孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス 強気なマクロン大統領を揺るがす「目に見えないフランス」の非組織的抵抗「黄色いベスト運動」

2018-11-29 22:50:15 | 欧州情勢

(24日、パリのシャンゼリゼ大通りで黄色いベストを着用し、信号機によじ登るデモ参加者(ロイター)【11月27日 産経】)

【一部暴徒化もした「黄色いベスト運動」】
フランスでは、マクロン政権のガソリンなど燃料税の引上げ方針に対する、ガソリン車、ディーゼル車が生活に不可欠な地方住民や農民などを中心とした、非組織的・自然発生的な抗議行動(道路封鎖など)が「黄色いベスト運動」として燃え盛っています。

17日から始まった抗議行動は、パリ・シャンゼリゼ通りでの一部暴徒化などもありましたが、いまだ収束していません。

概要については以下のとおり。

****フランス 続く燃料増税への抗議デモ 大統領の支持離れが加速****
日産自動車と仏ルノーの問題に直面するマクロン仏大統領が、内政でも「自動車」をめぐる混乱に頭をかかえている。

「温暖化防止策としてガソリンなど燃料税を来年1月から引き上げる」とする政府の方針への抗議デモが全国的に広がった。
 
デモは17日から続き、24日にはパリ観光の中心地シャンゼリゼ通りで、バリケードを張るデモ隊と警官隊が衝突。政府報道官は26日に「まるで戦場だ」と暴力を非難。

クリスマス商戦シーズンを迎える中、ルメール経済・財務相も記者会見で、「国家経済に深刻な影響が出ている」と訴え、デモ収拾に懸命になった。
 
政府は「2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を停止する」方針で、燃料税アップをテコに電気自動車へのシフトを急ぐ。フィリップ首相は今月半ば、「買い替えには所得に応じ、新たに4千ユーロ(約52万円)の補助金制度を設ける」と理解を求めた。
 
だが、地方都市や農村は公共交通の整備が遅れ、自動車は不可欠。ガソリンの高騰のみならず、増税されれば生活苦に直結する。
 
電気自動車は安くても2万ユーロ(約260万円)。補助金があっても簡単に手は届かない。抗議運動は、路上作業用の黄色い安全ベストがシンボルで、労働組合や政党に依存しない国民運動として広がっている。
 
シャンゼリゼ通りのデモ隊にいた工務店経営の男性(36)は「手取り収入は月1500ユーロ(約20万円)で子供3人。生活だけで大変なのに、どうして車の買い替えができる」と訴えた。
 
マクロン氏は「ガソリン高騰は原油価格上昇のためだ」と釈明し、増税は変えない方針だ。背景には苦しい台所事情もある。経済協力開発機構(OECD)は来年の仏財政赤字が予算案を上回り、国内総生産(GDP)比で2・9%に膨らむ見通しだと予測した。
 
23日に発表された世論調査で、マクロン氏の支持率は26%。別の調査で「大統領は独裁的」との回答は79%にのぼった。今夏、コロン内相ら大物閣僚が相次いで辞任し、内閣が大統領の側近や、専門家ばかりとなったことも、大統領の「孤立」を印象付けている。
 
フランスには国会が大統領を不信任で下野させる制度がない。マクロン氏は22年の任期まで安泰だが、昨年の大統領選で、「中道の広い結集」を実現した面影はもはや薄れ、求心力の低下も著しいのが実情だ。【11月27日 産経】
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パリ・シャンゼリゼでの暴徒化については、以下のように報じられています。

****美しいパリが炎に包まれる...。 デモ隊が暴徒化、警察と衝突****
フランス全土で130人が逮捕された。

フランスで11月24日、政府による燃料税の増税に反対するデモが各地で行われ、パリのシャンゼリゼ通りでは暴徒化したデモ隊と警察が激しく衝突する事態に発展した。

デモは、燃料価格の高騰に抗議する「黄色いベスト運動」の一環として始まった。参加者は、道路工事で作業する際などに使用する黄色い安全ベストを着用しており、17日にはフランス全土で28万人以上が道路を遮断する大規模なデモが起きていた。

クリストフ・カスタネール内相によると、24日のデモにはフランス国内で約2万3000人、シャンゼリゼ通りでは約5000人が参加。治安部隊に物を投げつけたり、車に火をつけるなどデモ隊の一部が暴徒化し、治安部隊は催涙ガスなどを使って対抗した。フランス全土で130人、パリ市内では42人が逮捕されたという。(後略)【11月25日 ハフポスト日本版編集部】
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【強気の姿勢を崩さないマクロン大統領】

(【11月28日 ロイター】)

このような暴動に対し、マクロン大統領は“Twitterで「警察を攻撃した者や、市民や記者を罵った者、公職者を威圧しようとした者たちは、恥を知るべきだ」と怒りをあらわにした。”【同上】と怒っているとか。

これまでも労働市場改革などで、激しい抵抗運動に対し強気の姿勢で臨んできたマクロン大統領は、今回も“「暴徒」に屈して政策を変更するつもりはない”と譲歩しない姿勢を見せています。

****「暴徒」には屈しない=燃料増税抗議デモ受け仏大統領****
フランスのマクロン大統領は27日、燃料価格が家計を圧迫していることに対する地方有権者の怒りに理解を示しながらも、「暴徒」に屈して政策を変更するつもりはないと述べた。

フランスではここ1週間余り、政府の燃料税増税に反対する抗議デモが各地で行われており、「黄色いベスト」を着用したデモの参加者が道路を封鎖したり、一部のガソリンスタンドやショッピングセンター、工場などへのアクセスを妨げたりしている。

大統領は、1時間にわたってクリーンエネルギーへの転換計画について演説し、「われわれは方針を変えるべきでない。なぜなら、政策の方向性は正しく、必要なものだからだ」と訴えた。

その一方で地方有権者の怒りをなだめようと大統領は共感や謙虚な態度も示し、地方の労働者が取り残され、都市部のエリートへの不満をますます募らせる「フランスの二極化」を避けるため、もっと賢明な政策決定が必要と指摘。

ただ、危機は、寛大な福祉国家であることを享受する半面、税金でそれを賄うことには消極的という「矛盾」を映し出していると述べ、減税と保育所・学校の増設を同時に要求することはできないと主張した。

過去11日間の抗議デモでは2人が死亡し、600人以上が負傷した。

大統領は「市民と市民の要求を、暴徒らと混同することはない」とし、「破壊を望み、混乱をもたらそうとする者たちに屈することはない」と述べた。【11月28日 ロイター】
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【一部暴徒化でも、運動への国民支持率はむしろ増加して8割超】
シャンゼリゼでの騒動は、今週末も再び繰り返されそうな状況です。
こうした暴徒化もあって、「黄色いベストい運動」への国民支持・共感もさすがに低下したのでは・・・とも思ったのですが、今朝(昨日?)のフランス公共放送F2などを観ると、どうもそうではないようです。

もちろん暴徒に店舗を破壊された店主や、騒動で客足が遠のいた商店関係者などは、「警察・軍隊を動員して取り締まるべきだ!」と息巻いていますが、「黄色いベスト運動」への支持率は80数%(正確な数字は忘れました)にものぼっており、しかも暴徒化以前より10ポイントほど増加しているそうです。

フランスは市民生活に犠牲を強いる労組のストライキなどには従来から比較的寛容な社会風土がありますが、それでも労働市場改革に対する労組のストライキにはこんなに高い支持はありませんでしたし、ストが長引くと「いいかげんにして・・・」といった雰囲気も出てきました。

しかし、今回は様相が異なります。マクロン大統領の強引でエリート的な施策への反発として、国民の強い共感を得ているようです。

【政治・メディアに無視されてきた「目に見えないフランス」の傲慢なマクロン大統領への抵抗運動】
フランス文化研究家、翻訳家、作家である飛幡 祐規(たかはた ゆうき)氏(女性)は、これまで政治・メディアに無視されてきた「目に見えないフランス」の傲慢なマクロン大統領への抵抗運動として、以下のように評しています。

なお、記事冒頭の「べナラ事件」とは、マクロン仏大統領の側近ボディーガードが、5月1日(メーデー)デモ参加者に暴力を加えていたとされる事件で、大統領支持率を大きく下げた事件です。

****「目に見えないフランス」の大行動~「黄色いベスト運動」****
圧倒的多数の与党をバックに、ネオリベラルな経済改革を強権的に急ピッチで進めるマクロン政権の「大統領君主制」を揺るがした「ベナラ事件」の後、この秋、マクロン大統領の支持率は下がりつづけた(10月末21%を切る)。

11月4~11日、第一次世界大戦終戦100周年を期に各地を訪れたマクロンには、一般市民から厳しい批判やときに罵言も浴びせられた。

富裕税(不動産以外)の廃止や有価証券譲渡税の一律化(30%)など、最も豊かな層を優遇する一方、住宅援助を削減し年金に増税し、最低賃金の増額は雀の涙・・・「金持ちのための大統領」に対する庶民の不満が募ったのである。

そんな中、「炭素税」と呼ばれる環境対策を名うった軽油・ガソリン税の値上げに抗議する声が、ビデオや署名などソーシャルメディアを通して火がつくように広まり、「11月17日に反射安全ベストをつけて道路を封鎖しよう」という呼びかけが各地で生まれた。メディアはこれを「黄色いベスト運動」と名づけた。
 
化石燃料に課される「炭素税」は環境政策としてオランド政権下の2014年に導入され、安かった軽油の値段をガソリン並に徐々に引き上げることも定められた。マクロン政権は「脱ディーゼル」のための増税率をさらに上げた。

フランスでは軽油・ガソリン価格の約6割が税金だが、原油の高騰と相まって2016年6月以来、ガソリンは14,2%、軽油は26,5%値上がりした(ガソリン価格も円とユーロの換算関係も流動的だが、 10月にガソリン・軽油ともリットル1,53€以上、200円近くになった)。
 
公共交通機関がほとんどない農村部や都市周辺では、通勤、子どもの送り迎え、買い物をはじめ、車がなければ生活できない。来年から、さらにリットルあたり軽油6.5セント、ガソリン2.9セント上がるとなると、出費はますますかさむ。(中略)

低所得者層にとってはとりわけ、ガソリン代がかさめば食費、暖房費、医療費などを切り詰めなければならない。

車中心の生活様式はたしかに気候温暖化に影響を与えるが、これまで「経済的な効率性」のために鉄道のローカル線を廃止し、農村部の学校、病院、郵便局を閉鎖し、町はずれの巨大ハイパーマーケットを優遇して町村内の弱小商店を廃業させ、車を生活必需品にしたのは国の経済政策である。

そのツケをまず庶民に払わせるのは不公平だ、と人々は怒った。ネット署名は86万集まり、無名の女性がfacebookに投稿した増税反対のビデオは600万以上視聴された。
 
「増税反対」は国粋的なポピュリズム運動を思わせる要素があるため、「黄色いベスト運動」はルペンの国民連合(国民戦線から党名を変更)に政治的にとりこまれる怖れがある、と左派の一部や緑の党は反発した。

しかし、労働組合、政党、市民団体が組織するのではなく、ふだんデモや政治活動に参加しない民衆、とりわけ農村部・都市周辺の人々が政府に反対し、自発的にアクションをよびかけた運動は前例がなく、新しい形の民衆運動と見ることもできる。

ラ・フランス・アンスミーズ(LFI屈服しないフランス)の多くの議員はこれを、不公平な税制と政治に対する民衆の怒りの爆発ととらえて支持した。保守、極右、左派の各党はみな党としてではなく、個人的に支持や抗議者への理解を表明して政府を批判した。
 
「マクロン以下政府が言うこと、やることに欠けているのは公平という概念だ。富裕層に巨額を与える一方、貧しい層からとりたてる政権に庶民はうんざりしている。エネルギー移行政策は社会的な公平にもとづいたものであるべき」と言うLFIのフランソワ・リュファンは、「何よりまず(免税にした)富裕税を返せ」と国会で訴えた。(中略)

さて、11月17日のアクションは、全国で内務省発表では2034か所で道路やスーパーの入口などの封鎖、集会・デモが行なわれ、29万人近く(おそらくもっと多かった)が参加した。

封鎖を破ろうとした車に轢かれて参加者の1人が死亡、警察との衝突も含めて409人の負傷者と157人の逮捕者が出たが(その後数字は増え、11月21日現在で死者2人、負傷者585人、逮捕者数百名以上)、圧倒的多数は平和的に行動した。

組合や政党などがオーガナイズせずに、これだけの人数が自主的に行動を起こしたこと自体、注目に値する。それを可能にしたのはソーシャルメディアだが、ふだんデモなどで意思表示しない人々を路上に繰り出させたほど、マクロン政権と国民との溝は深いといえるだろう。
 
17日のアクション直前の世論調査では74%が「黄色いベスト」運動を支持し、低所得層ほど支持率が高かった。実際、参加者の声からは「共稼ぎだが生活は苦しい」、「年金だけでは月末の食費を削らなくてはやっていけないのに、増税された」など、ガソリン・軽油増税による購買力の低下だけにとどまらない、日常の苦悩が語られた。

フランス語に「その一滴が器を溢れさせた」という言い回しがあるが、この増税をきっかけに、これまで蓄積された不満と怒りが堰を切って放出したのである。(中略)

この大規模な抗議に対して大統領は今のところ何も答えず、フィリップ首相は11月18日夜のテレビ・ニュース番組で、「怒りと苦悩の声を聞いた」が政策は変えないと述べた。

ずっと沈黙していた大統領は21日にようやく「対話が必要」とおざなりに答え、レユニオン島を例に暴力には「情け容赦なく対応する」と治安面だけ強調した。

リーダーがいない「自主オーガナイズ」の運動のため、そのうちおさまると期待しているのだろうが、事の重大さを理解していないようだ。

マクロンは、それまで政権交替してきた保守・社会党をはじめ、既成政治家に対する市民の幻滅が生んだ「失せろ!(デガージュ)」現象の利を得て、大統領に選出された。

過半数が棄権した昨年6月の総選挙(国民議会選挙において前代未聞)では、マクロンの新党「共和国前進!LREM」が圧倒的多数をとったが、そこには新しい政治への期待があっただろう。

その後1年半で既に、大勢の市民が新しい政権に幻滅し、抗議を表明しているのである。さらに、参加者の声からは、マクロンの数々の侮蔑的な発言(「とるにたらない人たち」など)に、庶民がいかに傷ついたかが表れている。軽視・軽蔑されていると感じる人々の気持ちが、マクロン政権にはわからないようだ。
 
政治家やメディアから無視され、その存在が忘れられている人々(低所得者、非正規労働者、労災事故の被害者…)は「目に見えないフランス」と呼ばれるが、ふだん物を言わない「目に見えない」人々が可視化が目的の黄色い安全ベストをまとって行動したのは、特筆に値する。

中にはたしかに極右に票を投じた者や差別的な者もいるだろうが、(中略)「目に見えない」差別主義者の存在に「黄色いベスト運動」を絞るのは、これまた「見えない人々」に対する上からの目線ではないだろうか。

自主オーガナイズによって共に行動する中から、怒りの感情を超えた政治意識が育つかもしれない。混乱と混沌をはらみ、統率がない運動に、フランス革命的な要素を見る政治評論家もいる。

今後、どんな展開になるかわからないが、マクロン政権のみならず、疲弊した民主主義が新たな局面を迎えたことはたしかだろう。【11月22日 飛幡祐規氏 】
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ふだん物を言わない「目に見えない」人々の切実な抵抗運動であるだけに、都市住民や比較的裕福な人々の間でも一定に共感を得ている(あるいは、否定できない雰囲気がある)ように思われます。

“自主オーガナイズによって共に行動する中から、怒りの感情を超えた政治意識が育つかもしれない”というのは、やや期待しすぎのように思いますが、「上から目線」が批判されがちなマクロン大統領は難しい対応を迫られそうです。

既成政治・メディアに無視されがちな「目に見えないアメリカ」は“トランプ大統領”を生み出しましたが、「目に見えないフランス」は何を生み出すのか?

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