goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリアで急増する難民 欧米の反体制派支援に変化は? イスラム過激派の存在 クルド問題への影響

2012-11-10 21:38:00 | 中東情勢

(政府軍による虐殺があったとも言われるホムス県ホウラ “refugee”のキーワードで検索された画像ですが、“2012年11月6日ホムス ホウラ”としかコメントがなく詳細はわかりません。“flickr”より http://www.flickr.com/photos/chroniclesyrianuprising/8167795569/

1日で約1万1千人
シリアでは昨年春以降これまでに戦闘で推定約3万6000〜3万8000人が死亡、推定約120万人が国内避難民となっていると言われており、「危機は日々、より深刻になっており、状況悪化に対応できていない」(赤十字国際委員会マウラー総裁)と状況は悪化しています。

****シリア難民急増 戦闘激化で3倍に****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は9日、内戦中のシリアから過去24時間に計約1万1千人が周辺国へ逃げ出したと発表した。シリアからは1日平均3千人が逃げ出しているというが、これの3倍以上にあたり、戦闘が激化している模様だ。

UNHCRによると、8日夜からトルコに9千人、ヨルダンに1千人、レバノンに1千人が押し寄せた。トルコメディアによると、トルコ東部のシリア国境の町セイランピナール付近のシリア側で、アサド政権軍と武装反体制派の激しい衝突があった模様だ。UNHCRは、周辺国政府に国境を開放し続け、難民を受け入れるよう改めて要請した。

国連によると、5日時点で計約39万2千人のシリア難民が、国際支援を受けるための登録済みまたは登録待ちの状態にある。最大70万人に増えるとして計4億8800万ドル(約390億円)の人道支援計画を実施中だが、35%しか資金が集まっていない
********************

1日で1万1千人が周辺国に避難するというのは、想像を絶するものがあります。

アメリカは深入りを避けたいのが本音
こうした混乱のなかで、アサド大統領は政権を放棄する考えのないことを明らかにしています。

****アサド大統領、「進退は選挙で」「シリアで死ぬ」 露インタビューで発言****
シリアのバッシャール・アサド大統領は、露テレビ局ロシア・トゥデーとのインタビューで、自身の運命は選挙によってのみ決められると述べるとともに、シリアが内戦状態にあるとの認識を否定した。

インタビューの中でアサド大統領は、自身が「大統領の座にとどまることができるか否か」が「最も関心の高い問題」となっているが、「(進退を)決める唯一の手段は投票箱を通じたもののみ」だと発言。また、シリア国内が分断されていることは認めるが「分断は内戦を意味しない」と述べた。
「数週間のうちに全て終わらせられる」などと述べる一方、諸外国が武装勢力を支援するならば戦いは長期化すると警告した。

ロシア・トゥデーは8日にもこのインタビューの一部を抜粋して紹介しているが、そこではアサド大統領は亡命を勧める声が出ていることについて「私は誰かのあやつり人形ではない。シリアで生きシリアで死ぬ」と言い切り、亡命の可能性を否定している。【11月9日 AFP】
***********************

リビアで徹底抗戦を主張していたカダフィ大佐の発言にも似ていますが、シリアがリビアと異なるのは、ロシア・中国の反対もあって(間接的な支援は別にして)表立っての欧米による軍事介入が行われていないことで、内戦状態が長期化している背景ともなっています。

英仏は反体制派支援に積極的ですが、アメリカは深入りを避けたい姿勢です。大統領選挙を終えて2期目に入ったオバマ大統領の姿勢に変化があるのか注目されます。

****シリア情勢:英仏が反体制派を支援 米国に対応強化促す*****
オバマ米大統領の再選を受け、内戦状態に陥ったシリアの反体制派を後押しする英国などが、支援を積極化する姿勢を打ち出している。
米欧は反体制派の連携欠如などを理由に関与を限定してきたが、選挙の「重し」が外れたのを機に米国に対応の強化を迫った形だ。経済・財政問題を抱える米国は深入りを避けたいのが本音で方針転換に踏み切るかは微妙だ。

「今こそアサド政権打倒を掲げる反体制派を支援する時だ」。キャメロン英首相は7日、亡命シリア人の政治組織が中心だった反体制派との接触を、シリア国内の反体制武装勢力にも拡大する意向を示した。
AP通信によると、フランスは既に独自の直接支援に着手。仏当局者がトルコ南部のシリア国境で、反体制派が掌握する地域の代表と面会し、地元の再建費として200万ドル(約1億6000万円)以上を提供しているという。

一方、ロイター通信などによると、反体制派支援の急先鋒のトルコは7日、シリア国境に地対空誘導弾を配備するよう北大西洋条約機構(NATO)に要請する方針を表明した。シリア側からの砲弾着弾を防ぐ狙いとともに、シリア北部に飛行禁止空域を設定する足がかりにしたい思惑もありそうだ。
配備構想はトルコとNATOが非公式に協議していたという。米国は配備の検討には同意したが「あくまでトルコの防衛目的」(米国務省)と強調した。

シリアのアサド大統領は8日までにロシアメディアに「シリアで生きて、死ぬ」と断言し、亡命説を改めて否定。妥協姿勢は全く見せておらず、反体制派支援が強化されても、情勢打開につながるかは不明だ。
アハラム政治戦略研究所(エジプト)のイマド・ガッド副所長はオバマ政権のシリア政策について「2期目はより重大な決断をしやすくなる」と指摘するが、軍事介入を決断するような大きな変化はないと分析した。【11月9日 毎日】
*********************

アメリカがシリアへの深入りを避けたい理由は、ロシア・中国の反対以外にも、リビアと異なり軍事的に大規模な介入が必要となること、アサド政権崩壊はイランやヒズボラなど周辺各国を含む中東情勢に決定的な変化をもたらすことなどがありますが、イラク・アフガニスタンと続いているイスラム社会を相手にした戦闘にこれ以上関わり合いたくない・・・というのが本心ではないでしょうか。そのことは、2期目に入っても変わらないのでは。

反体制派で影響力を増すイズラム過激派
また、イスラム過激派の影響が強まっていると見られる反体制派の実態があきらかでないこと、反体制派支援が結果的にそうしたイスラム過激派支援となってしまうと言う点も、アメリカが懸念するところです。
反体制派側からすれば、欧米の軍事支援がないからイスラム過激派にも頼らざるを得ない・・・ということでもあるようですが。

****自爆で軍兵士ら50人死亡=イスラム武装組織が実行―シリア****
在英人権団体「シリア人権監視団」によると、シリア中部ハマ県のジヤラ村にある軍検問所付近で5日、自動車を使った自爆攻撃があり、政府軍兵士や親大統領派武装要員の計50人以上が死亡した。
シリアのイスラム武装組織「ヌスラ戦線」が実行したという。現地の反体制活動家によれば、作戦には他の反体制武装組織も加わった。【11月5日 時事】 
*********************

イスラム武装組織「ヌスラ戦線」は、イラクで活動するアルカイダ系組織から派生したものと見られており、これまでもアレッポやダマスカスでの自爆テロを行ったとしています。

反体制派は11月2日には、戦略的に重要なサラケブ地区の検問所を制圧した発表していますが、“You Tubeにはこの検問所で「処刑」される政府軍兵士だとされる映像が投稿された。国連人権高等弁務官事務所のルパート・コルビル報道官は「新たな戦争犯罪の恐れが極めて高い」と述べ、人権侵害の証拠として扱う可能性を示唆した”【11月2日 AFP】ということで、反体制派にもアサド政権同様の人権侵害の側面があることも指摘されています。

クルド人「政権にノー、反政府勢力にノー」】
シリア内部での戦闘状況については、11月に入って、上記のサラケブ地区の検問所制圧(アレッポから首都ダマスカスと地中海沿岸へそれぞれ通じる2本の主要幹線道路が交差する地区で、この制圧でアレッポに展開する政府軍は戦力の増強が難しくなったとも言われています)や、東部マヤディン近郊のワルド油田制圧(初めての油田制圧)が反体制派から発表されていますが、戦闘の実態はよくわかりません。
冒頭の難民に関する記事から、これまで以上に激しくなっていることは想像できますが。

アサド政権と反体制派の戦闘が、異質なものに拡大する可能性も全くなくはありません。
イスラエル占領下のゴラン高原北部の非武装地帯に3日、シリア軍の戦車3両が進入したこと、更に5日には、ゴラン高原でイスラエルの軍車両がシリア側から銃撃を受けたことが報じられていますが、侵入戦車は反体制派と戦闘中だったようで、またイスラエル軍車両銃撃は「シリアの反体制派の誤射」(イスラエル軍筋)とのことですので、いまのところイスラエルを巻き込むような展開はなさそうです。

注目されるのは、シリア国内では少数民族となるクルド人の存在です。

****シリア反政府勢力が恐れる崩壊のシナリオ****
北部の都市で反政府勢力とクルド人勢力が衝突  内戦はアサド政権を含めた三つどもえの戦いに?

先月末、シリア北部の都市アレッポで反政府勢力とクルド人武装勢力との間で戦闘が起きると、反政府勢力は直ちに火消しに乗り出した。「この問題は誤解により起きたもので、その誤解をつくり出したのは体制側の陰謀である」と声明で主張した
反政府勢力が慌てたのも不思議ではない。彼らはアサド政権打倒を目指す戦いで苦戦しており、クルド人武装勢力まで敵に回せばますます苦しい状況に追い込まれる可能性が高いからだ

シリアの人口の推定10%を占める少数民族のクルド人は、これまでの内戦で中立的な立場を保ってきた。「(クルド人武装勢力とも戦うことになれば)反政府勢力はおしまいだ」と、英王立統合軍事研究所(RUSI)の中東アナリスト、シャシャンク・ジョシは指摘する。「戦線が拡大し過ぎる。今でさえ、ぎりぎりの状態で戦っているというのに」

イギリスに拠点を置く人権擁護団体フンリア人権監視団」によれば、今回の反政府勢力とクルド人武装勢力の衝突では30人が死亡した。流血の発端は、戦略上重要なエリアであるアレッポのアシュラフィーヤ地区に、200人ほどの反政府勢力戦闘員が乗り込んだことだといわれている。同地区はクルド人の割合が非常に高い。

「政府の陰謀」説は、多くの専門家が否定している。実際は、反政府勢力とクルド人勢力の間にもともとあった不信感が原因だろうという見方が多い。「反政府勢力は認めたがらないが、彼らはシリアのクルド人の多くから疑念の目を向けられている」と、ジョシは指摘する。

クルド人の深いジレンマ
アサド政権下で長年苦しんできたクルド人だが、多くのシリア人とは違って、反政府勢力を必ずしも「歓迎すべき解放者」と見なしてはいない。この国のキリスト教徒と同様、反政府勢力がイスラム過激派的な傾向を強めているという報道に不安を感じているようだ。
反政府勢力が内戦に勝って権力を握った場合、白分たちがどのような立場に置かれるのかを案じている。

最近、クルド人住民が多い北東部の都市カミシリで行われたデモは、こんなメッセージを掲げていたと、クルド人活動家のバルザン・イソは言う。「政権にノー、反政府勢力にノー」
「片方の勢力が体制を打倒するために私たちを殺し、もう片方の勢力が独裁を継続するために私たちを殺す。そういう状況で、どうすればいいのか」と、イソは言う。

もっとも、多くのクルド人がアサド政権の崩壊を望んでいることは間違いない。04年には、カミシリで自ら大掛かりな反政府暴動を起こし、政府の厳しい弾圧を受けたこともあった。
一部のクルド人活動家は、反政府勢力とは互いに不信感があるものの、アサド政権と戦う味方同士だと言い、アレッポでの衝突を大したことではないとみている。「あれは誤解が原因だ。関係は修復できるだろう」と、ペテランのクルド人活動家は言う(状況が微妙であることを理由に匿名希望)。

今のところ先月末の事件の真相ははっきりしない。ただしRUSIのジョシによれば、戦況が絶えず変化しているアレッポはともかく、そのほかのクルド人地域でこうした突発的な衝突が起きる可能性は低そうだ。
「アレッポ以外では、クルド人勢力の活動に干渉しようという動きがあまりない。それに(対立を加速させないための)行動原則も互いに理解している」とジョシは言う。「クルド人勢力を内戦に引きずり込みたくないという点では、すべての当事者の利害が一致している」【11月14日号 Newsweek日本版】
**********************

クルド人は、シリアだけでなくイラク・トルコ・イランに広く暮らしており、「国家を持たない最大民族」と言われています。イラクでは自治区を形成し、トルコでは武装組織が政権と激しく衝突しています。
万一、クルド人の動きに火がつくと、シリア内部の戦闘にとどまらず、イラク・トルコ・イランを含めた中東全域の地図が根本から変わってしまう事態にもなりかねない問題です。

パレスチナ人同士が戦闘する事態も
シリアには多数のパレスチナ難民も暮らしていますが、内戦の影響はこうしたパレスチナ難民にも及んでいます。

****シリア:パレスチナ難民混迷 内戦で互いに戦闘も****
内戦状態に陥ったシリアのパレスチナ難民がアサド政権と反体制派の対立に引き込まれ、混迷に拍車を掛けている。

アサド政権はパレスチナ問題を国の最重要課題に掲げており、難民らは民主化闘争から距離を置いてきた。しかし、情勢の悪化で難民キャンプが攻撃され、パレスチナ人同士が戦闘する事態も発生。同胞のいがみ合いが深刻化すれば、他の中東諸国に分散する難民にも不和が波及する恐れがあり、新たな不安定要素となっている。

国連機関によると、シリアにはパレスチナ難民総数の1割に当たる約50万人が滞在。国内少数派のイスラム教アラウィ派が母体のアサド政権は「アラブの大義」であるパレスチナ問題に積極関与することで、政権の存在意義につなげてきた。このため難民は手厚く保護され、反イスラエルのパレスチナ武装勢力の亡命先でもあった。
パレスチナ難民はこうした「恩義」から、これまで民主化闘争を遠巻きにしてきた。

しかし、ロイター通信などによると、政府軍は最近、首都ダマスカスのヤルムーク難民キャンプを反体制派の潜伏先とにらみ、たびたび砲撃。1968年創設のパレスチナ過激派でアサド政権の支援を受ける「パレスチナ解放人民戦線総司令部派」(PFLP・GC)が共闘しているとされる。
一方、反体制派はパレスチナ難民の志願者で武装勢力「嵐旅団」を新設し、ヤルムークの戦闘に投入しているという。

また、アサド政権は5日、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスのダマスカス事務所を封鎖した。ハマスは99年以来、在外指導部を置いていたが、民主化闘争を巡る確執でシリアを去っていた。
アサド政権は国営メディアを通じ「難民保護の姿勢に変わりはない」と訴えている。しかし、ヤルムークに住むパレスチナ難民の女性(31)は毎日新聞の取材に「私はシリアで生まれた。『母国』と思ってきたのに」と不信感をあらわにした。【11月9日 毎日】
**********************

ハマスはシリアから離反し、カタールなどシリア反体制派の支援国と協調を深めています。
“ハマスはこれまで反イスラエルでシリアやイランと共闘してきたが、この機に軸足を移し、国際的孤立を脱したい思惑がある”【10月25日 毎日】とも言われています。宗教的にもハマスはスンニ派で、シリア反体制派と共通しています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インドネシア  メイド問題で高まる反マレーシア感情 パプア独立問題への暴力的対応

2012-11-09 23:47:19 | 東南アジア

(09年 マレーシア人の雇い主に虐待を受けたとして保護されたインドネシア人メイドの手 “flickr”より By 萃攸 http://www.flickr.com/photos/38722415@N07/4197112636/

インドネシア政府にはメイド派遣の再凍結を求める脅しが殺到
インドネシア語は、もともとはマラッカ海峡周辺で使用されていたマレー語が母体となっているため、言語的に非常に近く、インドネシア・マレーシア両国民は互いの言葉が理解できると言われています。
宗教的にも共にイスラム教を主体とする国家(マレーシアの場合は、華人、インド人などを含む多民族・多宗教国家の側面もありますが)です。

言語・文化・宗教に近い関係がある隣接する両国ですが、その関係は良好とは言い難い面があり、09年には、マレーシアに出稼ぎに出ているインドネシア人メイドへの肉体的・性的虐待でインドネシア側の不満が噴出したことがあります。
その影響でインドネシア人メイドのマレーシアへの派遣は凍結されていたのですが、4か月ほど前に解禁されたようです。しかし、1枚のチラシの文言で、再びインドネシア側の怒りが高まっているそうです。

****マレーシアとインドネシアのメイド戦争****
マレーシアに張り出された「インドネシア人メイド大売り出し!」のチラシでインドネシアの積年の恨みが炎上

東南アジアの経済力格差を考えれば、インドネシア女性がマレーシアに出稼ぎに向かうのは自然なことだ。
1万以上の島々に2億人の国民が暮らすインドネシアは、10人に1人以上が貧困状態にある途上国。
一方、マレーシアはアジア経済をけん引する国の1つで、住み込み家政婦を雇う経済的余裕のある上流家庭も多い。

だが、裕福なマレーシア人家庭に住み込んで料理や掃除、子供の世話などを担うインドネシア人女性が雇用主から虐待を受けるケースは少なくない。虐待によってメイドが命を落とす事件まで発生し、インドネシア世論の怒りが頂点に達した09年6月、インドネシア政府はマレーシアへのメイド派遣を凍結した。

これに対し、マレーシア当局はメイド不足に不満を募らせる富裕層の圧力に押されて待遇改善に尽力。4カ月ほど前にようやくメイドの派遣が再開されたのだが、1枚の品のないチラシをきっかけにインドネシア国民の間に再びマレーシアへの怒りが渦巻いている。

首都クアラルンプールの街路樹に張られた問題のチラシには、「インドネシア人メイド、大売り出し! 家事や料理の手間がなくなります!」といった露骨な言葉が並んでいる。活動家のアニス・ハディヤがツイッターでこのチラシを紹介すると、インドネシア人を「商品」扱いすることへの批判が一気に広がった。

チラシ作製が「安全保障」を脅かした罪に?
インドネシアの世論がメイド虐待問題に神経をとがらせているタイミングを考えれば、確かにあまりに攻撃的で、恥ずべき内容だ。
インドネシア国内の反マレーシア感情は、異様なレベルにまでエスカレートしている。インドネシア政府にはメイド派遣の再凍結を求める脅しが殺到。インドネシア人出稼ぎ労働者を斡旋する会社の社長は、マレーシアへのメイド派遣を「永久的に」停止すると発言している。

一方、マレーシア政府もこの問題に過剰反応を示している。社会の不安定化を恐れる当局は、チラシをデザインした女性を2週間に渡って取り調べ、マレーシアの「国家安全保障」を脅かした罪に当たるかどうか調査しているという。女性が身柄を拘留されているか確認するため、記者はチラシに記載された3つの電話番号に連絡したが、応答はなかった。

それにしても、この女性の行為のどこに法的な問題があるのか。ホッチキスでチラシを木に貼りつけたこと? こんな1枚の紙切れに、マレーシアの安全保障を脅かす力があるとは思えないのだが。【11月6日 Newsweek】
***********************

09年6月の騒動については、09年6月13日ブログ「インドネシアとマレーシア 領海問題で対立 “近い”両国の微妙な感情」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090613)でも取り上げました。

09年6月ブログでも触れたように、インドネシア側の不満が高まりやすい背景には、経済的に優位にあるマレーシアに対するインドネシア側の反感があります。
2010年の一人当たりGDPでみると、マレーシア8423ドルに対し、インドネシアは2974ドル(IMF, World Economic Outlook Database)と3倍近い格差があります

この格差のために、09年当時で30万人とも言われていたメイド・その他労働者のインドネシアからマレーシアへの流入があります。
インドネシア人メイドへの虐待はマレーシアだけでなく、サウジアラビアでも問題化したことがあります。
2011年7月4日ブログ「サウジアラビア インドネシアからの出稼ぎ家政婦への処遇が問題化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110704

インドネシア人メイドの虐待問題は、政治的には地域大国の立場にあるインドネシアとしてはプライドが傷つけられる敏感な問題となっています。
今回の配慮を欠いたチラシ文言は、このインドネシアのプライドをいたく傷つけたようです。

警官隊がデモ隊へ発砲、特殊部隊が運動指導者を殺害
インドネシア関連で最近目にする話題に、パプアで高まっている独立問題、それに対するインドネシア側の弾圧があります。
この問題については、10月1日ブログ「インドネシア パプアの分離独立運動 広がる宗教的不寛容」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121001)でも取り上げました。

****インドネシア:独立派デモで衝突…東部パプア****
独立派住民と治安当局の対立が続くインドネシア東部パプアで23日、独立の是非を問う住民投票を求める抗議デモが行われた。西パプア州の州都マノクワリで警官がデモ隊に発砲。複数の負傷者が出ている。
デモは独立派組織「西パプア国家委員会」(KNPB)が主催。マノクワリの他、パプア州の州都ジャヤプラなど計4都市で行われた。

マノクワリのデモを取材した地元メディア「スアラ・パプア」のオクトビアヌス・ポガウ編集長によると、同日朝、市内の大学前に学生など独立派住民数百人が集まり、道路を封鎖。警察による解散要求を拒否し、投石を始めたため、強制排除に乗り出した警官の一部がデモ隊に向けて発砲したという。9人が負傷し、うち住民2人が背中などに銃弾を受けて重傷という。実弾かゴム弾かは不明。地元テレビの現場映像には、射撃する複数の警官が映っている。

一方、パプア州警察のティト長官は毎日新聞の電話取材に対し、マノクワリでの衝突では住民5人、警官1人が負傷したと話し、空砲のみで実弾は使用していないと主張した。【10月24日 毎日】
*******************

****インドネシア:西パプア指導者、国家警察が殺害****
インドネシア東部パプアの分離・独立を求める独立派組織「西パプア国家委員会」(KNPB)は6日、同委員会の地元指導者と活動家が国家警察の特殊部隊に殺害されたと発表した。

西パプア国家委員会によると、西パプア州ファクファクで4日未明、同委員会の地元指導者(22)と、活動家(22)が死亡した。2人はバイクで移動中で道路脇で倒れていた。検視した医師は、指導者の頭部には大きな穴が開いていたことから他殺と判定した。

西パプア国家委員会は2人は以前から警察に監視されていたとして、検視結果と現場に残されていたバイクが無傷だったことなどを理由に、特殊部隊に襲われたと断定した。一方、地元警察署長は毎日新聞の電話取材に「酒に酔ってバイクを運転中に起きた事故」と否定した。

国家警察は西パプア国家委員会が警察署や国軍施設などへのテロ攻撃を計画しているとして弾圧を強め、活動家の殺害や逮捕が続いている。【11月6日 毎日】
*********************

自分のプライドが傷つけられることには敏感でも、他人を踏みつけることには鈍感になる・・・・まあ、人間というのはそういうものでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  ロヒンギャ問題でスー・チー氏 “支持することはできない”との発言

2012-11-08 23:46:01 | ミャンマー

(今年9月の訪米時、クリントン米国務長官と会談するスー・チー氏 なお、今月18日、オバマ大統領がミャンマーを訪問することが発表されています。スー・チー氏との会談もあるとみられています。 “flickr”より By U.S. Department of State http://www.flickr.com/photos/statephotos/8000222693/

【“存在を否定された民族”ロヒンギャ
ミャンマー西部のラカイン州で、ミャンマーにおける多数派である仏教徒とミャンマー国内では市民権が与えられていない“存在を否定された民族”ロヒンギャ族(イスラム教徒)の間で衝突が起き多数の死傷者・難民がでていることについては、これまでも何回かとりあげてきました。
(10月26日ブログ「ミャンマー  西部ラカイン州でのロヒンギャ族と仏教徒の衝突が再燃拡大」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121026

この問題に関して、民主化運動指導者であるアウン・サン・スー・チー氏の発言・関与がないことに、ロヒンギャ族やロヒンギャ族に対する弾圧を懸念する国際社会・人道支援団体からは不満も出ていました。

スー・チー氏の消極的な対応の背景には、ロヒンギャ族はバングラデシュからの不法移民であり、ミャンマー国民ではないとミャンマー国内では考えられており、仏教徒である一般国民のロヒンギャ族への嫌悪感が非常に強いことがあります。
こうした状況でロヒンギャ族支持を打ち出すことは、一般国民からの反感を買う恐れがあります。

ただ、不法移民・侵入者とは言っても、“かつて、ロヒンギャは東インド(現在のバングラデシュ)に住んでいたが、ミャンマー西部に存在したアラカン王国に従者や傭兵として雇われたり、また商人としてもとビルマ(現在のミャンマー)の間を頻繁に往来していたため、その後ビルマ(現ミャンマー)国境に定住したイスラム教徒がロヒンギャの祖先とされる。バングラデシュへ難民化したり、ミャンマーへ再帰還したりしたため、現在では居住地域が両国を跨っている”【ウィキペディア】とあるように、長い年月をかけてこの地に住むようになった経緯がり、昨日・今日の話ではありません。

また、現実問題として、ミャンマーにおいては、これまで軍事政権による大規模なロヒンギャ弾圧・追放が行われきましたが、一方でバングラデシュも彼らを受け入れることを好まず、UNHCRの仲介事業によってミャンマーに再帰還させられるというように、両国から迫害・追放を受ける形となっています。
更に、海に小舟で出た難民を、タイ海軍が強制的に海に押し戻すといったこともありました。
このように、ロヒンギャ族が安心して暮らせる土地がないというのが現状で、国連など国際社会も憂慮する人道問題となっています。

【“政治家”スー・チー
先述のようにロヒンギャ族に関する発言を控えてきたスー・チー氏ですが、3日、「問題の原因を見ずしてモラルリーダーシップ(道徳的指導力)なるものを発揮するべきではない」と、ロヒンギャ族への厳しい見解を表明しています。
“問題の原因を見ずして”という表現からは、やはりロヒンギャはミャンマー国民ではない、彼らは不法移民にすぎない・・・という考え方が窺えます。

****スー・チー氏、ロヒンギャ人の支持明言せず  西部の衝突めぐり****
ミャンマー西部で仏教徒とイスラム教徒が衝突している問題をめぐり、アウン・サン・スー・チー氏は3日、自分の「道徳的指導力」を行使していずれかの側を支持することはしないと語った。

ミャンマー西部のラカイン州で発生した衝突について、ノーベル平和賞受賞者でミャンマーの最大野党、国民民主連盟(NLD)党首のスー・チー氏はこれまで発言を避けており、このことがスー・チー氏の国際的な支持者らを失望させるとともに、当事者双方からは自分たちの味方に付かなかったと「不満」の声も出ている。

ラカイン州の衝突では、6月以降10万人以上の住民が避難を余儀なくされている。先月も衝突があり、新たに約3万人の住民が避難した。また、これまでに双方でそれぞれ数十人が死亡し、数千戸の住宅が放火されている。

スー・チー氏は3日、欧州連合(EU)欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長と首都ネピドーで会談後、BBC(英国放送協会)に出演。バローゾ委員長は衝突による暴力と衝突がミャンマーの改革にもたらす帰結に対して、EUは「深く懸念」していると表明していた。

スー・チー氏は「私は寛容を呼びかけている。だが、問題の原因を見ずしてモラルリーダーシップ(道徳的指導力)なるもの─あなたたちが仮にそのように呼ぶとして─を発揮するべきではないと考えている」と述べ、国を持たないロヒンギャ人を擁護する発言はできないと語った。

ミャンマーに暮らすロヒンギャ人80万人は、政府をはじめ国内の多くから、近隣バングラデシュからの不法移民とみなされている。活動家らは、激しい差別により、ロヒンギャ人らはいっそう疎外されることとなっていると主張。国連も、ロヒンギャ人を世界で最も迫害されている民族の1つと位置づけている。【11月5日 AFP】
**********************

自宅軟禁されていた頃であれば理念を語っていれば済みましたが、現実政治における野党政治家としては、政治と理想のバランスをとる必要があります。
今年3月、クリントン米国務長官はニューョークで聞かれた世界女性サミットの席上、民主化運動の象徴から政治家へと転身したスー・チー氏について、「政治の世界で求められるものと理想や夢との間でバランスを取るのは非常に難しい」と、この問題を指摘しています。

今回の現実を強く意識したスー・チー氏の発言は、民主化運動の象徴・アイドルから、現実政治家への転身を感じさせるものがあり、彼女が今後のミャンマー政治のなかでなにがしらかの役割を担っていくためには、いたしかたないところかとも思えます。
スー・チー氏は10月8日、ヤンゴンで記者会見し、「政党の指導者として、大統領になる勇気を持たなければならない」と述べ、将来的な大統領就任に向けた意欲を明らかにしています。

政治家スー・チーはいいとしても、「じゃ、ロヒンギャ族の現状、保護はどうするのか」という大きな問題は残ります。

****ミャンマー西部ラカイン州の避難民キャンプ、衝突激化で定員オーバー****
ミャンマー西部ラカイン州で、仏教徒のラカイン人とイスラム教徒のロヒンギャ人の衝突が再燃している問題で、支援にあたる国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は30日、周辺の避難民キャンプはすでに大幅に定員を超えており、食糧や水などの支援物資が不足しているほか、医療体制にも不備が生じていると明らかにした。

今月21日に再び激化した衝突では、放火によって数十人が死亡。今月に入って双方の暴力が原因で自宅から避難した住民は少なくとも2万8000人に上り、UNHCRによれば「破壊と避難が拡大」している状況だ。
イスラム教徒が大半を占めるラカイン州では数千人の住民がキャンプに流入しているが、今年6月の紛争で自宅を追われた7万5000人の避難民を受け入れていた避難キャンプはすでに定員をオーバーしている。

UNHCRは現状について、「すでに過密状態の避難キャンプは、スペース、シェルターをはじめ水や食糧などの支援物資の面でも大幅に許容能力を超えている」と指摘。「この地域では食料品の価格が2倍に跳ね上がっている。負傷者や病人に対応する医師も足りない」と警告した。

匿名を条件にAFPの取材に答えた政府関係者によると、30日に再び発生した衝突で警察官がラカイン人の住民1人を射殺し、最新の衝突による死者は89人に達した。暴力の終息に向けた当局の取り組みは難航している。【10月31日 AFP】
*******************

なお、政治家スー・チーについては、ロヒンギャ問題だけでなく、ミャンマーが抱える多くの少数民族問題で、期待されながら存在感を示すことができないことから、厳しい見方もあります。

****色褪せるアウンサンスーチー****
・・・・「スーチー氏への過大な期待はするべきでない。少数民族問題について彼女はほとんど知らない」(現地紙記者)
少数民族のどこにアクセスすればチャネル加開けるのかわからないのだ。スーチー氏は反政府運動のプロだが、実際の政治や経済、外交については全くの素人だ。

もちろん十五年に及ぶ軟禁生活を考えれば無理もない。しかし、彼女の周囲にもそれをサポートできる人付加いない。軍政は終了したが、この国を動かしているのはいまだに軍のテクノクラートである。この国の有能な人材は軍に集まるシステムだった。政治を動かすことはもちろん、外国の事情にも通じている有能な人材である。実際、現在の民主化を主導しているのは彼らなのだ。

アイドルではあるが
スーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の人材不足は、「スーチー氏が後継者を育ててこなかった」(前出全国紙記者)ことも大きな原因だ。NLDの実態は「スーチー党」である。建国の父アウンサン将軍の娘である彼女の人気は根強い。しかし、一挙手一役足に注目が集まる姿は文字通り崇拝の対象としての「アイドル(偶像)」
である。

外部からの人材を受け入れなくてはならないが、NLDは「民主化運動をしてきたものとしか組めない」とむしろ閉鎖的になっている。このままでは、仮に三年後の総選挙でNLDが圧勝しても政権担当能力はない。(後略)【11月号 選択】
*******************
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  オバマ大統領再選  経済回復で“ラッキー”な大統領に?「財政の崖」は?

2012-11-07 22:42:37 | アメリカ

(勝利宣言するオバマ大統領 “flickr”より By gautam.goradia http://www.flickr.com/photos/28096161@N02/8163523311/

この選挙の勝者は、これから回復に向かう経済の恩恵を受ける
接戦が予想され世界が注目していたアメリカ大統領選挙は、オバマ大統領が再選されました。
全体の得票率がどの程度だったのかはまだ情報がありませんが、勝敗を分けると見られていた激戦州の殆んどをオバマ大統領が制したため、選挙人獲得数ではかなりの差が開き、2000年(ブッシュ対ゴア)のような大混乱はありませんでした。

アメリカの経済・雇用情勢は、このところ回復基調にありますが、それでも失業率は8%近い高水準です。現職大統領にとってはその責任を問われる厳しい情勢には変わりなく、そうした逆風のもとでオバマ大統領が勝利できたのは、“相手に恵まれた”というラッキーな側面があるようにも思えます。

オバマ大統領は再選を果たしたことで、今後、アメリカ経済回復の果実を“成果”としてアピールできる立場を得たと言え、その点でも“ラッキー”と言えるようです。

****アメリカ経済は誰が大統領でも回復する****
再選されたオバマは、その手腕とは関係なく経済政策が称賛されるラッキーな大統領になるだろう

大接戦の米大統領選を制したのは、バラク・オバマだった。しかし結果が出る前から確かなことが一つあった。この選挙の勝者は、これから回復に向かう経済の恩恵を受けることになる。よほど大きなヘマさえしなければ、悲惨だった過去10年に比べて素晴らしい経済手腕を発揮したかのように見られるだろう。
 
共和党のミット・ロムニー候補は、1200万人の新規雇用を生み出すと約束していた。この公約は批判されたが、その理由は実現不可能な数字だからではない。政策の手が入らずとも達成できる数字だからだ。
米調査機関のムーディーズ・アナリティックスは今年4月発表の経済見通しで、向こう4年間で1170万人の雇用が創出されると予測した。米大手調査会社マクロエコノミック・アドバイザーズも同様に、1230万人と予測した。

もちろん、誰もがそこまで楽観的なわけではない。米連邦議会予算事務局(CBO)は、やや控えめに960万人としている。とはいえCBOは、大型減税の期限切れと強制的な歳出削減が同時進行で今年末から起きる、いわゆる「財政の崖」問題に何の対策も取られないことを前提にしている。
だが党派を越えてこの問題が重要視されていることを思えば、何らかの対策が打たれるはずだ。それにたとえ960万人(もしくはそれ以下)だったとしても、近年の雇用状況に比べれば、素晴らしい成功と見られるだろう。

景気回復が期待できる根拠
というわけで、オバマは過去4年間の経済低迷の責任をブッシュ前大統領に押しつけることができる。仮にロムニーが勝っていたとしても、責任を押し付ける相手がオバマに変わるだけだった。

では、なぜ景気回復はほぼ確実と見られているのか。その最大の要因は金融政策だ。
クリーブランド連邦準備銀行のエコノミストであるエリス・トールマンとサイード・ザーマンの研究によれば、金融危機後の09年の経済環境における金利は、マイナス5%が適正だったとした。もちろんFRB(米連邦準備理事会)にとって、名目金利をゼロを下回る値にするのは不可能だ。さらに実質金利を下げるためにFRBはインフレ目標を高めに設定するという政策も取ってこなかった。その結果、政策金利はほぼゼロで据え置かれているが、実際には適正な金利より5ポイントも高い水準にあるため、失業率は跳ね上がり、経済回復のペースも鈍いものになってしまう。

ところが、経済の回復が進むにつれて適正金利の値も高くなる。トールマンとザーマンは、今年第2四半期までに適正な金利水準はマイナス2%前後まで上昇していたと分析。実際の金利は依然、適正値より高いものの、その差は縮まりつつあるということだ。来年中にはゼロ金利が適正金利とほぼ一致するようになり、持続的な経済回復も見込めるだろう。そして、そのときホワイトハウスにいる人物は、自分の手腕とは関係のないことで称賛を浴びるはずだ。

レーガンも「棚ぼた」だった
こうした状況は今回が初めてではない。ロナルド・レーガンは経済が低迷するなかで大統領に就任。当時のFRB議長ポール・ボルカーは高金利政策でインフレを鎮静化させ、直ちに金利を低下させた。これによりアメリカ経済は82年の深刻な不況から急速に回復。レーガンの保守的な政策とは関係なかったのに、彼のおかげだと思われた。

オバマの2期目に、この80年代半ばのような劇的な景気回復が起きることはないだろう。だが今後4年間のアメリカ経済が過去4年をはるかに上回るものになるのはほぼ間違いない。オバマ大統領、あなたは本当にラッキーだ。【11月7日 Newsweek】
***********************

非常に楽観的な上記記事にもある、大型減税の期限切れと強制的な歳出削減が同時進行で起きる「財政の崖」問題については、これを懸念する向きもあります。

****財政の崖」懸念強まる 米上下院で「ねじれ*****
与野党泥仕合も
6日の米議会選挙では、共和党が下院で過半数を維持する一方、上院では民主党が多数を保つことが確実になった。上下両院の多数派が異なる「ねじれ」が続き、再選されたオバマ大統領は2期目も厳しい政権運営に直面する。今年末までに対応を迫られる「財政の崖」など懸案が山積するなか、与野党対立で米立法機能の停滞が続けば、世界経済の波乱要因になる恐れがある。

上院は連邦判事や政治任命ポストの承認権、条約批准などで大きな権限を持つ。だが、税法などの議決では、下院に優越する決まりはない。上下両院のねじれが解消できない場合、超党派の協議で妥協を探る道もある。それができなければ法案が通らず、泥仕合を演じるしかない。

2010年秋の中間選挙で「茶会党」ブームを背景に共和が下院の多数を奪って以降のオバマ政権は、こうした不安定な状況に見舞われた。ねじれに阻まれて思うように雇用・景気関連の法案が通らず、野党ばかりか、かたくなに妥協を拒むオバマ大統領にも批判の矛先が向かった。

議会が大統領選後に対処すべき懸案は山積している。差し迫った課題は懸念が国際的に広がる「財政の崖」の回避だ。
これは今年末に「ブッシュ減税」などの大型減税が失効し、来年1月には連邦歳出の強制削減も始まり、急激な財政引き締めにつながる問題。来年1月の新政権発足までに、現有議席で開かれるレームダック(死に体)議会の下、早急に対応を固める必要がある。
だが、共和が下院で勝利を決めれば、副大統領候補のライアン議員ら財政緊縮の「タカ派」が一段と勢いを増す見通し。与野党が妥協点を見いだすのは容易でなさそうだ。

ホワイトハウスと議会が最後には、減税の短期延長で手を打つとの見方もある。だが、民主、共和両党とも譲歩せず、債務の上限引き上げを巡って金融市場が大混乱した11年夏の再現になるとの懸念も根強い。
13年春には再び行われる債務上限の引き上げ交渉や、エネルギーや地球温暖化に関わる対策など、民主、共和両党がことごとく対立する懸案への対応は険しさが増す。共和が下院を押さえ続けると現在の構図は変わらず、オバマ政権の議会運営は厳しいままだ。【11月7日 日経】
***********************

メキシコで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議においても、アメリカの「財政の崖」への懸念が出され、「世界経済への短期的なリスクという点では、財政の崖が欧州債務危機を上回っている」(カナダ財務相)との指摘もありました。

****G20:財務相会議 米の「財政の崖」に各国が懸念表明****
主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が4日夕(日本時間5日午前)開幕し、初日は世界経済について話し合った。米国で来年初めに大型減税の期限切れと強制的な歳出削減が重なる「財政の崖」について、世界経済の大きなリスクになるとの懸念を各国が表明。5日採択する共同声明は、欧州に債務危機解決を、日本に赤字国債発行のための特例公債法案成立を求めるとともに、米国に対して、崖の速やかな解消を促す見通しだ。

「本当に解決がつかなければ、世界経済、ひいては日本経済に影響を与える。G20でしっかり取り組んでほしいと各国が言うことになる」。日銀の白川方明(まさあき)総裁は4日の会議直前、今回のG20が米国に「財政の崖」への対応を迫る場になるとの見方を記者団に示した。

ロイター通信によると、カナダのフレアティ財務相も開幕前、「世界経済への短期的なリスクという点では、財政の崖が欧州債務危機を上回っている」と指摘。韓国の朴宰完(パク・ジェワン)企画財政相は「13年の第1四半期、世界経済は財政の崖をめぐる不確実性に苦しむだろう」と語った。
その言葉の通り、初日の討議では、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事を皮切りに、各国から「財政の崖」について「欧州債務危機と並ぶ世界経済の不安要因だ」などとする発言が相次いだ。

米国の7〜9月の実質経済成長率は2.0%と、低水準ながら前期(1.3%)よりも伸びを拡大させた。欧州の債務危機の影響が比較的小さかったためだ。住宅市場の改善の兆しも見え始め、今後の消費拡大への期待が高まっている。

一方、財政の崖に伴う実質増税と歳出削減の合計は約5600億ドル(約45兆円)。米議会予算局(CBO)は、財政の崖が現実化した場合の13年前半の経済成長率をマイナス2.9%と予想し、「深刻な景気後退に陥る」と警告。米国まで景気後退局面に入れば、先進国経済は総崩れになる。米国への輸出依存度が高い中国など新興国経済の成長もさらに鈍化し、世界全体を景気後退に陥れかねない。【11月5日 毎日】
*******************

“党派を越えてこの問題が重要視されていることを思えば、何らかの対策が打たれるはず” 【11月7日 Newsweek】ということで順調にアメリカ経済が回復して、オバマ大統領は“ラッキー”な大統領となるのか、ねじれ議会のもとで“金融市場が大混乱した11年夏の再現”“財政の崖が現実化した場合の13年前半の経済成長率をマイナス2.9%と予想”といった事態に陥るのか・・・。
答えは年末から年明けという、すぐ近い時期にわかります。

先行き暗い日本経済
「財政の崖」を別にすれば回復基調にあるアメリカ経済に比べ、日本経済の方は、先行き暗そうです。
この差はどこから来るのでしょうか?

****景気、すでに後退局面か 9月の一致指数低下 ****
6カ月連続でマイナスに 自動車関連落ち込む
内閣府が6日発表した9月の景気動向指数(CI、2005年=100)速報値によると、景気の現状を示す一致指数は前月比2.3ポイント低下の91.2だった。マイナスは6カ月連続。内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「足踏み」から下方修正し、東日本大震災直後の昨年5月以来となる「下方への局面変化」と表現した。(後略)【11月6日 日経】
******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ大統領選挙 投票始まる 大接戦で混乱の可能性も

2012-11-06 23:27:25 | アメリカ

(“flickr”より By mark_m517 http://www.flickr.com/photos/62212535@N07/8053625256/

おおらかなアメリカ式選挙
今日11月6日はアメリカ大統領選挙の投開票日です。
連日の報道のように大接戦となっており、特に勝敗のカギを握るとされている激戦州オハイオなどでは郡レベルの動向が注目されており、いくつかの郡の選挙結果がオハイオ州の結果を、ひいては全米の勝敗に結びつく可能性があることなども報道されています。投票率も大きく影響しそうです。

現在(日本時間21時半)、東部時間で朝の7時半ですから、そろそろ投票が始まったあたりでしょう。
ただ、自由の国アメリカですから、投開票時間は地域ごとに大胆な設定も可能なようです。

****最初の開票はオバマ氏1勝1分け=東部の小村で未明投票―米大統領選****
米東部ニューハンプシャー州の二つの小さな村で6日未明(日本時間同日午後)、全国に先駆けて大統領選挙の投票が行われ、CNNなどによると、開票結果は現職オバマ大統領の1勝1分けだった。

ハーツロケーションでは33人が投票。オバマ大統領が23票を獲得し、9票のロムニー共和党候補を圧倒した。午前0時に投票が始まり、1分以内に終了したディクスビルノッチでは両候補が5票ずつ分け合った。
ハーツロケーションは1948年から未明の投票を行い、有権者数も少ないことから全米で最も早く開票結果が出ることで知られる。前回2008年の大統領選では、この二つの村でオバマ氏がマケイン共和党候補を破っている。【11月6日 時事】
*****************

未明に投票を開始し、1分以内で終わる、しかもまだ殆んどの地域で投票が開始されていないのに開票結果が発表されるというのは、日本的な感覚では“そんな勝手なやり方でいいのだろうか?”とも思えてしまいますが、そこはそれ、アメリカですから。

そもそも、広いアメリカ国内では時差があります。
最近は電子投票が導入されてきていますので、結果は投票終了と同時に瞬時にわかる州も多いでしょう。
東部と西海岸では3時間、アラスカとは4時間、ハワイとは5時間の時差がありますから、西海岸ではまだ投票が続いている時間に東部各州の結果が発表される、ハワイで投票が続いている時間にはすでに勝敗が確定している・・ということにもなります。細かいことは気にしないアメリカです。

法廷闘争に発展する可能性も
しかし、今回のような接戦となると、逆に結果がなかなか判明しないという混乱の可能性もあります。
2000年のブッシュ対ゴアのときの混乱の再現も危惧されています。

****米大統領選 きょう投票 2000年の混乱 再来警戒****
米大統領選は民主党のオバマ大統領(51)と共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事(65)が大接戦を展開したまま、6日投開票が行われる。米紙ワシントン・ポストとABCテレビの最新調査ではオバマ氏が1ポイントリード。CNNテレビの調査では両者とも49%で互角の戦いだ。票の再集計をめぐり混乱した2000年の大統領選同様、法廷闘争に発展する可能性も取り沙汰されている。

共和党ブッシュ候補と民主党ゴア候補が争った2000年の大統領選では、フロリダ州が採用したパンチカード式の投票用紙をめぐり大混乱を引き起こした。それ以降、電子化や期日前投票を利用することでスムーズな開票を目指してきたが、今回は、機器の誤作動や投票確認作業の複雑化などが懸念されている。

問題になりそうなのは、一部の州が導入するタッチパネル式の電子投票だ。米メディアによると、コロラド州では、ロムニー氏に投票しようとパネルを押しても、誤作動でオバマ氏への投票に切り替わってしまうケースがあった。共和党幹部が一部地域の使用機器の再点検を求める事態になっているという。

期日前投票の多さも頭痛のタネ。最激戦州のオハイオ州では約130万人が期日前投票を申請したものの、4日現在、まだ約24万人が投票をすませていない。仮に期日前投票を要請していた有権者が当日投票に切り替えた場合、二重投票防止の確認作業が不可欠となる。両陣営が細部の確認を強く要求することも予想され、それには10日以上かかる可能性があるという。
また、暴風雨の被害に見舞われたニュージャージー州は電子メールでの投票を容認した。ただ、ハッカーが介入する危険性を指摘する専門家もいる。

米メディアによると、両陣営とも法律顧問を激戦州に配置済みで、自陣営に不利な状況が出現すれば法廷闘争も辞さない方針を徹底させているという。
大統領選は各州に配分された選挙人の獲得数を争うが、1800年以来という獲得選挙人が同数で並ぶ珍事もあり得る。その場合、下院の投票で選ばれる。

【用語解説】2000年の米大統領選
フロリダ州で共和党ブッシュ候補のリードが州法の基準に満たない僅差だったため、再集計したところ得票差が縮小。集計機の精度に異議を唱える民主党側の要請で、一部で手集計が始まった。しかし連邦最高裁は、再集計する際の基準があいまいなどとして再集計停止を命令。投票から1カ月余り後にようやく獲得選挙人数が確定、ブッシュ候補の大統領選勝利が決まった。【11月6日】
*********************

2000年選挙で話題となった、穴があいているのか判然としない“パンチカード式の投票用紙”には驚きましたが、最先端“タッチパネル式”も問題がありそうです。
勝敗を分けると言われているオハイオ州で二重投票防止の確認作業に10日以上かかる可能性があるということになると、勝敗の行方がしばらく判然とせず、各地で“意義申し立て”が頻発する事態も想定できます。

ユニークなアメリカ式選挙
そもそも、少数激戦州の結果で決まるという、あるいは特定州の特定郡の動向が大きく影響するというアメリカ大統領選挙の仕組み自体が、不思議と言うか、日本の選挙制度とはかなり異なる制度です。

まず、投票するためには“選挙人登録を行っていることが要件となる。 米国は日本のような戸籍制度が無い為、自己申告制の選挙人登録を行わなければ投票用紙は郵送されて来ない”【ウィキペディア】という点。
当然、選挙などには関心もなく選挙人登録を行わない者もいます。投票権のない永住権所持者も1300万人ほどいるようです。アメリカの場合、服役中の囚人も少なくありません。
それを考えると永住権者・服役中囚人も含めた全有権者の約50%程度という投票率というのはかなり高い数字とも思えます。

立候補者は民主・共和の二大政党だけではなく、今回2012年選挙でも全国規模で立候補している候補者がオバマ・ロムニー以外に4名いるそうです。
しかし、二大政党候補者とその他候補者には大きな差があります。
“多くの州では、二大政党以外の立候補に一定数の有権者による署名を必要としている。”
“立候補した州でも、始めから名簿(リスト)に名前が掲載されている候補と、有権者が任意で自書式投票による追記投票をする必要がある候補に分けられている場合がある(二大政党候補は必ず名前が掲載される)” 【ウィキペディア】
このあたりも、“泡沫候補”まで平等に扱われることを基本とする日本の場合とかなり異なります。
現実重視の割り切りも、いかにもアメリカ的です。

よく知られているように、アメリカ大統領選挙は形式上“選挙人”を選ぶ間接選挙です。
“有権者は一般投票日(11月6日)に「大統領候補と副大統領候補のペア」への投票を誓約する選挙人団に票を投じる。もっとも、実際の投票では、大統領候補と副大統領候補の名前のペアとその公認政党の組み合わせの書かれた選択肢に記入して投票すると、その候補ペアへの投票を誓約する選挙人団への票とみなされる投票方式がとられる” 【ウィキペディア】
後日(12月17日)、各州で選挙人団が集会し「選挙人投票」が行われ、大統領が選出されます。

こうした選挙制度は、西部開拓時代に“選挙人”が馬車や汽車でワシントンへでかけ、大統領選挙に投票した頃の名残のようにも思えます。

これもよく知られているように、ほとんどの州では、他の選挙人団より1票でも多くの票を獲得した選挙人団がその州に割り当てられた全議席を獲得するウィナーテイクオール方式(勝者総取り方式)となっています。
なお、ネブラスカ州とメイン州は比例割当方式を採用しているそうです。

選挙人の各州への割り当ては、その州の上院と下院の議員数に等しい人数と決められています。
なお、上院議員は各州から2名ずつ、下院議員は州の人口に基づいて決められていますが、人口比を必ずしも反映してはいません。
その結果、最も選挙人が多いのがカリフォルニア州の55人、少ないのがアラスカ州、ノースダコダ州、サウスダコダ州、ワイオミング州などの7つの州の3人です。

55人対3人というのは大きな格差があるようですが、人口を考えると、逆の不平等が存在します。
ワイオミング州は人口56万人しかないのに選挙人は3人、カリフォルニア州は人口は3700万人なのに選挙人は55人です。単純に人口で考えると、ワイオミングが3人ならカリフォルニアは198人になります。
日本の“1票の格差”以上の格差がりますが、州が基本の“合衆国”アメリカではあまり問題にならないのでしょうか。

こうした、選挙人を選ぶ間接選挙、州毎の勝者総取り方式、各州に割り当てられた選挙人数の問題などから、2000年のゴア候補のように全体の得票数で勝っても、選挙人数では劣り敗北するという“奇妙な”結果も生じます。
また、オハイオなど一部激戦州の動向で勝敗が決まる・・・ということにもなります。

なお、“連邦法および合衆国憲法では(選挙人投票において)選挙人が(事前の)誓約に従って投票するよう義務付けているわけではなく(一部の州では州法によって義務付けている)、選挙人は一般投票と異なる候補者に投票することも可能である”【ウィキペディア】というあたりになると、なんともいい加減な制度のようにも見えます。
まあ、それで現実問題として混乱したケースはないようですが。

【「ロムニー大統領・バイデン副大統領」???】
大接戦を反映して、“もし獲得選挙人数が同数だったら・・・”という想定もなされています。

****選挙人互角なら下院決選=正副大統領に「ねじれ」も―米****
米大統領選は民主党のオバマ大統領と共和党のロムニー候補が激しく競り、勝敗は予断を許さない。州ごとに配分された選挙人は計538人と偶数のため、両者が269人ずつ獲得する「引き分け」も想定される。
この場合、来年早々に招集される新連邦議会での決選投票に持ち込まれ、正副大統領が別々の党となる珍事も起こり得る。

米メディアの分析によると、現時点で大統領は237人、ロムニー氏は206人の選挙人を確保できたもよう。残りは95人だが、大統領がオハイオ(18人)、ウィスコンシン(10人)、ニューハンプシャー(4人)の3州を押さえるなど、両者が同数になるケースは何通りか考えられる。

米国憲法によると、選挙人の過半数を獲得した候補がいない場合、大統領は下院に、副大統領は上院にそれぞれ決定権が移る。
下院は州ごとの議員団が1票を行使すると規定されており、過半数は26。現在、下院は共和党が多数を占め、同党の意向が通る州は30以上だ。
大統領選と同時実施の下院選でも、共和党は現有勢力をそう減らさないとの予測が一般的。3分の2とされる定足数を満たせば、下院でロムニー氏が新大統領に選出されることになる。
 
一方、上院は1人1票。現有53議席の民主党が何とか過半数を維持するとみられており、バイデン副大統領が再選される可能性が濃厚と言える。
民主党議員の何人かが「良識」を働かせて棄権し、共和党のライアン副大統領候補の当選に道を開くシナリオもあり得るが、論理的には「ロムニー大統領・バイデン副大統領」のコンビが誕生しかねない。【10月29日 時事】 
*********************

いくらなんでも「ロムニー大統領・バイデン副大統領」はないだろうとは思いますが・・・・民主主義の守護神を自任するアメリカとしては、混乱を回避したすっきりした結果が望まれます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ギリシャ  財政緊縮策の13年度予算案・EU支援の行方は? 「ラガルド・リスト」で高まる国民の不満

2012-11-05 22:44:08 | 欧州情勢

(4月の抗議行動 “flickr”より By Hayk_Group http://www.flickr.com/photos/haykgroup/6947225108/ただ、今のギリシャの苦境は、こうした不満の爆発ではなく、経済再生に向けた努力と知恵にかかっていると思われます。そして、そのためには政治を含む社会の不公正の是正が前提になりますが、政治にその是正を牽引する力と意欲があるのか・・・?)

11日に13年度予算案採決 連立与党に足並みの乱れも
財政危機に瀕しているギリシャ救済策の前提条件とされているギリシャ自身の財政緊縮策については、EU、ECB、IMFなど協力機関とギリシャの間では合意をみていますが、肝心のギリシャ国内の合意はまだ不透明な状況です。

その意味で、下記記事の“破綻、当面回避へ”という見出しは、やや語弊があるようにも思えます。
まあ、「なんだかんだ文句を言っても、今のギリシャは緊縮策を受け入れるしか他に道がないのだから、結局は議会も認めるしかないじゃないか・・・」と言われれば、そうなのかもしれませんが。

****ギリシャ首相:財政緊縮策は合意 破綻、当面回避へ****
ギリシャのサマラス首相は30日、国際通貨基金(IMF)、欧州連合(EU)の欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)との間で、ギリシャが315億ユーロ(約3兆2500億円)の支援を受ける条件となっている財政緊縮策について合意に達したとの声明を発表した。ギリシャの国庫は11月半ばに底をつくとされるが、それまでに合意内容通りに議会で承認されれば財政破綻は当面は回避される見通しとなった。

緊縮策は歳出削減や最低賃金引き下げ、公務員削減が柱。声明でサマラス首相は「(交渉では)できる限りのことを行い、重要な改善を達成した」と譲歩を勝ち取った点を強調。「合意が(議会で)承認されず、国が混乱すれば、ギリシャ国民にとってさらなる苦しみとなる」と述べ、連立与党パートナーに合意承認を要請した。

だが、サマラス連立政権の一角を成す「民主左派」は、合意では労働者の保護がないがしろにされているとして「交渉結果には合意できない。反対を貫く」と表明した。また、緊縮策への支持を示唆していた「全ギリシャ社会主義運動」も首相声明を「遺憾」と批判するなど与党内の足並みはそろっていない。

政府は緊縮策を盛り込んだ13年度予算案を31日にも議会(300議席)に提出する予定。連立与党は計176議席で、サマラス首相の中道右派政党「新民主主義党」は127議席。11月11日に予定される予算案採決で民主左派(16議席)の反対に加え、全ギリシャ(33議席)から10人以上が「造反」すると予算案否決の事態となる。

ギリシャへの融資は最大1300億ユーロの第2次支援策の一環。ユーロ圏は同12日の財務相会合で融資実施の最終判断を下す方針。【10月31日 毎日】
*******************

日程的には、以下のようになっています。
11月7日 ギリシャ国会で緊縮策関連の構造改革法案採決
  11日 ギリシャ国会で13年度予算案採決
  12日 ユーロ圏財務相会合でギリシャ支援協議
  16日 ギリシャ短期国債の償還期限

【「政治は真実を隠してきた」】
ここにきて、緊縮策に苦しむギリシャ国民の不満を更に強めているのが、「ラガルド・リスト」の問題です。
スイス・ジュネーブの銀行に預金口座を持っているとされるギリシャ人2059人のリストで、2010年にラガルド仏財務相(当時)からギリシャのパパコンスタンティヌ財務相(同)に渡されたものです。
(なぜフランスがそうしたリストを入手できたのかは、よくわかりません)

このリストには、著名財界人や政治家の名が含まれており、サマラス首相の顧問や元閣僚、財務省高官の名もあります。
スイスの銀行に資産を「避難」させていたこれら富裕者が脱税していた可能性もありますが、歴代政権はこれを全く調査してきませんでした。

この「ラガルド・リスト」をすっぱ抜いて国民に公開したのが週刊誌「ホットドック」ですが、警察当局は「掲載者が脱税や資金洗浄などの法律違反をした証拠はない」として、10月28日、雑誌編集長を個人情報保護法違反の疑いで逮捕(逮捕後、保釈されています)しました。

11月1日、アテネ地裁はこの編集長に無罪判決を下しています。

****政財界の脱税疑惑名簿報道、ギリシャ人記者無罪****
ギリシャからの報道によると、アテネ地裁は1日、スイスの銀行に預金口座を持つ、脱税疑惑のあるギリシャ人約2000人の極秘名簿を報道して個人情報保護法違反に問われたジャーナリスト、コスタス・バクセバニス氏(46)に無罪判決を言い渡した。

バクセバニス氏が自身の発行する雑誌で10月27日に報じた名簿は、フランス政府が2010年に脱税捜査用の資料としてギリシャ政府に提供していたもので、著名財界人や政治家の名が含まれている。
しかし、ギリシャ政府は最近まで本格捜査を行ってこなかった。バクセバニス氏への無罪判決を受け、政府の姿勢を追及する動きにも拍車がかかりそうだ。
司法当局はすでに判決を前に、名簿を握りつぶしてきた歴代財務相の責任の調査を議会に求めている。【11月2日 読売】
*********************

最低賃金引き下げ、公務員削減、年金カットなどの大きな痛みを強いられている国民からすれば、脱税の可能性がある富裕層(政治家・官僚を含む)が調査もされないというのは容認できないところですし、公開した編集長を逮捕するというのは見当違いもはなはだしい・・・ということにもなります。

****ギリシャ:脱税疑惑に大揺れ 富裕者リストに国民憤まん****
欧州債務危機を巡り、待ったなしの財政再建に取り組んでいるギリシャが脱税スキャンダルで揺れている。スイスの銀行に資産を「避難」させていた富裕者のリストをすっぱ抜いた週刊誌報道をきっかけに、リスト掲載者の税務調査に乗り出さなかった歴代政権に対する国民の憤まんが爆発。追加融資を受ける条件となる財政緊縮策の国会採決を今月中旬に控え、サマラス連立政権への逆風が強まっている。

(中略)
コスタス・バクゼバニス編集長(46)が10月28日に個人情報保護法違反容疑で逮捕されたことで内外の関心が高まった。編集長は1日の裁判で無罪となり、「富裕者リストがある一方、国民は(緊縮策による給料などの)カットに苦しんでいる」「政治は真実を隠してきた」との訴えが国民の共感を呼んだ。

リスト掲載者が脱税していたとの証拠はないが、事態を重視した金融検察当局はパパコンスタンティヌ氏と、業務を引き継いだベニゼロス元財務相が税務当局にリスト掲載者の調査を命じたかどうかについての調べを開始。しかし、ストゥルナラス現財務相は「リストは財務省内から見つからなかった」と話している。

ギリシャ支援を協議している他のユーロ加盟国に「徴税機能の不全」を見せつける格好となった。緊縮策を盛り込んだ13年度予算案採決を11日に控え、サマラス政権は連立維持が正念場の時に新たな火種を抱え込んだ。
連立政権の一角を占める「民主左派」は労働者の権利が保護されていないとして反対を明言。「全ギリシャ社会主義運動」からも緊縮策支持の党方針に抗議して2人が離党するなど、連立政権の足元が揺らいでいる。

ギリシャの会計検査院は1日、緊縮策に盛り込まれた年金のカットや受給開始年齢の引き上げが「憲法違反の可能性がある」との判断を下した。

政権側は「可決を確信する」と強気だが、ギリシャの国庫は今月半ばにも底を突く見通し。「緊縮策が成立しなければギリシャ支援はとまる」(外交筋)と懸念する声も出ている。【11月3日 毎日】
**********************

「リストは財務省内から見つからなかった」・・・・日本でも、以前似た様な発言を中央官庁から聞いたような気もします。

「緊縮策が成立しなければギリシャ支援はとまる」という状況ではありますが、一方で、ギリシャ国内の合意が成立しなかったからといって、EUは今すぐギリシャを見放すことができるのか?そんなことをしたら、スペイン・イタリアなどにも火がつくことになるし、ユーロ圏の崩壊にもつながる・・・といった見方もあるでしょう。
もちろん、ドイツなどには「ギリシャの放漫財政の面倒はみきれない」といった強硬論もあります。

国内外の思惑が絡んで、どのような展開になるのか、ここしばらくは予断を許さない状況が続きそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

女性の権利に関する問題  インドの名誉殺人 イタリアのDV被害 日本は?

2012-11-04 21:18:34 | 女性問題

(マイクロファイナンスを利用して小商いを始め、経済的、ひいては家庭内・社会的地位の向上を手にしようととしているインド女性 もちろんマイクロファイナンスについては問題も提起されてはいますが。 “flickr”より By mckaysavage http://www.flickr.com/photos/mckaysavage/2229763779/

【「若い女性を誘惑の危険から守るためだ」】
女性の社会的立場・権利状況は各国の文化によって様々ですが、女性の教育を受ける権利をブログで主張した少女がイスラム過激派によって銃撃されたパキスタンの事件のように、日本や欧米の価値基準からするとなかなか受け入れがたいものが多々あります。

そうした現状からすれば、下記の携帯をめぐるインドの事例などはとるに足りない些細なものと言えます。

****誘惑から守る…未婚女性の携帯禁じたインドの村****
インド西部ラジャスタン州の村で先月末、未婚女性の携帯電話の使用が禁じられた。
カーストの違う男女が駆け落ちし、「女性がみだりに男性と連絡を取るのは良くない」と、村の伝統的な自治組織が全会一致で決めた。

カースト間の差別意識が根強いインドでは、親が決めた相手との結婚を拒んだ子女を殺害する「名誉殺人」の風習もあり、女性の行動に特に厳しい目を向ける傾向がある。自治組織の決定に法的拘束力はないが、組織幹部の一人は読売新聞に、「若い女性を誘惑の危険から守るためだ」と語った。

この村では、未婚女性のスカーフ使用についても、「女性であることを隠すもの」と禁じられた。女性自立支援団体は、「インドが遅れた国と世界に知らしめる男尊女卑の恥ずかしい考えだ」と非難している。【11月4日 読売】
*********************

名誉を汚す娘が殺されるのは当然だ
事象としては“とるに足りない”ものではありますが、問題の根っこは深いものがあります。
記事にもあるように、インドでは「名誉殺人」の風習が根強く、年間数百人から一千人ぐらいの女性が殺害されているとも言われています。

これまでも何回か取り上げたことがありますが、「名誉殺人」とは、“女性の婚前・婚外交渉(強姦の被害による処女の喪失も含む)を女性本人のみならず「家族全員の名誉を汚す」ものと見なし、この行為を行った女性の父親や男兄弟が家族の名誉を守るために女性を殺害する風習のこと”【ウィキペディア】です。

インドや、パキスタンなどイスラム圏で多く見られる風習ですが、“アムネスティ・インターナショナルは名誉殺人が行われている国および地域として、バングラデシュ、トルコ、ヨルダン、パキスタン、ウガンダ、モロッコ、アフガニスタン、イエメン、レバノン、エジプト、ヨルダン川西岸、ガザ地区、イスラエル、インド、エクアドル、ブラジル、イタリア、スウェーデン、イギリスを挙げている”【同上】とのことです。

インド国内でも「名誉殺人」の風習が問題視されていない訳ではありません。

****名誉殺人が増加するインド、刑法改正を検討****
インド政府は、刑法を改正して名誉殺人に厳しい罰則を設けることを検討している。名誉殺人の増加傾向に対処するためという。内政省当局者が9日明らかにした。

インド国内における名誉殺人件数の公式データはないが、社会活動家らによると、名誉殺人で殺される男女は毎年数百人にのぼっており、特にパンジャブ州、ハリヤナ州、ウッタルプラデシュ州で多いという。
別のカーストの相手と結婚して共同体全体を「侮辱した」として、家族に殺されたり、自殺に追い込まれたりするケースが目立つという。

9日の同国紙タイムズ・オブ・インディアは、首席法務官のG.E. Vahanvati氏が、名誉殺人に法律で介入することの必要性を政府に助言したと伝えている。【2010年2月10日 AFP】
*******************

インド政府は、上記記事が報じられた2年半ほど前から、名誉殺人の「教唆」に新たに罰則を設ける等の刑法の改正に取り組んでいますが、明確な改正案が出されたとの報道は目にしていませんので、恐らく未だ“取り組み中”なのではないでしょうか。
(なお、パンジャブ州とハリヤナ州では、名誉殺人になりかねない危険性を持つ状況の夫婦を対象にした保護シェルターの設置といった措置はとられているようです。【3月1日 印度扉ニュースより】)

今年6月にも、インド北西部ラジャスタン州の村で、娘(22)の不倫に怒った父親がこの娘の首を剣で斬り落として殺害し、首と剣を持って村の中を練り歩くという事件がありました。
そのときの報道では、“こうした名誉殺人は伝統的な正義として通報されない場合も多く、警察や地元政治家も見て見ぬふりをしているのが実情だ”【6月22日 AFP】とされています。

なお、刑法改正で「教唆」への罰則が検討されているのは、下記記事にあるような、風潮を助長する村の長老グループ「カップ」などの地域住民の存在が念頭に置かれているのではないでしょうか。

****インド、伝統の犠牲「名誉殺人」 家族が阻む異なる身分の恋愛****
インド北部ではカーストが異なる、あるいは同じ村出身の男女の交際や結婚を認めない伝統が強く残り、このしきたりに背く若い恋人たちが、両親や兄弟に殺害される事件が後を絶たない。家族が伝統を守るためのものとして、「名誉殺人」と呼ばれるこうした殺人は、保守的な大人の世代と、自由恋愛など現代的な価値観をもつ子供の世代とのあつれきによって招かれ、急速な発展を遂げるインドの苦悩となっている。(中略)

 ◆同じ村も結婚認めず
「祖先が異なっても、同じ村に住んでいれば、同じ血縁関係にある『ゴートラ』とみなされる。ゴートラでは全員が兄弟、姉妹。だから、同一ゴートラの結婚は認められない」
ジンド地区から車で1時間半ほど。ダンカール村の「カップ」と呼ばれる長老グループのリーダー、ジラ・シン氏(79)は、こう説明する。そして「私の娘がそんな結婚をすれば、伝統を守るために娘を殺す」と言い切る。
カーストが異なっていなくても、ゴートラが同じであれば恋愛や結婚は認められない。ビカスさんのケースは、出身の村が同じであることから、ゴートラの問題も絡んでいた。

カップが、伝統を守ることを恋愛中のカップルの家族に強要しているとの指摘もある。カップ側は「名誉殺人を指示することは絶対にない」と否定しつつも、「古代叙事詩のマハーバーラタの中でも名誉殺人はあり、同一ゴートラの結婚は医学的にも問題があると証明されている」と、カップルの殺害を正当化する。

同州で、性的被害や人身売買にあった女性を保護する非政府組織(NGO)「アプナ・ガル」の創設者、ジャスワンティさんは「人々の考え方は、『村は一つの家族』。村全体のエゴとプライドが個人の命よりも優先されてしまう」と説明する。

 ◆死者は年間1000人?
インド刑法は、名誉殺人を一般の殺人罪と同様に扱う。このため名誉殺人による死者数は不明だが、犠牲者は年間1千人にのぼるとの調査もある。報道によると、9月は7件の名誉殺人で9人が命を落とした。

名誉殺人の問題に取り組む弁護士のラビ・カント氏によると、「名誉殺人の7割は異カースト間で起こっており、うち9割は女性の家族によるもの」という。自分の娘に手をかける家族が多いのは「家族の名誉を引き継ぐのは娘」(カップのシン氏)であり、名誉を汚す娘が殺されるのは当然だとの考えがあるからだ。

だが、男性の親の方は、ハリヤナ州やパンジャブ州などでは、若年層の男性人口が女性を上回っていることから、「結婚相手を見つけられただけでも十分だと思い、大目にみる傾向がある」(ジャスワンティさん)という。

インドでは、親が選んだ相手との結婚が主流だが、若年層の教育レベルの向上や社会の変化に伴い、恋愛する若者が増えている。カント氏によると「結婚をめぐる世代間ギャップも存在する」といい、子供が親の言うことをきかなくなったことも背景にある。

名誉殺人をめぐっては、犯行に及んだ家族だけでなく、カップのように殺人を教唆した地域住民も罪に問えるよう、殺人罪に名誉殺人罪を加えることを求める動きもある。だが、政治の動きは、大票田であるカップへの配慮から、鈍い。【2010年10月3日 産経】
*********************

冒頭で示した名誉殺人が行われている国々のなかにスウェーデンやイギリスが含まれているのは、伝統的にこうした風習を持つ国からの移民の流入によるものではないでしょうか。

【「自分の所有物だと思っていた女性が突然、反抗したり言うことを開かなかったりすると、男性は感情が爆発して暴力に発展する」】
イタリアは・・・どうでしょうか?この国は女性に関しては問題を抱えているようです。

****女性の自立を恐れるイタリア男の横暴****
女性蔑視の国イタリアでは夫や元恋人によるDV殺人が増加の一途

ジュリアナ(仮名)は7月からローマ郊外の女性用シェルターに身を潜めている。夫に刃渡り30惣のナイフで殺されかけたのだ。両手に50針以上縫う傷を負いながらも、彼女の叫び声を聞いた隣人が警察を呼んでくれたため奇跡的に助かった。

46歳のジュリアナの全身が、20年以上に及ぶ地獄を物語る。両腕は火の付いたたばこを押し付けられたやけどの痕だらけ。3回骨折した鼻は曲がっている。
夫に見つかれば今度こそおしまいだと、ジュリアナは不安そうにたばこを吸い続ける。「私を待ち構えているのよ。もう家には帰れない。逃げたことを理由に殺されるわ」

イタリアでは配偶者・恋人間の暴力(DV)を受けた女性の90%が、報復を恐れて刑事告訴をしない。もっとも、ジュリアナは生きているだけ幸運だろう。
今年に入ってからイタリアでは、少なくとも100人の女性が、かつては愛し合っていた男性に殺された。3日に1人が犠牲になっている計算だ。

DV被害女性の支援団体「私たちは共犯者にならない」によると、イタリアの女性殺人事件は過去3年間に年約10%のぺースで増えている。そのうち70%近くが同居男性に、残りの大半は元恋人や元夫に殺された。

女性を自分の所有物と思っている男性は、彼女たちが周囲の強い女性に影響を受けて意識が変わることを恐れていると、文化研究者のジョルジア・セルゲッティは言う。「女性の役割に関する社会の考え方が大きく変わっているのを受けて、この種の暴力が起きる。女性の解放に対する暴力でもある」

法改正も、DV殺人と認定される数が増えている一因だ。イタリアでは96年まで、恋人や夫婦間のレイプは犯罪と見なされなかった。つい5年前まで、嫉妬に駆られて「激情的に」女性を殺した男性の大半が法律的に許され、家庭内の「事故死」として処理されていた国だ。

ただし、DV殺人を訴追しやすくなったからといって、女性の身が守られるわけでは決してない。変わらなければならないのは国全体の意識だ。

3人に1人が耐えている
寝室ではなく取締役会で活躍する女性がメディアで取り上げられる機会が増えるにつれ、男性は自分の妻や恋人、さらには母親が意思を持ち始めることを恐れていると、DVに関するルポ作品のあるローレラ・ザナルドは指摘する。
「女性は従属的で男性より劣る役割だったが、最近は家庭でも組織でも意思決定を担うようになった。女性を尊重して対等な 関係を結び、被女たちの声に耳を傾けろと言われても、男性にとっては容易でない」
 
25年前にガブリエラ・モスカテッリがDV被害者のホットライン「テレフォノ・ローザ」を開設した当初は、電話はほとんど鳴らなかった。「DVは内輪の恥とされていた」と、モスカテッリは言う。
現在テレフォノ・ローザは年間約1200人の女性の相談に乗り、慢性的なDV被害者の安全を確保する支援をしている。

とはいえ、依然としてさまざまな数字が深刻な状況を物語る。イタリアの国立統計研究所によると現在も16~70歳の女性の推定3人に1人が、慢性的なDV被害を受けている。

社会の女性観とプライペートでの女性の扱われ方は直結していると、モスカテッリは言う。社会で優秀な実績を挙げているからこそ、DVで殺害されるような女性もいる。
「自分の所有物だと思っていた女性が突然、反抗したり言うことを開かなかったりすると、男性は感情が爆発して暴力に発展する」と、モスカテッリは言う。「感情の爆発から女性殺害に至るのはあっという間。そうなったときには手遅れだ」【11月7日号 Newsweek日本版】
*********************

大筋においては日本も同様ですが、“つい5年前まで、嫉妬に駆られて「激情的に」女性を殺した男性の大半が法律的に許され、家庭内の「事故死」として処理されていた国だ”というのは意外です。
ベルルスコーニ前首相の女性問題、それでも政治生命が断たれない(さすがに首相復帰は諦めたようですが)あたりも、こうした女性に関する文化的土壌があってのことでしょう。

なお、世界経済フォーラムが10月24日、世界135か国を対象に、社会進出などでの男女平等の度合いを比較したランキングを発表しましたが、イタリアは80位と、北欧・西欧諸国のなかでは低い順位にとどまっています。

日本は更に低く101位。名誉殺人が横行するインドが105位ですからいい勝負です。
このことは、このランキングがどのような視点・基準で作成されたものかということに依拠しますが、たとえどのような“物差し”であったとしても、インド並みということは、日本社会に私たちが普段意識しない大きな問題が横たわっているということを示しているとも言えます。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エジプト  コプト教徒に対するイスラム主義・サラフィストの敵対姿勢で、強まる社会不安

2012-11-03 22:12:28 | 北アフリカ

(2011年2月1日 カイロのタハリール広場でのムバラク政権への抗議行動においては、イスラム教徒がお祈りをする間、コプト教徒が人間の鎖を作ってこれを守る・・・という協調行動が見られました。共通の敵が倒れた今、再び両者の反目が深まっているのが残念です。 “flickr”より By IPS Inter Press Service http://www.flickr.com/photos/ipsnews/5534787936/

少年のくじ引きで新教皇決定
エジプトは国民の9割がイスラム教徒であり、現行憲法第2条で「イスラム教を国教とする。アラビア語を公用語とし、シャリーア(イスラム法)の諸原則を立法の主たる源泉とする」と規定しているイスラム国家ですが、国民の残り1割は、キリスト教の一派であるコプト正教徒でもあります。

****コプト新教皇、あす選出 イスラム調和と統率力が鍵****
エジプトで3月に死去したキリスト教の一派、コプト正教の教皇(アレクサンドリア総主教)シュヌーダ3世の後継者となる第118代教皇が4日、選出される。同国の人口の約1割を占めるコプト教徒には、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身のモルシー大統領が政権を握るなど、伸長著しいイスラム勢力への危機感がある。次期教皇には、イスラム教徒との摩擦を避けつつ、信徒を統率できる指導力を求める声が強い。

新教皇選出では10月29日、二千数百人の聖職者らの投票で候補者が3人に絞り込まれた。
4日の儀式では、各候補者の名前が記された3枚の紙が用意され、無作為に選ばれた信徒の少年が1枚を選び取ることで新教皇が決定する。コプト正教では「少年には神の意志が宿る」(司祭)と考えられているためだ。

コプト教徒の間ではムバラク前政権時代から、新規の教会建設の制限などへの不満があった。そうした中でもシュヌーダ3世は、政権側とおおむね良好な関係を維持してきたとされる。

しかし、同政権崩壊後は、イスラム教の原点回帰を唱えるサラフ主義者らが扇動したコプト襲撃事件などが頻発。9月にはイスラム圏各地での反米デモのきっかけとなった反イスラム映画が在米コプト教徒によって制作されたことが判明し、コプトに対する風当たりがさらに強まっている。

コプト教は1世紀にエジプトに伝道したとされるマルコを初代教皇と仰ぐキリスト教の一派。451年のカルケドン公会議で異端とされた。エジプトでは7世紀のアラブ人イスラム教徒による征服後、イスラムへの改宗が進んだが少数派として教会組織を維持した。【11月3日 産経】
************************

この記事が目にとまったのは、無作為に選ばれた“神の意思が宿る”少年がくじ引きで新教皇を選ぶという選定方法のユニークさのためでした。
確かに、くじ引きというのは人知を超えた“神の意思”の反映とも考えられます。
神ならぬ人間が決めるのは、神聖なる宗教世界にドロドロした人間的争いが持ち込まれることにもなり、ローマ教皇を選ぶコンクラーベを見てもなかなか大変なことですから、くじ引きという“神の意思”に委ねるというのは賢明かもしれません。
でも本当に“裏”のない完全なくじ引きで決めるのだろうか・・・という疑問も、下衆の勘繰りとしてはあるところです。

チベット仏教:くじ引き、共産党政権認定、お告げ
世界の各宗教がどういう方法でそのトップを決めているのかについては全く知識がありませんが、輪廻転生による活仏を選ぶチベット仏教でも、くじ引きがとられています。

****パンチェン・ラマが活仏転生選定=ダライ後継見据え実績―チベット****
新華社電によると、中国政府によって認定されたチベット仏教第2の高位者パンチェン・ラマ11世(20)がチベット仏教の活仏の転生(生まれ変わり)を選定する儀式が4日、チベット自治区ラサ市のジョカン寺(大昭寺)で行われた。同仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(74)がインドに亡命して不在の中、活仏転生儀式で重要な役割を果たすことで、同14世の後継選びに向けて実績を積み上げている。

儀式は2000年3月に死去した第5世徳珠の転生を選定するもので、あらかじめ2人に絞り込まれた候補者の中から、同11世がくじ引きをした結果、ロサン・ドジェ少年(4)が選ばれた。同自治区政府の承認を経て第6世徳珠となる。

新華社電は、転生の手続きが中国政府のチベット仏教活仏転生管理規則に従って実施され、出席した仏教関係者が「宗教儀式、歴史的な制度に完全に合致している」と手続きの正当性を強調したと伝えた。
パンチェン・ラマ10世の後継をめぐっては、ダライ・ラマ側と中国政府がそれぞれ転生を認定した経緯がある。ダライ・ラマ14世の後継でも同様の事態が予想される。【2010年7月4日 時事】
********************

チベット仏教の場合は、問題は“くじ引き”ではなく、パンチェン・ラマ11世自身の選定にあります。
教団側が転生を認定した少年が中国政府によって拉致され、別に中国政府が認定した少年がパンチェン・ラマ11世となった・・・という経緯があります。
輪廻転生の活仏を共産党政権が認定するという、くじ引き以上に不可解な選定ですが、中国政府がパンチェン・ラマ11世にこだわるのは、チベット問題の中心に位置するダライ・ラマ14世の転生を認定するうえでパンチェン・ラマ11世が重要な役割を果たすためでもあります。

そのダライ・ラマ14世が活仏として見出された経緯については、いろんな“神のお告げ”的なもの、見出された少年の示した“聖性”にあるとされており、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所ホームページ(http://www.tibethouse.jp/dalai_lama/hh_reincarnation.html)に詳しく紹介されています。

なお、チベット仏教にあっては、転生したと思われる少年を探しだし、最終的に認定されまでのなかで、単に“神のお告げ”だけでなく、宗教指導者としての資質が教団側によって厳しくチェックされるシステムのように思われます。

勢いづくサラフィスト
話をエジプトに戻します。
国民の1割を占めるコプト教徒に対し、9割の多数派であるイスラム教徒のなかでもサラフィストと呼ばれる、より厳格なイスラム主義を求める“原点回帰”主義者の攻撃的な姿勢が目立っています。
政治的には、モルシ大統領の出身母体でもある穏健派「ムスリム同胞団」がイスラム主義勢力の中心にありますが、サラフ主義者も先の議会選挙では「ヌール党」を擁して全体の4分の1を獲得し、大きな影響力を有しています。

****反イスラム」容疑でっち上げ エジプト・サラフ主義者の告発戦術****
エジプトでここのところ、キリスト教の一派であるコプト教徒が、同国で多数派のイスラム教を侮辱したとして告発を受けるケースが相次いでいる。イスラム教の原点回帰を唱えるサラフ主義者がでっち上げた容疑で拘束を受ける事件も発生。イスラム圏各地で起きた反米デモのきっかけとなった反イスラム映画の制作者がコプト教徒だったことも、サラフ主義者らを勢いづかせている。

9月26日、エジプト南部アシュート県にある中学校で社会科を受け持つコプト教徒の女性教諭について、教え子の男子生徒が学校側に苦情を申し立てた。その前日、女性教諭がイスラム初期の歴史に関する授業中に「イスラム教の預言者ムハンマドに対して侮辱的な説明をした」からだという。

政府系紙アルアハラム(電子版)などによると、訴えを受けて学校側は、女性教諭を自宅待機とした上で、他の生徒たちから聞き取り調査を行った。その結果、男子生徒の訴えは「根拠がない」と判断され、女性教諭は社会科の担当を続けることになった。

ところがその数日後、女性教諭は、イスラムを侮辱したとの容疑で警察に拘束される。男子生徒の父親が捜査当局に対し、正式な告発状を提出したためだった。地元でこの父親は、熱心なサラフ主義者として知られる人物だったという。

弁護を担当した弁護士によれば、女性教諭は取り調べに対し、一貫して容疑を否認。捜査の過程では、男子生徒がそもそも、問題の授業があったとされる日に学校を欠席していたことが証明され、女性教諭は間もなく釈放された。容疑は、まったくのでっち上げだったというわけだ。

コプト教徒がイスラム教を侮辱したとして告発を受けるケースは今、エジプトで頻発している。中部ソハーグ県では最近、コプトの男性教諭が同様の罪に問われ、裁判所内で襲撃される事件も起きた。
同国でイスラム教を侮辱することは、有罪なら最長で禁錮5年の刑を受ける犯罪だ。しかし、侮辱にあたるかどうかの判断は主観的な部分が大きく、今回の女性教諭の場合のように、他人を陥れるために法律が悪用される恐れもつきまとう。

エジプトでは昨年2月のムバラク政権崩壊後、サラフ主義者の活動が活発化した。教条主義的傾向の強いサラフ主義者の中には、他の宗教の信者や信仰心が薄いとみなされる人間を折伏(しゃくぶく)したり排除したりすることがイスラム教徒としての義務だと信じる者も少なくない。

サラフ主義者がコプト教徒とイスラム教徒とのトラブルに介入し、暴力沙汰に発展することもある。イスラム圏各地での抗議行動のきっかけとなった反イスラム映画も、もともとはサラフ主義系のテレビ局が“発掘”し番組で紹介したものだった。

こうした中、エジプト人の中には、サラフ主義者を腫れ物に触るように扱う人が増えている。
今回の女性教諭の事件では、同僚の教師ら20人が男子生徒とその父親の訴えに同調し、学校側に女性教諭に対する非難を申し立てたという。理由は不明だが、サラフ主義者に目を付けられるのを恐れたためだとの指摘もある。

宗教問題に詳しいエジプト人記者は「このような事件が続けば、誰もがサラフ主義者を怖がることになる。いつ告発されるか分からない状況では安心して暮らせなくなってしまう」と警告している。【10月21日 msn産経】
**********************

注目される新憲法起草
エジプトでは現在、新憲法の起草作業が行われているところですが、先述の憲法2条にある“イスラム教の位置付け”も大きな争点のひとつです。

****エジプト:大統領支持者と反対派が衝突、110人負傷****
昨年の民主化要求運動「アラブの春」を受けて誕生したエジプトのモルシ大統領の支持者と反対派が12日、カイロ中心部のタハリール広場で衝突し、国営メディアによると110人が負傷した。モルシ大統領の就任後、この種の大規模な衝突は初めてとみられ、独裁政権崩壊後のエジプト社会の不安定さを改めて露呈した。
タハリール広場にはモルシ大統領の支持者や反対派が数千人集まり、投石したり火炎瓶を投げつけ合ったりした。

エジプトでは、新憲法の起草作業が進行中で、イスラム教の位置づけや大統領権限などで論争が激化。また、昨年の民主化闘争中にラクダに乗った暴徒を反体制派弾圧に駆り立てたムバラク前政権の幹部が今週、裁判で無罪判決を受け国民の不満が高まっていた。【10月13日 毎日】
****************

現実問題としては、“イスラム教の位置付け”に関する一言一句の修正でもサラフィスト、コプト教徒・世俗主義者どちらか側の激しい反発を呼びますので、なかなか実施は困難ではないでしょうか。
そこを敢えて、より明確なイスラム主義を打ち出すのか・・・注目されるところです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ大統領選挙  10月雇用統計と「サンディ対策」では、オバマ大統領がハードルを“一応”クリア

2012-11-02 23:48:02 | アメリカ

(ハリケーン「サンディ」の被害者を抱きしめるオバマ大統領 こうしたシーンはオバマ大統領はよく似合います。逆に言えば、こうしたシーンが馴染まないロムニー氏には“人間味”でやや欠ける面があります。あくまでも個人的印象ですが。“flickr”より By El Mundo, Economía y Negocios http://www.flickr.com/photos/apoyopublicacion/8143289244/

雇用が安定する兆し
11月6日に投開票されるアメリカ大統領選挙は、どちらに転んでもおかしくない接戦となっていますが、大統領選挙に大きな影響を与える可能性があるとして注目されていた10月の雇用統計が先ほど発表されました。
数字は概ねアメリカ経済の回復基調を裏付けるもので、オバマ大統領にとってはハードルを“一応”クリアした形となったようです。

****米雇用増、10月17.1万人 4カ月連続10万人超 ****
米労働省が2日発表した10月の雇用統計は、雇用の動向を敏感に反映する非農業部門の雇用者数が前月に比べ17万1000人増えた。9月の改定値よりもプラス幅を広げ、4カ月連続で改善の節目である10万人増を越えた。製造業やサービス業全般に雇用が安定する兆しを示しているが、企業の雇用意欲冷え込みなど先行きには不安も横たわる。
足元の雇用が上向いたことで、6日に控えた米大統領選では再選を目指すオバマ大統領には追い風になるとの見方も出ている。

10月の雇用者数は市場の事前予測平均である12万人程度を上回った。この日の改定では9月は11万4000人増から14万8000人増に、8月も14万2000人から19万2000人増にそれぞれ引き上げられた。
労働者人口が増える米では失業率を安定して引き下げるには月15万人程度の新規雇用が必要とされる。7月以降はこのラインをおおむね上回って推移している。失業率は7.9%と9月から0.1ポイント上昇した。

民間部門では建設や製造業を中心に雇用が好転したほか、サービスでも雇用のプラス幅が拡大した。金融、情報などは低調だが、小売りやヘルスケア、ビジネス関連の一時雇用の伸びが高まった。政府部門は雇用者数がマイナスになった。主要企業の間では投資・雇用を手控える動きも出ており回復の持続性が課題になりそう。雇用統計はブレが大きく出やすいことがある。【11月2日 日経】
*******************

“非農業部門雇用者数”は、非農業部門に属する事業所(対象事業所:約40万社、従業員4,700万人:全米の約1/3を網羅)の給与支払い帳簿をもとに集計したものです。
“失業率”は、労働力人口(16歳以上の働く意志を持つ人)のうち失業者(調査期間中に労働に従事していないが働くことは可能で、過去4週間以内に求職活動を行った人)の占める割合です。

市場の予想では、“非農業部門雇用者数”が12.5万人増加、“失業率”は7.9%といった数字が出されていましたので、記事にあるように、雇用者数は市場予測を上回る増加となっています。
そうしたこともあって、数字が発表されるとドル買いが進み、ドル円は発表前の80.2円から80.6円にドル高に振れています。
失業率は0.1ポイント悪化ですが、市場予測の数字であり、何とか7%台をキープしています。

それにしても、アメリカの統計制度については全く知りませんが、労働省が発表する数値をホワイトハウスはどの段階で知るのでしょうか? もし、大統領選挙に支障が出るような数値になりそうなとき、“干渉”みたいなものはないのでしょうか? まあ、これだけ注目されていると“干渉”のしようもありませんが。

【「これまでの大統領の働きは素晴らしい」】
オバマ大統領にとって、選挙直前に降ってわいたようなもう一つのハードルが、東海岸を直撃して、死者が15州で少なくとも92人に達するという大きな被害を出したハリケーン「サンディ」対策でした。
こちらについても、評価は概ね良好で、ハードルをクリアしたようです。
災害救助は大統領としての存在感・リーダーシップをアピールする絶好の機会ともなりますが、かつてブッシュ大統領が「カトリーナ」で著しく国民の信頼を失った例もあります。

****オバマ氏、「サンディ」危機乗り切る****
米大統領選を6日に控え、再選を目指す民主党のオバマ大統領は、東海岸を直撃した強い嵐「サンディ」への対応を、党派を超えたリーダーシップを示して乗り切りつつある。共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事は、被災者を気遣いながら票固めを急ぐ。

オバマ氏は10月31日、最も被害が大きい米東部ニュージャージー州を訪ねた。大統領専用機「エアフォースワン」を出迎えたのは、同州のクリスティー知事。将来の大統領候補とも言われる共和党の有力者だ。
ふだんはオバマ氏を厳しく批判しているクリスティー氏だが、がっちりと握手し、オバマ氏とともにテレビカメラの前に立った。「大統領が我々の州民に示した心遣いと思いやりに、感謝してもし切れない」。
米メディアのインタビューにも「これまでの大統領の働きは素晴らしい」などと繰り返した。大統領選を控え、真意を聞こうと質問が集中したが、「大統領選より被災者の救済が大切だ」と受け流した。

オバマ氏も、クリスティー氏を「たぐいまれなリーダーシップと協力に感謝したい」と持ち上げ、災害対応での党派を超えた連携を強調した。

現職のオバマ氏にとって、市民に大きなダメージを与えた災害への対応は危機管理の重要案件。ひとつ間違えば激戦での致命傷になりかねない。
オバマ氏は、被害が広がりつつあった29日、フロリダ州での選挙集会を切り上げてワシントンに戻ると、ホワイトハウスで災害対応に専念した。被災した13州知事と7市長に次々に電話し、被害の状況や必要な支援を直接聞きとった。

初動も含め、批判される局面は今のところない。CNNテレビに出たロムニー陣営の幹部に対し、キャスターが「災害への対応で、勢いはオバマ氏に行ったのではないか」と聞いたほどだ。
ただしオバマ陣営は、選挙運動が滞ったのは気がかりのようで、1日には「接戦州」に入って選挙キャンペーンを再開する。

■ロムニー氏、集会は支援名目
これに対しロムニー氏は31日、接戦になっているフロリダ州で集会を開いた。東部に「サンディ」の余波が残っていた30日も、接戦のオハイオ州で「災害救助のイベント」と銘打って集会を持ち、義援金や支援物資を集めた。
有権者が災害で苦しんでいる時に表だって選挙集会を開けば、批判されかねない。でも票固めは必要だ。そうした苦心が、集会の名目に表れた。

ロムニー氏は、今回の災害救助に活躍した米連邦緊急事態管理局(FEMA)について、予算カットや民営化を示唆したことがある。オハイオでの集会で、この点を記者団に聞かれたものの、無言だった。 【11月2日 朝日】
********************

ロムニー氏は昨年、共和党の大統領候補を決める予備選の討論会で、財政赤字の削減に注力すべき時期に、連邦政府が災害時の支援に公的資金を投入するのは「不道徳」だと発言したことがあります。

****ロムニーにとって災害支援は「不道徳****
・・・・討論会でロムニーはまずこう切り出した。「連邦政府の手を離れて州政府に戻せるものがあれば常にそうするのが、正しい方向性だ。その方針をさらに進めて民間部門に戻せれば、なおいい。連邦予算の支出項目の中から『何を削減すべきか』ではなく、反対に『何を残すべきか』を考えるべきだ」

「でも、災害支援は残しますよね」と、司会役のジョン・キングが尋ねると、ロムニーはこう答えた。
「残せない。子供たちの未来を危険にさらすことなく、災害支援をする財政的余裕はない。債務を返済し終わる前に自分たちは死ぬとわかっていながら、債務を増やし続け、それを子供の世代に押しつけ続けるのは不道徳だと思う。まったく理解できない」(後略)【10月30日 Newsweek】
*******************

今回の「サンディ」による被害に対し、“連邦政府による災害支援は不道徳”とはロムニー氏も言い難いところでしょう。もっとも、オバマ大統領が“記憶喪失”と揶揄するように、主張をころころ変えるのはロムニー氏の本領ですから、あまり気にもしていないのかも。

それにしても、共和党のニュージャージー州知事がオバマ大統領を絶賛したのは、どういう事情でしょうか?
単なる正直な感想であり、あれこれ詮索するのは下衆の勘繰りというものでしょうか?

両候補から支持を求められていたニューヨークのブルームバーグ市長も、「サンディ」に見られるような気候変動に対する姿勢から、オバマ支持を表明しています。

****NY市長、オバマ氏支持を表明 「サンディで明確に****
ニューヨークのブルームバーグ市長は1日、オバマ大統領の再選を支持すると表明した。4年間の実績には「失望した」としつつ、「サンディ」によって、気候変動に取り組む大統領の必要性が明らかになったと主張した。

自ら創業したブルームバーグニュースへの寄稿で、ブルームバーグ氏は「一方の候補は気候変動を喫緊の問題ととらえ、もう一方は異なる。大統領には、選挙での票獲得よりも、科学的証拠や危機管理を重視してほしい」と述べた。女性の妊娠中絶の権利や同性婚容認でも、オバマ氏の立場を支持した。
一方、ロムニー前マサチューセッツ州知事については「過去に気候変動や移民、銃規制などで常識的な立場をとりながらも、現在はすべて覆している」と批判した。

元々民主党員だったブルームバーグ氏は2001年に共和党員として市長に初当選したが、現在は無党派。04年の大統領選ではブッシュ前大統領を支持し、08年はどちらの候補も推さなかった。【11月2日 朝日】
**********************

戦術変更 「大統領らしさ」を前面に
オバマ大統領は、「サンディ」対策への高評価に乗る形で、これまでの“ロムニー批判”から、超党派協力の重要性を訴えるなど「大統領らしさ」を前面に掲げた姿勢に変更したようです。

****米大統領選:オバマ氏一変、災害対応で超党派協力訴え****
ハリケーン「サンディ」への対応で米大統領選(6日投開票)の活動を3日間中断していた民主党のバラク・オバマ大統領(51)が1日、選挙戦を再開した。被害への対応で高い評価を得ていることを受け、演説スタイルを一変。共和党の大統領候補、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事(65)をあざけるような演説を封印し、超党派協力の重要性を訴えるなど「大統領らしさ」を前面に掲げた。

ハリケーン被害の陣頭指揮を執って以降、初めての遊説先となった中西部ウィスコンシン州グリーンベイ。空港に到着した大統領専用機から降り立ったオバマ大統領は、胸に「コマンダー・イン・チーフ」(最高指揮官)と記された米軍の革ジャン姿で登場した。

「災害に直面した時に米国はすばらしい姿を見せる。平時に気を煩わすささいな違いがすべて消えてしまう」
演説をハリケーンの話から始めた大統領は「災害には民主党も共和党もない。ただ、あるのは米国人だけだ」と語り、共和党のクリスティー・ニュージャージー州知事らと協力して対応にあたっていることを強調した。

ロムニー氏批判もあったが、政策を頻繁に変えるロムニー氏を「記憶喪失」などとからかうような調子は消えた。第1回テレビ討論会(10月3日)でロムニー氏が高評価を得た後、オバマ大統領はなりふり構わず、ロムニー氏を激しく批判してきた。その結果、世論調査では好感度が徐々に低下。ハリケーン対応をきっかけに再びイメージチェンジを狙い、最終盤での支持の上積みを狙う考えだ。

一方、ロムニー氏も南部バージニア州の3カ所で演説。前日は大統領が被災地入りしていたため、名指しでの批判は控えたが、1日は「オバマ大統領の選挙スローガンはフォワード(前へ)だが、フォアウォーンド(警告を受けた)の方がいいんじゃないか。過去4年でたくさんの人が傷ついており、これ以上はたくさんだ」などと批判を展開した。【11月2日 毎日】
***********************

火がついた「ロムニー人気」】
雇用統計や「サンディ」対策への評価などを並べると、オバマ大統領が有利になったかのように見えますが、必ずしもそうも言えず、最近のロムニー氏の勢いは相当なものがあるようです。

****土壇場ロムニーにまさかの上昇気流****
ついに「ロムニー人気」に火が付いた?勝負の読めない大接戦を制するのは

大統領候補が「もしも私か大統領になったとしたら」と言いかけて「私が大統領になった暁には」と言い直す。大歓声が上がる。候補者は演説を続ける。米大統領選の「お約束」だ。しかし10月25目は様子が違った。共和党候補のロムニー前マサチューセッツ州知事が遊説先のオハイオ州シンシナティで同じことをしたところ、投票日の夜の勝利宣言を思わせる大歓声が巻き起こり、30秒問やまなかった。

選挙戦もいよいよラストスパート。両陣営とも満場の支持者が候補者に熱い声援を送る様子をアピールし続けるはずだ。オハイオ州デファイアンスの高校で行われたロムニー陣営の支持集会では、大観衆を撮影するための無人機まで登場した。今回の大統領選では当初はさまざまな事実が、続いて支持率が、さらに現在は勢いが争点となっている。どちらの陣営により多くの聴衆が集まるか。どちらがより熱いのか。

有権者の心を読むのは至難の業だ。08年大統領選のウィスコンシン州で聞かれた共和党のマケイン陣営の支持集会は大盛況たった。にもかかわらず同州ではマケインは14ポイント差でオバマに敗れている。

それでもロムニー人気は願ってもないタイミングでピークに達している。これまでロムニーは反オバマ感情の受け皿にすぎず、予備選では忠実な共和党支持者の心に火を付けられずじまい。
それが今では支持集会の会場周辺に長い行列ができ、みんな声をからして声援を送る。ロムニーが口にするオバマ批判にではなく、ロムニー本人に対して歓声が上がる。(後略)【11月7日号 Newsweek日本版】
***************************

支持率で人種間で差
今回の大統領選挙では、人種間の差が大きくなっています。
高い失業率にもかかわらず、黒人層が「オバマ支持」でまとまっているのに対し、白人層ではオバマ支持が激減しています。

****白人の支持が激減=黒人は圧倒的にオバマ氏―人種間の緊張反映か・米大統領選****
6日投票の米大統領選に関する各種世論調査で、オバマ大統領に対する白人の支持が2009年の就任時から激減していることが浮き彫りになっている。白人層より経済状態が悪い黒人層は、圧倒的にオバマ氏支持。同氏が多様な米国を代表する大統領であり続けようと努める中、人種間の緊張が複雑に反映していると言えそうだ。

ギャラップ社の最新調査(10月22~28日、回答者3682人)によると、白人でオバマ氏を支持すると答えた人は38%で、就任時の調査(09年1月19~25日、回答者2631人)の63%から大幅に減少。黒人は91%がオバマ氏支持と回答した。

一部の米メディアは、こうした傾向を「人種間の緊張」(ワシントン・ポスト紙)と表現する。雇用問題が最大の争点となる中、黒人層は失業率が13.4%(9月時点)と、白人層の2倍近くに達しているにもかかわらず、黒人初の米大統領であるオバマ氏の再選を求めているからだ。

保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)のキャロリン・ボウマン上級研究員(世論・メディア)は「黒人層は一枚岩となって1960年代から圧倒的に民主党候補を支持している。肌の色は関係ない。多くの白人層は大統領の実績で判断している」と指摘する。
オバマ氏自身は最近のラジオのインタビューで、なぜ黒人層が支持するのかという質問に、「皆が妻のミシェルにファーストレディーを続けてほしいと思っているから」とかわした上で、「全ての米国民のために全霊をささげている」と強調した。

ワシントン・ポスト紙の最新の調査によれば、白人有権者の支持率で共和党のロムニー候補がオバマ氏を23ポイント上回った。08年の大統領選前調査では、共和党のマケイン候補のリードは8ポイントしかなかった。【11月1日 時事】
*********************

支持率に、女性でオバマ支持が高く、男性でロムニー支持が高いという、男女差があることも指摘されています。
このあたりは、6日の投開票後、いろいろと分析されるところかと思います。

今後アメリカでは、黒人層、ヒスパニックがますます割合を高め、社会・政治におけるウェイトが高くなっていきます。
高失業率という現職に逆風の選挙でもロムニー氏が勝てないということになると、これから経済が回復していくなかで、白人層に特化したような現在の共和党の姿勢では、共和党が大統領を奪還するのは更に難しくなります。

まあ、6日の結果を見ないと・・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

チベット  後を絶たない焼身自殺  次期指導者・習近平の父がダライ・ラマ14世から贈られた腕時計

2012-11-01 21:22:46 | チベット

(文化大革命当時、“反党分子”として糾弾された父・習仲勲 “flickr”より By PRCHistory http://www.flickr.com/photos/prchistory/4380598751/

ダライ・ラマの腕時計云々を息子・習近平が意識しているかどうかは知りませんが、自身の下放の経験を含め、写真のような文化大革命によって家族と自身に降りかかった災難については記憶に深く刻み込まれているのは間違いありません。それがどういう形で表に出てくるのかはわかりませんが。)

繰り返し語られる“期待”】
中国の次期指導者とされる習近平の父親・習仲勲(しゅう ちゅうくん)は、1959年に副首相に就任しますが毛沢東に疎まれ失脚、文化大革命期間中16年間も拘束されましたが、その後復活、広東省で中心的役割を果たし、深せんの経済特区を実現した人物でもあります。

習仲勲は、チベット族・ウイグル族の他少数民族の権利を擁護し、また、1989年の 天安門事件での学生抗議に対する軍の対応に反対 、1987 年には保守派 よる胡耀邦解任をただ一人批判した“リベラル派・ハト派”であったとのことです。【8月31日 ロイターより】

習仲勲を紹介したのは、今朝のTVニュースで彼の名前が出てきたからです。
例によって朝の出かける前の慌ただしい時間帯に部分的に見聞きしただけで、どういう文脈・前後関係の報道だったかは定かではありませんが、習仲勲がチベットのダライ・ラマ14世と親交があり、彼から贈られた腕時計を長く愛用していたことからわかるようにチベットに対し比較的寛大であり、そうした父親の姿勢が息子・習近平の対チベット政策に影響する可能性も・・・といった内容でした。

この習仲勲とダライ・ラマ14世の関係については、前出【8月31日 ロイター】でも報じられています。
“Does China's next leader have a soft spot for Tibet?”(http://in.reuters.com/article/2012/08/30/us-china-tibet-xi-idINBRE87T1G320120830
あくまでも“?”付きですが。

また、2010年頃にも報じられていたことのようでもあります。
****ダライ・ラマ周辺、中国の次期指導者・習近平副主席に「期待」か****
消息筋によると、チベット亡命政府のダライ・ラマ14世周辺で、中国の次期指導者に実質的に決まったとされる習近平副主席に対して、話し合いの成果を期待する声が出ているという。

根拠は、習副主席の父親で、副首相を務めた習仲勲氏が、ダライ・ラマと親しかったことだ。ダライ・ラマは習仲勲氏に腕時計を贈ったことがあるが、習副主席も、同じものと思われる時計をつけていることがあるため、「状況の改善を考えているとの、意思表示」と受け止める人がいる。(後略)【2010年10月19日 サーチナ】
*******************

1週間で計5人のチベット族住民が焼身自殺
現在のチベット情勢は極めて悪化し、中国当局への抗議の焼身自殺が後を絶たない状況に陥っています。

****チベット族の焼身自殺止まらず=中国****
米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)が28日までに伝えたところによると、中国チベット自治区ナクチュ地区で25日、チベット族男性2人が「チベット独立」などと叫び、焼身自殺を図った。このうち20歳の男性は死亡。25歳の男性は当局に運ばれ、生死は不明。

甘粛省甘南チベット族自治州夏河県では20日からの1週間で計5人のチベット族住民が焼身自殺。共産党大会開幕を11月8日に控え、焼身自殺で共産党のチベット政策に抗議の意を表そうとする動きがさらに高まる可能性がある。【10月28日 時事】 
********************

“チベット族居住区全体では2009年以降、60人のチベット族が自殺を図り、うち50人が死亡したと”【10月27日 時事】とも。

こうした情勢に当局側は治安維持体制の強化で臨んでいます。

****チベットでも治安維持強化=武装警察総隊を格上げ―中国****
中国国務院(政府)と中央軍事委員会は人民武装警察部隊の郭毅力チベット自治区総隊長を「正軍職」待遇の総隊司令官に任命した。中国紙・チベット日報(電子版)が29日報じた。

武装警察では、2008年に新疆ウイグル自治区総隊が「副軍級」から「正軍級」に格上げされ、新疆生産建設兵団指揮部も今月、「副軍級」に格上げとなった。11月の共産党大会を前に人民解放軍で大幅な人事異動が行われたが、武装警察でも治安維持の体制が強化されている。

チベット自治区では08年3月、ラサで大規模な暴動が発生したほか、チベット族居住区がある四川省や甘粛省などでも中国政府のチベット政策に抗議する活動が続き、焼身自殺を図ったチベット族は09年以降60人を超えている。【10月29日 時事】 
*********************

胡錦濤は台湾関係を改善、習近平は?】
習仲勲がダライ・ラマ14世から贈られた腕時計の話は、次期指導者・習近平の政治姿勢に対する“予測”というよりは、“願望”に近いもののようにも見えますが、江沢民時代に悪化した台湾関係を胡錦濤が改善したように、前任者の残した課題を後任者が処理するという例もないではありません。

習近平は、父の残した腕時計をどのように扱うのでしょうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする