孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン内戦  国連仲介の和平協議 サウジ人記者カショギ氏殺害事件がサウジ・アメリカに影響か

2018-11-23 22:18:43 | 中東情勢

(イエメン・タイズの病院で横になる、体重8キロという10歳の少年(2018年11月19日撮影)【11月21日 AFP】)

【最大8万5000人の子どもが餓死・病死 虚弱すぎて泣くことすらできない子も】
中東最貧国イエメンでは、イランが支援していると言われる反政府勢力フーシ派と、大規模空爆でサウジアラビアやUAEが支援する暫定政府の間で内戦が続いており、イラン・サウジの代理戦争とも見られています。

シリアなどに比べると国際社会からはあまり注目されていませんが、長引く内戦と飢餓・疫病によって住民犠牲が拡大し続けていることは、これまでも取り上げてきたところです。
(9月21日ブログ“イエメン 再開した重要港湾ホデイダをめぐる攻防 深刻化する飢餓の脅威”など)

戦闘による直接被害もさることながら、混乱状態で深刻化する飢餓や、重要港湾封鎖で援助活動もままならない状況の影響が大きいようです。

****内戦下のイエメン、最大8万5000人の子どもが餓死・病死****
子どもの支援を専門とする国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は21日、内戦が続くイエメンで2015年以降、8万5000人もの5歳未満の子どもが、飢餓や病気で死亡した可能性があると明らかにした。この推計は国連が収集したデータを基にしたもの。

イエメンではサウジアラビア主導の連合軍が支援する暫定政権と、イランが支援するイスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派が戦闘を続けており、国連は最大1400万人が飢餓に陥る恐れがあると警鐘を鳴らしている。
 
セーブ・ザ・チルドレンのイエメン統括責任者は「爆弾や銃弾で命を落とした子ども1人に対し、数十人の割合で餓死している。(餓死は)完全に防ぐことができるのにだ」と述べ、「こうした死に方をする子どもたちは、生命維持に不可欠な臓器の機能が衰え、最終的に停止するまでひどく苦しむ」と語った。
 
さらに「子どもたちの免疫システムは非常に弱いため、いっそう感染しやすく、中には虚弱すぎて泣くことすらできない子もいる。親たちは痩せ細っていく子どもを目の当たりにしなければならず、それでも何もしてやることができない」と述べた。
 
イエメンのホデイダ港には、同国への輸入食料と支援物資の約80%が入ってくるが、港は昨年から暫定政権に封鎖されている。
 
セーブ・ザ・チルドレンによると、イエメン北部への供給も南部アデンの港を使わなければならず、支援物資の配送は著しく遅れているという。【11月21日 AFP】AFPBB News
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“「セーブ・ザ・チルドレン」によると、サウジ主導の有志連合がホデイダの港を封鎖してから、食料の輸入は1カ月当たり5万5000トン余り減少した。これは、子ども220万人を含む440万人分の食料に相当する。
ホデイダの港が使えなくなり、物資を南部アデンから運び込むようになった結果、最も必要とされる場所へ届けるまでに3倍の時間がかかるようになったという。“【11月21日 CNN】

【膠着状態のホデイダ攻防】
軍事的には、上記にもある、今後の帰趨に大きく影響する重要港湾ホデイダ(現在はフーシ派の支配下)の攻防が焦点となっていますが、政府軍による奪還作戦が本格化した6月以降、サウジ・UAEの大規模支援を受けながらもあまり大きな進展はない(政府軍側が攻めあぐねている)ようです。

al jazeera net (カタール系)は、戦況について以下のように伝えています。

****イエメン情勢****
(中略)これに対して、al jazeera net (カタール系)は、これが政府軍等がホデイダを落せない理由だと題して、ホデイダの衛星写真を入手して検討したところ
・政府軍は未だホデイダ市内には入っていない
・戦闘は東部の入り口だけで行われている
・これに対してhothy軍はホデイダ全域に渡って、要塞化をし、塹壕を掘り、市の周辺40㎞に防衛体制を築いている
・このため政府軍がホデイダ港に入るには市の中心部を通る必要がある
・この写真について、hothy軍は、これまでも戦闘がホデイダ周辺の砂漠地帯で続いてきたとの主張を裏付けるものとしている。【11月22日 「中東の窓」】
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国連仲介の和平協議がスタート
イエメン内戦については、先述のように国際社会の関心はあまり高くないものの、深刻化する住民犠牲に対し国連・人権団体からの批判は強まっています。

****イエメン戦争が作り出す人道的危機****
(中略)戦争は、重大な人道的危機を引き起こしている。

国連の報告書によれば、サウジの空爆は文民目標を繰り返し攻撃しているという。米国製の爆弾も文民殺害に用いられている。

最近のHuman Rights Watchの報告書は、「サウジなどの連合の行う調査が不十分で、戦争犯罪の隠蔽になっている」と非難するとともに、「サウジに武器を売却している米英仏は違法行為への加担のリスクを負う」と警告する。
”【9月24日 WEDGE】
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こうした批判に加え、サウジ・政府軍側が“攻めあぐねている”状況(フーシ派側の被害も甚大だと思われます)もあって、国連仲介で和平の模索も始まっています。

****フーシ派、サウジ攻撃の停止表明 イエメン武装組織****
内戦が続き人道危機が深刻化したイエメンで、イランの支援を受ける武装組織フーシ派は19日、敵対するサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)へのミサイル攻撃などを停止すると発表した。国連の仲介を受け入れた。ロイター通信が報じた。

サウジ主導の連合軍も、激戦が続く西部の港湾都市ホデイダでの地上作戦停止を決めたと伝えられている。国連主導の和平協議開催に向けた一歩だが、双方の不信感は強く、停戦の実現と継続には困難が伴いそうだ。

フーシ派は声明で「国連特使の要請を受け、侵略国へのミサイル攻撃と無人機攻撃の停止を宣言する」と述べた。【11月19日 共同】
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****国連特使がイエメン入りへ、和平協議準備で****
イエメン内戦の終結を求める国際社会の声が高まる中、スウェーデンでの開催が予定されている和平協議の準備のため、近く国連特使がイエメン入りすることが20日、分かった。(中略)

9月にスイス・ジュネーブで予定されていた和平協議は実現せず、国連のマーチン・グリフィスイエメン担当特使は年内の協議開催を目指している。グリフィス氏は21日、イエメンの首都サヌアでフーシ派の幹部と会談する予定。

暫定政権とフーシ派は共に先週、国連の仲介によるスウェーデンでの和平協議に前向きな姿勢を示したものの、一方で13日には港湾都市ホデイダでの両者の戦闘が激化。暫定政権軍はその後攻撃を中止したが、19日にもホデイダ東部を中心に新たな戦闘が発生し、予断を許さない状況だ。

ホデイダは人道支援を含むほぼすべての輸入品が荷揚げされる港湾都市。英国は19日、国連安全保障理事会にホデイダの即時停戦を求める決議案を提出した。【11月21日 AFP】AFPBB News
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【サウジアラビア人記者カショギ氏の殺害事件がサウジ・アメリカの対応に大きく影響】
国連のイエメン特別代表との協議のなかででフーシ派は、“和平に対し真剣であること、捕虜問題等の人道問題、ホデイダ港等の経済問題その他あらゆる問題につき、議論の用意があるとした由。しかし、停戦に関する米のイニシアティブは、kahsshoggi事件でサウディについて危機感を抱いた米国が考えたもので、イエメンの人道問題に対する憂慮から出たものではなく、米等が真剣とは考えられないと不信感を示した由”【11月22日 「中東の窓」】と語っているとのことです。

今回の和平協議の行方には、上記にもあるように、サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件が大きく影響しています。

まず、これまでイエメン内戦を主導してきたサウジアラビアの実力者、ムハンマド皇太子にすれば、国際世論からの批判の集中砲火を浴びている状況で、イエメン内戦を和平の方向に導くことは、批判緩和に役立つと思われます。

****イエメン武装組織、攻撃停止発表 サウジ皇太子の停戦決断が焦点****
(中略)サウジ主導の連合軍も、激戦が続く西部の港湾都市ホデイダでの地上作戦停止を決めたと伝えられている。

国連主導の和平協議に向けた一歩だが、双方の不信感は強い。実現に向けては、事実上のサウジ最高権力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が停戦を決断できるか否かが焦点となる。【11月21日 共同】
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サウジアラビア擁護姿勢を批判されているアメリカ・トランプ大統領としても、支援するサウジアラビアがイエメン大規模介入を続けて住民被害が拡大する状況は、トランプ批判を強めることになり望んでいないでしょう。

フーシ派は、このあたりのことに不満を表明しているようですが、理由は何であれ、和平が実現するなら“良いこと”です。

さらに一歩踏み込んで、フーシ派に強い影響力を持つイランをも巻き込んで、中東全体の緊張緩和に寄与する協議がなされるなら、トランプ大統領の“ディール”も高く評価されるところでしょうが、そこまでは難しいかも。

トランプ大統領に極めて批判的なパレスチナ系メディアは、トランプ大統領の対イラン制裁を失敗と断じたうえで、以下のように論じているそうです。

*****対イラン制裁の失敗(アラビア語紙の解説)*****
(中略)トランプにとって選択肢は2つしかない
一つは戦争であるが、これは大惨事に陥る可能性が強い

もう一つはイエメンで、イランを巻き込んでの和平を探求することで、イランに対しても一定の役割を認めれば、イランもhothyグループに圧力を加える等、協力してくる可能性も強い【11月23日 「中東の窓」】
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イランを巻き込んだ和平協議が“中東全体の緊張緩和に寄与する”とは書きましたが、もともとトランプ氏自身が火をつけて煽り立てている緊張であり、その火の手を幾分抑えるだけの話です。

和平協議のスケジュールについては、以下のように。

****イエメン和平協議、12月初めにスウェーデンで開催か=米国防長官****
マティス米国防長官は21日、イエメン内戦当事者間の和平協議が12月初めにスウェーデンで行われる公算が大きいとの認識を示した。

イスラム教シーア派武装組織フーシ派と政府関係者が出席するとの見通しを示した。記者団に語った。

マティス氏は、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がイエメンの主要港湾都市ホデイダ付近で攻撃活動を中止し、一部で戦闘はあったものの、前線の状況は少なくとも72時間変化がないと指摘した。【11月22日 ロイター】
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