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アルコール濃度推定は慎重に

2006年10月03日 23時53分03秒 | 社会全般
「ハイテク捜査」風なのですが、注意が必要です。「数値」「計算式」は絶対ではない、ということを頭に入れておくべきでしょうね。


産経関西-酒気帯び運転、計算式で立件 数時間後に出頭、濃度を逆算 大阪地検 積極活用


まずは記事から一部を抜粋。

男は事故から約11時間後に警察に自首。当初は飲酒運転を否定していたが、飲酒検知で酒気帯びの基準値(呼気1リットル当たり0・15ミリグラム)以下の約0・05ミリグラムの酒量が出たことから、当時飲酒運転していたことが発覚した。しかし事故後かなりの時間が経過しているうえに「1人で飲んだ」と供述したため、事故当時の酒量特定が難しく、飲酒運転では送検されず立件が見送られていた。

地検交通部では男について飲酒運転の立件可能性を検討。事故後アルコールが検知されたことや、男が「事故前日の午後7時から約3時間、缶ビール6本を飲んだ」と具体的に供述したことから、体内アルコール保有量を調べる計算式に数値を当てはめたところ、事故当時酒気帯び状態だったことを裏付ける数値が得られたという。この計算式は「ウィドマーク法」と呼ばれ、体重や飲酒量、血中アルコール濃度が飲酒後に下降していく際の係数などを数式に当てはめることで、飲酒から一定時間経過した後の血中アルコール濃度を算出することができる。

これまでは飲酒検知の数値が基準値未満だった場合、最初から立件そのものを断念する傾向が強かったため、実際の捜査での運用例はまれだったが、今年に入り地検や大阪府警が積極活用。府警によると、危険運転罪立証の際の補強証拠などとして8件の飲酒事案で活用されているという。




以前に少し似たようなことを書いたことがありますが(勿論いい加減な例示ですけど)、薬物動態の「個体差」は非常に大きいのです。アルコールの影響度は、単一の数式で全てが説明できるとは言えないということを念頭に置くべきです。

参考記事:すみすさん、経済学院生さんへのお答え


特徴的なこととして、アルコールの代謝に関わる酵素(ALDH)の種類は遺伝型がいくつかあって、所謂お酒に「強いタイプ」と、「弱いタイプ」があるのです。代謝速度(かかる時間も)は基本的に酵素に依存し、個体差に大きく影響するのです。

この他の要因としては、

・体格(体重、脂肪量等):薬物の分布に影響する
・体調(疲労、寝不足、カゼ気味・・・等々):意外に大きく影響する
・摂取量
・摂取間隔、速度:長時間をかけてチビチビ飲むとか一気飲みとか
・肝臓や腎臓の病気:代謝に大きく影響
・他の薬物との相互作用:別な薬を常用している、等

などがあったりします。


普通は、血中半減期とかは大体決まっており、一定時間後の濃度から逆算して予想血中濃度をグラフ化することも可能ではあります。バイオアベイラビリティなどもわかりますからね。

でも、推測値は極めて不正確であり、あくまで「平均的な人」という前提でしか推定できません。通常の薬物では4倍とか10倍とか、信じられないような差が有り得ます。普通に考えられているよりも、効果や薬物動態の個体差というのは大きいのです。警察の計測はどれ程正確なのか不明ですが、「呼気中濃度」を測定することで「予想血中濃度」がおおよそ判定できるということを利用しているでしょう。採血して測定したりはしないでしょうからね。これも、「肺からの代謝」を計測することで、代用しているに過ぎないのですけどね。ここでも「誤差」は発生しています。


つまり、真に測定するべきは「運転時の血中濃度」なのですが、①数時間後の呼気濃度→②その時の推定血中濃度→③数時間遡った血中濃度、という具合に、「推定」が積み重ねられているのです。この推定を支えるのが、「唯一の数式」ということになれば、信頼度は低くなるでしょう。


更に、呼気中の濃度測定ですが、検出感度はどうなのか判りませんけれども、数回の測定によっては結果が多少変化することも有り得ます。普通、血液検査で何かのマーカーとか指標なんかを見たりしますけれども、これでも誤差はそれなりにあります(直接血中濃度を測定するのにも関わらず、です)。仮に、「50以下が正常値」である指標があって、検査結果は100であったとしましょう。その場合には、かなり高い確率で「異常値」というふうに判断できます。別な測定だと90(要するに誤差範囲が10%程度)であったとしても、「異常値」には違いないですよね。


ところが、ある物質の存在が全くの「ゼロ」であっても、測定結果として「0.5」とか検出されてしまうことはごく普通に起こり得ます。測定誤差の確率が一定以上に高ければ、その範囲はカットオフとして扱われるのではないかと思います。つまり、測定結果として「1」とか「0.5」とか出てきても、これは「ほぼゼロ」と同じ扱い、ということです。検出感度にもよるとは思いますが、100以上のものを測る時に「50以下は誤差範囲として無視する」という時と、同じ感度で10以上を測る時に5以下を無視する、ということでは意味合いが異なると思います。


呼気中の残留濃度を測定するというのは、感度の「厳しい」部分を測定しているのであり、そこでの測定結果でたとえば「0.05」と「0.02」の違いというのが、この実測通りの違いを反映しているのかどうかは不明です。ほとんど存在しなくても、「0.01」分は検出してしまう、というような誤差が有り得るからです。0.02から推測される血中濃度と、0.05から推測される血中濃度は違うでしょうし、この推計値も「単一」であることはまず有り得ないのです。


そういうわけで、長時間経過後の推計値というのが、「かなり正しい値だ」というふうに考えることは慎重さが求められます。色々な要因についての検討が必要なのです。運転者がどの程度これらの個体差を知っていて注意しているか、というのは、普通は判定が難しいのではと思います。




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