(10月22日インドネシアを訪問したサウジのジュベイル外相(左)に対し、ウィドド大統領(右)は「サウジで働くインドネシア人労働者の保護」を強く訴えていたが──【10月31日 大塚智彦氏 Newsweek】 結局、ウィドド大統領の要請は無視され、インドネシア人メイドは1週間後には事前通告もなく処刑されました)
【カショギ氏殺害事件で続く外交的駆け引き】
サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件に関しては、連日多くの報道がなされていますが、そのなかから、いくつかピックアップすると・・・
****トルコ大統領「特定の人を守るな」=記者殺害、指示者の解明要求****
サウジアラビアの記者ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害された事件で、トルコのエルドアン大統領は30日、首都アンカラで記者団に対し、サウジ検察の事件捜査について「うそをつく必要はない。特定の人々を守ろうとするのは理にかなわない」と強調した。(後略)【10月30日 時事】
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*****「高いレベル」から指示=サウジ記者殺害でトルコ与党報道官****
トルコの与党・公正発展党(AKP)のチェリク報道官は31日、記者団に対し、サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件について、サウジの「高いレベル(の当局者)からの指示がなければ実行できない行動だ」と指摘した。アナトリア通信が伝えた。【11月1日 時事】
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****サウジ皇太子がカショギ氏を危険視 電話会談で米側に指摘と米紙****
サウジアラビア人記者、ジャマル・カショギ氏の殺害事件で、米紙ワシントン・ポスト(電子版)は1日、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がカショギ氏の失踪から数日後に行ったトランプ政権高官との電話会談で、同氏を危険人物であると指摘し、両国の同盟関係を維持するよう求めていたと報じた。(後略)【11月2日 産経】
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****米国務長官、制裁の判断は数週間必要=サウジ人記者殺害事件****
サウジアラビア人の著名記者ジャマル・カショギ氏殺害事件で、ポンペオ米国務長官は1日、米ラジオ番組のインタビューで「殺害に関わった人物への制裁を検討している」と語った。ただ「制裁を科すのに十分な証拠を得るのに、さらに数週間はかかる」と強調した。制裁の詳細には言及しなかった。(後略)【11月2日 時事】
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全体の流れとしては、よく言われているように、サウジアラビアとしては何としてもムハンマド皇太子の関与は否定する形で幕を引きたい、サウジアラビアと同盟関係にあり、ムハンマド皇太子を支援することで増長させる背景にもなったアメリカ・トランプ政権としては、皇太子の権威・同盟関係・武器購入契約が損なわれない形で処理したい、トルコは情報を小出しにしながら、あるいは政府がコントロールするメディアにリークする形でジワジワと追い詰め、サウジ・アメリカから最大限のもの引き出したい・・・といったところです。
いずれにしても、トルコは何らかの決定的な証拠を握っていたとしても、それをすべて明らかにすることはないだろうとも。(サウジ・アメリカを決定的に怒らせてもトルコにはメリットはありませんので)
真相究明とは言いつつも、要するに外交上のかけひきがしばらく続きそうです。
【インドネシア人メイド処刑に見るサウジラビアの“情け容赦ない”体質】
今回事件で、ムハンマド皇太子の改革者としての面とは別の、反対者を容赦しない強権的体質も指摘されていますが、そうした“荒々しい”“容赦ない”あるいは“傲慢な”体質というのは、ムハンマド皇太子に限らず、サウジアラビアの政治・社会全般についても言えるのかも。
サウジアラビアの国内強権体質については、多くの記事・指摘がありますので、今日は少し別の視点・角度から。
サウジアラビアなど中東世界ではインドネシア・フィリピンなどからの出稼ぎメイドに対する虐待、それに伴う(サウジ側から見た)犯罪行為で逮捕されたメイドへの容赦ない断罪、出身国からの抗議といったことが繰り返されていますが、そうした事件や対応にも、サウジラビアの国家・社会の体質的なものが現れているようにも思えます。
****正当防衛訴えたインドネシア人女性を処刑 情け容赦ないサウジに反感強まる*****
<反政府ジャーナリスト殺害事件で国際的に批判を浴びているサウジ。今度はインドネシア大統領による「出稼ぎ労働者の保護」要請を無視する暴挙に>
サウジアラビアでメイドとして働き、殺人の罪で死刑判決を受けていたインドネシア人女性が10月29日、サウジ当局によって処刑された。
インドネシア政府による度重なる減刑嘆願や支援組織による「裁判やり直し要求」を無視し、女性の家族やインドネシア大使館にも事前通告なしでの突然の執行にインドネシア政府、社会はサウジアラビアへの反感を強める事態となっている。
サウジアラビアはサウジアラビア人フリージャーナリスト、ジャマル・カショギ氏を10月2日にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で計画的に殺害し、その真相を明らかにしない姿勢に国際社会の批判が高まっている中での出来事だけに、今回の執行はインドネシアの「反サウジ感情」の火に油を注いだ形となっている。
特に10月22日には、カショギ氏殺害の渦中の人物とされているサウジのムハンマド皇太子に近いとされるサウジのジュベイル外相がインドネシアを訪問。ジョコ・ウィドド大統領やレトノ外相はジュベイル外相との会談で「サウジで働くインドネシア人労働者の保護」を強く訴えていた。
こうした大統領や外相らの「要請」が無視されたこともインドネシア社会の強い反感の背景にはある。
外務省などによると、サウジ政府がインドネシア人などの死刑執行を事前にインドネシア側に通告する義務はなく、違法ではないとしながらも人道的立場などから覚書で「事前通告」を要請していた。しかし通告は執行後の10月30日で、要請は無視された形となった。
レイプに抵抗した正当防衛と主張
今回処刑されたのはインドネシア・西ジャワ州マジャレンカ出身のトゥティ・トゥルシラワティさん(34)で、出稼ぎ労働者としてサウジアラビア人家庭のメイドとして働いていた。
ところが支援団体などによると、2010年に雇用主の男性から性的暴力(レイプ)を受けそうになり、近くにあった棒で抵抗するうちに男性を殺害してしまった。裁判の過程では「あくまでレイプに対する正当防衛で殺意はなかった」と主張を繰り返した。
さらに殺害後に逃走する過程で「逃走を手助けする」と言って近づいてきた9人のサウジ人男性から繰り返しレイプされた、とトゥティさんは裁判で主張したが、裁判所はトゥティさんの言い分を顧みることなく2011年に情状酌量の余地なしとして「死刑判決」が確定した、という。
特にサウジアラビアでの人権侵害は深刻で、これまでにサウジ人雇用主から顔をハサミで切られたり、アイロンを押し付けられたりするなどの事例が報告されている。このためインドネシア政府は2015年にサウジへのインドネシア労働者の一時派遣中止のモラトリアムを発表している。
しかしインドネシア政府の方針に反して違法仲介業者などを介してサウジへ渡航、就労するインドネシア人は今も後を絶たない状況が続いていた。
2018年3月にはインドネシア人女性メイド、ザイニ・ミストリさんがやはり今回と同様に減刑嘆願にも関わらず死刑を執行されている。
サウジのメイド虐待はインドネシア人メイドに限らず、フィリピン人メイドやスリランカ人メイドらも雇用主らに熱湯を浴びせられたり、長期間十分な食事を与えられなかったりという被害を受けるケースも明らかになっている。
こうした事態にも関わらずサウジ政府は2017年からインドネシア人メイドの派遣再開を度々インドネシア政府に要請してきた。そしてこれに応える形でインドネシア政府は「人数を限定した派遣再開」でサウジ政府と10月11日に合意したばかりだった。
「派遣停止」を大統領に訴え
今回の事態を受けて「ミグラント・ケア」ではサウジ政府に対する強い抗議と非難を明らかにすると同時にジョコ・ウィドド大統領に対し「サウジへのインドネシア人労働者派遣に関する合意を破棄して、派遣を全面的に中止するべきだ」と求めている。
ただ、世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシア政府としては、イスラム教徒の重要な義務であるサウジへの「聖地巡礼(ハッジ)」の人数の割り当て、調整などに関してサウジ政府と交渉する必要もあり、強気に出られない立場といわれている。
2019年4月の大統領選に向けてジョコ・ウィドド大統領が今後世論の動向を見極めながらどのような対サウジ外交を進めるのかが注目されている。【10月31日 大塚智彦氏 Newsweek】
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虐待等の「事件」が繰り返されるにも関わらず、派遣停止は一時的で、すぐに再開されるのは、ハッジの割り当て云々もあるのでしょうが、基本的には派遣側のインドネシアやフィリピンの社会に就業機会を求める強い要望があるからでしょう。
このあたりの話は、これまでもときおり取り上げてきました。
2018年2月20日ブログ“フィリピン 虐待も横行する外国での家政婦労働 それでも外国に出ざるを得ない国内事情”
2013年1月10日ブログ“サウジアラビア 繰り返されるアジア人出稼ぎメイドを巡るトラブル 背景に差別意識も”
「仕事が見つかる保証もなく帰国するのは本当に恐ろしい。クウェートでは何があっても、たとえ警察に捕まる可能性があっても、何かしら仕事はありました。ここは、そんな心配はないかもしれないけれど、その代わり無職になるかもしれないんです」(虐待を受けていたクウェートからフィリピンに帰国した女性)【2月20日 AFP】
そうした弱い立場にある女性への家庭内での虐待が後を絶たないサウジアラビアなど中東諸国について想像すると、ひとつには気候風土に違いによる国民性もあるのかも。
穏やかな四季のある日本や、まったりとした熱帯気候の東南アジアとは違って、苛酷な砂漠で暮らす民の気風というのは、ウェットで情緒的なアジア人とは違って荒々しくも、容赦なくもなるのかも・・・これはただの想像ですが。
また、一連の事件からは、石油で潤う金満国のアジア人に対する傲慢な差別意識みたいなものも感じられます。
インドネシアやフィリピンの抗議に耳を貸そうとしない対応、アメリカみたいな力のある国ならいざ知らず、アジアの小国の言うことなど無視するという対応には、ものごとの道理や協調よりは、弱肉強食的な“力の対応”を重視する気風も感じられます。(その点でもムハンマド皇太子とトランプ大統領というのは気が合うのでしょう)
【さすがに今回はムハンマド皇太子の姿勢にも変化?】
ただ、さすがにムハンマド皇太子も今回は反省・自粛を強いられているようです。
****政府批判の王族が帰国 国王実弟の元内相****
サウジアラビアのサルマン国王(82)の実弟で、政府に批判的だった王族の一人、アハメド元内相が10月30日、滞在先の英国からサウジに帰国した。中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどが伝えた。
サウジ人記者のジャマル・カショギ氏殺害事件で指導部に対する批判が高まる中、「王室の結束」を国際社会に印象付ける狙いがあるとみられる。
アハメド氏は70代。昨年6月、サルマン国王が息子のムハンマド氏(33)を皇太子に昇格させた際に反対したほか、皇太子が主導するイエメン内戦への介入についても「戦闘を終えるべきだ」と批判していた。
弾圧を恐れ、ここ数カ月は主に英国に滞在。報道によると、皇太子はアハメド氏を首都リヤドの空港まで出迎えた。自身に批判的な人物にも丁重に応対することで、融和ムードを演出しているとみられる。
事件についてサウジ政府は一貫して「一部の情報当局者の暴走」との主張を崩していない。事件への関与の可能性を相次いで報じられる中、皇太子が対外強硬姿勢を軟化させているとの見方もある。
10月24日のリヤドでの経済会議の席上、断交を続けるカタールについて「素晴らしい経済だ。今後5年で多くのことを達成するだろう」と述べ、一転して持ち上げる異例の発言が注目された。【11月2日 毎日】
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政府批判の王族の帰国については、“融和ムードを演出”という見方とは別に、必ずしも“歓迎ムード”ではなく、王室内の確執の始まりを示すものかも・・・という見方も。
al jazeera netなど中東メディアによれば“米国と英国が、皇太子が彼(アハマド殿下)に反対しないということで、彼の安全を保障したことで帰国が実現した”とか、“皇太子は空港に叔父(アハマド殿下)を出迎えたが、写真も公表されず儀礼もなかった”とも報じられているとか。
また、サウディ系メディアは、アハマド殿下帰国を報じていないとも。【10月31日 「中東の窓」より】
ただ、「何しろ秘密主義の本場であるサウディのことですから、今後この種報道を紹介する場合にも、真偽のほどは不明だが…という前提で紹介しますので、その点はお含みください。」【同上】ということで、よくわかりません。
【毎日】記事の最後にある、ムハンマド皇太子がカタールを“持ち上げた”というのは驚きです。
皇太子の指示で包囲網は築いたものの、一向に効果が出ないカタール断交に変化が出るということでしょうか?
ついでに、同じくムハンマド皇太子の強硬姿勢で先行きが見えないイエメン内戦も、この際、和平路線に転換されればいいのですが。
アメリカは、その方向への誘導を図っているようです。
“al qods al arabi net とal jazeera net は、米国務、国防両長官(もっとも前者は国防長官の発言だけを紹介)が、イエメンでは人道的悲劇を招いている内戦を早急に終わらせる必要があるとして、停戦及び今月中の和平協議の開催を呼びかけたと報じています。”【10月31日 「中東の窓」】
こうした流れを受けて、イエメン暫定政府が和平を呼びかける動きも。
****イエメン内戦、政府が和平交渉「再開する用意」****
イエメン内戦の終結を求める国際社会の声が高まる中、イエメン政府は1日、イスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派との和平交渉を再開する用意があると発表した。
国連が内戦の全当事者に交渉参加を呼び掛けたことを受け、イエメン政府は「平和を取り戻すためのあらゆる努力」を歓迎すると表明した。
国営サバ通信が報じた声明で政府は、「イエメンは信頼醸成プロセスに関する交渉、特にすべての被拘束者・受刑者の釈放および拉致され強制的失踪の状態にある人の解放に関する交渉を速やかに始める用意がある」と言明した。
イエメン政府の発表に先立つ10月31日、複数の米政府高官や国連のマーチン・グリフィスイエメン担当特使は、内戦に関与する全勢力に対し、1か月以内に交渉の席に着くよう呼び掛けていた。【11月2日 AFP】
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多くの内戦・紛争がそうであるように、仮にこれから和平の動きがあったとしても、すでに生じた犠牲はあまりにも大きすぎ、「遅きに失した」としか言いようがありませんが、それでも、このまま戦闘を続けるよりはましでしょう。
****イエメン、子ども700万人以上が食糧難に直面 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は10月31日、内戦が続くイエメンで700万人以上の子どもが食糧難に直面していると明らかにした。また、内戦が終わっても全ての子どもが救われる見込みはないとの見解も示した。
ユニセフのヘルト・カッペラエレ中東・北アフリカ地域事務所代表はAFPとのインタビューで、現在のイエメンの状況について「5歳未満の子ども180万人が栄養失調に苦しんでおり、さらに40万人が特に深刻な栄養失調の状態にある」と述べた。
ユニセフは先月下旬、イエメンの人口の半分に当たる約1400万人が「飢饉寸前の状態」に直面していると指摘しており、今回のインタビューでカッペラエレ氏はこのうち半数以上が子どもであるとの認識を示した。
カッペラエレ氏は国連が先月末にイエメン内戦の全当事者に交渉参加を呼び掛けたことを好意的にみている一方、戦争を終わらせるだけでなく、市民や子どもたちを中心に据えた政策を進める政府機能を構築することが必要だと訴えた。【12月2日 AFP】
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