(APEC首脳会議開催に伴い立てられた看板には、パプアニューギニアのオニール首相(左)と中国の習国家主席が握手する姿が写っている。(中略)中国が建設した議事堂に向かう6車線の高速道路には、数百の中国国旗がはためき、電柱には中国の赤いランタンがぶら下がっている。数十カ所あるしゃれた、グレーのバス待合所は中国の支援で建造され、中国格子で装飾されている。【11月17日 WSJ】)
【米中の激しいせめぎあい “乱入”(?)騒ぎも】
パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議は、アメリカと中国の激しい対立の舞台となりました。
下記の“面白い”ニュースは、そうした激しい対立を物語るものでしょう。
****緊張高まるAPEC、中国代表団がパプア外相の執務室に「乱入」試みる****
アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が開催されているパプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、中国の当局者がパプアニューギニアのリムビンク・パト外相の執務室に「乱入」しようとしていたことが、18日に明らかになった。
事情を知る複数の関係者がAFPに語ったところによると、首脳会議の声明をめぐるギリギリの交渉が続く中、中国代表団のメンバーらが17日、パト外相の執務室への「乱入を試みた」ものの、パト外相は中国代表団との面会を拒否。その後、外相の執務室前に警官が配置されたという。
APEC首脳会議では米中間のつばぜり合いにより、すでに外交的な緊張が高まっていた。
中国代表団の「乱入」について、関係者の一人はAFPに対し「外相が単独で中国と交渉することは適切ではない。交渉に臨んでいる中国側もこれは承知している」と述べた。
だがパト外相自身は事態を重大視しない方針で、AFPに対して「問題は起きていない」と語った。
中国側からの公式なコメントはまだ出ていない。だが18日中に同国代表団は記者会見を行う予定となっている。【11月18日 AFP】
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面会を断られた中国側と、何らかの事情で断ったパプア側の間で押し問答があったのでしょうが、“乱入”という言葉がふさわしいものだったのかどうかは知りません。いずれにしても、激しいせめぎあいがあったということでしょう。
【際立つ中国の存在感】
今回APEC首脳会議にはトランプ大統領は欠席、習近平国家主席が会議に乗り込んだ中国の存在感が際立つことが予想されていました。
****トランプ大統領が欠席するAPEC首脳会議-中国の存在感際立つ*****
中国の習近平国家主席がこれほど容易に外交的勝利を手にすることはめったにない。何しろ週末のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にはトランプ米大統領もロシアのプーチン大統領の参加しないのだ。
首脳会議が開催されるのは南太平洋の島国パプアニューギニア。経済規模が全米50州のどこよりも小さいこの国では、米国に次ぐ世界2位の経済大国を率いる習主席の存在感が特に目立つことになる。
習主席はまた太平洋の島しょ国10カ国以上の首脳との会談に多くの時間を割き、中国の国力を誇示する見込みだ。(中略)
ラッド元豪首相はシンガポールで先週開催された「ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォ-ラム」で、「米国がこの地域で有形の一角となりたいのであれば、地域サミットの開催時期に『あなた方の会合には参加することに興味はない、東南アジア各国の政府トップとの一対一の会談にも興味がない』と言うことはできない」と指摘、「そうしたことは米国の大統領が担う一端であり、世界のリーダーシップを望むのであれば、そのために働く必要がある」と語った。【11月13日 ブルームバーグ】
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実際、中国の習近平国家主席はこの機会を利用して太平洋諸国への影響力をアピールした形になりました。
****習主席が国力アピール “APEC会場”は中国旗ズラリ****
中国の習近平国家主席は、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議に出席するため訪問しているパプアニューギニアで、インフラ整備などを通じた太平洋諸国への影響力をアピールした。
各国首脳より一足先にパプアニューギニアに到着した習主席は、16日、太平洋の島しょ国8カ国と首脳会議を行い、巨大経済圏構想「一帯一路」に基づいた経済支援を進める考えを強調した。
また、習主席は、首都ポートモレスビーでのAPEC開催にあたり、中国が建設した幹線道路の開通式に出席した。
習主席としては、中国の太平洋諸国への影響力をアピールした形だが、17日から始まるAPEC首脳会議では、「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げるアメリカなどと対立する場面もあるとみられる。【FNN PRIME】
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中国・習近平主席の狙いは、「一帯一路」のトップセールスと、この地域に残る台湾の影響力を排除することにあります。
****習主席、島嶼国に「一帯一路」開発トップセールス****
中国の習近平国家主席は16日、訪問中のパプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、太平洋の島嶼(とうしょ)国8カ国の首脳らと合同会議を開催、中国の国家プロジェクトである巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた経済開発を促した。
一帯一路をめぐっては、マレーシアやミャンマー、パキスタンなど東南アジア・南アジア諸国の一部で中国主導の投資計画を見直す動きが相次いでいる。中国としては、トップ外交を通じて、インフラ整備の進んでいない太平洋諸国に一帯一路を売り込み、新たな推進力としたい考えだ。
合同会議には、パプアニューギニアのオニール首相をはじめ、ミクロネシア連邦、サモア、バヌアツ、クック諸島、トンガ、ニウエ、フィジーの各国首脳らが出席した。
中国国営新華社通信によると、習氏は「中国と太平洋の島嶼国は同じアジア太平洋地域の発展途上国である」とし、「島嶼国が中国の発展の急行列車に乗車することを歓迎する」と指摘。「一帯一路の協力文書への署名を契機として、各分野の実務協力を深化させるべきだ」と述べて、一帯一路への参加を呼びかけた。
これに対し、島嶼国首脳らは「一帯一路の共同建設に積極的に参加し、中国との間で貿易、投資、漁業、観光、インフラ建設などの協力を強化したい」と応じたという。(後略)【11月16日 産経】
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****中国・習主席、太平洋諸国と首脳会談 台湾の影響力抑止狙う****
中国の習近平国家主席は16日、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、太平洋諸島諸国との首脳会談に臨んだ。
中国のこの動きについては、これらの島しょ国のより多くが台湾との外交関係を断ち切るよう、中国が気を配るだけでなく物理的な「贈り物」も配ろうとしているという見方もある。
重要な貿易航路上にあり、天然資源の取引や影響力といった面で多くの国々が注目する太平洋地域は、中国と台湾の外交戦の最前線ともなっている。中国経済が急成長する中、台湾は支持を維持することに苦心している。
オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所のジョナサン・プライク氏は、クック諸島やフィジー、ミクロネシア、ニウエ、サモア、トンガ、バヌアツの首脳らとの今回の会談に「習氏が手ぶらで現れることはない」との見方を示した。
台湾との国交樹立国は17か国。プライク氏は、「台湾と外交関係を結んでいる国のうち、ほぼ3分の1が太平洋諸島諸国であり、世界の中でもこの地域では小切手外交が健在だ」と話している。
小国にとって、世界第2の経済大国である中国との関係性を断つことによる損失は大きくなる一方で、中国側もその事実を有利に生かそうとしてきている。
プライク氏は、「中国は台湾の支持基盤を切り崩そうと、ますます攻勢を強めている」と指摘している。【11月17日 AFP】AFPBB News
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【アメリカも対抗 中国の「一帯一路」を批判】
これに対し、アメリカはペンス副大統領が出席。“トランプ米大統領の代理としてAPECに出席したペンス氏は13日の安倍晋三首相との会談で、インド太平洋諸国のインフラ整備を支援するため600億ドル(約6兆8000億円)の融資枠を設けたと表明。中国の「一帯一路」への対抗心を隠していない。”【11月16日 毎日】ということで、米中のアピール合戦の様相も呈しています。
****対パプア、米中がアピール合戦=APEC主催国にインフラ支援****
今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を取り仕切ったパプアニューギニアは、APEC域内で最貧国の一つ。経済覇権を争う米国、中国がインフラ投資支援などでアピール合戦を展開した。
首都ポートモレスビーにある国会議事堂の前から延びる片側3車線の「独立大通り」。建設した中国からパプアに引き渡す式典が16日に行われた。中国の習近平国家主席は「繁栄と開放、友好を途上国との戦略的な関係に結びつける道路をさらに建設する」と語った。
パプアがお返しするかのように、習主席が宿泊するホテルの近くには、パプアのオニール首相と習主席が笑顔で握手している姿に中国語で「歓迎」と書かれたゲートもあった。
中国が狙うのは、援助をテコに親中派の国を太平洋諸国に広げることだ。中国はAPEC首脳会議に先立ち、太平洋の8カ国の首脳との会議を開催し、シルクロード経済圏構想「一帯一路」を通じた支援を約束した。豪シンクタンクの集計では、中国から太平洋諸国への有償を含む援助額は2011年以降、13億ドル(約1450億円)に上る。
対する米国も18日、オーストラリア、日本など3カ国とパプアへの電力供給で協力すると発表。17日にはインド太平洋でのインフラ投資で日豪と協力すると公表した。中国から援助名目で融資を受けた途上国が多額の対中債務を抱えることを懸念している。【11月18日 時事】
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ペンス副大統領は、中国の巨額融資を「債務の罠」と強く批判、これに中国が激しく反発。
****中国外務省 米副大統領の中国批判演説に反発****
中国外務省の華春瑩報道官は18日、アメリカのペンス副大統領が、APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議を前にした演説で、中国が経済支援を行う相手国を債務漬けにしていると批判したことに、コメントを発表して強く反発しました。
この中で、華報道官は「中国との協力によって債務の問題に陥った発展途上国はない。反対に、中国の協力と支援でみずから発展する能力を高め、地域の人々の生活は改善した」と反論し、関係する各国の政府や国民から歓迎されていると主張しています。
そのうえで、華報道官は「あら探しをするより、みずからの言行を一致させて大国にも小国にも平等に向き合い、各国が自身の状況に応じて発展の道を選ぶ権利を尊重すべきだ」と指摘し、アメリカの批判に強く反発しています。
また、APECの首脳会議のあと記者会見した中国外務省の王小竜国際経済局長は、「中国の援助は開発や生活の向上に集中し、条件付きでもないため、多くの国から広く歓迎されている」としたうえで、「中国の支援のために債務の罠に陥っている国はない」と述べ、アメリカなどの指摘に反論し、中国の援助は役立っているという立場を強調しました。(後略)【11月18日 NHK】
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【米中対立の調整難航 結局、首脳宣言まとまらず】
会議のほうも、中国がアメリカの保護貿易主義を激しく批判したのに対し、アメリカは中国の「一帯一路」を批判ということで、米中の対立がそのまま持ち込まれて難航しました。
****APEC首脳会議 米中対立で調整難航か****
APEC(=アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が、18日、パプアニューギニアで開かれている。自由貿易体制などをめぐり協議されるが、アメリカと中国が貿易問題で対立する中、難航も予想される。
さきほど入ってきた情報よると、首脳宣言の文言をめぐり、調整が難航していて、宣言の採択には至っていないという。米中それぞれの主張に食い違いがあり、日本などの参加国は難しい対応を迫られている。
対立するポイントは大きく2つある。
1つ目は貿易問題。中国の習近平国家主席は、きのう、アメリカを念頭に保護貿易主義を繰り返し批判した上で、「人類は今、岐路にさしかかっていて、協力か対抗かを選ぶべきだ」と各国に呼びかけた。これに対し、アメリカのペンス副大統領は「中国が態度を改めるまでアメリカは対応を変えない」と互いに対抗心を隠していない。
2つ目のポイントは中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」。中国はAPECに先立ち太平洋地域の島国と会談を行い、約330億円のインフラ投資などを表明して影響力拡大を図っている。これに対し、アメリカは「この地域に独裁主義や侵略の居場所はない」と中国を強くけん制している。
2つの大国の意見が食い違い、調整が難航する中、玉虫色の決着となる可能性もありそうだ。【11月18日 日テレNEWS24】
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結局“玉虫色”どころか、首脳宣言がまとまらないまま閉幕するという異例の展開となりました。
****APEC 首脳宣言まとまらず 自由貿易めぐり米中などに隔たり****
パプアニューギニアで開かれていた、APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議は、貿易をめぐるアメリカと中国との意見の対立で初めて、首脳宣言がまとまらずに閉幕するという異例の事態となりました。
17日からパプアニューギニアで開かれていたAPECの首脳会議は、日本時間の18日午後、2日間の日程を終えて閉幕しました。
閉幕後、議長国を務めたパプアニューギニアのオニール首相は記者会見で、「アメリカや中国などいくつかの国の間で意見の隔たりがあった」と述べて、首脳宣言がまとまらなかったことを明らかにしました。
1993年から始まったAPECの首脳会議は、首脳宣言を毎回、発表してきましたが、まとめられなかったのは今回が初めてです。このため今回は、議長の権限で成果をまとめる議長声明を出す見通しです。
今回の会議は、貿易をめぐってアメリカと中国の対立が激しさを増す中、協調姿勢をどこまで明確に示せるかが焦点でした。
こうした中、安倍総理大臣は会議で、「国際的なルールにのっとり、貿易・投資の自由化と連結性の強化によって繁栄するアジア太平洋地域は、日本が志向する『自由で開かれたインド太平洋』の核だ」として自由貿易の担い手として自由で公正なルールづくりに取り組んでいく考えを強調しました。
しかし、会議を前にした演説で、貿易などをめぐってアメリカのペンス副大統領と中国の習近平国家主席が批判しあうなど、米中の対立が会議にそのまま持ち込まれ、首脳宣言がまとめられないという異例の事態になりました。
今回のAPECを巡っては、首脳会議に先立って開かれた閣僚会議でも閣僚声明が発表されず、米中の対立が今後のAPECの結束に大きく影を落とす形になりました。【11月18日 NHK】
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冒頭の“乱入”報道も、こうした激しい対立の過程で起きたものと推察されます。
【慣れぬ国際会議の準備に追われた島国 治安の悪さで、世界で最も危険な国の1つとも】
米中対立に翻弄された形の開催国パプアニューギニアですが、会議の開催自体が大きな負担でもあったようです。
****船がホテル、駐機は隣国へ 慣れぬ国際会議に島国大混乱****
太平洋の島国、パプアニューギニア(PNG)が17、18の両日、21の国と地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を主催する。PNGがこれほど大きな国際会議を開くのは初めて。ホテルも移動用の車も足りなかったが、各国の支援も受けて開催にこぎ着けた。
首都ポートモレスビーの港に、大きな観光クルーズ船が停泊している。各国代表団や海外メディアなどの宿泊先として政府が3隻を手配した。計約4千人が泊まる予定という。18日までの1週間で、関連行事も含め約1万人が訪れる見込みだが、市内のホテルは「数千人分しか収容能力がない」(観光業者)ためだ。
日本の外務省が、スリやひったくり、強盗、性犯罪が「昼夜を問わず発生している」と注意を呼びかける首都は、そもそも観光都市ではない。
各国首脳らが移動する車両も足りず、政府は10月、1台1千万円前後はするイタリアの高級車マセラティを40台購入。政府は「APEC開催はPNGを投資の場所として海外に示す好機となる」(オニール首相)とするが、国民の4割近くが貧困層にある国で「国民の暮らしに予算を使うべきだ」と批判を呼んだ。
四苦八苦するPNGを各国は支援してきた。隣国オーストラリアは警備のために軍の部隊1500人や戦闘機、軍艦を派遣。豪メディアによると、PNGの国際空港が手狭で各国の政府機がすべて駐機できないため、空路で1時間半離れた豪北部のケアンズ空港を駐機用に提供する。
中国は関連会合に使う国際会議場を無償で建設したほか、バスやミニバス計85台を供与した。
日本も開催に向けてバス46台、救急車22台、消防車6台を供与し、昨年までに計51人のPNG政府の担当職員を開催のノウハウを学ぶ研修に招いた。
ただ、米国のトランプ大統領の代理で出席するペンス副大統領はポートモレスビーには宿泊せず、ケアンズを拠点に、17、18日とも日帰りする予定という。【11月15日 朝日】
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大きな負担ではあったものの、それなりの“見返り”も米中から得たのでしょう。問題はそれが国民生活にどのように還元されるのか・・・ということです。一部の政治家の懐に流れ込むようなことがないように・・・。
高級車は道路事情が悪いパプアニューギニアでは、会議後は使い道がないかも。どうするのでしょうか?
なお、“日本の外務省が、スリやひったくり、強盗、性犯罪が「昼夜を問わず発生している」と注意を呼びかける首都”という治安の悪さについては、“取材班が訪れたのは、首都・ポートモレスビーのベーカリーショップ。店の中には、赤い鉄格子が設けられていた。商品が自由に取れないように、鉄格子の中で商品が売られていた。鉄格子の狭い隙間越しに、商品を受け取る市民。日本では見られない、徹底した防犯対策がとられていた。”【11月16日 FNN PRIME】という状況のようです。