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塚口サンサン劇場「プシュパ覚醒」「サイラー・ナラシムハー・レッディ」見てきました!

2023-11-15 23:32:50 | 映画感想
 2週間限定上映だからって油断してるともう上映終了直前になってしまってるというのはよくあること。
 なので今日は3時間強のインド映画を2本連続で見てきました。
 まず1本目はこれ。
 
 
 高級木材である「紅木」の密輸を資金源としてインド社会で成り上がっていく労働者プシュパの人生を描いた作品。
 監督は「ランガスタラム」のスクマールということで、本作もインド社会の身分格差を大きく取り上げた作品となっています。プシュパは妾の子であることから名字を与えられず、異母兄弟から虐げられる暮らしを強いられています。さらに紅木の密輸で成り上がった後も、これからめでたく結婚というタイミングで異母兄弟から名字がないことを暴露されて結婚がご破産になるなど、その生まれによる格差は常に彼の人生につきまとっているのに、インド社会における「生まれの差」というものの重さを感じました。
 本作に限らず、今まで見てきたインド映画では必ずと言っていいほどこの社会的格差や身分差が描かれており、多くの主人公はこの生まれながらに背負った格差を覆すために奮闘しています。創作、フィクションという観点で見ると、この「格差の逆転」はキャラクターのモチベーションとしてはオーソドックスなものですが、「実際のインド社会を反映している」という観点で考えると改めてこの身分格差の根深さ、そしてそれを覆すためには理想や情熱ではなくもっともシンプルな力のひとつである「金」が絶対に必要であるということが肌身で感じられるというもの。
 また、本作の主人公であるプシュパを演じるアッル・アルジュン氏についても言及しておきたい。氏については本作ではじめて知ったんですが、なんとも不思議な印象を受けました。
 何がどう不思議かと言うと、ポスターで見たときの最初の見た目や雰囲気の印象が「なんだかモブっぽいな」だったんですよね失礼ながら。そもそもインド映画には山ほどヒゲの男たちが出てきますが、特に本作の序盤ではプシュパはたくさんの労働者たちに混じって、「たくさんいる労働者のひとり」として登場します。このへんでは彼は群衆に混じってしまえばそのまま顔を忘れてしまいそうな雰囲気なんですが、彼が紅木の密輸で頭角を現して密売組織の中でのし上がって行くに従ってそのオーラや雰囲気が明らかに変わっているんですよね。メイクが全く異なるとか衣装が変わる演技の方向性が違うとかの表面的な変化ではなく、本当に本人のまとっている空気感が変化している。これはもう意図的にやっていることなんでしょうけど、こうしたことを演出としてできるのがインド映画のすごいところだと思います。
 本作は誰が言ったか「森のK.G.F.」。まさにそのとおりで深い森を舞台としてひとり男の成り上がりを描いた作品だったと思います。エンドロール後には続編のアナウンスもありましたが、さて日本での上映は実現するんでしょうか。
 あと警察のガサ入れを知ったプシュパたちが1億ルピー分の紅木を隠してしれっと「今休憩してまーす」みたいな風でお茶飲んでごまかそうとしてるシーン、なんか修学旅行で先生が見回りに来たみたいで笑ってしまった。
 
 次までに間が空くのでマックに突入して実は今まで読んでなかった「月は無慈悲な夜の女王」を読みます。タイトルは有名ですしハインライン作品の代表格のひとつなんですが実は内容に関してはほとんど知らず。これもまた月と地球との間の格差社会を取り扱った作品のようです。
 さて次はこの作品。
 
 
 実在の人物にして、最初に英国軍と戦った偉人である「サイラー・ナラシムハー・レッディ」の生涯と解放闘争を描いた作品。インドの解放闘争の史実を元にした作品なので、いきなりエンドロールの話になりますが、エンドロールには実際にインド解放闘争に奔走してきた実在の人物の名前が多数登場します。その中にはコムラム・ビームの名前も。そういう意味では本作はRRRと深く関係していると言えるでしょう。
 さて本作に関してはやはり山ほど語りたいことがあるんですがなにから書いたものか……。
 まず書くとしたらやはり「戦闘シーンの迫力」ですかね。個人vs個人の戦いから軍隊vs軍隊の戦いと、本作ではさまざまな形、さまざまな規模の戦いが何度も行われますがその迫力が素晴らしい。
 インド側とイギリス側との最初の戦いということでいきなり軍vs軍のような大規模な戦いにはならず、というかできず、領主となったサイラーはまずともに戦ってくれる民衆を集めることになるんですが、その数もやはり最初から何百人も何千人も集まってくるわけではありません。対するイギリス側も、やはり最初から大規模な軍勢を引き作れてくるわけではありません。そのため本作における戦闘シーンは、「生身の人間が顔を突き合わせて戦っている」感が非常に強い。そうした戦闘シーンから伝わってくるのは、抑圧されてきた民衆の怒り。そう、本作ではこの「怒り」が非常に重要なファクターとして組み込まれています。
 冒頭で若きサイラーに導師が語る「怒りを民衆のものとせよ」という言葉はまさにサイラーの引き起こす解放闘争の引き金になりましたし、彼の戦いは常に怒りによって牽引されていたと言えるでしょう。そして本作では、英雄たるサイラーひとりだけでなくこのサイラーの怒りによって導かれる民衆にもしっかりカメラが向けられているのもよかった。そういう意味ではこの物語は「ただひとりの英雄譚」ではなく、「インドという国全体の叛逆の物語」と言えるでしょう。
 特に印象的だったのが、サイラーに想いを寄せる踊り子の女性・ラクシュミ。彼女はサイラーと別れる際に、「お前の踊りの才能は人のためにあるのだ」と諭されます。そして彼女の出番はしばらくないんですが、再び登場した際に「サイラーの解放闘争を歌と踊りで広めている」というポジションになっていて「こう繋がるのか!」と感心しました。これはRRRでも感じたことなんですが、一口に「解放闘争」といってもそれはただ単に武力を持って闘争を行うだけではなく、「文化を持ってして戦うこと」なんですよね。翻って、「闘争に負け支配される」ということは「文化を奪われる」ということにほかならない、という。
 そしてサイラーの幼少期からの婚約者であるシッダンマとの出会い、友情もまた熱い。英国軍に囚われの身になり、最期の舞とともに炎に消えたラクシュミの遺灰を水葬する際に、シッダンマが彼女に「ナラシムハー・レッディ」の姓を贈るシーン、とても好きです。このシーンで感動できたのは、その前に「プシュパ覚醒」を見ていて「インド社会においては夫が妻に姓を贈る」ということを知っていたからこそでしょう。繋がってるんだなあ……。
 また、インド解放闘争という大きな歴史のうねりの中では名もなき一般人でしかない老人・スッバイヤも印象的なキャラクターでした。英国軍の士官に虐げられていた老人が、サイラーの目の前に進み出てて「ご下命を! お導きを!」と叫ぶあのシーン最高です。まさにサイラーの怒りによって導かれたひとりだと言えるでしょう。スッバイヤは残念ながら攻城戦の際に命を落としてしまいますが、その際にも「これこそが望んでいた死だ!」と満ち足りて死んでいき、さらにその名前はサイラーの息子に受け継がれます。
 しかし今この感想ブログを書いていてスッバイヤのことを思い出していたら「つよつよミスミ爺さん」とかいうワードが湧いて出たのが本当にオタクの良くないところだと思います。
 そしてどうしても書いておきたいのがあああ! アヴク・ラージュ!! なんだあの絶滅危惧種となった正統派良質ツンデレは!? 俺をどうする気なの!? 助けてッ!!!
 わたくし人形使いはいわゆるツンデレヒロインが特に好きというわけではありません。しかしこういう方向性のツンデレは久しぶりに飛んできたのでガードする間もなくブッ刺さりました。QTK(急にツンデレが来たので)。
 作劇において伏線が重要なのは言うまでもありません。唐突な超展開や伏線なしの伏線回収は物語の破綻を引き起こします。では伏線とはどういうことかというと、「読者に期待を抱かせる」ということだと言えるでしょう。
 しかるにこのアブク・ラージュというキャラクターはもう言ってることやってること以前に佇まいというかビジュアルの時点でツンデレ臭プンプンなんですよ。この絵ヅラとこの言動でツンデレじゃなかったら詐欺罪が適用されると言っても過言でも華厳でもない。存在そのものがツンデレの伏線と言っていいでしょう。
 そしてこのアヴク・ラージュ、そうした期待通りのツンデレを発揮してくれます。いかにも不本意みたいな顔しつつ協力してくれるしな。さらに中盤で仲間から裏切りを持ちかけられたときに「これは本当に裏切る流れか、それとも……!?」と観客をハラハラさせる流れを入れているのが実にツンデレ巧者。わたくし本作の監督であるラーム・チャラン氏の手のひらの上で良いように転がされています。もはやわたくしの心の中の武器商人アスラム・カーンが「ツンデレを描いたらあなたのような形になる」と称賛してますよ。
 もうこの「裏切りそうで裏切らない」の絶妙なバランス感覚と「長身でけだるげなタレ目で皮肉屋」というキャラ造形がたまらん。助けて。マジでヤバいツボに入った。ツンデレ好きな人はぜひ彼の勇姿を拝んで再起不能になっていただきたい。本作のマサラ上映が実現したら彼の登場シーンで黄色い悲鳴が上がることであろう……。
 などとおかしな方向でも感動させてくれた「サイラー・ナラシムハー・レッディ」、実際の偉人を元にした大河歴史ムービーとしても、一流のエンターテイメント作品としても楽しめる作品でした。
 
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