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災害共済金を巡る裁判例

2007年07月07日 22時02分40秒 | 法関係
大石英司の代替空港さん経由。

先日コンニャクゼリーの話を書いたのだが、関連する話なので見てみたい。


報道だけ見ているので、考え方が間違っている可能性が結構ありますので、どうぞご注意下さい(笑)。

のどにモチで脳障害、補償金支払い求めた男性勝訴…最高裁 社会 YOMIURI ONLINE(読売新聞)

(以下に引用)

モチをのどに詰まらせたのが原因で脳に障害を負った男性が、中小企業災害補償共済福祉財団(東京)に、災害補償共済の補償金の支払いを求めた訴訟の上告審判決が6日、最高裁第2小法廷であった。古田佑紀裁判長は、同財団に約2100万円の支払いを命じた1、2審判決を支持し、財団側の上告を棄却した。

災害補償共済は、持病が原因で起きた事故には補償金は支払わないと規定している。財団側は「(当時82歳の)男性は高齢で持病もあり、食物をかんだり飲み込んだりする力が不十分だった。モチをのどに詰まらせたのは持病のせいだ」と主張。しかし、判決は「補償金の請求者は、持病が原因でなかったことまで証明する責任はない」として、財団側の主張を退けた。




簡単に事件の概要を整理すると
・高齢男性がモチで窒息し低酸素脳症となって重度障害となった
・災害補償共済を請求したが断られた
・財団側は「モチの窒息は持病が原因」と主張
・災害共済金は持病の事故には補償金支払免責を規定
・請求者側は「持病が原因でないから払え」と主張?
というようなことかな、と。


当該財団を見てみました>よくあるご質問|あんしん財団

この中で、次のような部分がありました(正確には加入の約款を見てみないと判りませんが)。

● 被共済者の疾病、脳疾患、心神喪失、泥酔、犯罪行為、闘争行為、自殺行為又は重大な過失によって生じた傷害

恐らく財団側主張というのは、「被共済者の疾病によって生じた傷害」に該当するので払いません、というものだったのではないかな、と。


<ちょっと寄り道:
この財団って、恐らく経済産業省の天下り先となっているのかと思ったら、全然違ってた。どう見ても怪しいんですけどね。何と、厚生労働省だった。公益法人の多くは、これに類する不可解な組織がたくさんあるんですよ。こういう共済関連の団体がボロボロあって、みんな天下り指定席ということかと。中小企業基盤整備機構みたいな類似組織がいっぱいあって、みんな共済金と称して金を集め、集めた金で「貸し出す」「運用する」で天下り人件費を賄おうってんだからね。しかも、ヘルパーの資格取得まで手がける中小企業関連団体って、要するに「何でもアリ」の存続の大義名分を作りたいだけなんではないかな、と。こんなにイランでしょ、似たような公益法人。
ね?中小企業庁とか経済産業省あたりもそう思いませんか?(笑)
あんしん財団とか書いてますが、全然安心なんかできないんですよ。損害保険みたいなのを官業っぽくやっているだけ。その意味って何ですか?民業圧迫ではないですか?どうなんでしょうか→金融庁どの>


いくつかの論点に分けて見ていくことにする。

①共済金が支払われる時とは

基本的には、偶然発生する「事故、災害」のようなものについて支払われることになっているようである。
HPで例示されているのは、スポーツでケガとか、自分で火傷したとか、交通事故とか、転落事故とかであった。大きく分けると、「他人が原因」というものと「自分が原因」というものがあるが、いずれも支払対象となっている。従って、「過失が誰にあったのか」というのは基本的には無関係である。ただし、上の引用文にもあったように、本人の重大な過失がある場合には支払われないとなっており、この「重大な過失」とはどのような場合なのか具体的には判らない。

普通に考えると、相手方の行為で自分に大きな障害がもたらされると、「相手方」にその損害を賠償する責任を生ずるはずである。判りやすい例は交通事故であろう。加害行為の相手がいるのであるから、相手から賠償金を取るのが当然なのである。それが支払われたとしても、なお災害共済金が支払われるという制度なのであろう。
更に、本人行為であるならば自分の責任なので賠償金は取りようがないのであるが、これが補償されているという制度であって、「重大な過失」に該当することがない限り、本人に何らかの過失が(若干)存在していたとしても支払われる、ということになる。
(「重大な過失」というのは、業務上過失傷害致死で出てくるのと(過失の程度が)同じくらいの意味合いなのかな?)

◎事故や災害の原因となったのが、本人の行為であっても支払われる
◎同じく、原因が相手方行為であっても支払われる


②モチによる窒息は「持病が原因」か?

これはある現象が何に起因するかを考える必要があるだろう。持病というのが一体何なのか不明なのであるが、これが原因であると特定することは、通常ではかなり困難であろうと思われる。例えばタミフル問題みたいなもので、原因を突き止めるのが大変なのと同じである。

まず、モチで窒息する高齢者数はかなり存在しているが、ここで言う「持病と同じ疾病」を有している人ばかりとは限らない。仮にその疾病によって嚥下機能に障害がもたらされていた可能性があるとしても、その機能低下の程度は判らない。「ある疾病Xを有する人は、モチで窒息する可能性が高い(=相当の信頼性のある確度で窒息現象が起こる)」ことが立証できない限り、持病が原因だ、とも言い切れないであろう、ということである。普通は、疾病Xを有している人であっても、殆ど多くの人が「窒息していない」だろうな、とは思う。
少なくとも、「持病が原因だ」と被告(財団)側が主張するのであれば、持病が原因だということを立証するべきであろう。判決でも述べられていたように、「持病が原因ではない」ということを原告側に証明させることは、極めて困難である(笑)。

参考記事でも見たように、高齢者では食物による窒息死はかなり多く、疾病Xを有していなくても死亡しているであろう。高齢とか、疾病Xとか、モチ摂取とか、それらは「窒息のリスク」を高める要因であろうと考えられるが、あくまでリスクであって、財団主張のような「窒息は疾病Xのせいである」とまで言えるものではないはずなのである。偶発的に発生する交通事故と同じようなもの、ということなのである。
例えば交通事故で、自損事故の発生が「高齢ドライバーの割合が多い」ということがあるとしよう。その時に「高齢であったから、この事故が起こった」ということを主張できるのか、ということですよね。自損事故の発生リスクは高いと考えられるとしても、原因ということを言えるわけではない。それとも、持病にある疾病があって、「その疾病のせいでハンドル操作を誤り、自損事故が起こった」というようなことを特定するのはかなり大変である。

◎持病は窒息のリスクを高める可能性のある疾病であったかもしれないが、原因とも言えないであろう。
◎高齢やモチ摂取ということが窒息のリスクを高める要因であった可能性はある、と言えるであろう。


③もしも…

私が被告側弁護士だったら(って無謀な仮定なんですけど、笑)、何と主張したのか書いてみたい。
被告側主張は、「高齢、持病が原因であった」ということですが、これに無理があったことは明らかであろう。②で見た通り、被告側が自己の主張を立証するとなれば、かなりハードルが高いことは直ぐに判るはずである。なので、主張するとすれば、「重大な過失があった」、若しくは「一部相殺」ではなかったかな、と。

・重大な過失があった
上述したように、原因を持病とか高齢に求めるのは困難であるのですが、原告には「過失がなかった」ということにはならないと思われた。この共済制度の有利な部分というのは、行為者が自分で過失責任が自分にあっても支払われるということなのだが、支払拒否が有り得るのが「重大な過失」という規定である。
本件では、「高齢」かつ「疾病」という要因があるにも関わらずモチを食べた、ということは、危険性を承知で行為を行ったと言えなくもないのである。毎年のモチ摂取者の死亡は、数百人規模であることは通常の注意力があれば知りえることである。よって、原告には「過失があった」ということは可能であり、これが「重大」なのかどうかは判断が分かれる可能性はあるが、少なくとも「持病が原因」という主張よりは有効な主張であったのではないかと思う。

・一部相殺
原告の行為が重大な過失とまでは言えない可能性もあることと、本件の「持病があった」ということを考えあわせると、一部だけ主張してみるということも選択できたのではないだろうか。本共済の規定には次のものがあった。

● 被共済者が災害を被ったときすでに存在していた身体障害若しくは疾病の影響により、又は災害を被った後に別に発生した疾病の影響により、傷害が重大になったときは、その影響がなかった場合に相当する補償額を決定してお支払いいたします。

ここで述べられている「災害を被ったときすでに存在していた身体障害若しくは疾病の影響」という規定が使えるのではないかな、と。原告の当時の状況を見れば、「嚥下機能低下」の存在を主張することは十分可能であったと思われる。持病や高齢という要因が存在していなかったとすれば、傷害が重大にはならなかった、すなわち「窒息には至らなかった」と主張することが可能であったのではなかろうか、と思う。

ただ、いずれの主張点も実際どうなのかわかりません。比較の問題でしょうか。


でも、判決文を見てないですが、その意味は判るような気がしました。大体、「あんしん財団」という公益法人というのは、怪しすぎるんだよ(関係ないか)。





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