これから夏休みシーズンに向けて話題作が山ほど公開されていくのでどんどん見ていかないと追いつきません。
というわけで今日見てきたのはこれ!
ジョージ・ミラー御年70歳の狂気の名作「マッドマックス・怒りのデスロード」の待望の続編!
本作は「怒りのデスロード」の前日譚。マックスとともに悪の総統イモータン・ジョーを打ち倒した大隊長フュリオサの過去を描きます。
いやーすごかった……。何がすごいって、「怒りのデスロード」でもそうでしたがここまでアクションアクションまたアクションの連続でよくもまあストーリーを語れるもんだなあという点。
本作の主人公フュリオサは、母を殺された復讐を果たすためにウォーボーイズの中に潜んでおり、女性であることがバレないように口が聞けないように装っています。そのためマックスと同様に極端にセリフが少ないのが大きな特徴。なんなら他の誰かと会話をしているシーン自体が驚くほど少ないんですよね。
にも関わらずストーリーがはっきりしているのは、ひとえにアクションの中にストーリーがしっかり埋め込まれているからだと感じます。今回はフュリオサとともに戦うキャラとして警護隊長ジャックがいますが、それでも本作のカメラはあくまでフュリオサを向いている感じ。では言葉少ない彼女の言葉はどのように表現されているかと言うと、そのアクションなんですよね。ここでいう「アクション」とはいわゆる戦闘シーンだけでなく、それ以外の全ての彼女の行動を指すものとする。
冒頭で幼くしてバイク軍団を率いるリーダー・ディメンタスに捕らわれ、中盤では復讐のためにウォーボーイズの中に男性として潜り込む。フュリオサは本格的な復讐に乗り出すまでは常にそうした抑圧的な立場に置かれています。しかし彼女はどのような苦境にあっても復讐を果たして故郷に戻ることを諦めていません。束ねた髪の中に常に母から預かった桃の種を隠し持ち、常に状況を解決するために行動する。彼女のそうしたアクションが、どんな言葉よりも雄弁にフュリオサの意思を語っていると感じました。
前作「怒りのデスロード」でもマックスは寡黙であまりセリフらしいセリフがないというのは共通しています。また、前述の通り本作も「怒りのデスロード」と同じくド迫力のアクションシーンが最初から最後まで続くのも同じ。
しかし、わたくし人形使いは「怒りのデスロード」と「フュリオサ」ではまったく異なる印象を受けました。
「怒りのデスロード」を「狂騒の追走劇」とするなら「フュリオサ」は「静かなる復讐劇」と言えるでしょう。
そう、これだけアクションシーンの連続でありながら「フュリオサ」の印象は「静」なんですよね。マックスの属性を「むき出しの野性」とするならフュリオサの属性は「静かなる闘志」なんですよね。前述の通りフュリオサは正体を隠すためにほとんどしゃべりません。それだけでなく、ディメンタスにさらわれてからは彼の娘として扱われ、そこを脱してからはウォーボーイズに紛れ込むという「抑圧」「抑制」の状態にあるんですよね。これは前作でも描かれていたキャラクターに対してと言うよりは「女性」という属性に対しての抑圧、抑制、被支配の状態と言えます。しかしフュリオサはそうした状況下でも決して目的と闘志を失わず、静かに「その時」を待っている。
思えば今作は前作と比較すると対象的な部分が多くあります。動と静、男と女だけでなく、集団と個人、個人と家族、開放と抑圧など、さまざまなところに対象構造があると感じました。
中でも、前作における悪役イモータン・ジョーと今作における悪役ディメンタスの対称性は印象的。シタデルを統率しウォーボーイズを従えるまさに「悪のカリスマ」といった趣のイモータン・ジョーに対し、ディメンタスはカリスマという方向性のキャラクターではありません。どちらかというとマイクパフォーマンスや口八丁の狡知で渡り合うタイプの小狡い悪役。さらにはテディベアを肌身はなさず持っていたり古代ローマのチャリオットを真似てかバイクにカーゴを引かせて自身もローマ皇帝のようなコスチュームに身を包んだりといった幼児性や虚栄心が見えるキャラなんですよね。
思うにディメンタスはイモータン・ジョーとはまた違った方向性からフュリオサ=女性を支配しようとする男性性を顕在化させたキャラクターなんじゃないかと思います。もっと言えばフュリオサにとっての「抑圧の擬人化」とも言えるかも。
だからこそディメンタスは最後のフュリオサとの対決の後にああいう決着になったんじゃなかろうか。この辺はまだまだはっきりと意味が読み取れてない感じなので、この初回感想を書いた後にパンフレットなどを読んで理解を深めたいところ。
全体的なエンターテイメント性としては「怒りのデスロード」のほうに軍配が上る感じですが、その前日譚として今作は完璧に近い仕上がりなんじゃないですかね。今作の終わりから前作のスタートまで直結してるので、今作と前作を続けて見ることで完成すると思うのでサンサン劇場でぜひとも連続上映していただきたい。