電脳筆写『 心超臨界 』

想像することがすべてであり
知ることは何の価値もない
( アナトール・フランセ )

◆東西文化融合の時代と無臍人

2024-07-16 | 05-真相・背景・経緯
§5-3 戦後の言論界を牛耳った「進歩的文化人」という名の敗戦利得者たち
◆東西文化融合の時代と無臍人


母の胎内にある時は、臍の緒というもので栄養を吸収して育って、そして外に出るとその臍の緒を切って、その痕跡が臍になるのですから、明らかに臍というものは、戦後の憲法流に言いますならば、伝統の象徴であります。臍のある限りは我々に歴史・伝統というものがあるということであります。ところが、その大事な歴史・伝統というものを目の敵のように疑惑したり、否定したりする。それを称して「臍のない人間」という。いわゆる進歩的文化人などといわれる人々に、この臍なし人種が非常に多いのであります。


『活眼 活学』
( 安岡正篤、PHP研究所 (1988/06)、p29 )
[1] 活眼・活学
1 肉眼と心眼

◇東西文化融合の時代と無臍人

おおよそ日本人くらい自国の歴史や民族文化をお粗末にしておるところは、ちょっと類がありません。若い世代の人々は、先祖の文化というものを、お伽噺から始めてだんだんと忘却しております。

いつでありましたか、早稲田の高等学校の試験に「坪内逍遥」、早稲田といえば坪内逍遥、これは早稲田の一つのシンボルでありますのに、坪内逍遥とは「庭の中を散歩すること」だなどという答が出ました。もとより堂々たる国会において代議士が、「毛沢東」のことを「ケザワヒガシ」などと言うのですから無理もないかもしれませんが。「空前絶後」という言葉は、これはもう熊さんでも八ッつぁんでも使っている言葉ですが、にも拘らず、学生の答の中に「午前空腹で午後気絶すること」だなどと書いてあったそうです。

「蒲柳の質」などという言葉も誰でも知っておることなんですが、「蒲団と柳行李を質にいれて酒を飲むこと」だなどというに至っては、実にもう驚くべき知識であります。あるいは推理力としては相当なものかも知れません。

しかしこうなってくると、もう儒教も仏教も道教もヘチマもありはしないので、どうもとんでもない非常識であります。外国人と附き合うとよく分かりますが、外国の知識階級は非常にクラッシックというもの、古典というものを大切にいたします。この古典的教養というものがあって、初めて新思想も新文明もあるのであります。それを日本人が惜しげもなく捨てておるのですから、まことに残念というよりも危ないことであります。

先般日本にも参りましたアーサー・ケストラー氏あたりが言い出したようでありますが、「臍のない人間」man without navel という言葉があります。現代は臍のない人間の時代であるなどといわれます。

何のことかと申しますと、人間というものはどんな人だって、火星から降って来たものでもなければ、木の股から飛び出したものでもないので、皆お母さんから産まれたものであります。それだけは、いかなる伝統否認の極左の思想を持っている者でもしようがない。俺だけは親の腹から産まれたんではないなどとは言えません。これはもう、どうしてもお母さんから産まれざるを得ないのです。

その母の胎内にある時は、臍の緒というもので栄養を吸収して育って、そして外に出るとその臍の緒を切って、その痕跡が臍になるのですから、明らかに臍というものは、戦後の憲法流に言いますならば、伝統の象徴であります。臍のある限りは我々に歴史・伝統というものがあるということであります。親には親の精神・文化がありますから、つまり親の伝統、親の文化、親の精神を継いで我々は産まれたのです。

しかもこの臍なるものは、単なるシンボルではなくて、非常に神秘な機能を持っております。今日だんだん西洋医学でも東洋医学と合致して参っておりまして、臍の機能の研究も進んできておるようであります。これは意外に神秘な機能があるようでありまして、漢方医学では臍のことを神の宮殿、神闕(しんけつ)と申しております。そういう生理的な機能ばかりでなくて、第一、美でもあります。どんなギリシャ、ローマの裸体美人の名彫刻、名絵画を見ても、臍のない腹はない。お臍のないおなかなんていうものは、蛙のおなかみたいなもので、どうも面白くありません。やっぱり臍のあった方が宜しい。

ところが、その大事な歴史・伝統というものを目の敵のように疑惑したり、否定したりする。それを称して「臍のない人間」という。いわゆる進歩的文化人などといわれる人々に、この臍なし人種が非常に多いのであります。ところが臍がなくては人間は育たない。この民族的・歴史的伝統。それに基づく新しい東西文化の融合が、新しい世界文化を産みつつあるのだということ。これが第二次大戦後の最も顕著な問題でありましょう。
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