シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ザ・ウォーク

2017-09-29 | シネマ さ行

1974年ワールドトレードセンターツインタワーの間にロープをかけて命綱なしで綱渡りをしたフィリッププティジョセフゴードン=レヴィットの話。

幼い彼が綱渡りに魅了され、パリでの大道芸人生活、ノートルダム大聖堂に無断で綱をかけての綱渡りを経て、仲間たちといざニューヨークヘ。とお話はテンポよく進んでいく。この辺りの展開はロバートゼメキス監督らしくそつがない。

面白いのはこのテンポの良さとフィリップのクレイジーっぷり。そりゃそうだ。地上411メートルを命綱なしで綱渡りをしようなんて人なんだから、クレイジーに決まっている。彼の綱渡りの師匠ルディベンキングスレーでさえ、命綱をつけろ、地上からは見えやしないとアドバイスしたが、もちろんそんなこと聞き入れるフィリップではない。そもそもそこで命綱をつけようと思う人間はこんなクレイジーは挑戦をしてみようとも思わないだろう。

彼がどのようにしてニューヨーク入りしたあとに、これを実現まで持っていったかというところもユーモラスに描かれていて飽きがこない。彼が実際に渡り始めてからもかなりハラハラしながら見られるのだけど、警察が屋上までやってきて南棟と北棟の両方で待ち構えていたからって彼があんなに何回も綱の上を行ったり来たりしたとは思ってなかったので、いつか落ちるのではと怖くなって「もうええってー。早よ降りてー」と思った。しかも、彼は行ったり来たりするだけでなく、綱の上で座ったり寝転んでみたり。もうお前ほんまにバカかーーーー!って思いました。

でもやっぱり彼が綱渡りしている姿って本当に美しくて、彼が「綱渡りはアート」と言っていた意味が分かった。彼は自分がやっている姿は見られないわけだから、彼自身が言っているアートの意味とは厳密には違うのかもしれないけど。

作品の冒頭からフィリップが自由の女神の上で、このお話をナビゲートしているのだけど、「え、それってまさか綱から落ちて死んでいま自由の女神の上に立ってるとかいうオチじゃないやろなぁ」と思って怖かった。実際には彼は無事(?)警察に捕まるのだが。

彼が綱渡りをしている間だけじゃなくて準備中なんかにも簡単にツインタワーの屋上の端っこに立ったり、突き出た鉄筋にヒョイ乗ったりするだけでこちらは身のすくむ思いだったので、これ劇場で3Dで見た人はすごい迫力だっただろうなと思います。身がすくむっていうかお尻がきゅーーーーってなります。

このツインタワーはもうないんだなと思うと妙にセンチメンタルな気分になったりもしました。


ヘイトフルエイト

2017-09-28 | シネマ は行

南北戦争後のアメリカ。町へ向かう途中激しい吹雪のため山小屋へ避難し、居合わせた男7人+女1人。

賞金稼ぎのマーキスサミュエルL.ジャクソン
同じく賞金稼ぎのジョンカートラッセル
ジョンが捕らえて連行中のデイジージェニファージェイソンリー
保安官のクリスウォルトンゴギンズ
山小屋の店番ボブデミアンビチル
絞首刑執行人オズワルドティムロス
カウボーイジョーゲイジマイケルマドセン
南軍の元将軍サンディスミザーズブルースダーン

これで8人なんだけど、実はチャニングテイタムもクレジットされていて、彼はクレジットしとかないほうが良かったんじゃないの?と思った。

荒くれ者たちに加えて女1人が人殺しでクビに賞金がかかっているような面子なもんだから、穏やかに済むはずはない。

「レザボアドッグス」やら「パルプフィクション」やらのようにまーもうずーーーっと登場人物の与太話というか無駄話が多いのがいかにもクエンティンタランティーノ監督作品。そういう与太話の中にそれぞれの性格やら思惑やらを入れ込んでくるのが彼のスタイルですね。だから、実際にストーリーがぐわーーーっと動き出すのは結構後半なのでそこまでは慣れていない人はちょっと我慢が必要かも。

まぁしかし今回タラちゃん、よくもここに書いた全員をキレイに殺しきれるような脚本を考えたねって感じ。とにかく全員をキレイに殺しきるっていうのもある意味では彼のスタイルなんだけど、今回はなんか最後に妙な爽やかさまで感じてしまったわ。あれだけ人がエグい方法で死んでいくのに不謹慎だけど、タランティーノ作品なんて不謹慎の塊のようなものですから。それを楽しめるかどうかはあなた次第です。


AMY エイミー

2017-09-26 | シネマ あ行

2011年に27歳で亡くなった歌手エイミーワインハウスの生涯を描くドキュメンタリー。

小さいころから歌が好きでジャズシンガーになったエイミーは、離婚家庭で母親に育てられ、たまにしか会わない父親の愛情に飢え、過食症になり、酒に溺れ、クズみたいな男に出会い、ドラッグに溺れ、27歳の若さで死んでしまった。

こうして並べて書いてみると、なんと典型的な事柄に溢れていることか。波乱万丈の人生と言われているけど、若くして世界的な人気に押し潰されたスターたち、まさに27クラブの典型のようだ。

彼女はただ歌いたかっただけだった。それもジャズを。劇中でも言われるが、ジャズは大きな会場で歌うのに向いていない。小さな舞台でやるセッションが本来なのだろう。しかし、「Rehab」の世界的ヒットは彼女にそれを許さなかった。

常々思っていることなのだけど、ただ歌いたい、ただ演じたいという人たちがどうしてそれをしたいなら私生活の暴露と引き換えだよ。という悪魔の交換条件を出されなくてはいけないのだろう。日本の芸能界も同じだが、欧米のパパラッチはそれ以上にスターのプライバシーの侵害がひどい。あそこまでされたら暴言を吐きたくもなるし、暴れたくもなるだろうと思う。

たらればを言ってもしょうがないけど、昔からの親友や元マネージャーが最初に彼女をアルコールのリハビリ施設に入れようとしたとき、現マネージャーとあの父親が止めなければ。もしかしたら何かが変わっていたかもしれない。彼女を金ズルとしか見なかった人たちのせいで彼女はどんどん追い詰められていった。

そして、もうひとつのたらればは、やはりブレイクフィールダーというダメ男を好きにならなければ。ですね。こいつがエイミーにドラッグを教え、2人でハイになっていたみたいですね。

まぁでもそれもこれも全部彼女の選んだ道、なんですけどね。もう少し周りに彼女をサポートしてやってブレインになってやれる人がいたら何かが違っていたのかな、という気はしました。

この作品で散々悪者にされたお父さんはこの映画は嘘っぱちだーと言っているらしいのですが、本当のとこはどうなんでしょうねぇ。


ノックノック

2017-09-25 | シネマ な行

まぁなんとくだらない作品なんでしょう(笑)

家族思いの男エヴァンキアヌリーブス。妻子は週末旅行に出かけ自分は仕事の都合で家に残ることに。そこへやってきた若い女の子2人。ジェネシスロレンツァイッツォとベルアナデアルマス。友達の家のパーティに来たが場所が分からず大雨の中タクシーもつかまらず、携帯も水没したのでネットを貸してほしいとやってくる。親切心から2人を家にいれてあげたエヴァンはそこから地獄を見ることに。

なんだかんだ手を変え品を変えエヴァンを誘惑してくる2人。こいつらおかしいぞと誘惑をかわしつつも若い女の子2人にきついことも言えないエヴァン。長い間誘惑を突っぱねていたエヴァンだったが最後は2人に屈服し・・・ていうかあれはもうレイプです。

翌朝起きてみると2人が家のキッチンを無茶苦茶にして朝ごはん中。「もう帰りなさい。送っていくから」というエヴァンに「ヤダねー」と2人。自分たちは15歳なのにエヴァンが犯しただの、性犯罪者は警察に捕まるだの言ってくる。

最終的にエヴァンは縛り上げられ、ベッドにくくりつけられてまた犯されそこを動画に撮られSNSにアップされちゃう。家の中はぐちゃぐちゃにされるし、お金あげるからとか言っても2人は聞き入れず結局一体何が目的なのかさっぱり分からない。

まーーーーーほんっとーーーーにくだらない映画です。でもなんかおもろかった。バカバカし過ぎてというところかな。何も残らないけど、途中は大笑いしながら見ちゃいました。それをキアヌが大真面目にやっちゃうもんだから余計に。これ、全然無名の人がやってたら全然ダメやったと思うんですけどね。キアヌだからこそおもろい。キアヌって名作にも出てるけど、こういうくだらんのも好きよねぇ。

この2人をただ娯楽のためにやってると見ると「ファニーゲーム」の劣化版か?と見ることもできるけど、女の子2人があそこまで体張ってってとこがなぁ。「ファニーゲーム」の男たちより自分にふりかかるリスクが大きいよね。それも彼女たちにとってはゲームのうちかもしれませんが。ベルが最後にエヴァンに「結局私たちを断る男はいままで一人もいない。あなたは言うかと思ったのに」なんて言いますが、それで世の男性の道徳観を正そうとしているのか???

とまぁあんまり真剣に分析することもないか。「くっだらねー」と言いつつ最後まで見るもよし、途中でやめるもよしです(笑)途中でやめても特に損はないと思います。


キャプテンフィリップス

2017-09-22 | シネマ か行

2009年ソマリア海域を航行していたアメリカのコンテナ船が武装した4人の海賊に乗っ取られ、フィリップス船長トムハンクスは乗組員を守るため自らが人質となり、海賊と一緒に救命艇に乗り込む。アメリカ海軍の特殊部隊ネイビーシールズは船長救出に乗り出す。

たった4人とは言え、こちらはただの民間のコンテナ船で向こうはマシンガンを持っている。巨大なホースで放水し対抗するが、乗り込んで来られればそれ以上対抗する策はない。船長は船員をエンジン室に隠し、自分は海賊の対応に当たった。3万ドル現金であるからそれを持って帰れと言うとそんなはした金ではダメだと言う。そこで海賊たちは船長を人質に救命艇に乗ってソマリアへ向かってしまった。

トムハンクス演じるフィリップ船長の人柄が非常ににじみ出た物語だった。冒頭の妻キャサリンキーナーとの会話で自分たちの世代は真面目にさえやっていれば上に行けたが現代はそうはいかないと子どもたちの心配をしていて、簡単に今時の若者はなどと言わない明晰さを示していたし、仕事には厳しいようだったけど、それは船長として当たり前で、その当たり前の延長として、船長として彼は体を張って船員を守った。海賊たちにもあくまでも毅然とした態度で接し、ある種同情もしていたようだった。しかし、それでもやはり彼は訓練された軍人でもなんでもなかったから、何度かの抵抗は失敗に終わり自分を余計に窮地に追いやってしまったりもした。

そして、救出されたあとの震えて泣いていた姿は、真に迫っていてとても良かったと思う。あの状況で船長があまりにもしっかりした態度だったらちょっと嘘っぽくなった気がする。

被害者である船長を描く一方、加害者側である海賊たちのこともきちんと描かれていた。彼らは貧しい漁村の漁師だが、村を仕切るギャングたちに収める上納金のために海賊行為をせざるを得ないのだ。「ギリシャの船を襲ったときはかなり儲けたぜ」という海賊に「では君はいまここで何をしているんだ?そんなに儲けたのに、そのお金はいまどこに?」と聞かれ黙りこくってしまうシーンが印象的だった。虚勢を張ってはいても、彼もただ生きるためにそうしているに過ぎない。

だからと言って海賊行為が許されるわけはなく、アメリカは国の威信をかけて船長救助に全力を尽くす。シールズが本気になって海賊が勝てるわけはないんだろうけど、やはり人質がいるので下手に手を出すわけにもいかず救出までには日にちがかかってしまうが、最終的には海賊のリーダー・ムセバーカッドアブディ以外は射殺され、ムセは逮捕される。まぁこの結末は仕方ないところだろう。

こんな怖い思いをした船長も数か月休んだのちまた海に戻っています。もちろん生活のためというのもあるだろうけど、強い人だなぁ。




ニュースの真相

2017-09-20 | シネマ な行

2004年ブッシュ大統領の軍歴詐称を指摘したCBSニュースだったが、その証拠の文書が捏造だと指摘され…

CBSの報道プロデューサーだったメアリーメイプスケイトブランシェットの自伝を映画化。アブグレイブ刑務所での米軍による受刑者虐待をスクープした人。しかしブッシュの軍歴詐称では文書の捏造を裏を取らずに報道したことで彼女のチームの首が飛んだ。

「質問することをやめればこの国は終わり」彼女の報道姿勢はその信念に基づいていた。その信念に間違いはないし、その姿勢は素晴らしいものだったが、大統領選の時期もあってスクープを焦り過ぎたか、左翼的な思想がブッシュ失脚を望み過ぎたか、とにかく彼女は道を誤った。

確かにこの一件に関しては、勇み足だったと思う。映画の中で指摘されているように情報源に対して「ちゃんと守る」と言っていたのに、体の調子が悪い老人を表舞台に引きずり出すことになってしまったこともどこかで尊い仕事をしている自分は特別だと感じていたことも否定できないと思う。

最後にメイプスが調査会でぶちまけたように、実際にあのキリアンメモがワードで書かれたかどうかという議論に終始してしまい、ブッシュの軍歴詐称の話はどこかに吹き飛んでしまった。現代の日本でもよくあることだが、議論の中心であるべきことがいつのまにか隅に追いやられて、「そこ?」みたいな議論が延々と続き人々の関心もそちらに移ってしまう。そうなると元の議論に戻すことはほぼ不可能であったりする。

もちろん、メイプスのチームが道を誤ったことは認めるし、「そのせいで」と言われてしまえばそれまでだけど、元の議論が吹っ飛んでしまったことは非常に残念だし、局は結局そこを追及せずに人の首を切って終わりにしてしまったことも残念でならない。

それにしても、ヤフーのこの作品のレビューがそれぞれの政治的な考えの違いで大幅に振れていることが興味深い。

映画的に言うと、ケイトブランシェットもキャスターのダンラザーを演じるロバートレッドフォードもいつも通りやたらとカッコ良かったんだけど、メイプスが集めた優秀そうなリサーチチームの面々の動きがいまいち分からずせっかく集めたチームを活用しきれていないように見えたのが残念だった。


葛城事件

2017-09-11 | シネマ か行

WOWOWで見ました。短めの感想を書きます。

理屈っぽくで独善的で暴力的な父親三浦友和が君臨する家庭。母親南果歩は父親には逆らえず、徐々に精神を病みつつあるように見える。長男・保新井浩文は昔から良い子で父親には可愛がられていたが、気が弱く仕事はうまく行かず妻子を置いて自殺。次男・稔若葉竜也はデキが悪く父親には嫌われ、母親には甘やかされて育つ。一発逆転を狙って通り魔的に8人を殺傷し死刑宣告を受ける。死刑制度に反対する女性・星野順子田中麗奈は自分の信念を実践するためそんな稔と獄中結婚する。

家という名の小さな密室の地獄。家族の絆という名の鎖。その象徴のような出来事の積み重ね。

みんな「家族、家族」うるさい。「家族」というものに過大な期待をかけ過ぎだと思う。

しかしある意味で特に珍しくもない家族でもあるように思える。これくらいの家庭ならごろごろあるんじゃないかな。そのすべての家庭が殺人犯を出すわけではないのはもちろんだけど。

ターニングポイントはいくつかあったと思うが、稔がお兄ちゃんの子どもを殴ってケガをさせたと告白した時にお兄ちゃんがちゃんと稔を叱り飛ばしていたら、お母さんと稔が実家を出たときにお兄ちゃんがお父さんに2人の居場所をばらさなければ。でもそれができないのがこの家庭で育ったお兄ちゃんという人だったのだと思う。

星野順子が最後にこの父親に「あなたそれでも人間ですか?」と言ってしまう。星野順子の信念など、簡単に吹き飛ぶくらい寒気のするような人間性や相互の関係がそこにはある。