孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン  ジブラルタル フランコ総統 カタルーニャ

2018-11-24 22:59:05 | 欧州情勢

(【11月24日 読売】)

【ジブラルタル問題の扱いで、英EU離脱交渉に待ったをかけたスペイン】
イギリスのEU離脱については、11月22日にイギリスとEUが離脱後の関係の大枠を定める「政治宣言」の草案で大筋合意したものの、イギリス国内において議会承認が得られるのか、メイ首相は非常に厳しい局面にある・・・ということは周知のところです。

最大の問題となっているのは、地続きの国境線を有するものの、物・人の流れで一体化が進んでいる、また、激しいテロを伴う対立の傷が未だ癒えていない、アイルランドと英領北アイルランドの間の国境管理をどうするのか・・・という問題です。

通常の国境管理を復活させれば、沈静化している紛争を再燃させる危険性がありますが、では他にどういう方法で管理するのか・・・という話です。

ただ、ここにきて、もうひとつの問題も表面化しています。英領ジブラルタルの領有権をかねてより主張しているスペインの反発です。

冒頭記述で「大筋合意」と書きましたが、漁業問題と、このジブラルタル問題がまだ詰めの協議を必要としています。

****スペイン、英領ジブラルタルは個別に対応と主張 EU離脱合意案で****
スペインのボレル外相は19日、英国の欧州連合(EU)離脱合意案で英領ジブラルタルの扱いについて、スペイン政府による個別の合意が必要と明記されていない場合は合意協定を支持できないと表明した。

EU閣僚会合に出席するためブリュッセルに到着したボレル氏は、離脱後の英・EU関係に関する今後の協議ではジブラルタル問題を取り上げないと協定に明記することをスペインは求めていると説明。

スペイン南海岸の半島にあるジブラルタルは1713年に英領となったが、スペインはかねてより領有権を主張している。

ボレル氏は「英・EU間の交渉は領土面ではジブラルタルを含まず、ジブラルタルの将来に関する交渉は切り離して行われる」と述べた。

「これを明確にする必要があり、離脱協定や(英・EUの)将来関係に関する政治宣言で明記されない限り、協定を支持することはできない」と言明した。

ジブラルタルは英国とともに来年3月にEUを離脱する予定。ただ、2016年の国民投票では、住民の96%がEU残留を支持している。【11月20日 ロイター】
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離脱協定案に「英EUは将来の関係を巡る協議を迅速に行っていく」などと盛り込まれたことに対し、「将来の関係を巡る協議」からジブラルタル問題が除外されることを明文化するようスペインが求めているということのようです。

少なくとも今のところは、スペイン政府の姿勢は強硬です。

****ジブラルタル合意なければ首脳会議「なくなる」 英離脱協定めぐりスペイン首相****
スペインのペドロ・サンチェス首相は23日、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)に関し、スペイン領に囲まれた英国の飛び地ジブラルタルをめぐる問題がまず解決されない限り、離脱協定案署名のためのEU首脳会議は「ほぼ確実になくなる」と警告した。

スペイン政府はブレグジット以降のEU・ジブラルタル関係をめぐる合意への拒否権を保証するよう求めており、それが認められなければ離脱協定を破談にすると警告している。

同首相は訪問先のキューバで行った記者会見で、「合意がなければ、欧州理事会(EU首脳会議)はほぼ確実になくなる」と述べた。

スペインは、ジブラルタルに適用される英・EU間の今後のあらゆる合意について、最初に英・スペインによる2国間交渉を行ってからでなければ署名できないとする公約を要求。これが実現すれば、EU・ジブラルタル関係をめぐる実質的な拒否権がスペインに与えられることになる。

スペイン当局者らはサンチェス首相の発言に先立ち、ベルギーのブリュッセルで、要求が受け入れられなければ同首相は首脳会議に出席しない可能性があると述べていた。

首相自身は会議の欠席について言明を避けたが、現在の「保証は十分ではないため、スペインが離脱協定を拒否する可能性は残っている」とした。【11月24日 AFP】AFPBB News
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ジブラルタルのイギリス領有は、1713年、スペイン継承戦争ならびにアン女王戦争の講和条約としてフランス・スペインとイギリス、オランダ、プロイセン、サヴォイア公国とのあいだで成立した「ユトレヒト条約」にさかのぼる・・・ということで、「世界史教科書」的な話でもあります。
(2013年8月13日ブログ“ジブラルタルを巡り、イギリス・スペインの対立がエスカレート”)

かねてより領有権を主張しながらもイギリスから相手にされないスペインとしては、EU離脱というイギリスにとっての一大事を人質に取る形で、何らかの前進を図りたいところのようです。

これまで、ジブラルタル住民はイギリス帰属を望んできましたが、EU離脱については残留を希望している(離脱したら、ジブラルタルの“孤島化”はますます強まります)ということで、住民意識レベルでも若干の変化があるかも。

まあ、交渉事ですから、どういう形で落ち着くのかはわかりませんが、前回ジブラルタルについて取り上げたのがもう5年前になる(つい1,2年前のようにも思ったのですが・・・)ということで、月日が経つのは早いものだ・・・という個人的思いを感じた次第です。

そんなつまらないことはともかく、日本も隣国との間で領土問題を抱えており、この種の問題では“熱く”なりがちではありますが、ジブラルタル問題は、「領土問題は多くの国が、途上国であれ、先進国であれ、独裁国であれ、民主主義国であれ、抱えているもので、“ごく普通にみられるもの”だとの認識は、過度に“熱く”なることを防ぐ一助になるかも」・・・との思いを抱かせてくれます。

(追記:ジブラルタル問題は合意がなされたとのことです。「直前にEU加盟国のスペインが合意案での英領ジブラルタルの扱いを巡って強硬に反発するなどEU内で足並みの乱れが表面化し、首脳会議の開催が危ぶまれたが、24日午後の英国、EUとスペインの間の協議で妥結した。」【11月24日 23:10 毎日】)

【今更の「過去の問題」か、明日に向けての重要な一歩か】
「ユトレヒト条約」は「世界史教科書」の中の出来事ですが、スペイン内戦となると、今も市民の間に傷跡を残している問題です。

そのスペイン内戦の中心人物であるフランコ総統の墓も問題は、9月14日ブログ“スペイン 独裁者フランコ総統の墓移転を決定 「民主化時代」の一歩か、「古傷」を広げる行為か”でも取り上げました。

最近、その問題に関する記事を目にしました。内容的には前回ブログからの変化はありません。

****フランコの墓移設、埋まらぬ溝 スペイン、首相方針に賛否二分****
36年にわたりスペインで独裁を敷いたフランコ総統の墓の扱いが波紋を広げている。首相が墓の移設を決めたところ、議論が噴出。同じ施設に眠る内戦犠牲者の扱いも未解決だ。自国の歴史に向き合うスペイン社会の苦悩が垣間見える。

 ■「古傷開くだけ」との批判も
深い緑の山の中腹に、高さ150メートルの巨大な白い十字架がそびえている。マドリードから北西に50キロ。1959年に完成した慰霊施設「戦没者の谷」だ。岩山をくりぬいた奥行き260メートルの聖堂がある。

内戦に勝利したフランコ総統の命令で造られた。内戦犠牲者3万人以上が眠るが、中心にあるのはフランコ自身の墓だ。兵士の巨像、聖書を題材にした巨大絵画などの装飾があふれている。
 
サンチェス首相は8月、「未来を志向する国は過去とも和解しなければならない」として、この施設からフランコの墓を移す方針を決めた。全市民がわだかまりなく訪れられるようにする狙いだ。
 
世論は割れた。スペイン紙の調査では移設賛成が41%、反対が39%。施設周辺で尋ねると、高校生のアルバロ・マルティンさん(16)は「フランコは偉大な人物。スペインを大国にしたんだから。墓を移すなんておかしい」。

ハイキングで立ち寄ったフェリックスさん(56)は「独裁は過去の話。今さら問題にしても古傷を開くだけ。年金や失業問題など、他にやることがたくさんあるはず」。
 
10月31日、芸術家の男がフランコの墓に赤いペンキのようなもので「自由のために」と書く事件があった。「親、祖父母の世代が奪われた自由に対する行動」だったと報じられた。
 
政府は混乱を避けるため、墓を移す日を明らかにせず、移設先も未定だ。フランコの遺族がマドリードの大聖堂を希望したが、10月末に「犯罪者を聖堂にまつるな」と反対する1千人規模のデモが起きた。(後略)【11月22日 朝日】
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日本にも靖国神社の問題がありますが、自らの歴史と向き合うのは、立場によって意見も分かれるため、どこの国でも難しいものです。

【独立“騒動”で経済的には減速するカタルーニャ 多様な人々の平和的共存を壊す独立幻想・・・との批判も】
スペインというと、ひと頃国際ニュースで話題になっていたのがカタルーニャ独立問題。(カタルーニャ弾圧を厳しく行ったのが上記フランコ総統でもあります)最近はあまり目にしません。

カタルーニャは独立“騒動”を受けて、経済的には大きなマイナス影響があったようです。

****カタルーニャ州経済に陰り 独立機運で企業が二の足  27日に自治権停止から1年 ****
スペイン北東部で独立機運の高いカタルーニャ州の景気が鈍っている。同州政府によると、4~6月期の同州の域内成長率は実質で前年同期比3.1%となり、17年4~6月期の同3.3%から減速した。四半期ベースでは3年半ぶりの低水準。

独自の住民投票を中央政府に否定され、自治権を停止されてから(10月)27日で1年。同州の独立機運はなお旺盛で、混乱を嫌い州内への投資に二の足を踏む企業が目立つようだ。

カタルーニャ州政府によると、スペイン国外から同州への投資は1~6月に前年同期比で4割減った。この1年間で4千社以上が登記上の拠点を同州から外に移した。

同州の面積はスペイン全体の6%ほどにすぎないが、自動車、IT(情報技術)などの産業が集積し経済規模はポルトガル全体を上回る。同州の不振はスペイン経済全体にも影を落としている。

カタルーニャ州の住民の多くが独立を望む理由は文化の独自性だけでない。同州で支払う税金の多くがほかの州のために使われていると考え、不満を持っているからだ。

10月2日にはキム・トラ州首相が、月内をメドに、独立の是非を問う住民投票の実施を中央政府のサンチェス政権が認めなければ、同政権の支持をやめると迫った。

サンチェス首相を支える社会労働党の下院議席は4分の1に届かず、少数与党として基盤は脆弱だ。この弱みを突くが、サンチェス政権はトラ氏の要求を明確に拒否している。

カタルーニャ州は2017年10月の住民投票を経て独立を一方的に宣言したが、この投票は違憲とされ、中央政府は同州の自治権を停止した。

独立派が過半数を占める州議会を背景に18年5月、州首相に就任したトラ氏は、中央政府のお墨付きを得たうえで住民投票を実施する考え。

だが9月に同州で地元紙が実施した世論調査では、独立反対が48%で、賛成は44%。すぐに州議会選がある場合、独立派は過半数を割り込むと予想される結果になった。【10月26日 日経】
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カタルーニャ経済が減速した結果、“マドリード州のGDP19.1%がカタルーニャ州18.9%を上回ったことを指摘した。これまで、カタルーニャがマドリードをいつも上回っていた。”【10月30日 白石 和幸氏 アゴラ】ということいにも。

白石氏は“スペインで民主政治を施行されてから実施されたカタルーニャでの選挙で独立反対派が得た票数は独立支持派の票数を常に上回っている。それが逆になったことは一度もない。ところが、現行の選挙制度では独立支持派政党に有利な議席の割り振りになっていることから独立支持派が常に議席総数において独立反対政党の議席数を上回っている。”【同上】とも指摘しています。

「反逆」などの容疑で逮捕状が出ており、海外に逃れているプチデモン前州首相は独立への姿勢を崩していません。

****プチデモン氏、新党設立=カタルーニャ独立宣言1年―スペイン***
スペイン北東部カタルーニャ自治州の一方的な独立宣言からちょうど1年にあたる27日、プチデモン前州首相が新党「呼び掛け」を設立した。
 
ベルギーに滞在中のプチデモン氏は、カタルーニャ州中部マンレザで行われた結党大会に中継映像を通じて参加。「1年前、われわれは何があっても戦い続けると決意した」と語り、結束強化を呼び掛けた。【10月28日 時事】
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こうしたプチデモン前州首相など独立派の主張に対する反論で、独立反対派の学者、法律家ら63人が署名しているのが下記記事です。

****カタルーニャ独立派は「2つの重大な嘘をついている」****
<分離独立ではなくスペインの民主主義に参加するべき──独立反対派の学者、法律家らによる問題解決への提言>

スペインは1978年憲法により民主主義国となって以来、40年にわたり経済的繁栄と完全な政治的自由を享受してきた。この憲法は国民投票によって承認された。カタルーニャの投票率は67.9%で、その90%以上が賛成だった(マドリード地方の賛成率よりも高かった)。

この憲法を改正して、特定の地域が独立できるようにするためには(現行では独立は認められていない)、新たなスペイン全体の国民投票が必要だ。

ところが調査会社GESOPの最近の調査によると、カタルーニャでは法的拘束力を持つ国民投票の実施に賛成する人は半分以下(約42%)のようだ。

スペイン警察が出動しなければならない事態は、そもそもカタルーニャ州政府によって引き起こされた。独立の是非を問う17年10月1日の住民投票は違憲であり、その結果は認められないにもかかわらず、州政府はそれを偽り、住民に投票に行くよう促した。

しかもこの住民投票は、カタルーニャの全住民の見解を正確に反映していない。この投票が違憲であることを認識している人たちは、投票に行かなかったからだ。

現在、スペイン法に基づき予防拘禁されているカタルーニャの政治家たち、そして刑事責任を回避するために国外に逃れた人々がそのような境遇にあるのは、スペイン憲法とカタルーニャ自治法に自ら違反して、2017年10月27日にカタルーニャ共和国の独立宣言をしたためだ。その責任追及を逃れられると期待するのは不当だ。

独立派の活動家も、その理念ゆえに拘束されているのではなく、大衆に抗議行動をあおり、法執行官の職務遂行を妨害させて、スペイン刑法が定める重罪(反乱または治安妨害)を犯した容疑をかけられているからだ。

これがアメリカでも、同様の結果が示されるだろう。米連邦最高裁は1869年、合衆国憲法は州が一方的に離脱することを認めていないと判示した。

2013年にテキサス州民10万人が独立を求める署名を提出したとき、オバマ大統領(当時)は、このことを改めて明確にした。ホワイトハウス報道官は、合衆国憲法は「(連邦から)去る権利を定めていない」とし、独立ではなく「政府に参加し、関与することが民主主義の基礎」であると述べたのだ。

私たちも、スペインの地方ごとの意見の相違は、独立ではなく、自治州としての市民的関与によって解決されるべきだと考える。スペインの地方自治制度は、ヨーロッパでも最高の自治を認めている。カタルーニャの場合は特にそうだ。

友人、家族が深く分裂
なお、この機会に独立派の主張の基礎を成す2つの重大な嘘を明確にしておきたい。

1つは、「独立は双方にとって利益になる」という主張だ。独立派は、「カタルーニャは進歩主義的で豊かなのに、時代遅れのスペインに搾取されている」という流説を広めた。

また、独立カタルーニャはより豊かで公正な国となり、EUにも簡単に加盟できると主張する。こうした約束は精査に堪えるものではなく、事実の裏付けもない。

2つ目は、「カタルーニャは1つの民族、1つの文化、1つの言語である」という主張だ。

確かにカタルーニャには独自の歴史と文化、言語がある。しかしその社会は多様で、他の地方にルーツを持つ住民も大勢いる。

「独立事業」が始まるまで、カタルーニャの多様な人々は平和的に共存してきた。独立派指導者の幻想は、その貴重な共存を打ち壊した。彼らの政治的冒険のために、友人であり家族であり隣人であるカタルーニャ人は深く激しく分裂している。

私たちは彼らの責任感に訴え、手遅れになる前に現状が是正されることを切に願っている。【11月19日 Newsweek】
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