シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

バティニョールおじさん

2005-07-18 | シネマ は行
「コーラス」の先生役のジェラールジュニョが脚本、監督、主演をした作品。彼はフランスでは超有名な一時代を築いたコメディアンらしく、彼を含むコメディアン集団が作った流行言葉なんかもたくさんある、とこないだ日本に遊びに来ていたワタクシの友人Florent君が言っていた。日本で言えば南伸介とか、植木等とかみたいなもんだろか。

このバティニョールおじさん、そういうジャンルが公にあるわけではないけど、いわゆる「巻き込まれ型ヒーロー」という分類にあたる主人公。第二次大戦下、肉屋&総菜屋を黙々と営んできた彼。娘の婚約者が隣人のユダヤ人を密告したことで、計らずもナチスの協力者となってしまい、そのユダヤ人の家までもらい受けてしまう。そんな彼の前に逃亡してきたそのユダヤ人家族の幼い息子(シモン)が現れて…彼は、嫌々ながらも自分の罪を償うかのようにその子をかくまい、スイスに逃がしてあげようと奔走する。

この作品、ナチスやユダヤ人というテーマでありながら、お涙頂戴なところがまったくなく、適当に笑いをちりばめ、戦時下ではあるけれども、地方のフランス人の生活というのはこんな感じで都市部に比べれば少々のんきなところもあったんではないかなと、少し不謹慎ながらも、本当んとここんな感じだったかもと思います。

ユダヤ人の子供を演じる彼の役どころやキャラクターというのをどういう位置付けにするかによって、ただのお涙頂戴ものになるかどうかというのが左右されたと思うのですが、そこんとこの演出が非常にうまいですね。この子はこのバティニョールおじさんに頼るしかないし、実際おじさんは自分を助けてくれている。でも、このおじさんは自分の家族を収容所に送る片棒を担いだ(と彼は思っている)んだから、敵でもある。という位置付けだ。だから、結構わがままを言っておじさんを困らせたりもする。まぁ、いわゆる普通の子供らしいわがままなんだけど、「けなげぇ~な子供」という設定があまりに多くあり、“いかにも”な演出が溢れる中この作品のシモン君はとーーーってもナチュラル。

色々手を尽くしてついにスイスへと向かう道中、何箇所も検問をうまくくぐり抜け、(この間もいろんなことが起こって緊迫した中にもちょっと冒険みたいな感じでこれまた不謹慎にも少しワクワクさせる)国境の村で仲介人を待つうちに親しくなった家の子がバティニョールおじさんを悪者だと言い、シモンもそれにたぶらかされる。そこで、仲介人に渡すはずのお金をシモンはバティニョールおじさん暗殺のためにレジスタンスに渡そうとする。子供が大金を持ち歩きスイス逃亡の話を聞きつけた警察に捕まってしまうのだが、その身柄を引き取りに行ったバティニョールもユダヤ人だと疑われてしまう。初めは否定していた彼だけど、警官の横柄さについにブチ切れ。自分はユダヤ人でもないのに、「ユダヤ人で何が悪い!お前らと同じようにフランス人として生まれて税金だって納めている。その金で給料もらってるくせに!どうして、ユダヤ人というだけでこんな目に遭わなきゃならない?」と開き直ってみせる。

こういう形であの時代のユダヤ人虐殺の核心の部分をドンと批判するジェラールジュニョのやり方は本当にうまいなぁと感心してしまう。見てる側もあっけにとられてしまうような方法でこちらの“気付き”を促してくるのだ。

本当にまったく観客に“難しい”と感じさせることなく、ことさらに涙を押し付けるわけでもなく、ユダヤ人問題を語ってくれる作品です。ただ、単純にハートウォーミングな作品が見たい時でも十分に楽しめますよ。