新人医師の中村弘平成宮寛貴の母浪子夏川結衣は看護師だったが、自分の勤めていた病院で倒れたにも関わらず病院をたらい回しにされ死亡する。母の日記を見つけた弘平は母が長年勤めていた市民病院での仕事への愚痴が綴られていた。
片田舎の市民病院では近くの大学病院から来る野本生瀬勝久という外科医が手術を担当していたが、いたずらにメスを入れては開けてはみたもののどうにもならないと閉じて患者や家族に嘘の説明をするなど、うんざりするような仕事ばかりだと書かれていた日記が、ピッツバーグ帰りの当麻鉄彦堤真一という外科医がこの病院に赴任してきてから書かれる内容の様子が変わってくる。
当麻は、こんな病院では大きな手術は無理、難しい手術は全部大学病院に回す、手術の最中にトラブルが起こり大学病院への搬送が間に合わず患者が死亡した場合は寿命だったと諦める、というこの病院の体質に真っ向から反対し、自らの手でどんどん見事に患者を救っていく。
同じくアメリカで働いていた実川剛松重豊に当麻ほどの腕があるのにこんな小さな病院で働くなんてもったいないと言われる当麻だが、彼は「地域医療の底上げをするためだ」と話し、地位にも名誉にもまったく興味がないという姿を見せる。
そんな中当麻の採用を決め支援してきた大川市長柄本明が肝硬変で倒れ、助けるためには肝臓移植しかないと分かる。同じころ浪子の知り合いの音楽教師・武井静余貴美子の息子誠太賀が事故で脳死状態に陥り、当麻は当時まだ法律で認められていなかった脳死肝移植に踏み切る。
「孤高のメス」というタイトルから非常に冷徹で暗い感じで医局内の醜い争いなどが中心に描かれる物語なのかと勝手に想像していたのですが、当麻先生のキャラクターが冷静でありながらちょっと抜けたところがあるというか、医学に関してはものすごく精通しているけど、世間のことにはちょっと疎かったり、手術中に都はるみを流したりとなかなかユニークなところがある先生で面白かった。当麻は医師として優秀なだけでなく人間性も素晴らしい人だった。浪子の同僚看護師が手術中に都はるみを流されるのはイヤだと主張し、多数決で都はるみが却下されたときの当麻先生の顔が最高だった。(自分ではみんな気に入っていると思っていたようだ)
それでいて手術の手際は素晴らしく見ていて惚れ惚れするくらい。オペ看の浪子が当麻先生に認めてもらおうと一所懸命に勉強する気持ちがとてもよく分かる。やはり素晴らしい仕事をする人というのは口でごちゃごちゃ言わないでも背中を見て周りは育っていくものですよね。
大学病院の医師との対立もあるものの、院長平田満や市長の当麻への後押しがきちんとあったのも見ていて気持ちが良かった。
武井静、誠親子と浪子、弘平親子の交流もあいだあいだで丁寧に描かれていたので、最後に誠が事故に遭い脳死状態になったときには見ているのがとても辛かった。
当麻が医師生命を掛けてまで老齢の市長を救う必要があったのか?というのは個人的に疑問に思うところだったんだけど、誠の母・静の思いも受けてのことだったのだろう。
起訴こそされなかったものの、脳死肝移植に踏み切った責任を取って病院を去る当麻に浪子別れを告げるシーンは、「あなたは最高のナースでした」という当麻の浪子へのセリフなどちょっと月並みなところがあったけれど、それでも涙が止まらなかった。
全体的に非常に素直過ぎると言ってもいいほど作りなんだけど、当麻の実直なキャラクターのおかげかそれが鼻に着く感じではなかった。
弘平が最後に当麻が院長を務める病院に就職するのも超ベタなんだけど、なんだかとても心があたたかくなりました。
レンタルで見ました。ワタクシがとても好きなタイプの群像劇で登場人物が少しずつS字フックのように関わり合いを持ちつつ、それぞれの物語が進行していくタイプのドラマです。
中学生のジェイソンディクソンコリンフォードは友達と悪ふざけばかりしていて、暗いタイプで音楽が好きなベンボイドジョナボボのフェイスブックのページにジェシカという女生徒になりすましてベンに好意があるふりをするメッセージを送ってベンを馬鹿にしていた。ある日、ジェシカからヌード写真をベンに送り、ベンにもヌード写真を送るように言う。ベンは裸になり口紅で「愛の奴隷」と体に書いた写真をジェシカ宛に送り、それをジェイソンたちはネット上に公開してしまう。全校生徒にそんな写真を見られてしまったベンは自殺を計る。たまたまその場に居合わせた姉アビーヘイリーラムに助けられ一命は取り留めるが意識不明の重体に陥ってしまう。ベンの父リッチジェイソンベイトマンは弁護士で仕事が忙しく家族を顧みることがあまりなかったが、息子の自殺の原因を必死で探ろうとする。
そのリッチが弁護士を務めるテレビ局のキャスター・ニーナダナンアンドレアライズブローは、インターネットを通じてポルノ行為を見せるサイトで働く未成年たちの取材をしようとそのサイトで働くカイルマックスシエリオットに近づく。
いたずらの加害者ジェイソンの父親マイクフランクグリロは元警察でインターネット犯罪の捜査に関わっていたが、妻を亡くして以来息子と過ごす時間を増やすためインターネット専門の探偵になった。そんな彼のところにネット犯罪でカード番号や個人情報を盗まれた夫婦デレックハルアレキサンダースカルスゲルドとシンディポーラパットンから依頼を受ける。
この3つの物語が同時に進行していくのですが、きっかけはすべてインターネット上のことではあるのですが、物語の内容としてはとても巧みにそれぞれの登場人物の内面が描かれるようになっています。
ジェイソンのしたことはもちろん許しがたい行為だし、そのせいでベンは自殺未遂をしてしまったのですが、ジェシカになりすましてベンとチャットしていたときのジェイソンはとても素直に父親との関係などを吐露していて、友達の手前否定はしていましたが、本当は少しベンと共感し合っていた面があったようだった。自殺の真相を知ろうとするベンの父親ともジェシカになりすましたままチャットを続けていて、そこでもベンを思いやるリッチの心情に触れいたたまれなくなるジェイソンが映し出されていきます。
テレビ局のキャスター・ニーナは始めは自分の仕事の手柄のためだけにカイルに近づきますが、そのうち本当にカイルの身上を気にし始め、なんとかカイルを助けようとして自分が窮地に立たされます。
ネット犯罪被害者になってしまった夫婦は幼い子供を亡くして以来関係がぎくしゃくしており、夫はオンラインギャンブルにハマり、妻は同じ苦しみを分かち合うサイトにハマっていき、捜査のためパソコンを調べたマイクからお互いにその事実を聞かされ、容疑者シューマッカーミカエルニクヴィストを共に追ううちに夫婦の絆を取り戻そうとしていきます。
他人のネット犯罪を調べていたマイクは自分の息子が実はネットいじめの加害者になっていたことを知り愕然とします。元警官として、探偵として息子ジェイソンのしたことにどう対処するのかと注目して見ていましたが、ここではマイクは愚かな一人の父となり、息子のパソコンからそのいじめの形跡をすべて消し去ろうとします。
全体的に切ないトーンが貫かれていてこれまた大好きな映画「クラッシュ」を彷彿とさせました。特にやはり息子の自殺の真相を必死で追い、それに必死になるあまりまた家族をないがしろにしてしまう父親像リッチの姿が印象的だったし、自分のやってしまったことの大きさに押しつぶされそうになりながらも告白することはできずにいる少年ジェイソンが切なかった。
出番はそんなに多くないですが、ベンのお姉ちゃんがベンとは正反対の学校の人気者でスポーツ好きっぽい雰囲気を持っていて事件前特にベンと仲良しってふうでもなかったけど、自殺未遂のあとずっと病室のベンにつきっきりで、そんな状態を思いやりもしない友達には唾をかけたのが強烈でした。ベンのことでケンカをする両親を前に「あんな2人と私だけ置いてけぼりにしないでよ」とベンにつぶやくシーンが妙にリアルでした。
それぞれの登場人物の内面に非常にうまく触れながらも、3つの事件も結構スリリングに進行するので食い入るように見ていたら、すべてのクライマックスがストップモーションからスローモーションで演出され一瞬息をするのを忘れてしまいました。ネットのもめごとに端を発したあの生身の人間同士のぶつかりあいのシーンの演出はとても効果的だったと思います。
映画ファンが見ると、登場人物ほぼ全員「あ、知ってる」って感じの役者さんたちなんですが、映画ファンでない方には初見の人ばかりかもしれませんが、物語そのものは面白いのでオススメします。この作品のヘンリーアレックスルビン監督の1作目「マーダーボール」も評価の高かった作品ですので、見てみようと思います。
ここのところ「シャーロックホームズ」「アイアンマン」「アベンジャーズ」とアクションものでしか顔を見られなくなっていたロバートダウニーJr.のドラマが久しぶりに見られるということで楽しみにしていました。共演がロバードデュヴァルということでなおさら期待が高まります。
シカゴで働く金持ち相手の弁護士ハンクパーマー(ダウニーJr.)のところに母親の訃報が届き故郷インディアナへ帰る。絶縁状態の父ジョセフ(デュヴァル)との再会は予想していた通り苦々しいものだった。ゆっくりしていくように言う兄グレンヴィンセントドノフリオや弟デイルジェレミーストロングの言葉を振り切り早々にシカゴに帰る飛行機に乗り込むハンクだったが、父がひき逃げ容疑で逮捕されたというグレンからの電話を受け実家に戻る。
故郷の町で42年間判事として勤めてきた父のこと、もしひき逃げをしたとしたら、母の亡くなったショックでお酒を飲み、飲酒運転してしまった結果だろうと考えるハンクだったが、ひき逃げの相手が過去に父が甘い刑罰しか与えなかったために出所後少女を殺した犯人だったことを知り、しかも父が何も覚えていないと言い張ることからハンクは真相をなんとか突き止めようとする。
映画のポスターが「父は犯人なのか」というコピーだったので、もっと法廷での丁々発止が見られると思っていたのですが、それよりもハンクと父、ハンクと故郷の町、といったようなドラマ要素のほうが強かったのが、少し期待とずれてしまいました。
ロバートダウニーJr.はこういう優秀だけど少しちゃらんぽらんでイヤな奴でもどこかチャーミングみたいな役が十八番と言ってもいいかもしれませんね。ハンクと父がどうしてお互いに嫌い合っているのかというのが、少しずつ明らかになっていくのだけど、それと事件の真相が明らかになっていくのが交互に出てきてちょっと忙しかった。最終的には少女を殺した犯人に最初甘い判決を下したのは、不良だった次男のハンクと重なったからという父の愛とリンクすることになるシーンがあまりにもさらっとし過ぎていてちょっと見逃しそうになってしまった。
故郷に帰ったハンクは元カノのサマンサヴェラファーミガと再会。2人のシーンもちょくちょくあって作品の息抜き的にはなっているんだけど、ハンクは妻と離婚係争中だし、娘もインディアナに来てるし、お父さんはひき逃げ犯として裁かれてる最中ってのに、2人でイチャイチャしている場合なのか?と後から考えると思う。2人のシーンはクスクス笑えるところも多くて嫌いではなかったのだけど。
お父さんは判事としてこの町を守ってきた自負があり、自分のガン治療のせいで時々記憶があやふやになったりすることを公表すると近年の自分の判決に疑いが生じることを恐れ、ひき逃げの真相を覚えていないということを隠したかったというのがこの裁判のポイントだったらしい。最終的には裁判では真実を述べるべきという自分の信念に立ち返って自らも真実を述べることにする。
ワタクシが勝手に丁々発止の裁判物を期待してしまっていたので、ハートウォーミングな物語にちょっと肩すかしを食ったのですが、そういう先入観なしにご覧になった方にはとても高評価だったようです。確かに物語としてはうまくできていると思うんですが。
父との確執の雪解けは素直に良かったと感じましたが、ちょっとそこまでの道のりがまどろっこしかったような気はします。ありがちな感じがしたのも残念でした。彼が自分自身を振り返り妻サラランカスターとの関係も見直すというほのめかしがあっても良かったかなぁと思いました。
最後にお父さんが亡くなった時、裁判所に半旗が掲げられていたのには、服役までした人でしたが、やはり町の人たちは立派な判事だと認めていたんだなと感動しました。
ゴールデングローブ賞ドラマ部門の作品賞を受賞したからでしょうか、劇場がいっぱいでした。実はワタクシもその一人。気になっていた作品ではあったもののゴールデングローブ賞を取らなかったらレンタルで見ていたと思います。
リチャードリンクレイター監督が「ビフォア~」シリーズ3本を1本で撮ったような作品です。邦題はまさにそのまんまで6才の男の子メイソンエラーコルトレーンが18才になるまでの12年間を追っています。と言ってもドキュメンタリー作品ではなくドラマになっています。実際に当時6才だった少年と母親オリヴィア役のパトリシアアークエット、父親メイソンシニア役のイーサンホーク、姉サマンサ役のローレライリンクレイイター(監督の娘さん)他も12年間同じキャストで撮り続けたという実験的作品とも言えるでしょう。
とにかく、こんな作品を作ってみようと考えたリンクレイター監督がすごいと思うし、出資した人も参加した役者たちもすごいと思う。そして、6才というとっても未知数な少年を選ぶ時点でものすごい賭けだっただろうなぁ、と。エラーコルトレーン君は6才の時点で演技が上手だったけど、もし、成長していくにつれ超演技が下手な子に育ってしまっていたら最悪だったし、誰もよく途中で投げ出さずにこの企画を続けられたもんだなぁと感心する。
ドラマになっているとはいえ、物語自体は本当にメイソン君の周りで起こることを描いているだけで、特に大きな事件が起こるとか面白い展開があるとかではない。ただもちろん、一人の少年にとって、引っ越しや1年半ほど不在だった父親との再会や母親の再婚や再婚相手の暴力やそこからの逃亡などは非常に大きな「事件」と呼べる出来事なのかもしれない。
12年の間に成長したのはメイソン君だけではない。お母さんは大学に入り卒業し心理学の先生になった。その間に再婚離婚を2回した。頭の良いお母さんだけど、男を見る目はなかったらしい。でも、このお母さんのエライところは男に執着せずダメな男とはきちんと別れてきたところだ。そういうところは自分がきちんと自立していることと、子どもたちのことを優先で考えているからだろうと思う。12年経って可愛らしかったパトリシアアークエットにも貫録が出てきた(笑)
ちょっとチンピラ風でいい加減な印象だったお父さんも再婚して子供ができスポーツカーからミニバンに乗り換えて典型的な郊外のお父さんといった雰囲気になった。お父さんは子どもたちにも運動を手伝わせるくらいオバマを熱烈に支持していたけど再婚相手の家はどう見ても共和党支持者って感じだったけどね。このお父さんの変遷を人は成長と呼ぶのかもしれないけど、ワタクシはちょっと寂しい気がしたな。
お姉ちゃんも小さい頃は弟とケンカばかりしていたけど、一足先に家から独立して大学生となり立派に成長した。
メイソン君、というかエラーコルトレーン君は見た目が文化系という雰囲気で3人目のお父さんにカメラを買ってもらいそれに没頭しカメラマンになることを目指すようになったけど、これはエラーくんの成長に合わせて脚本が書かれていったのかな。そうじゃないと、彼の雰囲気でアメフトのキャプテンとかいう設定だったらちょっとおかしいもんね。
12年間を描いているんだけど、これはいついつ、メイソン〇〇才のとき。とかいう説明が一切なくて、時折会話にいくつになった?とかは出てくるけど、ふと新しい朝が来てメイソン君が映ると髪型が変わっていて、あ、また一年経ったんだなと分かるようになっているというのもさりげなくて良かった。あとは時の流れを示すための「ハリーポッター」が効果的に使われていた。6才のとき「秘密の部屋」をお母さんに読んでもらっていたけど、数年後「謎のプリンス」の発売日に並びに行っていたり。音楽の流行もうまく使われていました。
最後に大学生になって家を出ていくメイソンにお母さんが感傷的になって愚痴るシーンがあるんだけど、ずっとメイソン君の成長を一緒に見つめてきたような気持ちになってしまっている観客にはあのお母さんの愚痴がよく分かる。とても良いシーンだった。
ワタクシとしてはもう少しお姉ちゃんとの関係にも切り込んで欲しかったなぁという気がしました。対お母さん、対お父さんというのはよく描かれていたけど、対お姉ちゃんというシーンが少なかった気がします。兄弟って子供の時から同じ境遇を共にしてきたいわば同志のようなものですよね。その2人が成長してどんな関係になっていくのかっていう部分をもっと見たかったです。
本当になんてことない日常が描かれた作品なので、退屈だと感じる方もいるかもしれません。この日常の切り取り方がリンクレイター監督らしいなぁと感じる作品でした。
公開されたときに見たかったのですが、見逃していて今回ケーブルテレビで見ました。
結成25周年を迎えた弦楽四重奏団のチェリスト・ピータークリストファーウォーケンがパーキンソン病を患っていることが判明し、引退を示唆したことから他のメンバーにも不協和音が生じていく。
この四重奏団を結成した第一ヴァイオリンのダニエルマークイヴァニールは粛々とその事実を受け入れピーターの次に誰を入れるかという話合いをピーターとしている。
母親がピーター組んでいたヴィオラのジュリエットキャサリンキーナーは家族同然でやってきたピーターの発病と引退に大きく動揺し、ピーターが抜けるなんて認めないとあがく。
ジュリエットの夫で第二ヴァイオリンのロバートフィリップシーモアホフマンはこれを機に自分にも第一ヴァイオリンのパートを弾くチャンスが欲しいと画策する。
ジュリエットとロバートは夫婦でその娘のアレクサンドライモージェンプーツもヴァイオリンを習っていて大学ではピーターの授業を受け、ダニエルから個人レッスンを受けている。ジュリエットとダニエルはどうやら元恋人同士らしいのだが、アレクサンドラがダニエルに恋をし、ダニエルもその気持ちを受け入れてしまったもんだからやっかいなことになった。激怒するロバートとジュリエットだったが、ダニエルは悪びれもしない。ダニエルとの関係についてジュリエットに責められたアレクサンドラは、ツアーばかりで子育てなどしてこなかった母親への不満をぶちまける。
ロバートとダニエルは妻や娘のこと以外でも何かの意見の相違がある。時には冒険をして暗譜で演奏会をしようと提案するロバートをダニエルは一蹴した。
第一ヴァイオリンのパートもやりたいと望むロバートだったが、妻のジュリエットはロバートの才能は第二ヴァイオリンにふさわしいと言いロバートは傷つく。それもあって以前から仲良くしていたダンサーと不倫してしまうロバート。その不倫はすぐにジュリエットにばれ、家を追い出される。
マークイヴァニールという役者さんのことは顔を知っているくらいで分からないのだけど、クリストファーウォーケン、キャサリンキーナー、フィリップシーモアホフマンと聞けばもうかなりの演技合戦を期待して見てしまうはず。クリストファーウォーケンは最近、「おぉ~クリストファーウォーケン、こんなとこに出てるんかー」みたいなちょっとしたゲスト出演的という感じのが増えていた気がするので、ここまで落ち着いてウォーケンの演技を見られるのは嬉しかった。そして、夫婦役のキーナーとホフマンの息がぴったりで演技していても気持ちいいだろうなと思わせた。物語そのものよりもむしろ演技合戦を見たいという人のほうがこの作品に良い点数をつけているかもしれません。
ワタクシはクラシック音楽のことは全然分からないのでベートーベンの弦楽四重奏曲第14番なんて全然知らないんだけど、全7楽章をまったく途切れなく弾き続けなければならず、途中で調弦が狂ってもそのまま弾き続けるしかないのだそうだ。25周年コンサートでそれを演奏しようとする4人なのだけど、4人の仲がぐちゃぐちゃでうまくいきそうもない。
が、多分プロの音楽家たちのことだから舞台に上がってしまえばお互いのいざこざなんて全部吹き飛んでしまうのだろう。それがすべて表現される最後の演奏会のシーンは素晴らしかったし、ダニエルがすっと楽譜を閉じたときには涙さえ出そうになった。
ケーブルテレビで見ました。実際にあった事件を基にした作品。
映画の冒頭、一体何がどうなっているのか全然分からない。いきなり須藤純次ピエール瀧というヤクザみたいな男が舎弟小林且弥と一緒に一人の男を痛めつけ、あげくに手を縛ったまま川に落としてしまうシーンや、男の前でその男の彼女を順番にレイプしその男にガソリンをかけて火をつけるシーンなどが映し出され、最後に舎弟までも車の中で撃ち殺してしまい、その後逮捕される。これが「凶悪」な男の正体か、と思ってみていると実はこの「凶悪」とはこの須藤という男のことではないらしい。
数々の殺人容疑などで死刑が確定した須藤は、ジャーナリストの藤井修一山田孝之に手紙を書く。自分にはまだ余罪があり、その首謀者である“先生”リリーフランキーと呼ばれる男がのうのうとしゃばで生きていることが許せず、その余罪を藤井に告白するからそれを記事にして“先生”を摘発してほしいというものだった。
一度面会に赴いた藤井は須藤の告白の内容に驚き、少しでも事件の証拠になるものはないかと探し始めるのだが、なにしろ須藤自身が被害者の名前すら知らなかったり、被害者を埋めた場所などをはっきり覚えていなかったりで、調査は難航するが少しの手がかりを元に藤井は地道に事件の全容を明らかにし始める。
藤井の上司はこんなものは記事にならない。したとしても部数は伸びない。それなら大物議員の不倫写真を撮ってこい。と言うが、藤井はどんどんと事件にのめり込んでいった。
須藤が告白したのは“先生”と呼ばれた木村孝雄という不動産ブローカーが、彼に借金をしていたある男性を殺害したため遺体の処理を相談され、焼却炉で燃やした事件、土地を持っていた男性を生き埋めにして殺害し土地を木村が手に入れた事件、借金のある電気屋の男性を自分の会社で働かせ無理やり酒を飲ませ暴行したあげく山中で車の事故に遭ったように見せかけて殺害した事件の3件だった。(事件の内容は実際とは少し変更はされているらしい)
須藤が「凶悪」かと思ったらこの木村という男のサイコパスぶりには驚いた。須藤は根っからのチンピラヤクザであり、実行部隊としての怖さはあるが、「死の錬金術師」と呼ばれる木村の「凶悪」っぷりは恐ろしすぎる。
映画的にはピエール瀧とリリーフランキーの演技がすごい。山田孝之も演技派だし、今回は受けの演技が光ってはいたが、前述の2人のインパクトがすご過ぎてちょっと霞んでしまったような気がした。
ピエール瀧扮する須藤は当然彼も凶悪と呼べる非道なことを平気でやる男なんだけど、一方で内妻や娘には優しいところや刑務所で知り合った佐々木米村亮太朗という男や舎弟に対しては情の厚いところもあったりして、(というか、そういうのって典型的なチンピラヤクザかもしれない)そういう面をうまく見せていてとても役者が本業じゃないとは思えなかった。記事を書いてくれるという藤井に対しても終始紳士的な態度だったが、編集者の反対で記事にならないと知ったときの変貌ぶりは役柄だと分かっていても本当に怖いくらいだった。
リリーフランキー扮する木村は無理やりお酒を飲ませた被害者のおじいさんにスタンガンを押し付ける須藤たちを見て大笑い。そして「俺も!俺も!」と嬉しそうにスタンガンを受け取ってうきゃきゃきゃうきゃきゃきゃと嬉々としておじいさんを痛めつける姿なんてもうまじでこの人サイコなんじゃないかと思わせるくらいだった。もともとリリーフランキーって怪しい目をしているから余計になぁ。。。この作品を見た直後から「日野の2トン」のCMが始まったんだけど、あの中のリリーフランキーを見るのが怖くてしょうがない。
山田孝之に関しては須藤や木村と対峙するときの演技は本当に素晴らしかったと思う。ただちょっと彼の家庭内の事情とかそういうのはちょっと取ってつけた感があって、そのせいで少し山田孝之の演技の評価も落ちてしまうような部分があってもったいない。
この事件に取り憑かれ、家庭を顧みずに没頭する藤井に妻池脇千鶴が「あなただって面白かったんでしょ?私だって正直記事を読んで面白かった。へ~人ってこんな殺され方するんだぁって」と言って藤井を怒らせるシーンがあるんだけど、あれにはワタクシも少しドキッとしました。なんかね、ぶっちゃけそういう怖いもの見たさみたいなところってあると思うんですよね。こういう事件を語るとき。真相を暴くために懸命になっていただけだと藤井は言うだろうけど、そういう下世話な好奇心というのも否定はできないと思う。
刑務所でキリスト教徒になったと言い、生きて被害者の方たちに懺悔したい、神は私に生きなさいと言ったなんて都合の良いことを言ってしまう須藤に対して、「お前が一番俺を殺したいと思っているだろ」とまるでお前も俺とそう変わらない人間さと藤井に薄ら笑う木村とは所詮悪のレベルが違うんだろうね。
冒頭に見せられた須藤の訳が分からなかった悪行のシーンが、藤井が事件を調べていく過程で分かるようになっていて、映画の流れとしてとてもうまい作りになっていると思う。128分間、胸糞の悪くなることばかり起こるので、これから見る方は要注意です。
この作品が公開された時点で5年連続ミシュランの三ツ星を獲っていた「すきやばし次郎」の店主・小野二郎さんとその息子たち、弟子たちにアメリカ人のデイヴォッドゲルブ監督が迫るドキュメンタリー。現在では8年連続ミシュラン三ツ星を獲得している。
ドキュメンタリー作品なので物語があるわけでなく、淡々と二郎さん本人や息子さんたちへのインタビューを綴って行き、仕入れ、下ごしらえ、鮨を握る姿などを映しだしていくのだけど、全体がクラッシック音楽で彩られており、二郎さんの握る鮨や弟子たちが下ごしらえをする姿などと非常にマッチしていて美しい映像となっている。
二郎さん自身は大正14年生まれで幼少のころから丁稚奉公に出され、戦争にも行き、80歳になる現在でもカウンターに立ち鮨を握っているそうだ。銀座のすきやばし次郎本店では現在では長男の禎一さんが中心になっているようだけれど、それでもまだ息子に譲ったわけではなさそうだった。六本木ヒルズには次男の隆士さんが独立しているヒルズ店があり、こちらもミシュランの二つ星を獲得しているそうだ。
鮨職人と聞けば頑固でイヤなオヤジだったりするのかなぁと思っていたのだけど、二郎さんは全然そういうふうではなく、もちろん仕事に関してはとても厳しいのだと思うけど、話をしているのを聞いていると柔らかい雰囲気でユーモアも感じさせるところもあったのが少し意外だった。そして、ここまで何年も何年も鮨職人をやっていながら美味しい鮨を作るにはどうしたらできるかというのをいまだに夢に見るというのだからそれはそれはもの凄い職人気質なんだろう。そういう姿勢で鮨を作っているからこそ、めんどくさい作業を経て下ごしらえをするようになり、自分が下働きの時より今の人のほうが大変だよと言っていたのが印象的だった。自分がどんなに苦労をしたかということを強調する老人が多い中さらっとそういうことが言えてしまう二郎さんは偉大だと感じた。
息子さん2人も同じような雰囲気を持っていて本店の店主である禎一さんのほうがインタビューが多かったのだけど、鮨職人になっていなかったらレーサーになりたかったと言い、いまでもスポーツカーに乗っているという意外な素顔も見せてくれていた。
インタビューも興味深かったのだけど、クラシック音楽をバックに映し出される海苔を炙ったり、すし飯をしゃもじで切ったり、玉子焼きを焼いたり、実際に寿司を握ったりするひとつひとつの職人さんたちの姿がしびれるくらいカッコ良かった。
お弟子さんが10年修行して初めて玉子焼きを焼かせてもらい、二郎さんにOKをもらうまでのエピソードがあった。洋食でもはやり最初は玉子焼きですよね。玉子焼きって奥が深いんだなぁ。
禎一さんが築地に仕入れに行くシーンが何度かあるんだけど、当然良いものを見極める目は持っているんだろうけど、「餅は餅屋」とばかりにまぐろはまくろの専門家、たこはたこの専門家が選ぶ目を信じていると話していたことも意外だった。鮨職人さんてネタに関してもすべて自分の目が正しいと信じて疑わないのかなと勝手なイメージを持っていたから。すきやばし次郎に下ろしている築地の問屋さんたちはこれほどの鮨職人さんから全幅の信頼を寄せられるだけの目利きなんだろうけど、それでもそこに絶対の信頼関係が成立しているということがとても美しい関係に思えた。
その日の仕入れで良いものが出てくるんだろうけど、玉子焼きとかかんぴょう巻きとか庶民的なものも出てくるというのも驚いた。きっとすべてが調和された順序で出てくるんだろうなぁ。そして、1貫目を食べたお客さんの手を見て、右利きか左利きかを判断し2貫目からは利き手に合わせた方向に鮨が出てくるというのだから、そういう細かいところにまで目が届く二郎さんはやっぱりすごいんだな。
料理評論家の山本益博さんが一人3万円から、おまかせで出てくる鮨20貫を次々に食べ早い人だと15分で終わってしまうと話していた。それでもみながその値段に納得して帰るというのだから。あぁ、いつか行ってみたい。
オマケレビューを書いて初めて気が付いたのだけど、どうして小野「二郎」さんなのにすきやばし「次郎」なんだろ?
1988年のクルディスタン。イラク軍との紛争が続く地域へイギリスから戦場カメラマンのマークコリンファレルと友人のデイヴィッドジェイミーシーヴェスが向かう。
クルド人と共に行動し、様々な前線の写真を撮る2人。激しい戦闘の後、さらに激しい前線へと向かう部隊について行こうとするマークだったが、デイヴィッドは国に残してきた妻ケリーライリーが身重なこともあり、帰国を望んだ。砂漠の真ん中で口論をする2人。マークはさらに前線へと向かう道を選び、デイヴィッドは帰国する道を選ぶ。
気が付くとマークは重傷を負い、現地のクルド人医師の治療所で眠っていた。以前そのクルド人医師の元に運ばれてくる兵士たちの取材をしたことがあったマークは医師が運ばれてくる患者のトリアージを行い、手遅れの札を置いた患者たちを外に運び出して自らの手で拳銃で安楽死させる姿を目撃していたので自分の上に黄色いまだ治療できるという印の札を置かれたのを見てほっとする。このトリアージのシーンに関して安楽死させるのを他の兵士にさせるのではなく医師自身が行っているところに医師の覚悟と責任を感じた。
治療所で静養したあと妻パスベガの元に帰るマークだったが、先に帰国しているはずのデイヴィッドはまだ帰っていなかった。
現地の赤十字などに問い合わせをしながらデイヴィッドを探していた矢先、自宅で突然倒れたマークは病院に運ばれ頭に爆弾の破片が残っていたことを知らされる。破片は無事取り出され身体的にには問題のなくなったマークだったが、精神的には立ち直っておらず、妻はカウンセラーの祖父クリストファーリーにマークのカウンセリングを頼む。
この時点で観客はデイヴィッドの行方を知らないばかりか、なぜマークがこんな重傷を負ったのかも詳細は知らない。クルド人部隊と一緒に前線へ向かったので、そこで爆弾に当たったのかなぁと勝手に想像していたのだが、カウンセリングの結果マークから思いもよらない真実が語られた。
帰国を望むデイヴィッドと砂漠の真ん中で口論になり、別々の道を行ったと思われたマークだったが、砂漠の中を町へと戻るデイヴィッドを一人放っておけず、結局自分も前線に行くのはあきらめデイヴィッドと共に帰ることにした。2人で町に戻るところを爆撃に遭いデイヴィッドだけが命を落としてしまったということだった。
見ていてそれを予想できた人も多かったと思うのだけど、ワタクシはそういうことを想像せずに見てしまっていたので、少しびっくりというか、あ~そういうことか、、、とそれまでのマークのいまいち煮え切らない行動がすべて説明がついた。原題が「Triage」であるのも、クルド人医師の行為と、あの爆撃の場でデイヴィッドを助けたくてもどうにも助けられなかったマークの状況のことを言っているのかなと思う。
戦場カメラマンが主役ながら実際の戦闘シーンは少なく、尺にすれば帰国してからのほうがずっと長いと思うのだけど、それでも緊張感を持って見られる作品でした。コリンファレルの演技がなかなか良かった。
大変遅くなりました。
明けましておめでとうございます。
最近ぼちぼちアップになってしまっていますが
今年も「シネマ日記」をよろしくお願いいたします。
2015年1本目は随分以前から楽しみにしていた「ベイマックス」
劇場で予告編を初めて見たとき「なんとまぁ、変てこなバランスのロボットやなぁ」と思いました。だいたい可愛いデザインのキャラクターというのは頭でっかちで2頭身とか3頭身とかそういう感じですよね。でもこのベイマックスは体だけ妙にデカくてそこにちょこんと小さい頭が乗っていて無表情。ガイコツ?と思いきや日本の鈴のデザインだとか。あ~、なるほど、確かに鈴やね。
サンフランソウキョウに住む14歳の天才少年ヒロ・ハマダライアンポッターは非合法のロボットファイトに夢中になっていた。大学生の兄タダシダニエルヘニーはヒロの才能を無駄にしないように自分が通っている工科大学へ連れて行き友人たちの研究や自分の研究の成果であるケアロボットのベイマックススコットアツィットに会わせる。兄の工科大への飛び級入学を希望するようになったヒロは入学試験のためにロバートキャラハン教授ジェームズクロムウェルに認めてもらうため「マイクロボット」という頭で考えたことを瞬時に形にできる小さなロボットの集合体を発明する。
その発表の場でキャラハン教授に認められたヒロだったが、その直後に会場が火事になり閉じ込められたキャラハン教授を助けに戻った兄のタダシが亡くなってしまう。
兄の死のショックで部屋に閉じこもっていたヒロの前にタダシの部屋からケアロボット・ベイマックスがやってきた。
タダシの部屋からヒロの部屋にひょこひょこひょことやってくるベイマックスが超かわいい。そして、ヒロの部屋にひとつだけ残っていた「マイクロボット」がどこかへ行こうとしていると考えたベイマックスはヒロの気持ちをなぐさめるために「マイクロボット」が行きたがっているところを特定しようと「マイクロボット」に従って一人でひょこひょこと町へ出てしまう。
ヒロの部屋を出てサンフランソウキョウの町を歩き、「マイクロボット」の仲間たちがいる倉庫のような建物にたどりつき、そこで“カブキマン”に攻撃され、逃げ惑うヒロとベイマックス。もうね、この時のベイマックスが最高です。どんくさくて可愛過ぎ。はっきり言って足手まとい。でも最後窓から落ちそうになるヒロをしっかり抱きかかえて自分が下になって落ちるところはさすがケアロボット。そして、ビニールの体からピューピュー空気が漏れていてそれをセロハンテープで留めるんだけど、それもまたなんだかおっとり。と思ったら充電が切れて酩酊状態。ここまでのシークエンスで大笑いでした。
後半はヒロがベイマックスをケアロボットとしてだけではなくて戦闘にも向いたロボットにデータを作りかえて、タダシの大学の仲間たちと一緒に「マイクロボット」を盗んだ“カブキマン”と戦う。作品としては多分ここの部分からがクライマックスの盛り上がり部分なんだろうけど、ワタクシは前半の弱っちくてどんくさくて優しいベイマックスが大好きだった。冗談が通じないところとかもすごく可愛かったな。後半もまぁそれなりには楽しかったんですが。タダシの友達がオタクたちだったから、最初の戦いの時にすごくビビってたのは面白かったですね。彼らが突然強くなったら変だもの。
タダシの友人のフレッドT.J.ミラーの父親役として最後にあのスタンリーが登場するんだけど、ウケる~と思いつつ、なんでスタンリーが?って思ったらこのお話マーベルコミックの「ビッグヒーロー6」っていうのが原案だったんですねー。全然知らなかった。原案だけで全然違うのは違うみたいなんですが。そして2009年にディズニーがマーベルを買収してるから、それでか。
サンフランソウキョウという名前の架空の都市で主人公が日系で、と聞いた時にはまた変なニッポンが舞台だったらイヤだなぁと思っていましたが、ヒロとかタダシという名前も普通だったし、よく海外映画に出てくる変てこなニッポンじゃなかったのでほっとしました。