シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

生きる

2005-07-08 | シネマ あ行
黒澤明監督の名作である。生真面目に役所勤めをしてきた主人公志村喬が肺がんに冒されていると分かり、自分の人生をやり直そうとする。これまでコツコツと毎日同じ事を繰り返してきた彼。妻亡き後、一人息子をきちんと育てあげ、自分の人生に対して疑問も持たずにやってきた彼が死を目前にして「生きる」ということを初めて考える。

一昔前の日本人ってこんな感じだったかもしれない。日々目の前にあることを黙々と片付けるだけで「やりたいことは何か?」なんて疑問に思うことすらない。それ自体美徳だったかもしれない。

この主人公の場合、死ぬ前に何かを成し遂げようと、役所を駆けずり回り、地域住民のために公園を作ることに成功する。でも、彼の功績を讃えた者は少なかった。葬儀の席でさえ、役所の人間たちは彼が役所の課同士の管轄を無視して駆けずり回ったことを責め、助役の力を讃えるのだ。

人間ってやぁねぇって感じだ。公務員の悲しき性か。地域住民だけが涙を流し手を合わせてくれるのだ。

主人公はもちろん感謝されたかったわけではないだろう。自分が成し遂げたかったのだ。誰にも認められなくても良かったのだろう。

製作された年代が古いので、主人公が死期を知ってハメを外すシーンなどは、現代人が見るとつまらんことだったりするのだけど、死を目前にした人間の心理・行動というのは普遍的なテーマだと言えるだろう。

ワタクシなら、見知らぬ人のために公園を作るよりは家族や恋人との時間や関係を大切にすると思うので、この映画の主人公と息子の関係をもう少し掘り下げて見たかったという気もあるけれども、それも日本のあの時代ならあれくらいの描写のほうが適しているのかもしれない。

死までの時間をどう過ごすかは人それぞれなので、この主人公に共感するかどうかは別だけど、見た人に自分の人生を振り返らせる作品だ。 

オマケトムハンクス主演でハリウッドでリメイクされるという噂がありますね。