かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

さすがに起床直後は夢も鮮明に覚えていられます。

2008-08-15 06:10:46 | 夢、易占
 今日はもうこれから即出発なので今のうちにアップしておこうかと思います。
 このところご無沙汰していたのですが、今朝、久しぶりに夢を見ました。

 大勢(ざっと30人くらい?)がざわざわと立ち働いている事務室。私が自分のありきたりな既製品である事務机付近にたたずんでいると、隣の席の同僚のT君(中学時代の友人。今は音信なし)が「あれ、いつ行ってくれる?」 とたずねてきました。私は彼が何を言っているのか、まるで見当がつかなかったので、正直に「何のこと?」とたずねますと、T君は困ったような、怒ったような顔になり、「お前が行くって言うから待ってたやないか。早く持っていってくれないと散ってしまう」と言いつつ、自分の机の前の床に置いてあるバケツを指差しました。そのバケツには、赤やピンクのバラの花が数十本活けられています。花はちょうど満開に開きつつあるところで、バケツからもれたのか、濡れた床に花びらが1,2枚落ちているのも見えました。いまだに何のことかわからない私でしたが、どうも何かのついでに持って行ってやる、と安請けあいしてしまったらしいことは理解しました。「上海の××へ持っていくんだぞ」というT君に、それでも私は、「○○もあるし・・・」(○○は今私が必死に取り組んでいる仕事)と口を濁すと、T君は、恨みがましい目でこちらをにらみ、更に怒りの声を上げようとしたのが判りました。そこで私は、急遽、「わかった。今日行く。今から行くから行ける様に準備してくれ」と、荷造りだけでなく私の渡航の手配もしてくれるように、というつもりで急遽ど忘れしていた約束の履行を宣言したのでした。忙しい毎日ですが、今日だけはある特許出願のための準備で弁理士さんに相談に行く予定しか入っておらず、それも後回しにできるモノだったので、時間の融通がつくのです。T君は判っているのかいないのか、急に口ごもると自分の机に戻っていきました。

 昨夜から「何か忘れている気がする」と気になっていたせいでしょうか。夢の中でも度忘れしている自分が出てきました。でも、夢の中と違って、現実の自分は何を忘れているのか、いまだ思い出す事が出来ません。ひょっとしたら忘れていることなど実は無いのかもしれませんが、気になりだすとどうしようもないですね。
 


 
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今日はとにかく明日の準備です。

2008-08-14 21:39:31 | ドリームハンター麗夢
 昨夜はほとんど意識しないうちに眠りが訪れ、朝までぐっすり寝ることができました。およそ7時間ばかりですが、朝起きたときは、もう2時間ほど寝られたらほぼ完璧だったのに、と言うくらいの眠気が残る程度まで、回復しておりました。こういう眠りが得られるのなら、たまの寝不足も悪くないように思えたりするのがまた困ったものですが、今日は果たしてすんなり眠ることができるでしょうか。

 さて、今日は仕事もそこそこに、明日からの上京準備にいそしみました。切符の手配、お金の準備、それに荷造りです。
 移動手段は、ダイ奮発して往復とも新幹線を選択しました。夏休みシーズンに青春18切符を使わないなんて何十年ぶりだろう? というくらい、この時期の旅行は東海道線10時間列車の旅が当たり前になっていたのですが、体調がようやく快復期に入ってまだ心もとないこと、それとこの2,3年とみに目立ち始めた東海道線の混雑、更に所用があって特に帰りは急ぐ必要があったこと、などなど諸般の事情が重なり、そういう選択になりました。まあそろそろ体力的にも限界が近い気もしますし、またいずれ違う機会にのんびり旅は楽しむことにして、今回はとにかくお金より時間を惜しむことにしたのです。

 それと、久しぶりに自分の同人誌などの荷造りを、この時期にやりました。といっても夏コミにサークル参加するわけじゃなくて、委託を受けていただけるサークル様がいらっしゃったからです。
 3日目、L-05b「とらぶるサム」様になります。まあ手持ち在庫は僅少で、各3~5部くらいです。中には、2年前、麗夢ファンの皆様の協力を頂いたCD付記念誌とか、昨年関西の麗夢ファンの力をあわせ製作した「麗夢ちゃんタロット」カードセットとか、自分で言うのもなんですが、麗夢ファンなら一つは持っていたいと思える力作も持っていきます。増産できればいいんですが、印刷から製本まで全部自分で手作りしてますので、残念ながらそこまではできませんでした。多分これからもめったなことでは増刷はしないと思いますので、もし3日目国際展示場までいらっしゃる方で麗夢ファンの魂の結晶や私の拙作に興味を持っていただける方がおられましたなら、是非お立ち寄りください。私もなるだけ時間を工面して、午後には会場まで行くようにしたいと思っています。
 
 ・・・それにしても、いつも遠出するときは何か忘れているような気がしてならないのですが、これはどういったものなのでしょうね。それも今回は単なる不安というものではなく、荷作り中に、「あ、あれもしておかなくっちゃ」と一瞬だけ意識したことだけを覚えている、という難儀なていたらくで、どうしても何をしておかなくてはならないのか、が思い出せないで入るのです。さて、はたして明日朝までに思い出せるでしょうか(苦笑)?


 
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なぜ夜なのに目が冴えて寝られなくなったりするのでしょうね。

2008-08-13 22:24:05 | Weblog
 夕立3日ということで、今日は大分警戒しているはずだったのですが、正直、そんなことはどうでもよくて、タダひたすら一日の無事すぎるのを祈るばかりな今日でした。どういうわけか昨夜全く眠ることができず、時折うとうととするだけで、夜を明かしてしまいました。昨夜は暑い寝苦しい夜だったのは確かですが、それでももっと暑くて困った夜は今年だけでも片手では足りないくらいありましたし、これくらいの暑さで眠れなくなるとは思えません。でも、とにかく目は冴える、頭の中ではとりとめもないことを色々と考えてしまう、そんな中、もう何度寝返りを打ったか数える気にもなりませんが、やっと、寝た、といえるのは新聞屋さんが朝刊を玄関に放り込んで行った4時過ぎのことでした。それでも5時には一度目を覚まし、また寝転がって、6時過ぎの目覚ましに、今度は逆に身体が起き上がらないという難儀な状態。もう完全な寝不足で、本当にこれで出勤できるのか、危ぶんだ位でした。
 それでも昼間は何とか踏ん張って、昼休み、少しまどろんだほかは当たり前ですがちゃんと起きて仕事しましたし、往復の通勤もそれ程危ないこともなく、無難にこなしました。その分、今相当に眠いのですが、それでもまだ日記を書く間くらいは頭がしゃんとしていられるだろう、位の見込みは立つくらいの眠気です。
 1年のうちには、こんな風に眠気そのものがどこかに行ってしまう日がたまにはありますが、これは一種の躁病状態なんでしょうね。心が暴走しているものの、身体の方はついていけなくて、今回の場合少し夏風邪が悪化したような気もいたします。今宵は早々に寝て、週末に備えなければなりません。

 そういえば週末は雨だそうですね。聞くところによると秋雨前線による雨なのだとか。夏コミは必ず晴れる、という伝説も最近では色あせた感がありますが、できれば土曜日はなるべく降らないでほしいものです。今年は仕事でたまたま同じ時期に上京するので、仕事の傍ら時間が許す限りコミケ関連も久々に楽しんでみようかと考えておりますが、足元不如意では有明まで足を運ぶのも億劫になります。まあカンカン照りで熱射病寸前になるよりはマシかもしれませんが。

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「夕立3日」を迎えれば、そろそろ夏も盛りを過ぎますね。

2008-08-12 22:16:00 | Weblog
 昨日は間一髪で夕立を回避できました。今朝聞いてみましたら、私が職場を出た直後に猛然と降ってきて、わずか20分ばかりの間に30ミリというすごい雨になったそうです。本当に危ないところでした。
 しかし、今日は残念ながら逃れることができませんでした。もっとも、帰宅予定時間にはすでに大粒の雨が地面を叩いておりましたので、途中で降られてずぶぬれになる、という最悪の結果は免れたのですが。
 それにしても、久々に見る夕立雨はなかなかに迫力があります。風をまき、地面をえぐらんばかりに降り注ぐ大粒の雨と、時折天を白く染め、腹に響く轟音を奏でる雷。先日、米子道で出会ったときは車で走っている最中でしたし、エンジン音や車を打つ雨の音にまぎれて雷の音はあまり聞こえませんでしたから、やはりこういうのはしっかりした屋根のあるところで、お茶でも飲みながら眺めるのがよいと思います。
 ところで、世に夕立3日、というそうですので、多分明日も昨日や今日と同じく、お天気とデットヒートを繰り広げることになりそうです。

 さて、今日、ふと気づいてみると、この夏初めてミンミンゼミの鳴いているのを聞きました。多分それ以前から耳には入っていたんじゃないか、という気もしないでもないのですが、はっきり意識して、「あ、ミンミンゼミだ」と思ったのは、今日が初めてです。真夏の昼下がりを代表する小うるさい鳴き声ではありますが、今年はなんとなく蝉の声が元気ないように感じておりましたので、ちょっと安心しました。もう少し、お盆前後くらいから今度はツクツクホウシが鳴き出すことでしょう。あの独特の喧騒が耳に届くようになれば、夏もそろそろ終わり、というのを意識させられることでしょう。
 というわけで、たまたま見つけた蝉の抜け殻です。蛇の抜け殻は財布に入れると金運をもたらすそうですが、蝉ではそんな話を聞きません。あまりに立体的でもろいものですから財布などにはもちろん入れることはできませんが、これだけ精密に綺麗な抜け殻なら、何かご利益があってもよさそうに感じてしまいました。



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使いたい気持ちはわからないでもないですが、「やかましい」消費者は、ちょっと口が滑りすぎですね。

2008-08-11 21:46:35 | Weblog
 今日の帰りは間一髪でした。
 仕事が一通り終わったところで窓の外を見ると、やたら怪しげな黒雲が沸き立ち、職場の庭に設置してある風速計が俄然張り切って高速回転を始め、風が強くなってきたのが見えました。更によく見ると、向かいの山の向こうが妙に白くかすんで見えます。これはヤバイな~、と感じたのでとるものもとりあえず帰る事にしたのですが、ぽつり、ぽつり、と大粒の雨が落ちてきて、程よく焼けたアスファルトに水をまいたときの、一種金属臭を感じさせる夏ならではのにおいが鼻をつきました。後はほんの数百メートルくらいと思われる白いもやの壁、すなわち向こう側も見えないほどの土砂降りに追いつかれないよう祈りながら、明るい空が見えるほうへ向かってバイクを走らせました。幸い帰路はこの大雨の外べりをなぞるようなルートだったおかげでほとんど濡れることなく帰宅できましたが、多分職場周辺はあれから程なく雨の中に取り込まれたことでしょう。小さな決断でしたが、とっとと帰る事にしたのは正解でした。
 風邪の方は何とか小康状態を保ち、少なくとも頭痛はほとんど感じなくなりました。多分冷たいものを摂り過ぎたりして身体が冷えたのでしょう。職場では余程肉体労働で消耗したりしない限り、普段は夏でも熱い淹れたてのお茶しか飲まないようにしており、空調もそれ程きつくはかけないので、身体が冷える心配はありません。このまましっかり直して、東京に出発したいですね。

 さて、日曜日のテレビ番組で「消費者がやかましい」と現内閣の農林水産大臣がのたまったとのことですが、表現は大変遺憾に思われるところではありますが、「やかましい」というか、「注文が多い」というか、「厳しい」、なんていう点は、恐らく間違いないだろうと思えます。とかく不安に駆られてゼロリスクを求め、農薬をむやみに毛嫌いし、添加物の少ないものを求めるくせに安いものを欲しがる、その割りに賞味期限表示などに囚われ、自分の五感で食品の消費期限の見極めがつけられない、そんな消費者だとしたら、これはやはり「やかましい」と言ってもよさそうに思えます。農相の感覚も、そんな消費者像が頭にあったのかもしれません。
 そういえば少し前に「たかじんのそこまで言って委員会」で出ていたゲストが、「農家は自分ちで食べる野菜には農薬をかけないが出荷する方には農薬をかけている」てな話をして、あたかも農薬をかけていないほうが安全で上等なように話をしておりましたが、その無農薬野菜に虫や病気がついていたとしたら果たしてより「安全」といえるかどうかは怪しくなってきます。農家は農業を生業にする方々ではありますが、その全てについて精通しているわけではなく、農薬などに対する知識も、一般消費者の方とそれ程変わりません。もちろん虫や病気に効くかどうか、という効果の面ではプロですからそれなりにご存知ですが、原体の化学物質のこととか、その安全性評価のこととかは普通は知らないで使っているものです。定められた用法の通り濃度、散布回数、散布時期等を正しく守れば安全基準が満たされる、ということを知っていれば、使う上で何の問題もありません。ですから農家の方にとっても、一般消費者同様農薬は得体の知れない何か危なっかしいもの、という印象をもたれており、自分ちのにはかけない、なんていう行動に出たりするのです。その辺の事情も理解した上でないと、食糧生産の専門家たる農家は自分の口に入るものには農薬を使わない、ということだけをことさら強調してみても、あまり意味のあることにはならないと私には感じられます。
 
 まあでも、「やかましい」という語句の選択はやはり無いでしょうね。「うるさい」だったら若干肯定的な意味で使う場面もありますから、こちらにしておけば釈明も楽にできたんではないか、と私は思います。

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新作短編 その11

2008-08-10 19:44:55 | 麗夢小説 短編集
 昨日は夕方以降涼しかっただけに、今日の昼間の暑さはなかなかに堪えました。頭痛も引かないどころか少しきつくなっているみたいですし、とりあえず風邪薬を飲んで様子を見ています。夏風邪ならまだマシなのですが、ひょっとしてもう少し困った病気だったりしたら厄介なことです。せめてあと1週間、もって欲しいですね。

 さて、週間恒例となりました小説の更新です。ようやくここまでたどり着きました。次はいよいよ、というところでしょうか。ただ、来週は所用で東京にいるので更新可能かどうか少々危ぶまれるところではあります。なるべく途切れないように努力はしてみるつもりですので、もし更新できなかったときはごめんなさい。
 それでは、いきます。

------------------------本文----------------------------

 円光の背中越しに、先頭を行くアルファ、ベータの姿が木立や下草の間に見え隠れする。時折止まってこちらを見上げるのは、ちゃんと付いてきているかどうかを確かめるためだろう。勾配はそれ程のものではなく、何とか革靴でも滑らないで歩けるが、もともと獣道ですら無いところを強引に割り進んでいるため、灌木の根や露出した岩が所狭しと散らばり、歩きにくいことこの上ない。円光が錫杖を振り上げ、自分の身体をブルドーザー代わりにして行く手を文字通り切り開いてくれるので、辛うじて榊もその後に続くことができたが、それでも顔の前を塞ぐ小枝や足元の草までは手が届かないと見えて、それは榊が自ら注意して曲げるなり、折るなりして道を付けねばならなかった。特に一度払った小枝が鞭のようにしなり返って後続する鬼童を打ち据えた後は、その恨みがましい非難の声を聞かなくて済むように、入念に排除するよう注意している。そんな状況で一歩一歩進んでいくために、歩みは遅々として進まず、榊は自然額に浮き出た汗を袖で拭った。本州最北端の山中とは言え、真夏の午後遅く、蝉時雨がうるさいくらいに辺りを満たす中、既に背中も水を浴びたようになって、ワイシャツが肌にへばりつくのが気持ち悪い。振り返ると、最初こそ後ろの麗夢を気遣い、時折軽口を飛ばしていた鬼童が、顔中汗塗れになってぜいぜい荒い息を立てながら心持ちこわばった笑みを浮かべている。その長身に最後尾の麗夢の姿が隠れているが、鬼童が左右に身を揺らすたび、豊かに揺れる髪や赤いミニスカートの端がちらついて、何とか麗夢が付いてきているのが見えた。
 谷川の流れる水音が耳に届き始めた頃、また目の前でアルファとベータが大きく右に進路を変えた。それを追って円光が続き、更に榊が右に折れる。左手、木立の中に見え隠れするのは、ほぼ垂直に切り立った崖である。岩肌が露出し、蔓性の雑草が垂れ下がるそれは、およそ3m程の高さだった。まあこれくらいなら落ちても捻挫くらいで済むかも知れないが、念のため榊は後ろの鬼童、麗夢に声をかけた。
「気を付けて。崖だ」
 余り余裕も乏しくなってきたのか、鬼童が硬い表情で辛うじて頷き、後ろの麗夢に振り返る。この山は、こうしたざっくり斜面をえぐり取ったような崖があちこちにある。ほんの1m位の高さのものから数mはある大きなものまで、大小さまざまに口を開け、一行の行く手を遮っていた。これ位なら、榊なら多少無理をすればなんとか降りられないこともないが、鬼童、あるいは麗夢にはかなり厳しい事になるだろう。第一、こんなところで無理をして怪我でもしたら元も子もない。アルファ、ベータ、それに円光も、それを十分承知の上で、少しでも降りやすいところを選んでいるはずだ。
 やがて、アルファ、ベータが崖を大きく迂回して再び針路を修正した。枝越しに、円光が左に回っていくのが見える。榊は無造作にその枝を払いのけ、前に進もうとして自らの失態に気が付いた。
「しまった!」
 タイミングが悪かった。恐らく前を向いていれば、既に一度洗礼を受けた鬼童なら、榊が曲げて避けた枝のしなりを見逃しはしなかっただろう。だが、榊が振り返った瞬間、ぱしっと肌を打つ音と共に、麗夢の方から前方に振り向きつつあった鬼童ののけぞる姿が見えた。そのまま、あろう事か鬼童の長身がバランスを崩し、崖の方へ傾いていく。
「危ない!」
 榊が救いの手を伸ばすよりも早く、最後尾の麗夢が鬼童の身体に抱き付いた。だが、麗夢では鬼童の身体を支えるには非力に過ぎた。更に足元がお世辞も安定しているとは言えない。鬼童の手が今自分の顔面を打ち据えた枝を握ろうと虚しく宙を掻いたのを最後に、二人の身体がひとかたまりになって、崖下目がけて倒れ込んだ。
「くっ!」
 麗夢に一瞬遅れて、榊が鬼童の腕を掴んだ。まさに間一髪、今にも崖に落ち込みそうになっていた鬼童の身体がその場に四つんばいでへたり込み、榊も勢い余って尻餅をついた。しかし・・・。
「麗夢さん!」
 さっきまで、鬼童の腰にしがみついていた麗夢の姿が、忽然と、消えた。
「麗夢殿!」
「麗夢さん!」
 慌てて引き返した円光が、消えた麗夢を求めて崖を見下ろし、我に返った鬼童も、手をついたまま崖を覗き込む。だが、二人の視界にも、あの赤いミニスカートや紫の短いマントは無かった。
「麗夢殿ぉっ!」 
 円光が叫びつつ、崖下に飛び降りる。高さ3m位なら、円光にとってはさしたる障碍にはなり得ない。榊、鬼童も大急ぎで立ち上がり、アルファ、ベータと共に崖を迂回して下に降りた。
「麗夢殿! どこだ!」
 がさがさとやぶを分ける円光の声が聞こえる中、榊等もやぶに飛び込んで落ちたはずの麗夢の姿を追い求めた。
「麗夢さん! 大丈夫か! 麗夢さん!」
「麗夢さん! 返事をして下さい!」
 しかし、アルファ、ベータが悲しげに一声鳴いたとき、円光もまた、困惑と焦慮に端正な顔を歪ませて榊等に言った。
「麗夢殿の気配が消えた」
「何だって?」
 榊があまりの驚愕に思わず聞き返していた。鬼童もさすがに顔面蒼白で目を剥いている。円光は、アルファ、ベータに振り返ると、改めて沈痛な面もちで二人に言った。
「拙僧にも、アルファ、ベータにも、麗夢殿の気が感じられない」
「な、そんな馬鹿な! 一体麗夢さんはどこへ!」
 なおも信じがたいと声を荒げる榊を遮り、鬼童が言った。
「ひょっとして、麗夢さんも朝倉さんと同様、夢の狭間に落ち込んだのかも」
「うむ、拙僧もそう思う。だが、それならそれで邪気の流れ位は感じ取れそうなものなのに、まるで気配を感じない」
「にゃーん」
「きゅーん」
 アルファ、ベータも、忽然と消えた主にべそをかいている。この二匹は普段から麗夢と強い精神的なつながりを持ち、その動向を互いに感知できる間なのだが、その力を持ってしても今、麗夢がどうやって消え、どこにいるのかを知ることはできなかった。
「仕方ない。先へ進もう」
 榊はようやく自分を取り戻すと、皆に呼びかけた。
「アルファ、ベータ、それに円光さんでさえ感知できないとあれば、今ここでこうしていても我々には何もできない。それよりは朝倉さんの身柄を確保しよう。相手が朝倉さんを夢の狭間に捕らえようとしているのだとしたら、麗夢さんもその場所に現れないとも限らないだろう」
「うむ、榊殿のおっしゃるとおりだ。アルファ、ベータ、麗夢殿ならまず案じる事はない。先を急ごう」
「朝倉さんなら、もう少しですよ」
 鬼童が再び端末をとりだしてその反応を二人に告げた。アルファ、ベータも気を取り直して立ち上がる。
「よし、行こう!」
 榊の号令で、一人欠けた一堂は、再び道無き山道に分け入った。
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五輪厳戒中の北京で外国人が殺されるなんて、何とも不安を掻き立てられる事件です。

2008-08-09 23:06:14 | Weblog
 今日は朝から軽い頭痛が抜けず、やたら暑苦しいのと合わさってただひたすらごろごろと時を無駄に過ごしておりました。ひょっとしたら風邪を引いて微熱でもあったのかもしれませんが、一昨日の疲れが出てきていることも考えられますので、一応風邪薬を飲んでさっさと寝ようと思います。今日は午後6時ごろ、ドン!ドン! と散発的に太鼓を叩くような音が聞こえて、一体近くで祭りでもあっただろうか、などと思っておりましたら、夕立が降って、太鼓の音と思ったものは雷鳴でした。近辺に2,3発落ちるほどのこの夏初めて、と言っても過言ではない激しい雷雨です。おかげさまで一気に気温が下がりましたので、今夜はゆっくりじっくり眠ることができそうです。

 さて、何とか無事開幕した北京五輪ですが、早くもほころびが現れたのかもしれない、と予感させる事件が起こりました。五輪開催で厳戒態勢が敷かれているはずの北京で、9日正午、凶器を持った中国人の男が、米国人の男女の旅行者や中国人の女性ガイド3人を襲撃し、米国人男性1人が死亡、女性2人が負傷したとのことです。犯人の男は自殺したそうですが、この行為が共産党政権に対する抗議とかアメリカに対する報復などの何らかの政治的背景を持つテロ行為なのか、それとも何か個人的な怨恨に基づくものなのか、あるいは衝動的な無差別殺人なのか、犯人が自殺してしまってはその真相を明らかにするのは難しいかもしれませんが、犯人の動機次第では今世界的な注目を集める北京は、たちまち危険な街になってしまうかもしれません。それで万一五輪がどうなろうと、個人的にはそう大した感慨もありませんが、我が国の同胞が傷ついたり死んだりするような事態だけは、起こって欲しくないものです。
 一方でグルジアでの『戦争』は、現場がいまだ混乱したままなのか、情勢がもう一つ混沌としてよく判らないまま、拡大の一途をたどっているみたいに見えます。その影響が今後どう世界に波及するのかあるいはしないのか、政府やマスコミには是非一がんばりして、情報収集と分析、その公開にいそしんでいただきたいところです。
 
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山陰路の記録

2008-08-08 22:43:22 | Weblog
 今日は一日ぐったり、というわけにも行かず、明日の休みを心の支えにして、何とか昼は乗り切りました。もっとも、最近年がいったせいか疲れや足腰の張りが翌々日以降に現れる傾向があるので、明日こそ疲労のピークを迎えるのかもしれません。とりあえずのんびり休んで、来週末の東京遠征に向け体調を整えて参りましょう。
 さて、今日はついに五輪が開催されたり、中国国家品質監督検査検疫総局の食品生産監督管理局局長42歳が自殺したり、東京都心でこの夏初めての猛暑日を観測したり、などなどと色々ニュースがありましたが、帰宅後はそんな世間の喧騒には目もくれず、随分遅れてしまった「仕事」を一つようやく片付け、昨日、一昨日の写真を整理して過ごしました。せっかく一応整理したので、何枚かここにアップして保存しておこうと思います。


まずは鳥取砂丘。エンエン続く砂の山をひたすら歩くと、日本海にたどり着きます。



この日は風が結構あって、ヒトが行き交い散々踏み荒らされたところでも、少し時間が立つと風紋が出来てました。
とにかく細かい砂が舞っていたのでカメラなどは正直ちと心配でしたが、中には堂々携帯電話で話しながら歩いているヒトもいて、勇気あるというか怖いもの知らずというか。


ようやくたどり着いた海岸。波は比較的穏やかで、時折波高5、60センチくらいのが押し寄せてくるくらい。波打ち際でしばしその感触を楽しみましたが、膝まで捲り上げていたズボンが油断したとたんびしょぬれになることも。



宿泊地の東郷湖。湖の中から温泉が湧くのだそうですが、見た目普通の湖、というか池という方がしっくりくるこじんまりした水溜りです。


その湖畔にある東郷温泉。まさに昔ながらの温泉街という感じの駅前通りです。
このあたりは、少しはなれたところに羽合温泉があったり、実にたくさんの温泉があります。


 湖のそばに公園があり、足湯が楽しめるように作ってありました。右側の石で囲ってあるところが足湯。深さ30センチくらいの少し熱めのお湯がかけ流しで張られています。中央左の四角い井戸枠みたいなのは源泉で、近づくと独特のにおいのする湯気が立ち、ごぼごぼとあふれる音がします。温度は85~94℃と温泉の中ではかなりの高温です。卵を持ってきてこの中に網でつるすと、温泉卵が出来るのだそうです。




お宿の旅館「澤の湯」。これも見るからに古い昔ながらの旅館ですが、綺麗に使い込まれている感じの建物で、結構こういう雰囲気は好きだったりします。源泉かけ流し、24時間入浴可能な本物の温泉でしたし。お湯はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉、若干のラジウムも含まれているとの事。



その「澤の湯」の晩御飯。一泊2食付5500円とかなり安いサービス料金でしたが、十分なボリュームと内容でした。カニが付くのはやはり山陰ならではなんでしょうね。



 今回山陰路を走って驚いたのが、結構道路の整備が進んでいたことです。昨年来たときには無かった自動車専用道や高速道路が開通していました。高速道路はまだところどころしか供用されていないので無料で走ることができ、お得な気分を味わえましたし、鳥取-出雲間の移動は格段にスムーズになりました。
 その道沿いあちこちに風力発電の巨大な風車が立ち並んでいましたが、道路を作るついでに作ったのでしょうか?



さて、また山陰へ旅する機会があるでしょうか? そうなればまた一段と走りやすくなっているだろうと思いますが。


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車での移動は、なかなか予測通りというわけには行かないみたいです。

2008-08-07 23:21:52 | Weblog
 ようやく帰ってきました。出雲大社からほとんど休みなしで走り続け、さすがにへばりました。本来ならもう1,2時間は早く帰宅できる予定だったのですが、途中米子道では、雷を伴った、ワイパーも効かないほどの凄まじい豪雨に行く手を阻まれ、中国道では、事故だの故障だのといったはた迷惑な車のせいでひどい渋滞に巻き込まれ、心身とも疲れ果てました。
 そもそも昨夜、枕が替わったせいなのか、久しぶりにおいしい夕食をたらふく食べて身体がびっくりしたのか、思うように寝ることが出来ず、温泉で疲れを癒してこのところの慢性睡眠不足を解消するつもりが、かえって寝不足に輪をかけるような有様でした。その上今日の出雲地方はとにかく暑く、なけなしの体力が強烈な日射に目に見えて蒸発するかのごとく失われる中、水分補給だけは不足しないよう心がけて、なんとかしのぎきりました。
 それにしても、なんでけして涼しいとはいえない山陰地方に思い立ったかのごとく旅行に出たのかというと、この8月1日(金)から8月17日(日)の間、『平成の大遷宮』というおよそ60年に一度の一大神事に際し、出雲大社の御本殿を特別に拝観させてもらえるという機会があったためです。普段は足を踏み入れることの出来ない禁足地を垣間見るチャンスを是非ものにしたい、という望みがあったからでした。まあ大変な難行苦行ではありましたが、秘画とされる八雲の天井画などを観ることができ、その300年近い年月を経ながらまるで色あせた様子の無い鮮やかな色彩に素朴な感動を抱くことが出来ました。60年に一度、ですから、多分私はもう生涯のうちでこれを再び目にすることは適わないでしょう。そう意識するといっそうこの一期一会の偶然に、色々な想いが去来いたします。
 まあ何はともあれ、今日のところは無事帰宅できたことを喜びつつ、さすがにバテバテの身体を休め、明日に備えたいと思います。
 写真もいくつか撮影してきましたが、整理は明日以降にして、公開できそうなものは順次アップして参りましょう。


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夏休みで山陰路へ

2008-08-06 21:20:35 | Weblog
今日は家人に付き合い、夏の有給休暇をとって山陰にドライブに来ております。初日は観光で鳥取砂丘へ行き、おりからの強風に砂が舞う中、膨大な砂の山を乗り越えて日本海の波で足を洗い、夜は車で30分程西に走った所にある東郷温泉の、文字通り鄙びた温泉旅館に投宿しました。
明日は更に西へ足を延ばし、出雲大社に参拝し、出雲蕎麦を食して帰る予定です。
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久々の雨中走行に心身とも涼みましたが、世の中は肝ばかり冷える話がたくさんあるようです。

2008-08-05 22:16:40 | Weblog
 今日は昼間大変蒸し暑い一日でしたが、お昼過ぎからやたらと色の濃い雲が天の一角を占めはじめ、3時ごろにはぱらぱらと雨の降り出すところも見受けられました。そのときはそれ程降らなかったのですが、仕事を終えてさあ帰ろう、という時分から更に天気は怪しさを増し、職場付近こそ雨は上がっていたものの、これから帰る行く手には、更に濃色を増した暗い雲が頭の上から押さえつけるようにして天を覆い、その一部がまるで巨人が足を下ろしているかのように、葛城山のふもとへ白くけぶる柱がたっているのが遠望できました。遠くから見てそんな状況なのですから、間違いなく雨が、それも相当ひどい降り方で降っているのは確実です。仕方ないので合羽を着て走りましたが、雨に遭うまでの蒸し暑いことといったら、まさにサウナ状態。しばらく行ってようやく夕立雨の中に飛び込んだときは、正直ほっとしました。
 でも、これで涼しくなって良かった、と喜んでばかりも入られないようです。関東ではまた凄まじいまでの雨が降ったそうですが、その影響なのか、東京足立区で道路が陥没、縦横5m、深さ6mの穴になり、通りかかったバイクが転落したのだそうです。運転していた36歳の男性は骨盤を骨折したらしいですが、何ともぞっとさせられる話です。
 ぞっとする、といえばビックサイトであったエスカレーターの逆走事故。コミケでは皆誘導に従い一段に2人ずつ行儀よく乗って、これまでついぞ事故などなかったのではないか、と思うのですが、この事故の時は3人も4人も乗っていたとの話も聞きます。世間からすればワンフェスもコミケも恐らく百把一からげな対象なのでしょうから、つまらないマスコミ取材などが増えたり、当局の目が一段と厳しくなったりなんていうようなことにならないか、と、今年はどうやら久々に会場にいけるかもしれない、という境遇の身としては、少々心配しております。
 もう一つ気になるニュースで、アイスティーは40歳以上の男性の腎結石のリスクを
高める、という話です。なんでもアイスティーには腎結石を形成する主要な化学物質であるシュウ酸塩が大量に含まれている一方で、健康的な飲み物として認知されているため夏の暑いときに大量摂取されやすく、それが結石を誘発するのだそうです。リスクを低くするには、結石の成長を阻害するクエン酸を多量に含むレモネードやレモン果汁を加えた水を摂取するのがよいとのことです。私はコーヒーが嫌いなので喫茶店では大抵紅茶、それもストレートで飲むことが多いのですが、そろそろ年もいってきた体のことを思えば、少しは飲み食いするものにも気を使うべき頃合なのかもしれません。

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とりあえず壊したやつの代わりを入手しました。

2008-08-04 20:04:30 | Weblog
 前に液晶画面を踏み割ってしまった携帯型デジタルプレーヤーの代わりを物色していたのですが、このたび、ようやく満足のいく機能を有する一台を入手しました。



 シーグランドという、昨年春に倒産したメーカーの、XS701という機種です。
 ネット・オークションで手に入れました。
 会社はすでに倒産しているのでサポートなどは全く期待できないわけですが、とりあえず安かったのと、単4電池で駆動可能、本体メモリ512MB、SDメモリカード2GBまで認識可能、と、前に壊したサンディスクのe130とほぼ同じ内容なのが気に入りました。唯一エネループでちゃんと動くかどうかが一番不安でしたが、今のところは問題なく動いております。最終的に電池のもち具合はもう少し聴かないと判りませんが、バッテリー残量表示の様子を見る限り、なんとなくそこそこいけそうです。音質もまあまあなので、これで電池のもちがよければ、壊した前のやつの代替には十分でしょう。
 落札する前に検索してみると、どうやら安いなりの弱点というか、スイッチ部分の半田の状態が今ひとつで、メニューボタンなどが動かなくなることがあるらしい、との話を拾いました。ぱっと見ねじらしいものが見えず、どうもはめ込み式の筐体に見えるのですが、いずれそのうちに分解方法を調べてバラし、中身の状態を点検して見ようと思います。場合によってはそのときにちょっと手を加えることになるかもしれません。
 FMラジオや録音機能やスピ-カ-も内蔵しているというちと欲張りすぎな気もする機械ですが、とりあえず、日常的な音楽のある生活に役立ってくれればそれで十分なので、しばらく様子を見ながら使ってみるつもりです。とりあえずは、再来週の東征に役立ってくれればありがたいですが、それは電池のもち次第ですね。

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新作短編 その10

2008-08-03 12:52:50 | 麗夢小説 短編集
 今日は朝から熱気がこもるかのような、昨日に輪をかけた暑さになっています。一年で一番暑い頃合な訳ですから当然といえば当然なわけですが、さすがにこう暑いと思考力も何も明らかに衰えてしまっているのが自覚されます。このままでは、いつもどおり昼下がりから夜にかけて更新をかけようとしても支離滅裂な話になりかねないので、今日はまだしも頭の回る朝から今日の連載分を綴ってみました。多分内容破綻はしていないとは思いますが、来週読み返して、さてこれでどう次につなげよう? と悩みを深めるようなことになっていないか、と少々心配ではあります。まあ前置きはこれくらいにして、PCが熱暴走する前にアップを片付けるといたしましょう。

---------------------本文-------------------------

 程なく車は、「賽の河原」と看板の立った所まで戻ってきた。青森市からの一本道で、さっきの「中の森」同様、駐車スペースなどはない。榊はなるべく車を端に寄せて停めたが、上下線から同時に複数の車がやってきたら少々困ることになるだろう。だが、今、車を降りて円光の指差す先を見下ろした榊には、車道の通行を気にする余裕は消し飛んでいた。
「本当にこんな先に彼がいるのかね?」
 榊が躊躇うのも無理はなかった。円光が指差すその「道」は、到底道とは言い難い、灌木生い茂る「崖」であった。もちろん車では行けないし、徒歩でも果たして無事歩いて降りられるかどうか判らない。そんな榊の躊躇いに気づかないのか、円光は平然と言った。
「この下に駒込川が流れており申す。その流れまで降り、川に沿って行くと大滝平というところに出る。恐らく朝倉殿は、そのあたりにいるはず」
「円光さんの言う通りです。今さっき発信機が反応を返してきたんですが、やはり彼がその大滝平付近にいることを示していますよ」
「じゃあ行きましょう!」
 麗夢が決然として言い放つと、早速アルファ、ベータが灌木の中に駆け込んだ。
「ま、待ってください! 麗夢さん、その格好でこの中を突っ切るお積もりですか?」
 麗夢はトレードマークとも言うべきいつものミニスカート姿だった。町中ならともかく、大胆にふくらはぎから太股までが露出したその姿は、とても山の中に分け入る格好とは思えない。榊が慌てて制止すると、アルファ、ベータが立ち止まって振り返り、円光と鬼童は口々に麗夢に言った。
「麗夢殿はしばしここで待たれよ。拙僧が行って朝倉殿を連れて参る」
「そうですよ麗夢さん。そんな格好で下までおりようとしたら、足が傷だらけになってしまいますよ」
 しかし麗夢は、心配は無用と言い切った。
「でも、ここまで来たら下に何があるか判らないわ。何だか、とってもイヤな予感がするの」
「それ故拙僧が・・・」
「私もいきます!」
 麗夢ははっきり宣言すると、率先して先を行くアルファ、ベータの後を追って崖に向かった。さすがにこうなってはその足をとどめるわけにも行かない。円光は鬼童、榊と目配せすると、一向に告げた。
「では拙僧が先頭を引き受け道を開きましょう。その後を榊殿、鬼童殿が続き、麗夢殿は一番最後に我々が開いた道をお伝いなされ」
「判ったわ」
「恐らく上から見ただけでは判らない崖などもあるはず。アルファ、ベータ、先導を頼むぞ」
「ニャン!」
「ワンワン!」
 円光の言葉に、アルファ、ベータも喜び勇んで再び鼻面を崖に向けた。
「では参ろう」
「お、おう!」
 円光のかけ声に、榊が緊張の面もちで返事する。鬼童は後ろを振り返ると、笑顔で声をかけた。
「麗夢さん、足元にはくれぐれも気を付けて」
「鬼童さんこそ、はぐれないように気を付けなくちゃ」
 円光は修行僧として道無き野山を駆け回るのに慣れている。榊も基本的に肉体派の、足で稼ぐタイプの警察官だ。対して鬼童は、あまり運動が得意そうには見えない上、普段のスーツ姿に革靴といういでたちでは、円光、榊の背中を追いかけるだけでも大変だろう。鬼童はそんな麗夢の気遣いに苦笑いして前を向き、今にも灌木の中に消える二人のがっしりした背中を追いかけた。麗夢も「よしっ」と気合を入れると、鬼童の後を追って、3人の男によって啓開された道無き道に踏み込んだ。普段履きの赤い靴底が、水平のアスファルトから突然変じた急傾斜の土と石にたちまち不安定に滑った。麗夢は行く手を遮る灌木の幹に手をかけて今にも転げ落ちそうな身体を支えながら、見え隠れする3人の姿を必死で追った。追いながらも頭をよぎるのは、朝倉を次々とかつての青森第5連隊の遭難通りにつれ回す、未知なる相手の存在であった。
(誰が朝倉さんをこんな所まで誘いだしたのかしら。全然そんなそぶりも見えなかったのに、一体何故そんなことを・・・)
 麗夢は事の初めから何となく感じていた不安が、とうとう現実に形となって現れたことに舌打ちを禁じ得なかった。どうして事ここに至るまでにはっきりと感じ取ることができなかったのか。いや、今この段階に来ても、実際には相手の正体や目的はおろか、その存在の気配すら探知することがかなわないでいるのだ。これまで数多の夢魔や人外の者共を相手に戦ってきた麗夢だったが、ここまで相手の存在感が希薄な事例はおよそ記憶にない初めての経験であった。余程気配を隠すのがうまいのか、あるいは遠隔操作などの能力に長けているのか。いずれにしても、一筋縄でいく相手でないことだけは確かである。
(とにかく気を引き締めてかからないと)
 灌木生い茂る崖はどこまでも深く、麗夢達を地獄の底まで誘うように、不気味な静けさのうちに一行を呑み込んでいった。
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火星の生命の話と水よりお湯の方が早く凍る話。どちらも専門家による検討が始まるみたいで楽しみです。

2008-08-02 22:57:59 | Weblog
 今日は文字通り一日食っちゃ寝、してしまいました。朝は7時には目を覚まし、新聞読みながら朝食をとって、しばらく本など読んでいたのですが、昼ごはんを食べた後の最も暑い刻限に、まさにシエスタ状態で長時間の昼寝をし、日が落ちてから目を覚まして晩御飯を食べ、今、長々と半身浴のお風呂を済ませて、ブログを書く、というぐうたらな一日です。でも、こう昼間暑いのがこれからの夏の定番になるというのなら、我が国も昼休みの習慣を導入すべきなんじゃないでしょうか。サマータイムなどよりも余程健康的で省エネで生産性を上げる効果が期待できると思います。

 さて、火星ではとうとう生命につながる何かが見つかったかもしれない、という報道を目にして心躍らせておりますが、正式発表は十分な解析を終えてから、早くて8月中旬、場合によっては9月になるとの話です。事実なら大変喜ばしいことですが、ガセネタかも知れない可能性もあるので、もう少し具体的な話が出てから喜びたいですが、そう思って何か話の片鱗でもないか、とNASAのサイトを観に行こうと思いましたら、余程アクセスが集中しているのかなかなかつながらず、しばらくしてやっとつながったのですが、やはり新しい情報は何もありませんでした。真偽いずれにしても、早く内容を知りたくてうずうずしますね。

 もう一つ、先ごろ「水よりお湯の方が早く氷になる」とのNHK番組の話、単なる一過性の与太話で終わるかと思いきや、ムベンバ効果なるこの現象の可能性を語り、NHKの番組を監修された北大低温科学研究所の前野紀一名誉教授が、9月24日~27日に東大で開かれる『日本雪氷学会氷雪研究大会2008』で、この問題について関心ある研究者を集めて科学的に議論したいという考えを明らかにされた由です。もし本当に実現するなら、門外漢の私ではありますが、どんな話になるのか、ちょっと覗いて見たい気がします。学会会員でなくても5千円出せば大会参加と、要旨集という学会で発表される研究報告を要約してまとめた冊子が入手できますので、私が関東在住なら半ば本気で東大まで足を運んだかもしれません。
 ところでこの効果の有無、大槻名誉教授も実験されて、ほとんど場合水の方が早く凍るという現象を見たものの、たとえばまな板の上にお湯を広げて凍らせたらお湯の方が早く凍ったなど、極わずかな事例も無きにしも非ずだったとのことです。これについて、前野名誉教授はムベンバ効果の証明、大槻名誉教授は、蒸発とまな板による熱伝導によるものでお湯が早く凍ったことを証明しない、と言う風に真っ向から話が対立しています。たとえば蒸留水をビーカーに入れて密閉した容器に入れて空気を抜いていきますと、真空近くで水が激しく沸騰を始め、次の瞬間、一瞬でビーカーの残った水が凍りつきます。子供達に見せると大喜びするパフォーマンスですが、この現象のように、私もお湯の方が先に凍るのは、蒸発により急速に熱が奪われたからだ、と今のところ思っています。ただ、未知の現象の可能性も否定は出来ませんから、火星の生命同様、この話がどう解明されるのかあるいはされないのか、注目して生きたいと思います。

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ついに火星で水発見! そういえば月の探査の方はどうなったんでしょう?

2008-08-01 23:00:13 | Weblog
 今日から8月になりますが、世間は相変わらず暑い日が続いています。何より雨が降らないので、空気も大分乾燥しているみたいです。そんな折に、よく川べりやらで野焼きしているのを見かけるのですが、あれは遠くから見ているだけで暑苦しいものですね。近くで火の番をしているヒトはもっと大変でしょう。あれでざざっと夕立の一つも呼べればよいのですが、夏らしくない雲の多い日が続く割に、雨の気配は全く無く、四国の早明浦ダムは早くも貯水率50%割れ、第1次取水制限に入っているとのことです。我が県の水がめはどれも70-80%をキープしているみたいなのでまだ大丈夫そうですが、8月の天気次第では後半以降厳しくなることもありうるかもしれません。
 さて、水というと、とうとう火星で水の存在が確認されたそうです。NASAの探査機フェニックスが掘り起こして採取した地下5センチの土から、水を検出したとの事。しかもナトリウムやマグネシウムなどの元素が豊富に含まれたアルカリ性だったそうで、生命の誕生には好適な環境だったらしいのです。こうなると次は是非生命の痕跡、出来れば生命そのものを見つけてもらいたいですが、これからそんな有機物ないし有機物の痕跡の探索を始めるそうですから、その成果に期待したいです。
 そういえば、月探査衛星かぐやはどうなったのか、ちと気になりましたのでぐぐって見ましたら、今もしっかり観測を続けているんですね。当たり前といえば当たり前なのですが、こうして情報に接するとほっといたします。マスコミも、たとえそれ程情報が無くても、せめて月一回くらいは我が国がせっかく上げた探査機の話を取り上げるべきなんじゃないか、と思いますが、多分秋のお月見のシーズンまで待っているんでしょうね。これだから文系の人たちは、などとは言わないでおきますが、中国の探査衛星とは一味違うというところをもっともっと積極的にアピールしてしかるべきじゃないか、と思うのです。せっかく色々な計測機器を積み、豊富なデータを積み上げているんですから、単に綺麗とか言うだけじゃない月の豊かな表情を知らせてほしいものです。


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