シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ライフオブパイ~トラと漂流した227日

2016-06-29 | シネマ ら行

なんせ「トラと漂流した227日」ですからね。「ライフオブパイ」だけでは全然何のことか分からないからなんでしょうけど、日本の配給会社ってほんと副題が好きね。でもこの作品の場合「トラと漂流した227日」っていう副題があったほうが食いつく人も多いかもしれません。

そんな副題ですからファンタジーというのは最初から分かっているわけですが、ファンタジーでありながらどこまでリアリティを持たせて「んな、アホな」的な話にはなっていないのだろうと監督アンリーの名前を見て期待していました。賞レースにもたくさんかかっていた作品だったし。

前半はカナダ人作家レイフスポールが稀有な経験をした男性パイイルファンカーンの取材にやってくるところから始まる。意外にこの前半部分が長くパイの子供のころのエピソードもなかなかに面白く語られる。

インドから家族とカナダに移住することになった16歳のパイスラージシャルマ。動物園を経営していた父は動物たちをカナダで売るために船に一緒に乗せて来ていた。彼らの乗った船が嵐に遭い転覆する。パイは1人救命ボートに乗ることができ助かったが、一緒に乗ってきたのは脚を折ったシマウマ、ハイエナ、バナナの木に乗って流されていたオランウータン、そしてパイが動物園時代から憧れを持っていたベンガルトラのリチャードパーカーだった。

これだけの動物たちが同乗していて共存できるはずはなく、ハイエナはシマウマやオランウータンを襲い、そのハイエナをリチャードパーカーが襲い、とうとう最後にはパイとリチャードパーカーの2人きりになってしまう。当然リチャードパーカーはパイのことを食べようと襲ってくるので仕方なくパイは救命ボートからロープをつけて板を浮かせてそこで過ごした。救命ボートには缶詰と水がたくさん乗せてあったが、パイは命を狙われないようにするためリチャードパーカーのために釣りをして魚を食べさせたりした。

トラと2人きりの遭難生活のシーンがヴィジュアル的にも美しく、時にユーモラスに時に緊張感を持って語られ飽きることがない。いつしかこのトラ・リチャードパーカーと友情が芽生えて2人で支え合っていくのかと思いきやトラはあくまでもトラであり、常にパイはトラに命を狙われているというところが逆にいいと思った。それでいながら、共通の敵である天候には共に闘うといった感じだった。と言ってももちろんトラなんて天候に対しては何の役にも立たないんだけど、パイの気持ちの中で共に闘う仲間としてその存在だけでも気持ち的に全然違っただろうと思う。常にリチャードパーカーに食べられるかもという緊張感も遭難生活の中では役に立っていたかもしれない。

最後に陸地についたときリチャードパーカーは振り向きもせず密林に消えて行ってしまう。そのことにパイは号泣するのだが、そこもトラはトラのまま感傷などなくトラらしく去って行くというのが良かった。トラはトラだと分かっていてもそこに期待してしまうのが人間だし、見ているワタクシが痩せこけたリチャードパーカーの背中の骨を見ると単純に涙が浮かぶのも人間だなと感じた。それが人間の感傷でありそれが人間のサガなのかもしれない。自分の事象だけで人類全部を語るつもりはないけど、このお話の寓話的な部分はそういうことを示しているのかなと感じました。

助かってから保険会社の人にトラの話や途中たどり着いた不思議な島の話など一切信じてもらえず、仕方なくした現実的な話(乗組員とコックとお母さんと一緒に救命ボードに乗りコックが乗組員とお母さんの肉を食べたという話)のほうが実は本当に起こったことだったのか?という疑問を生じさせつつ、でもリチャードパーカーとの漂流のほうがずっとずっと面白い話だからそっちでいいやと思わせてくれるだけの冒険譚だった。


ダークプレイス

2016-06-28 | シネマ た行

これも予告編を見て面白そうだと思って行きました。シャーリーズセロンってこういう暗い物語が好きだよねぇ。

8歳のときに家で母親クリスティナヘンドリクスと姉妹2人を殺されたリビー(セロン)。28年の時が過ぎ、世間の寄付だけで仕事もせずに生きてきたリビーの貯金もそろそろ底をつき始める。そんな時「殺人クラブ」という昔の未解決事件などを話し合ったり捜査したりするのが趣味のグループの会計係ライルニコラスホルトにお金をあげるから一度「殺人クラブ」の集まりに来てみんなの質問に答えてほしいと言われお金目的で参加することに。

当時リビーは15歳の兄ベンタイシェリダンが母と姉妹を殺したのだと証言し、彼女の証言が決定的となって兄は有罪判決を受ける。兄は控訴もせず服役しているが、「殺人クラブ」の面々は事件に不審な点があるとしてベンの無罪を信じている。リビーは兄は有罪だと主張するが、自分でもこの事件を調べることにする。

美しいシャーリーズは自分の風貌をわざわざ汚くして役を演じるのがよっぽど好きなようで、この作品でもだらしないTシャツに革ジャン、毎日同じ古臭いキャップをかぶっている。ま、それでも「モンスター」のときくらい変身しないと彼女の美しさは隠せない。この作品ではそんな格好はしていても顔は美人という設定みたいだったから違和感はありませんでしたが。それにしても現役の女優でここまでショートカットが似合う人って他に思いつかないなぁ。

もう一度事件のことを調べてみようと昔の関係者に会いに行くリビー。ここで少しずつ真相が分かってくるのですが、、、

現在と過去を行き来しながら事件の真相が知らされていくというよくあるパターンの構成です。色々な人に話を聞いてはいるけれども、当時の事実をなぞっているだけで証言によって過去が変わるというような羅生門的な展開ではないので徐々に少しワンパターンな感じになって来ました。

結局のところ、リビーは自分がベンの犯行を見てはいないということを一番知っているわけで、自分の証言が嘘にならないように控訴しなかったベンはやっぱり有罪なんだと思いこもうとしていたのかな。過去に実際に何があったのかというのはきちんと種明かしされるんだけど、じゃあどうしてリビーが嘘を言ったのかというところは説明しきれていなかった気がする。他の姉妹はそうでもなかったけど、リビーはベンと仲良かったみたいだったのになぜ?と疑問が湧いてしまう。ただ幼かったからという理由だけで良かったのかな。

実際に犯罪を犯したベンの恋人だったディアンドラクロエグレースモーリッツもまだ17歳で、ベンも15歳、嘘の証言をしたリビーが8歳と、子供が起こしてしまった悲劇というのが悲しいお話だったんだけど、ディアンドラっていう子がなんだか同情できないタイプの子だったのがちょっと惜しかったかな。ベンはディアンドラにぞっこんだったし、あれくらいの年ごろの子があーゆー女の子に夢中になってしまうのも仕方ないとは思うんだけどね。ベンの子供までみごもっちゃってたし。ドラッグやったり悪魔崇拝の真似事をしてみたりっていうのは若気の至りで殺人までしちゃうのはまた別の話だよね。ベンは心優しい子だったのに、やっぱりこういう年頃の恋って馬鹿なことさせちゃうんだよな。

いま現在のディアンドラが出てきて当時事件のあと生んだベンとの子供が登場するんだけど、この子がどう見ても28歳に見えなくて喋り方も19、20歳そこそこの感じで変だった。もっと慎重にキャスティングしてほしかったところ。

ベンがディアンドラと子供を守るために刑務所に入ったというのは納得できるんだけど、その真相が明かされるに至るまでがイマイチだったかな。ただ映像でそれを見せただけって感じがした。せっかく「殺人クラブ」という面白いグループを登場させたわりにリビーにこの事件をもう一度調べさせる動機になる以外はまったくと言っていいほど活躍しないのが残念でした。ディアンドラがベンの妹の一人を殺したたまたま同じ夜にお母さんがお金に困って「負債の天使」という借金に困った人を自殺に見せかけて殺す連続殺人犯に依頼をしたんだという事実も電話であっさりとリビーに告げられるだけで「殺人クラブ」の存在感が薄過ぎた。

晴れてベンの無罪が証明されてリビーの人生もここから始まるみたいな感じで終わっていたけど、36歳までろくに働いたこともない彼女がこれからどうやって食っていくんだろ、ってのは余計な詮索か。

もう少し面白い構成にできそうな作品だっただけに少し惜しい出来でした。事の真相に終始するよりもう少しベンとリビーの関係やそれぞれの心の奥を見せたほうが良かったかも。ワタクシはシャーリーズセロンが好きなので最後まで緊張感を持って見ることはできました。


レジェンド~狂気の美学

2016-06-27 | シネマ ら行

予告編を初めて見たときから楽しみにしていました。最近一番注目している役者トムハーディが一人二役で双子のギャングを演じるというのですから。

1960年代にロンドンのイーストエンドで暗躍した双子のギャングレジナルド(レジー)&ロナルド(ロン)クレイ。レジーはスマートで賢くてギャングでありながら、ナイトクラブの経営で実業家としても成功(まぁ表向き)していた。一方ロンのほうは統合失調症と診断されていて刑務所から精神病院に入っていたが、レジーが精神科医を脅して出所させた。

顔はそっくりなんだけど、ロンが太っていてメガネをかけているのでレジーのほうがずっとカッコ良く見える。レジーは自分の運転手の妹フランシスエミリーブラウニングに恋をして彼女からかたぎになるよう言われていて、ナイトクラブの経営だけに力を入れようとするがそうは簡単にギャング家業から足を洗えない。

ロンはすぐにキレるタイプで、普段からわけの分からない持論を人に語ってみせているが、少しユーモラスな性格もあり、自分がゲイであることを当時あけすけに語ったりして周囲を驚かせたりもしていた。

表でも裏でもレジーの事業がうまくいきそうになるとロンが何かしらの問題を起こして、いつもレジーが尻拭いをしているようだけど、とは言え、レジーももちろん裏では暴力的な男であり、ライバルのギャングたちとの抗争においてはロンのクレイジーでバイオレンスなところを頼みにしていた部分もあっただろう。

トムハーディのファンとしては彼が2役で出ているというだけでかなり魅力を感じる作品だし、双子ながら見た目が決定的に違うレジーとロンながら、もしその見た目の違いがなかったとしてもトムハーディがきちんと2人を演じ分けていることは分かったと思う。ただロンが太っていて、ほっぺたに何か詰め物をしているのが目立ってしまっていたのでそれがちょっと途中から気になってしまって少し笑ってしまいそうになったのが困った。

レジーって賢いしカッコいいし、一見良い人そうだけど、結局ロンよりレジーのほうが自分を偽って生きていてそのしわ寄せが最後にフランシスに全部いっちゃったって感じがしました。結局自分勝手なギャングでしかなかったんだなって。フランシスも甘ちゃん過ぎたとは思いますが。

クレイ兄弟の繁栄と破滅、レジーとフランシスの恋愛模様を中心に語られるのだけど、全体的な流れとしては所謂よくあるギャング映画とさほど変わらなかった。もう少し強烈に2人の暴力性(特にロン)を印象付けるエピソードが語られても良かったかなと思う。ワタクシはトムハーディのファンなのでおおむね満足でしたが、ファンじゃない方が見たらどう感じるのでしょうか。


帰ってきたヒトラー

2016-06-23 | シネマ か行

自殺したはずのヒトラーオリヴァーマスッチが現代社会にタイムスリップ。彼を発見したテレビマン・ファビアンザヴァツキファビアンブッシュが彼を物まね芸人だと思いこみテレビに売り込んで聴衆にバカ受けする。

まったく予想していなかったのですが、このファヴィアンとヒトラーが一緒にドイツ中を旅をして回るシーンがあり、そこでヒトラー(の物まね芸人とみなが思っている人)を目の前にドイツ人や外国から来た観光客がどのような反応をするのかというのがドキュメンタリーとして撮影されていた。現代のドイツ人の政治的な悩みに耳を傾けるヒトラー。ネオナチたちに会い表面上ヒトラーに憧れるばかりで彼の信念など何も理解していないネオナチの本当の姿を暴いてみたり。過去に彼のやった身の毛もよだつ行為は別として、彼の政治的手腕の高さがここで非常にうまく表現される。一人一人の市民の意見を聞き、政治的な不満があるならそれを政治家にぶつけなさいと話し、本当の民主主義を勝ち取るのだと鼓舞する。そう、彼はもっとも民主的な憲法のもと選挙で一般市民から選ばれた首長なのだ。

始めは現代によみがえったヒトラーが状況を把握するまでに、周囲の人とチグハグな会話を繰り広げてそれが面白かったのだけど、瞬く間に状況を理解し、現代のテクノロジーを駆使してプロパガンダを広めることを習得してしまう彼の姿に慄然とする。彼を芸人だと思って面白がっている人たちも、彼の言うことに一理あるとか、不満を聞いてもらって満足したりとか、徐々に彼の色に染まっていく社会の姿がありもう笑うに笑えない状況になっていく。

ヒトラーの所業を見ていると、どうして国中があんな奴の言いなりになってしまったのか?という単純な疑問が頭をもたげてくるのだけど、頭の中では危険な思想を持ちながら、人当りがよく礼儀正しくはっきりした主張をするヒトラーの姿を映し出されると彼が巧みに民衆を味方につけていった様子をまざまざと再現されるようで戦慄が走る。

それが終盤の現在ドイツやヨーロッパ、ひいては日本も含め世界全体が置かれている内向きの視点に支配されている世の中に突如として現れたヒトラーが一気に支持を集めそうな気配につながっており、製作者側としてはそこに警鐘を鳴らしているのだろうけど、その警鐘が届きそうもない現代の社会の状態に恐ろしさを感じた。

ここまでヒトラーをネタにできるドイツ人たちの懐の深さというものも今回試されているのだろうと思う。ユダヤ人問題をこの蘇ったヒトラーはどう考えていたのかという部分はさすがに深くは掘り下げなかったようですが。ドキュメンタリー部分でもユダヤ人との直接のやりとりはなかった。さすがに演じる役者の身の安全も考えてのことだったのかもしれません。テレビ局で「ユダヤ人ネタは禁止」と言われるシーンでうまく触れないようにもっていっています。

ヒトラーを演じたオリヴァーマスッチは正直あまりヒトラーに似ていないなぁ、もっと似てる人選べたんちゃうん?と最初は思っていたのですが、演説(ネタ)前の自信たっぷりの沈黙ぶりや、熱の入った演説、時に激高して見せる姿などが(本物を知っているわけではないけど)迫力があってリアルにだんだんヒトラーに見えてきました。

こんな話にどうやってオチをつけるのだろうと思いながら見ていたのですが、ゾッとする終わり方でした。ここまで巧く非常に強烈に風刺をやってのける作品は珍しいと思います。これから変化していく社会情勢の中でこの作品の位置づけがどのようなものになっていくのかも興味深いところです。


スノーホワイト~氷の王国

2016-06-20 | シネマ さ行

続編できるんやー。ラヴェンナシャーリーズセロン死んだんちゃうん?いや、でもあの魔女のことやからどっかで生きててもおかしくはないか。

シャーリーズセロン、エミリーブラントジェシカチャスティンってワタクシの好きな女優がトリオで登場って贅沢やわー。この3人が映画のプロモーションで世界を回っている画像がインスタグラムなどで何度もアップされていましたが、本当に何度見ても贅沢な3ショット。

続編と言いましたが、お話はまず前作よりも時系列的には前の時代から。ラヴェンナには妹フレイヤ(ブラント)がいて、普通の少女で婚約者のいる男性を好きになってみごもってしまうのですが、その赤ちゃんを相手の男性が殺すという悲劇(もちろん実はラヴェンナの仕業ね)に見舞われて邪悪な面が目覚め氷の女王と化し、ラヴェンナとは離れて自ら氷の王国を作り上げます。

その氷の王国では子供をさらって来て厳しい訓練をし戦士に仕上げ、他の国を侵略するということを続けていました。フレイヤはこの世に愛などなく大切なのは忠誠心だけと子供たちに教えます。そこにさらわれてきて育ったエリッククリスヘムズワースとサラ(チャスティン)は恋に落ち、それがフレイヤにばれて引き裂かれてしまいます。

時系列的に言うとここで前作の「スノーホワイト」があるということかな。エリックとスノーホワイトがラヴェンナを倒し、ラヴェンナの魔法の鏡を今度はフレイヤが手に入れようとする。

エリックはフレイヤが魔法の鏡を手に入れるのを阻止しようと魔法の鏡を探す旅に出て、そこで死んだものと思っていたサラと再会する。サラはエリックが自分を捨てて逃げたものと思っていてエリックを許そうとはしてくれない。とかなんとか言って最初から許しちゃってるんですけどね。

お話自体はありきたりなものなんですが、それは前作からだいたい想像がついていたので、まぁこんなもんかなと悪くはなかったと思います。エリックとサラのコンビのやりとりが可愛らしくて女戦士サラがカッコ良くて良かったです。

エミリーブラントは悪役には少し迫力不足かなと思いますが、シャーリーズの迫力に勝つことはそもそもできないと思うし、あのお姉ちゃんの妹役なので、あれくらいでちょうど良かったのかもしれません。それにしてもこの氷の王国はどうしても「レリゴー」を思い出しちゃうなぁ。邪悪版エルサでした。

まぁとにかく女性たちが美しく、ゴールドとシルバーがテーマカラーの邪悪な姉妹の衣装も凝っていて目の保養としては抜群の作品でした。


サウスポー

2016-06-16 | シネマ さ行

ムビチケを買っていたのに、公開から一週間で上映回数がかなり減っていたので焦りました。そう言えば特に宣伝もしてないし、マイナー映画扱いなのか~。ワタクシは楽しみにしていたのにな。

楽しみにしていたのはジェイクギレンホールの出る作品にはいつも注目していることとレイチェルマクアダムズが好きだからです。ジェイクギレンホールのファンというわけではないけど、彼の出る作品はいつも興味深いものがあるのでチェックするようにしています。

施設で育ったやんちゃなボクサー・ビリーホープ(ギレンホール)は殴られれば殴られるほど燃え、相手にたくさん殴らせたあとに相手を倒すというスタイルのボクシングでチャンピオンの地位を守っていた。ビリーの妻モーリーン(マクアダムズ)は彼のスタイルを心配し、防衛戦に勝った今日も素直には喜べない。「こんなスタイルを続ければあと2年で廃人よ。そうなったとき、いまあなたに群がっているゴキブリたちはさっさと逃げて私とレイラ(娘)ウーナローレンスしかいなくなるわ」とキツイけど真実を突いたアドバイスをする。

挑戦者に慈善パーティで「お前のベルトとオンナを奪ってやる」と挑発されカッとなったビリーは止めるモーリーンを振り切ってケンカになり、何者かが放った銃がモーリーンに当たってモーリーンは帰らぬ人となってしまう。

ビリーにとってすべてと言っても過言ではなかったモーリーンを亡くし、自暴自棄になってしまった彼はお酒を飲み交通事故を起こし、裁判で娘のレイラを保護施設に取られてしまう。

そこからなんとか立ち直ろうとビリーは地元の小さなボクシングジムで昔自分を倒したことのあるボクサーのトレーナーであるティックウィルズフォレストウィティカーにトレーニングを頼む。

レイチェルマクアダムズが好きで見に行ったのにあっと言う間に死んでしまってめちゃくちゃ残念だった。こないだ見た「スポットライト」では可愛い笑顔を封印してシリアスな役者に徹していた彼女が、今回は施設で育ったアニマル柄が似合いそうなビリーの不良の取り巻きどもも簡単にあしらえるいい意味でのビッチをこれまたうまく演じていた。この役もこれまでの彼女の可愛らしいイメージとは随分違っていて、案外こういう役をリアルに演じるのは難しいと思うんだけど、意外にもすごくハマっていた。これまで彼女が演じた中で一番好きかも。見た目は可愛いのに、ビリーの敵の挑発を「あなた誰だったっけ?」と軽くいなすほどワイルドで家庭のこともビリーの試合の契約も全部仕切っていたしっかり者のモーリーン。彼女の役に説得力がなければこの後のビリーの荒れように説得力が出なくなる。モーリーンを亡くしたことを観客も一緒に悲しめなければこの物語全体が成り立たない。

しっかしこれはボクサー映画の王道だと思うんだけど、相手に挑発されてリング以外で簡単に殴り過ぎ。バカ!ビリー!お前さえあの時我慢していればモーリーンは死ななくて済んだんだよ。「ベルトとオンナを奪う」なんて使い古された言葉に挑発されるなんてほんとバカ。

とは言え、立ち直ろうとするビリーを応援したくなるのはひとえに娘レイラ10歳の傷ついた姿を見ているから。最愛の母親を突然に亡くし、支えになってくれるはずの父親は1人でバカやってる。裁判ではパパと暮らしたいと泣き叫んだものの、こんな状況に自分を置いた父親を恨んでもいる。そんな10歳の少女のイライラが素直に描かれていて好感が持てました。こういう作品の子どもってどこか良い子過ぎる感がある場合があるんですが、この作品のレイラはそんなことなくて自然体で良かったです。

ティックにトレーニングを頼んでからこれまでのスタイルを変えガードを固く相手のミスを誘いジャブで点数を稼ぐボクシングを覚えるビリー。これがモーリーンがずっと言っていたボクシングだよ。気付くの遅いよ。「モーリーンと気が合いそうだ」とティックに言っていたビリーはそのことに気が付いたのでしょう。このおバカさんがそれに気付くための代償がモーリーンの命というのはちょっと大き過ぎる気はしますが。

レイラを取り戻すべくボクシングに真面目に取り組みチャンピオンの座奪回のリングに上がるビリー。こういうスポ根ものの場合、どうせ勝つんやろ?と思って見ていることが大半ですが、この作品の場合はたとえビリーが負けたとしても彼のそれまでの努力だけで物語として成り立つと思っていたので、本当に勝つかどうか分からずに見ていました。勝っても負けても良い作品になることができたと思います。

ベタだけど父と娘の関係に泣けたなー。ジェイクギレンホールの肉体改造っぷりもすごかった。やはり彼の作品にはこれからも注目していこうと思いました。


デッドプール

2016-06-10 | シネマ た行

面白そうだなと思いつつも見に行く気はなかったのですが、タダ券があったので見に行ってきました。結果、見に行って良かったです。面白かったー。

全体的な感想としてはオバカで下品でエロいと聞いていたので、結構えげつないのを想像していたのですが、ワタクシの想像よりはマイルドでした。でもこれもダメな人はダメかも~というタイプの作品です。

まず始まり方からしてふざけている。Some Douchbag's Film(おバカな映画)主演God's Perfect Idiot(神が作った最高のバカ)と続いて、セクシーなオンナ、イギリス人の悪役、お笑い担当の脇役、といったふうに出演者スタッフを紹介。ティムミラー監督は自分自身のことは給料もらい過ぎのヤツ(toolって言葉は「手先」とかって意味?「ペニス」っていう意味とかけているのかも)と書いていて脚本家たちのことは「本当のヒーローは彼らだ」と自虐的に紹介していて、ふざけた中にも脚本家たちに敬意を示している。

いきなりド派手なアクションからスタートしてそのアクション中にデッドプールライアンレイノルズの回想として彼がなんでこんなマスクをして悪党と戦う羽目になったのかが語られる。回想っていうか、本当にこちら側にいる観客に話しかけて説明してくるところがまた面白い。彼は自分がコミックの主人公ということを自覚していてこちらに話しかけてきたり、映画の製作費が足りないとかぼやいてきたりします。こういう「第四の壁を破ってくる系」のって好みが分かれるところだと思うのですがワタクシは好きです。

その回想に登場するデッドプールはウェイドウィルソンという元傭兵。いまは適当に悪い奴を懲らしめて小銭を稼いでいる。そんな彼がバーで出会ったのが娼婦のヴァネッサモリーナバッカリン。ヴァネッサはウェイドと同じくらいクレイジーなキャラクター。2人は相性バッチリですぐに付き合い始め同棲して婚約に至った幸せの絶頂の時にウェイドは倒れてしまい、末期ガンだと診断される。

絶望した彼に近づいてきた男は彼にガンを治せると話す。ヴァネッサとの未来を考えガンを治したいウェイドはその男の施設に行くが、実はそこは奴隷を作るために人体実験をしている施設で、ウェイドはエイジャックスと名乗る男エドスクラインからミュータントの能力を覚醒させるためと拷問を受ける。壮絶な拷問の末に覚醒したウェイドだったが、拷問のため体中の皮膚が焼けただれたような姿になり、ヴァネッサの元に帰れなくなってしまう。

なんとか施設を逃げ出したウェイドは皮膚を隠すため全身タイツとマスクを手作りし、エイジャックス(本名フランシス)に復讐すべく行動を起こす。で、ここで最初のアクションシーンの意味が分かるのだけど、この説明中もアクション中もずーーーーっとずーーーーーっとデッドプールは喋りまくりのギャグ言いまくりの下ネタ言いまくり。ギャグの中には映画やコミックを元にしたものがたくさんあって映画ファンやコミックファンにはたまらない面白さ。ワタクシはコミックが元ネタのほうは分からなかったけど、映画が元ネタのほうはかなりウケました。

ライアンレイノルズが自分自身が演じたグリーンランタンや俳優としての自分自身を自虐的にネタにしてみせたりするのもなかなかに面白かった。ライアンレイノルズってこんなにいいセンスしてるとは思わなかったなぁ。見た目も(まぁほとんどがただれたような顔なんだけど)今回が一番カッコ良かった。ただれ顔になる前ね。彼は短い髪型のほうが似合うんですね。ずっとウェイドの髪型してるほうがいいと思うな。

ヴァネッサを演じたモリーナバッカリンは最近注目している女優さんで。ドラマ「ゴッサム」の中でもちょっと気の強い女性を演じているけど、今回ここまでぶっ飛んだ女性もできるんだーってなんだか嬉しくなってしまいました。勝手にちょっと優等生的なイメージがあったので。

ウェイドが好きな音楽がワム!だったりエンドロールが終わってからの格好が「フェリスはある朝突然に…」だったりと、80年代回帰みたいなのってここんとこ映画界での流行なのかなー。なんだかよく見かける気がします。

ここんとこヒーロー映画花盛り、食傷気味の中、私情の復讐のために悪者をバーン!って撃っちゃうデッドプールにワタクシは超スッキリしました。

アクションシーンは最初のやつが一番すごかったです。もうちょっとすごいやつを入れて来てくれても良かったと思うんですが、今回はウェイドがデッドプールになるまでのエピソードを語らないといけなかったからいっぱいいっぱいだったのかも。続編製作が決定しているようですので、続編ではもう少しアクションが見られるかも。続編だと過去を振り返るシーンを作る必要がないからウェイドはずっとただれ顔のままなのかなぁ。それはちょっと寂しいな。

オマケちなみに「第四の壁を破る」というのは「第四の壁」というのが劇場と観客を隔てる方向の透明な壁のことで、登場人物がその壁を破って、観客に話しかけたりすることを言います。