孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コンゴ  紛争地域で10回目のエボラ出血熱感染 死者は200人を超え、ウガンダへの拡大も懸念

2018-11-17 22:04:59 | 疾病・保健衛生

(コンゴ民主共和国ベニで、エボラ出血熱とみられる症状で死亡した人のひつぎを消毒する医療従事者ら(2018年8月13日撮影)【11月11日 AFP】)

【「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」】
コンゴ(旧ザイール)で紛争下の性暴力被害者の治療に尽力し、今年のノーベル平和賞受賞が授与された男性産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏(63)は、1999年に病院を設立し、民兵らに暴行された5万人以上の性暴力被害者を受け入れてきたとのことです。【10月7日 共同より】

ムクウェゲ氏個人が関与したレイプ被害者が5万人以上ということは、この地域全体では気の遠くなるような凄惨な現実があるということです。

ムクウェゲ氏の称賛される点は、「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」とも言われるコンゴ東部の最悪の環境で危険を顧みず治療に当たってきたことです。【10月9日 米川 正子氏 東洋経済online「性的テロを告発したノーベル受賞医師の凄み」より】

コンゴは、紛争の絶えないアフリカにあっても、ひときわ紛争が激しく、かつ、長く続いている国です。

****長引くコンゴ問題*****
1996~1997年の第一次コンゴ紛争においては、「ジェノサイド(民族浄化)」とも特徴づけられる非人道的行為が行われた(国連報告書、2010年)。

1998~2002年の第二次コンゴ紛争においては、周辺国をはじめとする約17カ国が軍事的や政治的に介入して「第一次アフリカ大戦」とも呼ばれる大規模な国際紛争に発展した。

2003年に公式には紛争が終結してもなお、コンゴ東部では複数の武装勢力による活動が継続し、累計で約600万人という、第二次世界大戦後の世界において、一地域の犠牲者数としては最大の規模になっている。【同上 米川 正子氏】
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ムクウェゲ氏のノーベル平和賞受賞受賞は、コンゴにとって決して喜ぶべき事態ではなく、一刻も早く改善すべき現実を示すものです。

ムクウェゲ氏自身もコンゴ・カビラ政権の統治の実態を厳しく批判しています。このため、コンゴ政府はムクウェゲ氏の受賞を称賛する一方で、同氏が「人道と政治を混同」していると非難しています。

居座り大統領の不出馬も、「院政」の懸念 「公正な選挙」への疑問も】
任期切れ後も大統領職に居座り続けるカビラ大統領は、ようやく退任することを明らかにしていますが、公正な選挙が実施されるのか、カビラ氏の「院政」が行われるのではないか・・・といった懸念がありますります。

****<コンゴ民主共和国>大統領「不出馬」波紋 「院政」を警戒****
アフリカ中部コンゴ民主共和国のカビラ大統領が12月に予定される大統領選挙に出馬しないと発表した。

国内外から驚きの声が上がる一方で、カビラ氏が任期切れ後も大統領の座に居座り続けた経緯もあり、このまま身を引くと見る向きは少ない。
 
大統領選の立候補期限だった今月8日、カビラ氏は後継候補にラマザニ前副首相兼内務・治安相を指名したことを明らかにした。
 
カビラ氏は大統領だった父親が2001年に殺害されたあと、後任に就任した。16年末に2期目の任期が切れた後も退陣を拒否。3選を禁じる憲法の規定を覆して大統領選に出馬するとの観測が広がり、批判が高まっていた。

選挙の実施を強く促してきた米国のヘイリー国連大使は、カビラ氏の不出馬を歓迎する声明を発表。一方で、民主的な政権移行の実現には課題が残されているとも指摘した。
 
南アフリカ安全保障研究所のステファニー・ウォルターズ氏は、ラマザニ氏の指名について「カビラ氏は自身に忠実な人物を後継者に据えて、退陣後も影響力を維持しようとしている」と分析する。(中略)

野党陣営は連携を模索する。統一候補を立てれば「ラマザニ氏の勝ち目は薄い」(ウォルターズ氏)とみられている。一方で公正な選挙の実施を危ぶむ声も多く、投票日までには紆余(うよ)曲折が予想される。
 
日本の約6倍の国土を誇るコンゴは豊富な天然資源ゆえに紛争が絶えない。1998年に東部を中心に起きた内戦は周辺国も巻き込み、約540万人が死亡。国連によると、現在も450万人が避難民となっている。【8月21日 毎日】
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【紛争地域で発生した10回目のエボラ感染】
“現在も450万人が避難民となっている”「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」のコンゴでは、数多くの武装組織が豊富な地下資源の権利を奪い合う形で跋扈しており、東部には政府コントロールが及んでいないように思われる地域もあります。

国連はPKO部隊を派遣していますが、そのPKO部隊も攻撃対象となっています。

****アフリカ コンゴで国連PKO部隊の隊員7人死亡****
アフリカのコンゴ民主共和国で、国連のPKO=平和維持活動の部隊が武装勢力の攻撃を受け隊員7人が死亡しました。

これは国連が15日の定例の記者会見で発表しました。

それによりますと、アフリカ中部、コンゴ民主共和国の東部、北キブ州で14日、国連のPKO部隊が政府軍と合同でパトロール中に武装勢力の攻撃を受けました。

その結果、マラウイとタンザニア出身の隊員、合わせて7人が死亡、10人が負傷したということです。

攻撃があった地域は鉱物資源の産地で、国内外の多くの武装グループが資源の利権を奪い合い深刻な紛争が続いています。

PKOの部隊は武装グループを監視し、市民の保護に当たっていましたが、国連では、今回の攻撃は隣国ウガンダの反政府武装勢力ADF=民主同盟軍によるものだとしています。

国連のPKOはアメリカなどの要求で予算が大きく削減される中で、隊員の対応能力の向上と装備の近代化が課題になっています。

政府軍との合同の任務にもかかわらず今回、7人もの犠牲者を出したことで武装勢力の攻撃に対する部隊の運用能力をどう高めるか早急な検討が求められることになりそうです。【11月16日 NHK】
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長引く紛争、跋扈する多くの武装組織、「世界のレイプ中心地」、混迷する政治・・・これだけでも十分すぎる悲惨な状況ですが、コンゴでは今、致死率が50~80%といわれるエボラ出血熱の感染拡大が続いています。

エボラ出血熱と言うと、2014年2月から西アフリカのギニア、シエラレオネおよびリベリアにおいて流行し、複数国にまたがるパンデミックとなったことの記憶がまだ新しいところです。

世界保健機関 (WHO) の2015年10月18日の発表によると、西アフリカでのパンデミックでは感染疑い例も含め28,512名が感染し、11,313名が死亡したとのことです。

このエボラ出血熱は、実は過去の発生のほとんどが中部アフリカのコンゴで起きており、コンゴではこれまで9回の発生が確認されています。(今回は10回目)

前回、9回目の発生は今年5月でした。このときは、“今回のアウトブレイクが過去のものと違うのは、感染例のうち4件は都市部で確認された点だ。コンゴ共和国との国境に近い西部のムバンダカという人口100万人超の都市で、首都キンシャサとの交通の便もいい。つまり、都市での感染拡大という恐ろしい事態が起きる可能性がある。”【5月30日 WIRED】という都市部への感染拡大が心配されました。

一方で、新たに開発されたワクチン投与も本格的に投入され、その効果が注目されていました。

(5月19日ブログ“コンゴでエボラ出血熱拡大 ナイジェリアのラッサ熱、南アのリステリア感染 日本の麻疹流行”)

この5月の感染は死者33人を出したものの、それ以上に拡大することは食い止められ、7月24日にコンゴ政府は終息宣言を出しています。

しかし、直後の8月1日にコンゴ保健省は、東部の北キブ州でエボラ出血熱が流行していると10回目の発生を宣言しています。

この8月以来の10回目の感染は、今も広がり続け、コンゴでの感染の最悪事態となる200人を超す死者を出す状況に至っています。

****エボラ感染「最悪の事態」感染が300人超 コンゴ政府****
エボラ出血熱が流行しているアフリカ中部のコンゴ民主共和国で、感染が確認された人が300人を超え、政府は1976年に最初の流行が起きて以来、最悪の事態になっていると発表しました。

コンゴ民主共和国のカレンガ保健相は、9日、声明を出し、東部の北キブ州などでことし8月以降続いているエボラ出血熱の流行で感染が確認された人が319人になり、198人が死亡したと発表しました。(筆者注:同日【産経】では201人)

コンゴ民主共和国では、1976年以来、これまでに9回の流行が起きていますが、今回、感染が確認された人の数は、これまでで最も多かった最初の流行を超え、過去最悪の事態になったということです。

今回、感染が流行している東部は鉱物資源の産地として知られ、中央政府の統治が及ばない中で多くの武装グループが資源の利権を奪い合い、深刻な紛争が続いています。

国連は、世界最大規模のPKO=平和維持活動の部隊を送り込んでいますが情勢は安定せず、戦闘に阻まれて医療関係者が十分に活動できない中でエボラ出血熱の感染が広がっています。

カレンガ保健相は、声明の中で「今回の流行ほど複雑な状況はない。地元の住民と政府、それに国際社会の連携が欠かせない」と訴えています。【11月11日 NHK】
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前回5月のときは都市部感染が問題となりましたが、今回の場合は発生地域が前出PKO部隊襲撃事件が起きるような政府コントロールが不十分な東部の紛争地域のため、国際的な医療活動もままならないという点です。

“WHOが拠点を置く北キブ州ベニで(9月)22日、武装勢力が住民を襲撃し約20人が死亡した。WHOは活動を一時中断したという。”【9月26日 】

現実に医療関係者にも襲撃による犠牲者も出ているようです。

****エボラ流行のコンゴ民主共和国、死者200人超える****
エボラ出血熱が流行しているコンゴ民主共和国で、エボラによる死者数が200人を超えた。同国保健省が10日、発表した。

同省によると、今年8月の流行開始以降、死者は201人、感染が確認された症例は291件に達した。約半数は北キブ州のベニで確認されたという。

国連の平和維持活動局は9日、北キブ州で活動する武装集団らに対し、エボラ対策への取り組みを阻害しないよう求めた。

コンゴのオリ・イルンガ保健相も9日、緊急対応チームは武装集団から脅しや暴力を受けたり、装備を壊されたり、拉致されたりしていると懸念を表明。緊急対応医療班のメンバー2人が襲撃を受けて死亡したという。

イルンガ保健相は今月初め、エボラのワクチン接種プログラムを8月8日に開始して以降、これまでに2万5000人が接種したと発表していた。【11月11日 AFP】
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【隣国ウガンダへ国境を超える事態への懸念も】
紛争地域という対応の難しさ、発生地域が隣国ウガンダに近いことなどもあって、感染は国境を越えてウガンダに拡大することが懸念されています。交通インフラの発達が、こうした感染拡大を助長している面もあります。

****アフリカ中部で勢いを増すエボラ出血熱が、「国境を越える」かもしれないこれだけの理由****
アフリカ中部のコンゴ民主共和国でエボラ出血熱の流行拡大が続き、エピデミック(局地的な流行)の様相を呈している。

交通インフラが整備されたことによる拡散の懸念、紛争地帯での流行による封じ込めの難しさ、そして隣国ウガンダへの拡散の危険性──。医療関係者が「これまでとは違う」と口を揃える今回のエピデミック。果たしてエボラ出血熱の勢いを止めることはできるのか。

エボラ出血熱という言葉からは、誰もが恐怖しか感じないだろう。患者の血液や体液から感染し、発症後の致死率は平均で50パーセント前後とされる。そして、ウイルスの拡散を阻止することは極めて難しい。

現在、アフリカ中部のコンゴ民主共和国で起きているような流行を食い止めるための最善かつ恐らく唯一の方法は、感染者の追跡を徹底することだ。

どのような社会集団に属しているのかを割り出し、行動範囲を特定して、数週間は他人との接触を極力避けるよう指導する。

ただ、米国疾病予防管理センター(CDC)のロバート・レッドフィールドによると、11月に入ってからは感染拡大を防ぐことはほとんど不可能になっている。

レッドフィールドは今回の流行をコントロールすることはできず、最悪の場合、今後はエボラがこの地に継続的に存在するようになる可能性もあると指摘する。もしそうなれば、1976年にウイルスが発見されて以来で初めての事態だ。

国境を越える危険性は「非常に高い」
(中略)感染のリスクの高い25,000人以上を対象にしたワクチン接種プログラムは一定の効果を見せているが、流行が終息したわけではない。10月31日から11月6日までの1週間に、国内では29人の感染が明らかになったが、うち3人は医療従事者だった。

一方、隣国ウガンダへの拡大も懸念されている。コンゴとウガンダの国境線は545マイル(約877km)に及ぶ。しかし管理が緩いために、物資の輸送だけでなく周辺住民や難民の行き来も激しい。検問所の通過者は平均で1日5,000人だが、週に2回のマーケット開催日には20,000人に膨れ上がる。

ウガンダでは11月初め、医療従事者に対する新しいワクチンの接種が始まった。まだ試験段階のものだが、今年の春から夏にかけて起きた前回の流行では効果を発揮した。保健省は国境周辺の5地域で働く医師や看護師向けに、2,100人分のワクチンを用意したと明らかにしている。(中略)

交通インフラ整備との皮肉な関係
コンゴでのエピデミックが始まって以来、同国からウガンダへの入国者に対しては必ず、国境で質問票の記入と赤外線カメラを使った体温検査が行われている。

発熱は初期症状のひとつだが、医療チェックさえ行っていれば問題ないというわけではない。エボラ出血熱ではウイルスへの感染から発症までの潜伏期間が最長で3週間になるほか、アフリカには発熱を伴う感染症がほかにもたくさんあるからだ。

ウガンダが警戒を強めている背景には、今回の拡大の特殊な事情もある。コンゴでは過去に9回の大規模な流行が起きているが、感染の中心地が紛争地域と重なっているのは初めてだ。

また、アフリカ大陸では人口の急増、中国による数十億ドル規模のインフラ投資、人間の居住区域の拡大によって野生動物との接触が増えるといったさまざまな社会変化が起きており、これがエボラのアウトブレイクにも影響を及ぼすと考えられている。

ボストン・メディカル・センターのナヒド・バデリアは、2014年にシエラレオネで起きたアウトブレイクの際に現場で対策に当たった経験をもつ。バデリアはアフリカの現状を以下のように説明する。
「道路などの交通インフラの整備が進んだことで人の移動は容易になりましたが、皮肉なことにウイルスも広まりやすくなってしまいました。また、公共の医療システムの発展がインフラ改良のスピードに追いついていないことも問題です」

過去のエボラの流行は、自然災害で言えば地震に似ている。アクセスの悪い奥地で発生するため、患者を探し出して治療し、感染を封じ込めるために危険地域を封鎖することは簡単だったのだ。

ところが、人口密度の高い場所や武力衝突の起きているところで流行が起こると、感染者の追跡は困難になる。今回の流行がウガンダにまで広がれば、単に地域が拡大したというだけでなく、エピデミックの歴史に新しい1章が加わることになるだろうと、バデリアは警告する。

最悪の事態は脱した?
ウガンダが総力を挙げてエボラが自国に入り込むのを防ごうとしている一方で、世界保健機構(WHO)などの国際機関は、武装集団が実効支配する地域での感染拡大を巡る懸念を示している。

WHOで緊急事態対策を担当するマイク・ライアンは、「WHOや政府当局はこうした地域には足を踏み入れることができないため、ここで感染を広めることは絶対に避けなければなりません」と話す。「エボラウイルスは包囲網の隙を突いて拡散していきます。できる限り情報をオープンにしておくことが重要なのです」

ライアンは北キヴ州からアイルランドの自宅に戻ってきたばかりだが、状況は予断を許さないとしながらも、流行は最悪の段階を脱しつつあるとの見方を示している。

現場の医療チームは、9月半ばにウガンダ国境に近いベニで始まった流行の第二波を食い止めることに成功した。ライアンは「感染をほぼ完全に医療施設内だけに閉じ込めることができました」と説明する。(後略)【11月14日 WIRED】
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