書」についてですが、この点に関しては次回以降書くべき機会があると思いますから、今回は少し脱線します。
「相続財産が70万円しかないのに遺産分割の話し合いが付かず、相談に見えられた方がいます。こちらの事務所では、分割協議幾らでお引き受け頂けますかと聞かれ、100万円は下らないと思います、と答えるとさっと帰られました」(笑い)
「相続分について尋ねられたとき、遺言者の配偶者が1/2、子達が1/2と話したところ、子供さんが3人もいるのに、子の一人の自分が遺産の1/2貰えると勘違いした方がいました。その様にしたら子供だけで3/2の取り分になってしまうのに」(一人笑ってしまいました)
この話が語られたとき、かって高校3年生に出した遺産に関するパズルを突然思い出したのでした。忘却の彼方に消えかかっていた記憶が蘇りました。パズルはこうです。
≪昔アラブの国でラクダ17頭を残して死んだ父親の遺言によれば、その1/2を長男に、1/3を次男に、1/9を三男に与えるとの事でした。ラクダを殺すわけにもいかず、兄弟3人は困り果てているところへ、”賢者”と評判の老人が通りかかり、悩みを知りラクダ1頭を兄弟に与え、又明日来るよと言って去っていきました。喜んだ3兄弟は18頭となったラクダを遺言通りに分けると長男が9頭、次男が6頭、三男が2頭の合計17頭です。残った1頭は明日来る老人に返そうと決めて、一件落着。
この話の何処がおかしい?≫と問いかけたのです。
突然このパズルを聞いた生徒達、最初は計算間違いかと考えるようですが、間違いはありません。何回かこのパズルを出したのですが、毎回5分ほどでおかしな点に気が付く生徒がます。「相続分の合計が17/18で1にならないのがおかしい」と。そうなのです。私が黒田先生の話で3/2の取り分の話しで思い出したのはこの17/18 でした。
この問題で、「では、残りの1/18はどう分ければ良いのでしょ」と話を継いで、残りの1/18の財産も3人の間で1/2、1/3、1/9で分けるとすると、無限に分割が続くことになるが、その無限の和の計算に先ほど学んだ”無限等比級数の和”を用いて計算してみて下さい、と後は生徒の計算に任せます。
この問題はさらなる応用がありました。「君たちは数学Ⅲでやや高等な数学を学び”無限等比級数の和”で問題を解決したが、小学生にも納得出来る解決法を考え下さい」と宿題を出しました。数回ほど出題する機会がありましたが、宿題に答えられたのは、忘れもしないM君でした。「1/2:1/3:1/18を整数比に直すと 9:6:2 となるので長男が9頭、次男が6頭、三男が2頭と分けます」明快な解答でした。
もし今仮に1700万円の現金のみを残した遺言者が自筆遺言証書で”錯誤”により、パズルの配分のように3人の相続分を指定し、三男が訴えを起こした時、裁定者はこの遺言書を有効と認めるのでしょうか、仮に有効としたとき具体的相続額は幾らになるのでしょうか。パズルではないが、面白い問題だなと思います。
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