シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ヒトラーの贋札

2008-07-24 | シネマ は行
毎年アカデミー賞外国語映画賞の発表をノミネートも含めて楽しみにしている。英語圏の映画はほっといても日本で公開されるものが多いから、アカデミー賞がノミネートでもしてくれると、英語圏以外の映画も日本で公開してくれるからだ。今回受賞したこの作品。小さな映画館で順番に回っていて、先日やっと見ることができた。

恥ずかしながらワタクシはこの「ベルンハルト作戦」というのをこれまで知らなかった。ナチが大戦中にポンドやドルの贋札を作って、イギリスなどにバラまき、経済に混乱を引き起こそうとしたというのだ。そして、その贋札を作らされたのが、ユダヤ人の印刷工たち。これは実際に収容所で贋札を作らされたアドルフブルガーの原作に基づいた作品だ。

この作戦に参加させられたユダヤ人たちの苦悩を描くというものなのだが、残念ながら映画としてのデキはそんなに素晴らしいものとは言えないと思う。演出も特筆に価するほど良いものではないし、役者たちの演技もまぁ普通。音楽も映像も特に取り立てて書くほどのことはない。

ただ、実際に彼らの受けた屈辱と彼らの苦悩を考えると、非常に難しい問題だということが分かる。敵に協力しなければ、待つのは収容所での一般収容者と同じ過酷な扱いか死しかない。と言って、協力すると敵の勝利に貢献してしまう。しかし、協力したからと言って感謝などされることもない。この戦争が終われば、敵が勝ったとしても負けたとしても証拠隠滅のために殺されるだろう。ただ、敵に協力している間は他の収容者たちとは違う、あたたかいベッドと少しはましな食事とシャワー、まともな服が用意されている。

主人公サリーカールマルコヴィクスのようにとにかく今日生き延びることを第一に考えるか、ブルガーアウグストディールのようになんとか抵抗し、遅延行為をして少しでも敵の不利益になることをするか。しかし、その行為はバレれば味方全員の命を奪いかねない。ワタクシは卑劣かもしれないけど、サリーの言う「今日の銃殺より明日のガス室」という考えに近いかもしれない。あの状況下でブルガーのような行動を取るのは勇気のある行為だとは思うが、彼とて自分だけ他の収容者と同じ扱いにしてくれとは言わなかった。もちろん、それを責めるつもりは毛頭ない。

戦争が終結し、いままで隔てられていた他の一般の収容者たちと彼らが対面するシーンがとても印象的だ。骨と皮だけになり、毛髪はほとんどなく、服も着ているのか着ていないのかさえ分からないような収容者たち。贋造作戦に加わっていた彼らとは雲泥の差があった。彼らはこの瞬間どう感じただろうか?自分たちのことを幸運だと感じただろうか?ある意味では幸運だったのかもしれない。しかし、また違った苦しみを味わったことも確かである。それを比べるのはナンセンスなことなのかもしれない。あらためてナチの罪は非常に多岐に渡っているのだと再認識させられた作品だった。

靖国 YASUKUNI

2008-07-16 | シネマ や行
公開前の騒動があって、それでもナナゲイさんで公開されるということで、さすがナナゲイさんだなぁなんて思いながら、それならやっぱり見に行かないワケにはいかないじゃないと見に行ったワタクシですが、結果的には公開前の騒動に踊らされたかなーって気がします。

この作品ねぇ、、、偏っているとか事実と違うとかその辺を語る以前に、映像が悪いし、何より音声が悪い。せっかくインタビューで話している人たちがいったい何を言ってるのか全然分からない。とくにあの刀匠の刈谷さんなんてご高齢なこともあって、半分くらい何をおっしゃっているのか聞き取れなかった。これってワタクシの耳が悪いのか?リーイン監督の質問も中国語なまりのせいなのか、イマイチよく分かんなかったし。こんなので完成品としちゃっていいのか?

あんまり難しいことは分からないし、それぞれの視点でいろんな解釈がある問題だから、ワタクシがこの作品を見た感想だけを率直に書くと、軍隊の格好をして列をなしてラッパ吹いて行進しながら参拝している人たちのあの制服や銃なんかはどっから来てるんだろうか?あの銃は本物?大日本帝国軍を崇拝してるわりにラッパが下手くそだったなぁ。
台湾の人たちが先祖の霊を返して欲しいというのは当然の感情だと思えるけどなぁ。そんなにかたくなに返さないと主張しなければいけないものなのかなぁ?なんかその意見が日本代表みたいに思われるのはイヤだなぁ。日本人でも他に祀りたいって人もいるんだし。まぁ、台湾の人たちもそれぞれ考え方は違うんだろうけど。
靖国の記念館では、「あれは侵略戦争ではない」みたいなのをテープで流していて、それにはかなりゾッとした。そんなこと堂々とテープで流してるんだね…解釈の違いとか歴史認識の間違いとか主張する人たちもいるんだろうけど、どんな理由があったにせよ、他国に侵略したことは認めようよ。英霊に平和を誓うなら、そこから始めるもんじゃないの?それを認めることは英霊を侮辱することになるってことなのかな。

ワタクシは靖国神社の現在のあり方自体には賛成しているわけではないけど、あの百人斬りの新聞記事とか、虐殺の写真とかね、、、なんか今さらあれを反日のプロパガンダに使われてもなぁって気はしますね。これを海外に持って行けば信じる人たちがたくさんいるだろうね。それが監督の狙いか。
刀匠の刈谷さんは、最初に聞いていた話と違うし、自分の出演場面をカットしてほしいと言っておられるそうですね。それは完全に無視されているってことでしょうか。
この作品に日本芸術文化振興会というところが750万円の助成金を出しているというんだからねぇ。自民党の議員がそれに文句を言ったっていうニュースを公開前に見たときにはリベラルな作品に保守的な議員が文句を言ったのかと誤解していたけど、この内容を見るとそりゃ文句も言いたくなるだろうなぁという気もする。“表現の自由”があるにしても、反日映画に日本人の税金が使われるのはやっぱり変な話よね。自分のお金で“自由に”表現してよ。

イースタンプロミス

2008-07-08 | シネマ あ行
デビッドクローネンバーグ監督、ヴィゴモーテンセンナオミワッツ。お~魅力的な監督にキャスト、とは思っていたけど、劇場まで見に行くつもりはなかったこの作品。が、「美しすぎる母」を見に行ったときに予告編を見て、これは見に行くべしな作品に格上げされました。

ロンドン。助産婦をしているアンナ(ナオミワッツ)の病院に14歳のロシア人妊婦サラ=ジャンヌラブロッセが運ばれる。赤ちゃんは助かるが少女はお産で亡くなってしまい、ロシア語で書かれた少女の日記を赤ちゃんの親戚を探す手がかりになるかもと、ロシアレストランのオーナー、セミオンアーミンミューラー=スタールに翻訳を頼むのだが、、、そこにはロンドンに暗躍するロシアマフィアの内情が記されており、なんとそのレストランのオーナーがマフィアのドンだった。そのドンの息子キリルをヴァンサンカッセル。その運転手ニコライをヴィゴが演じる。

予告編を見たとき、この脚本の切り口がとてもオリジナルだと感じ、ぜひ劇場で見たいと思いました。

結果は大正解。脚本そのものもアンナとニコライの個人的なつながりの他に西側に暗躍するロシアの犯罪組織の内情をよく表しているし、ヴィゴがほんとにしびれるほど渋い。マフィアの運転手を務めながら、明らかにマフィアの息子キリルより頭が切れ、冷静で肝も据わっている。ただ、黙って立っているだけで威圧感がある。それでいて、どこか哀しげというか、哀愁が漂う男ニコライ。自分たちが住む世界とはかけ離れた世界にいる人間だと分かりつつもアンナが魅かれてしまうのがよく分かる。実はニコライには大きな大きな秘密があって、それを知ったときにはアンナとのハッピーエンドもありえるのかと思ったけど、やはりそこは自分の生きていく道に覚悟を決めた大人の男ニコライ、たった一度のキスで「ダスヴィダーニャ、(ロシア語でさようなら)アンナ」と言う。アンナはニコライの秘密は知らない。だから、多分しょせん住む世界が違う男との恋路がうまくいくわけはないし、ニコライもそれを分かっていると思ったのだろう。「ダスヴィダーニャ、ニコライ」アンナもそう言って二人は別れていく。最高に切なくてしびれるラブシーンだった。

そのラブシーンも映画史に残ると思うのだけど、もうひとつ映画史に残る出あろうシーンがサウナでのリンチシーン。素っ裸のヴィゴが2人のギャング相手に死闘を繰り広げる。ヴィゴの完璧に鍛え上げた肢体もすごいし、流れる血も半端じゃない。この映画にかけたヴィゴの情熱がよく出ているシーンだと思う。

アーミンミューラー=スタールが表向きは優しくて穏やかそうなおじさんだが、裏では恐ろしいマフィアの顔を持つ男を非常に巧みに演じていて、彼のような温厚そうな人が演じていただけに余計に恐ろしさが増していた。そのドンの情けないドラ息子をヴァンサンカッセルがこれまた非常にうまく演じていたと思う。ケンカっぱやくて威勢はいいが、そんなにオツムは賢くない。「ゴッドファーザー」でいうところの長男ソニーといったところか。そして、ワタクシの大好きなナオミワッツ。どんな映画のどんな役柄もそつなくこなしてしまう、この世代の美人女優の中ではかなりの演技派だと思う。ハリウッドでビューが遅かったせいかとても若い印象があるが、プロフィールを見るともう40歳?そうだよね、ニコールキッドマンと同世代なんだもんね…30代前半に見えるんだけど…女性特有の弱そうな面と芯のしっかりした強そうな面という両極を持ち合わせた今回の役は彼女にとても合っていたし、抑えた受け身の演技ながら存在感は抜群だと感じた。やはり演技力のしっかりした人じゃないと難しかった役だと思う。前述のラブシーンでは彼女の自然な美しさも際立っていた。

全体的に暗いトーンで進み、残虐なシーンも多く、話も少しだけ複雑なので、映画を見慣れていない人には見ているのがつらい作品かもしれませんが、ハードボイルドなマフィアの世界がお好きな方はぜひどうぞ。

スピードレーサー

2008-07-04 | シネマ さ行
さて、引っ越しは一応終わって(家の中はひっくり返ってますが)、昨晩は試写会に行って参りました。

ん~。ワタクシ、「マッハGoGoGo」を知らない世代なので、なんとも…この作品の世界が原作に沿ったものなのかどうかすら知らないんですが、まぁ、それはどっちでもいいとして…

まず、なぜ主演がエミールハーシュ?彼って「カッコいい」っていう位置付けの人なの?もっとカッコいい人ハリウッドにいっぱいいるでしょう???確かに演技はうまいけどねぇ。主役のスピードレーサーを演じるんだから、やっぱりもうちょっと美形なほうがいいなぁ。それに、あのかわいい小学生だったトリクシーが、大人になってケイティホームズになるのかと思いきやクリスティーナリッチかよ。主演のエミールくんに比べて随分おばさんに見えちゃうよ。主演とその恋人のキャストがいまいちだと、なんだか気分が乗らないのよねぇ。スピードの弟のスプリトルポーリーリットもおばさんみたいで気持ち悪いよ。あーいう白人の男の子ってよく映画で起用されるけど、ワタクシはあんまり好きじゃない。上映時間が2時間15分もあって長すぎるから、彼のシーンなんてほとんどいらないんだけど。覆面レーサーXを演じたマシューフォックスはカッコよかったね。彼が家族に本当のことを告げなかったのは続編をにらんでのことなの?って思ったんだけど、どうなんでしょう?ジョングッドマンは個人的には随分ひさしぶりに見たんだけど、あの太りようはキャラとしてはいいんでしょうけど、見てるほうはちょっとしんどくなってきちゃいますいい俳優さんだとは思うんですけどね。あとは、どうせこういうお遊び映画だったら、レースに登場する各国のアナウンサーとかを超有名人にカメオ出演させるとかしてほしかったな。

この作品の一番の売りである映像もね、ワタクシは苦手だな。こういうザ・CGみたいのって苦手なんですよね。CGアニメ作品ならそれはそれで楽しめるんだけど、人間と合成されちゃうとなんだかむずがゆいと言うか何と言うか。CG使うにしてももっと本物感あふれる感じでやってほしかったなぁというのがワタクシの感想です。ウォシャオスキー兄弟も「マトリックス」のあと、バンバンお金使えるようになっちゃってこんな風になっちゃったのかなぁ。

とは言え、軸となるストーリーそのものは悪くなかったような気がします。大企業の陰謀に立ち向かうしがない一家。って単純でよくある構造だけど、悪くはなかった。

原作が日本っていうことと、ウォシャウスキー兄弟がもともと日本好きということもあってか、かなり日本を意識したものが多かったけど、あのトゴカーン一家は兄貴が韓国人で妹が日本人というわけの分からん設定になっていましたね。まぁ、アメリカ人にとっちゃまさに“そんなの関係ねぇ”なんでしょうねぇ。。。