「沈黙を破る」とは占領地の任務についた経験のあるイスラエルの兵士たちによって作られたNGO。
彼らは、イスラエル軍が占領地で行っていることがどんなに自国を蝕んでいるかをイスラエルの一般市民に向き合ってもらうために、占領地で起こる残虐なこと、虐待、略奪、殺戮や、自分の中の変化を語るためにこのNGOを立ち上げ、2004年6月イスラエルの首都テルアビブで占領地での写真を展示する展示会を開いた。
土井氏は、この「沈黙を破る」のメンバーに話を聞くと同時に、パレスチナ側の住民にもインタビューを行い、ここで起こっていることを両サイドから見せている。
最初に占領される側のパレスチナの被害が語られる。ここで、印象に残ったのはボランティアで来ているアメリカ人女性が泣き崩れるシーンだ。ボランティアで来ている人が、こんなところで泣き崩れるなんて、多分厳しい地域でボランティアをしている人たちにとってはお笑い草なことなのかもしれないけど、ワタクシは彼女の行動に人間らしさを見出し、心を揺さぶられた。「こんなことが起こっているのはアメリカのせいだ。私はアメリカ人であることを恥じる」という彼女。そんな彼女に「私たちと同じように苦悩している」と現地の人は理解を示す。
圧倒的な軍事力を持つイスラエル。パレスチナは敵。若者は兵役につくのを当然のことと考え、占領地に向かう。彼らは兵士が怪物に変わるのは簡単な事だと言う。毎日、残虐な出来事を目にしていると、自分の気持ちをシャットアウトして、そのことについて深く考えないように努める。そしてついには、それに慣れてしまう。
「沈黙を破る」のメンバーが証言してくれる内容が、それぞれとても印象的だ。彼らは、占領地で起こることを告発して、まるで国に逆らっているように思えるが、実はそうではない。彼らこそ、自分の国の行く末を真剣に考え、このままではこの国は死んでしまうと懸念している。イスラエルの人全員が、この現実を直視しなければならないと。彼らは、左翼でも右翼でもなく、ただ自国民に現実を見つめることを求めている。
彼らの一人は言う。「“兵士たちはとても大変”と言うがそれは違う。軍隊の任務は大変なんかじゃない。人は簡単に怪物になれる。それが問題なのだ。兵士が大変と人事のように言っているが、問題はそこではなく、国民一人一人が自分のしていることを振り返って見なければいけない。我々はあなた方一人一人が“敵”に送った“兵士”なのです。我々はあなた方の“拳”なのです」そして、別の兵士はイスラエルの諺を引用してこう言う。「他人の過ちから学べ。すべての過ちを犯す時間はないのだから」つまり、彼らはイスラエルのことだけを言っているのではない。ここで起こっていることは世界中のどこにも当てはまることなのだと。
このNGO団体の顧問をしているラミエルハナン氏は、自らの14歳の娘をパレスチナの自爆テロで殺されたのにも関わらず、「すべての争いの解決には、結局は“話し合い”しかない」と言う。最愛の娘を殺されながら、その発言ができるエルハナン氏にとても感動した。
憎しみを憎しみで返しても何も解決しない。占領は自国民をも蝕む。それを知って欲しい。自分のしてきたことや、自分の息子のしたことを否定したくないばかりに、息子のしていることに反対する両親や、パレスチナの子供よりもイスラエルの子供のことを考えろという政治家にも彼らは冷静に話し、理解を深めようとする。彼らの言うとおり、これはイスラエルでだけ起こっていることではない。たくさんの国の国民が自分たちのしていることに目をつぶって生きている。そんなワタクシたちの目を覚まさせてくれるドキュメンタリー作品。見る人が少なすぎるのが残念だ。