孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア 復興に向かうなかでの光と影、勝者と敗者 シリア・イラク外で活発化するIS勢力

2018-11-25 22:50:26 | 中東情勢

(日常を取り戻しつつある市民生活 ダマスカス中心部 【10月26日 ロイター】)

【対ISの戦いはシリア国内では終息の方向】
シリアでは、先月末に関係するロシア・トルコ・ドイツ・フランス4か国の間で、今後への一定の道筋を合意しました。

合意どおりに進むかどうかは別問題ですし、そもそも当事者のシリア政府や反体制派が合意に参加していないというのも、普通に考えると奇妙な話です。

****シリアに憲法委、年内設置で合意 4カ国首脳 内戦後の改正議論****
ロシアとトルコが進めてきたシリア内戦の和平協議にドイツとフランスが加わった首脳会談が27日、トルコ・イスタンブールで開かれた。

4カ国の首脳は、内戦後の憲法改正を議論する憲法委員会について、年内に設置し初会合を開くことで合意した。
 
憲法委の設立は、ロシアがトルコとともに主導した「シリア国民対話会議」で1月に提案された。アサド政権側と反体制派側のメンバーで構成され、国連主導で協議を進めることになったが、実現していない。
 
緊張が高まるシリア北西部イドリブ県をめぐっては、アサド政権軍が総攻撃をかければ多くの難民が欧州に押し寄せる可能性がある。独仏首脳が今回の会談に加わった背景には、「反移民」勢力が伸長する自国の事情がありそうだ。(後略)【10月29日 朝日】
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11月前半は旅行に出ており、その間の動きに関する情報は定かではありませんが、シリア関連ではあまり大きな話題もなかったように思います。

最近のシリア関連のニュースとしては、1週間前に以下のようなものも。

****シリア政府軍、南部最後のIS拠点を奪回****
シリア政府軍は17日、イスラム過激派組織「イスラム国」の同国南部最後の拠点を奪回した。
 
在英NGO「シリア人権監視団」によると、政府軍は17日、数か月に及んだ戦闘の末にISを砂漠地帯に退却させ、シリア南部のトゥルル・アッサファを奪回した。
 
同監視団のラミ・アブドル・ラフマン代表によると、ISは数週間続いた包囲攻撃と空爆の末に政府軍と交渉して退却したとみられる。同監視団によると、トゥルル・アッサファではこの数週間IS拠点への空爆が増え、政府軍が数百人の増援を送っていた。
 
国営シリア・アラブ通信は、政府軍が「トゥルル・アッサファで大きく前進」し、周辺地域でISの掃討を進めていると伝えた。内戦勃発から7年以上が経過したシリアでは、複数の勢力がIS掃討を続けている。

■デリゾールで空爆 9月以降最多の死者
シリア人権監視団によると、シリア東部デリゾール県で17日、IS拠点への空爆があり、IS戦闘員の家族36人を含む43人が死亡した。
 
同監視団のアブドル・ラフマン代表は、米国が支援するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」がこのIS拠点への攻撃を始めた今年9月以降の空爆としては最も多い死者が出たと述べた。死者のうち17人は子供だったという。【11月18日 AFP】AFPBB News
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いかにもシリアでのISとの戦いの“大詰め”を思わせるような記事ですが、記事後半の東部デリゾールではIS側の反撃もあったようです。

****ISがシリア東部で反撃、米国の支援受けた戦闘員47人死亡****
シリア東部で抵抗を続けるイスラム過激派組織「イスラム国」が反撃に乗り出し、2日間でクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」の戦闘員少なくとも47人を殺害した。在英NGO「シリア人権監視団」が24日、明らかにした。
 
米国が主導する有志連合から支援を受けるSDFは、イラクと国境を接するシリア東部デリゾール県で、ISの残党の掃討作戦を展開している。(中略)

シリアでは、ISの戦闘員の大半がデリゾール県の一角で包囲されているが、対イラク国境に広がるバディア砂漠にも一定の勢力が存在している。【11月25日 AFP】AFPBB News
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今後もこうした戦闘は続くものの、シリアにおけるIS敗退の流れ自体は変わらないでしょう。

【世界各地でテロ活動を活性化させるIS勢力】
ただ、シリアにはまだ政府軍と反体制派の戦闘、北部クルド人勢力とトルコの対立という大きな火種は残っています。

それと、ISはシリアでは敗退したとしても、シリア・イラク以外の各地でISに共鳴する勢力が活発に動いており、そうした世界レベルでのIS勢力との戦いは今後も続きます。ここ数日は、パキスタン・アフガニスタン・リビア・ナイジェリアでのIS勢力のテロ・攻撃が相次いでいます。

****パキスタンの市場で自爆攻撃、31人死亡 情勢不安定な部族地域****
パキスタン北西部にある情勢の不安定な部族地域で23日、混雑した市場で自爆攻撃があり、地元当局によると少なくとも31人が死亡、50人が負傷した。

地元当局者がAFPに語ったところでは、攻撃があったのはシーア派イスラム教徒が多数を占める部族地区オラクザイの町カラヤで、定例の金曜のバザール(市場)が開かれていた最中だった。(中略)

オラクザイはアフガニスタンと国境を接する、情勢の不安定な7つの半自治・部族地域の一つ。この地域一帯は長い間、世界的な対テロ戦争の主戦場となっており、バラク・オバマ米前大統領が「世界一危険な場所」と呼んだことで知られている。【11月24日 AFP】AFPBB News
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“ISのアアマーク通信は、ISが犯行声明を出したと報じています”【11月25日 「中東の窓」】とのことですが、どこまでISが関与しているのかは知りません。(なお、パキスタンでは23日には、南部カラチで「一帯一路」を進める中国総領事館が襲撃される事件も起きています)

****アフガン軍基地内モスクの自爆攻撃、ISが犯行声明 死者27人に****
イスラム過激派組織「イスラム国」は24日、アフガニスタン東部ホスト州の政府軍基地にあるモスクで23日に起きた自爆攻撃で犯行声明を出した。
 
現場のモスクはアフガン陸軍第203軍団第1旅団の基地にあり、攻撃当時は多くの人が金曜礼拝に出ていた。この攻撃でこれまでに少なくとも27人の兵士が死亡したほか、公立・私立の医療機関の発表を総合すると少なくとも79人の軍関係者が負傷した。
 
ISは、アフガン支部組織がこの攻撃で50人を殺害、110人を負傷させたと傘下の通信社アマックのウェブサイトで発表し、「より壊滅的で悲惨な攻撃」が続くと警告した。【11月25日 AFP】
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****リビア南部の警察署襲撃、ISが犯行声明 この1か月足らずで2件目****
イスラム過激派組織「イスラム国」は24日、リビア南部のオアシスの町テザルボで23日に警察署が襲撃され少なくとも9人が死亡、11人が拉致された事件で犯行声明を出した。
 
この襲撃は、元国軍将校の実力者ハリファ・ハフタル氏率いる民兵組織「リビア国民軍」に忠誠を誓った治安要員が標的とされた。
 
ISは傘下の通信社アマックを通じて犯行声明を出し、ハフタル氏率いる民兵組織との戦闘で多数の「幹部」を捕らえたほか、戦闘員29人を死傷させたと発表した。(中略)

ISがハフタル氏に忠誠を誓った勢力を襲撃して犯行声明を出したのは、先月リビアのクフラ県で少なくとも5人が殺害されたのに続き、この1か月足らずの間で2件目。【11月25日 AFP】AFPBB News
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****IS、「西アフリカ州」で118人殺害と発表 勢力増強 サヘル全体に拡大?****
イスラム過激派組織「イスラム国」は22日夜、同組織が「西アフリカ州」と呼ぶナイジェリア北東部で先週、118人を殺害したと発表した。

同地域では軍事基地に対する攻撃が相次いでおり、再び勢力を強めるイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」への懸念が高まっている。(後略)【11月24日 AFP】
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【内戦の傷跡と内戦がもたらした歪・変化】

(ダマスカス中心部でナイトライフを楽しむ人々 【10月26日 ロイター】)

(ダマスカス中心部から10キロ程度しか離れていない東グータの中心街ドゥマ カートにトウモロコシを積み、倒壊した建物の間を売り歩く少年 【同上】)

(シリア中部にあるホムス中心部のカリディア地区 廃墟でサッカーを楽しむ少年たち 【同上】)

話をシリアに戻すと、全体的には落ち着きを取り戻しつつありますが、激しい内戦の影響は社会に大きな傷跡を残すと同時に、歪や変化をもたらしています。

****シリア内戦長期化で“思いがけない変化”も****
内戦が続く中東シリアにNNNの取材班が入った。アサド政権が内戦で圧倒的優位に立つ中、長期化した内戦は、シリア国内に思いがけない変化をもたらしていた。

シリアの首都ダマスカス。街はにぎわいを見せ“内戦下の首都”という暗いイメージはない。しかし、数キロしか離れていない近郊の東グータ地区に行くと、建物は破壊し尽くされ、無人の荒野が広がっていた。

東グータ地区は反体制派の支配地域だったが、アサド政権側が半年ほど前に制圧。激しい戦闘に加え、食料なども不足し、“地上の地獄”と言われた。(中略)

戦死した兵士の母親「今日は息子の誕生日なんです。『誕生日おめでとう』の代わりに、毎年『忘れないからね』と言うんです」

残された家族の悲しみは消えない。

36万人以上が死亡したシリアの内戦。西部のタルトゥースの墓地には内戦で命を落とした軍の兵士が眠っている。(中略)

タルトゥースは、内戦で一貫してアサド政権を支持してきた。そのため、多くの若者が軍に加わり、命を落とした。その結果、思いがけない事態も起きている。市内のマーケットで目に付くのは、女性ばかり。

未婚女性(17)「軍隊に入った若い男性がたくさん死んで、女性が多くなってしまった」

若い男性が多数戦死したため、女性たちは結婚もままならない。
未婚女性(33)「生活のために、すでに妻がいる男性と結婚する女性もいます」

イスラム教は一夫多妻を認めているが、トラブルも絶えないという。

一方、失ったものもあれば、手に入れたものもある。私たちが訪れたのは石けん工場。アサド大統領の大きなポスターに見守られながら、従業員が働いていた。

実は、石けんはもともとシリア北部アレッポの名産品。アレッポはかつて反体制派の一大拠点だったため、戦闘に巻き込まれるのを恐れ、工場を移したという。

必要な資金を融資するなど、後押ししたのはアサド政権。工場の移転先となったタルトゥースは政権を支持したことで、その恩恵を受けた形だ。

石けん工場の経営者アンマール・ナジャールさん「シリア政府、アサド大統領に感謝しています」

内戦が終わりに近づく中、シリア国内では内戦の勝者と敗者がより鮮明になりつつある。【11月16日 日テレNEWS24】
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【シリア政府はいち早く外国人観光客誘致に】
シリア政府は、早くも観光客誘致を始めているようです。

****観光復興を目指すシリアの光と影****
<アサド政権が経済再建の足掛かりとして外国人観光客の誘致を始めたが専門家は戦火のリスクがまだまだ高いと警告>

10月28日にシリアの首都ダマスカスで、休館していた国立博物館が6年ぶりに一部再オープンした。戦闘が続くなか、正常を取り戻しつつあることをアピールするアサド政権の思惑がちらついている。

政府は内戦の勃発から1年後の12年に、国中に広がる戦火から文化財を守るために博物館を閉鎖。収蔵品の大半は秘密の場所で保管されていた。

博物館の再開は、シリアの豊かな文化遺産が「テロリズム」に破壊されていないという「真のメッセージ」であると、ムハンマド・アフマド文化相は語っている。

7年に及ぶ内戦で35万人以上が命を落とし、1100万人以上が国内外に避難した。政府軍は今春、ダマスカスを制圧。国内では戦闘が続き、アサド政権は反政府軍の最後のとりでを攻撃しているが、その一方で観光と投資の促進に乗り出している。

シリア観光省は、国際展示会やソーシャルメディアで宣伝を始めている。観光省のフェイスブックのページは頻繁に更新され、アラビア語だけでなく英語でも、イベントの告知や観光業の求人情報などを掲載。戦争で破壊された観光地を、洗練された動画で紹介している。

10月末にもシリア西部のホムスを紹介する動画が投稿された。息をのむような美しい景色が左右に広がり、緑に覆われた山や谷の壮大な眺めが続く。戦争という現実が、はるか遠い世界のことに思える。

観光省のマーケティング部門責任者バッサム・バルシクは今年1月、スペインの首都マドリードで開催された国際観光見本市(FITUR)に参加した際に、年内に少なくとも200万人の観光客を呼びたいと語った。内戦が始まる前年の10年は観光客が850万人だったことを考えれば、ささやかな目標だ。

FITURのシリアのブースでは、北部アレッポや中部パルミラといった古代遺跡都市を宣伝していた。いずれも最近までテロ組織ISIS(自称イスラム国)の支配下にあり、数多くの遺跡が破壊された。

バルシクによれば、昨年は130万人の外国人がシリアを訪れている。「今年はシリアの国と経済の再建が始まる」

活気が戻ったダマスカス
レバノン出身のランド・エル・ゼイン(27)はヨーロッパの大学の博士課程で学んでいる。彼女は今年9月、レバノンに帰省して家族に会った後、ダマスカスを訪れた。

活気あふれるにぎやかな雰囲気に感銘を受け、生まれ育った首都ベイルートより暮らしやすそうに思えたほどだ。「ダマスカスがあんなに自転車に優しい街だとは、本当に驚いた」(中略)

31歳のレバノン女性カウサルは5〜6月のラマダン(断食月)中にダマスカスに遊びに行ったと、本誌に語った。それまではシリアに旅する友人を「頭がおかしい」と思っていたが、情勢が落ち着いてきたと判断。友人たちの誘いに乗って小旅行に出掛けることにしたという。

日没後の飲食が許される時間帯になると「旧市街は買い物やそぞろ歩きを楽しむ地元の人たちでにぎわっていて、平穏な光景だった」。一方で、短い滞在の間にも多くの国内難民を目にしたのも事実だ。

今度はもっと時間をかけてシリア各地を訪れたいかと聞くと、「もちろん」と、彼女は答えた。「多くの都市が破壊されたのは知っているけれど、復興のプロセスを自分の目で見てみたい」

とはいえ反政府派の支配下にある地域もまだかなり残っている。シリア政府軍側の攻撃に加え、米軍主導の有志連合による空爆も一部地域で続いている。

ダマスカスや北西部ラタキア県の沿岸部など比較的安定した地域でも、テロや爆発事件は後を絶たない。国外に避難したシリア人の一部は比較的安全な地域に戻り始めたが、帰国をためらっている難民のほうがはるかに多いと、アナリストは指摘する。

「シリア観光を検討している人には警告したい。戦火が収まってきたようにみえても、今はまだ非常に危険だ」と、オランダのコンサルティング会社カタリスタスのシリア専門家、アビバ・スタインは本誌に語った。

「外国人観光客を誘致できれば経済は上向くだろうが、シリアは全体としてはまだ不安定。予測不能の大規模攻撃や爆発のリスクが常にある」(後略)【11月21日 Newsweek】
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内戦の大きな犠牲を考えると、“観光”を楽しむというのは憚られる感もありますが、シリア方面は多くの観光資源があるのも事実であり、また、復興に向かうシリアを見てみたいという思いもあります。

ただ、安田氏への異様なバッシングを考えると、万が一の事態のリスクも懸念されるところで、しばらくは様子見でしょう。


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