孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ大統領選挙雑感 オーナーシップ(当事者意識)、投票率、中国では・・・

2012-11-12 23:15:22 | アメリカ

(オバマ勝利を喜ぶ支持者 “flickr”より By klfeatherly http://www.flickr.com/photos/klfeatherly/8165688110/

アメリカの現実とかなりずれている白人有権者層
6日に行われたアメリカ大統領選挙の投票結果には明快な傾向があり、殆んどの論評が、共和党・ロムニー陣営が白人保守層に偏っていることを指摘し、今後人口構成が非白人に傾いていくなかで、共和党再生のためには非白人に目を向けた方針転換が求められていることを挙げています。

****ロムニーに投票した88%は白人だった****
ロムニー敗北の最大の原因は、アメリカの現実である黒人やラテン系、アジア系を軽視した政治姿勢にある

結局、共和党のロムニーに「人種バブル」は起きなかった。
6日に投開票された米大統領選の出口調査結果によれば、ロムニーは白人票の59%を獲得した。目標とした60%に若干届かなかったものの、上々の出来だ。ただ白人票を60%獲得したとしても、一般投票数で勝利はできなかっただろう。

その理由はこれまで通り、共和党支持者に人種的な広がりがなかったからだ。極論すれば、ロムニーに投票したのは白人だけだった。
もちろん、すべてが白人だったというわけではない。ただロムニーの得票率は48・1%で、そのうち白人は42・5%。つまり、彼に投票した人の88%は白人だった。ちなみに黒人は2%、ラテン系は6%、アジア系は2%、そしてほかの人種はすべて合わせても2%だ。

一方、オバマに投票した有権者の内訳は白人が56%、黒人が24%、ラテン系が14%、アジア系は4%。その他の人種は2%だった。

白人が支配的な政治メディアは最後まで、ロムニーが限られた人種にしか支持されていないことから目をそむけていた。今やアメリカの現実とかなりずれている白人有権者層が、一般的な政治状況を反映していると勘違いしていた。だからこそ、選挙戦の最終週にニューヨーク・タイムズ紙はペンシルベニア州から次のようにリポートした。

「確かな手ごたえがある――郊外の富裕層地域の邸宅に掲げられたロムニー支持の看板や、空いた時間にロムニーへの投票を呼びかける電話をかける共和党支持者の母親たちの興奮した声が示すのは、選挙戦の流れが今やロムニーに傾いているということだ。」
だが、実際にはペンシルバニア州はオバマが5ポイント差で制した。

白人の「分離主義」は、オバマ支持者を分裂させるのにも不十分だった。オバマへの支持はかなり広範囲で、もし白人のオバマとロムニーの支持が50%と50%だったら、オバマは総得票の58%を獲得していた可能性がある。
米FOXニュースのキャスターであるビル・オライリーは我慢できなかったのだろう。出口調査と開票速報でロムニーの敗北が分かると、人種差別的な偏見をあらわにした。

「アメリカはもはや伝統的なアメリカではない。50%のアメリカの有権者は、とにかく物をほしがっている。物がほしいのだ。彼らに物を与えるのは誰か? オバマだ。オバマはそれ分かっていて、乗じたのだ。
20年前なら、オバマはロムニーのような立派な候補者によって完全に打ち負かされていただろう。白人の権力者層は今や少数派になってしまった。そして有権者の多くが今の経済システムは自分たちにとって不公平で、とにかく物をほしいと感じている。」

白人の権力者層は、さまざまな肌の色をした物欲まみれの人々によってバラバラにさせられたと言いたいらしい。白人層が広がらなかったため勝てなかったと認めたにも関わらず、オライリーはオバマの支持者を同じアメリカ人だとは見ずに、画一的な反対勢力だと捉えているわけだ。
オバマはラテン系有権者の71%を(ロムニーは27%)、アジア系有権者の73%を(ロムニーは26%)をそれぞれ獲得した。こうした有権者は、ロムニー側にとってすべて同じに見えた。それこそが彼らの敗因だ。【11月8日 Newsweek】
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このあたりの話は各紙が取り上げていますので、今回はこれ以上は触れません。

not for us, but by us
今回選挙は、前回のオバマブームのような熱狂はなく、有権者のさめた姿勢も目につきましたが、それでも政治への無関心が当たり前になっている日本、あるいは、政治への期待を語ることが失笑を買うような雰囲気の日本からすれば、メディアで報じられるアメリカ国民の大統領選挙への思いや支援活動には「どうしてそんなに・・・」という感があります。

****米イリノイ州の女性、投票所経由で分娩室へ****
6日に投票が行われた米大統領選で、何があっても必ず投票しようという強い決意を変えなかったイリノイ州の21歳の女性が、注目を集めている。

オバマ大統領が第二の故郷と呼ぶイリノイ州シカゴ市に近いドルトンに暮らすガリシア・マローンさんは、第一子の出産間近だった。投票日の未明から陣痛が始まり、間隔が5分に縮まったので病院に向かうことにしたが、その途中、陣痛に耐えながら票を投じたのだ。

マローンさんはシカゴのニュース専門ラジオ放送局WBBMに対し、「(投票用紙を)読んでは息を吐き、読んではまた息を吐き、という感じでした。そうするように、自分で言い聞かせていたんです」と話した。
「初めて投票しました。今後の人生を変える出来事になりましたよ。娘の人生にとっても、良い足がかりになればと思ったんです」という。

マローンさんが住む地区の投票所となっていたのは、偶然にもニューライフ・セレブレーション・チャーチ(新たな命を祝う教会)。投票所を管理する同州クック郡のデビッド・オール郡書記官は、「何があっても投票しようとしたガリシアさんには、脱帽です。次世代への良い手本ですよ」と話した。【11月7日 AFP】
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まあ、これはあくまでも極端なエピソードです。ただ、社会全体の選挙への熱い思いがあってこそ生まれるエピソードではあるでしょう。

****肌で感じた米大統領選挙****
見せつけられたオーナーシップ
(中略)
街角にはプラカードを持って、市民たちが民主党に投票するよう呼びかけるように促している人たちがいた。そのなかの1人で、今日は会社を休んだという40歳前後の男性に、その理由を聞いてみる。
「民主党か共和党かで、自らの支持する政党が決まっている人たちが多数を占める。ただ、どちらでもなく、ケースバイケースで投票先を変えるIndependentという存在も無視できない。私はそういう人たちに向けて投票所に行って投票するようにエールを送っているんだ。最後まであきらめないよ」

私が「You think you could change the destiny of America, right?」(あなたがアメリカの命運を変えられると思っているのですね?)と投げかけると、こう答えてきた。
「Yeah!! Why not? Come on, man!!」(何を言うんだ、当たり前じゃないか!!)
そして、私の右肩を思いっきりたたいてきた。彼の両目と仕草からは「私の一票で、私のアクションで、この国の未来を変えてみせる」という、迫力が感じられた。

合計3ヵ所の投票所を見学しながら、そこにいる人々の話を聞いて回った。ほぼ全員から、アメリカ民主主義の根幹にあるオーナーシップ(当事者意識)をまざまざと見せつけられた。

インド人男性のアメリカ観
(中略)
別れを告げる前に、一つ質問をした。
「アメリカとインドの民主主義に根本的な違いはありますか?」
彼は考える間もなく、反射的に答え始めた。(中略)
「もちろんだ。インド人の80%は、物事がどう動いて、自分の行動が社会にどういう影響を与えるかという判断力を持たない。ただ、アメリカ人の80%はそれを持っている。きちんと啓蒙・教育されている。自分の頭で考え、判断する習慣を持つ国民が多数を占めるなかでの民主主義がアメリカの強さであり、逆に言えば、それこそがインド最大の弱点だ」

人種のるつぼ、移民社会、世界中の市民たちに開かれたオープンな国――。アメリカはそう表現される。このインド人男性は、アメリカへ移住した理由を「インドは魅力的な市場だが、腐敗や法制度の欠如などあらゆる問題が山積みで、安心して仕事ができない。だから、誰に対しても公平なこの国に来た」と語る。 

アメリカも雇用確保、医療保険、税制問題などの問題は山積みで、それは今回の大統領選でも争点になった。だが、この空間に来れば、自由、人権、法の支配、民主選挙などを有機的に享受しつつ、最大限に自己実現のためのプラットフォームを与えられる。多様性に満ちたNation States(国民国家)という名の枠組みの下、政府と市民が一丸となってチャンスに突き進み、リスクに向き合う。

オバマ大統領も勝利後の演説で、「私たちのために何が達成されるか」ではなく、「私たちによって何を達成するか」(not for us, but by us)という点を強調していた。
大統領自身が国民に自己責任の重要性をきちんと語りかける。アメリカンドリームの根幹にあるオーナーシップを、リーダーシップによって突き動かす。
少なくとも、このインド人男性に、オバマ大統領の思いは伝わっていたと、私には感じられた。(後略)
【11月12日 DIAMOND online】
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いささか思い入れの強すぎる感情的リポートではありますが、多くの国民が政治へのオーナーシップ(当事者意識)を共有し、様々な人種・階層・政治的立場の違いはありながらも“アメリカ”を自分たちの手で作っていこうとする姿勢がこの国のダイナミズムを支える原動力でしょう。

それでも投票率は・・・
ただし、今回のオバマ大統領の得票数が6170万票あまりで、得票率が50.5%と言われていますので、投票総数は1億2200万票ぐらいではないでしょうか。
アメリカの有権者総数は【ウィキペディア】によれば2008年が2億3122万人ということですから、2012年は2億4000万人前後ではないでしょうか。(1千数百万人いる選挙権のない永住権者なども含んだ数字です)
そうすると、今回の投票率は50%前後という数字になります。

アメリカの場合、自動的に投票権が発生するのではなく有権者登録が必要になりますので、そのあたりも影響した数字でしょうか。
大体、「11月の第1月曜の後の火曜日」という法律に定められた投票日が奇妙です。日曜日でなく、なぜ火曜日に?
“月曜日投票にすると、伝統・宗教的に休む日である日曜日に馬車で遠くにある町の投票所に旅をしなければいけなかったため、月曜日は却下。農業を営む人が多かったその頃、水曜日は市場を開くマーケット・デーだったので水曜日は却下。それで火曜日となりました。”といった、かなり古い昔の事情があるようです。

確かに選挙運動に参加する人々のオーナーシップ(当事者意識)は相当なものがありますが、一方で選挙に参加しない1億人を超える人々もいるということで、彼らが“アメリカ”についてどういう意識を持っているのか・・・というのは興味のあるところです。
民主主義にとって本当に重要なのは“青”と“赤”の分断ではなく、選挙活動に参加してオーナーシップを発揮する人々と投票にも参加しない人々の間の分断なのかも。

【「次のボスを選ぶことを、米国では『選挙』と呼び、われわれは『大会を開く』という」】
アメリカや日本の場合は制度的には認められている主権を、様々な理由から放棄している有権者も多いようにも見えますが、国民が制度的に政治から疎外されている(ように思われる)国もあります。

****米大統領選、中国のネットユーザーにとっては「ポルノ映画」と同じ****
米大統領選が行われた6日、中国では多くのインターネットユーザーが国内のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を訪れ、選挙について状況を確認したり、コメントしていた。その多くは、今週開始される、はるかに予測可能で、はるかに民主主義的でない自国の指導者交代との違いを比較していた。

米国のテレビがオバマ大統領の再選を宣言すると、中国の簡易ブログサイト「新浪微博」の「注目の話題」リストで「米大統領選でオバマ氏が勝利」という話題が急上昇し、2400万件を超える投稿が寄せられた。
書き込みの多くはサイトを利用してオバマ氏への支持を表明するものだった。科学的根拠のないオンライン世論調査によると、中国では以前から大統領候補として好ましいのはオバマ大統領とされている。

だが、中国では今週後半から10年に1度の指導部交代が開始されるため、米大統領選という機会を利用して、自国の最高指導者を選択する上で自分たちにはいかに情報が不足しているかについてコメントするユーザーも少なくなく、中にはかなり辛辣(しんらつ)な書き込みもみられた。

「次のボスを選ぶことを、米国では『選挙』と呼び、われわれは『大会を開く』という」。中国内陸部湖南省のあるユーザーはこう書いている。「大会」が第18回中国共産党大会を指しているのは明らかだ。そこで、ほぼ形式的に党内投票が行われ、次期指導者が明らかにされる。

さらに別のユーザーによる次のような書き込みもあった。「奇妙な状況:1)われわれは自分たちのものよりも米国の選挙を気にかけている。2)われわれは米国の大統領選の仕組みを明確に知っているが、中国のそれについては全く知らない」。この投稿はのちに削除された。

中国国営英字紙グローバルタイムズは米大統領選について、フロリダ州の投票所では早い時間に訪れた一部有権者が最大7時間も待たされる事態が発生していたと報じ、今回の大統領選を「恥」と表した米アトランティック紙電子版に掲載された論評を引用した。

この報道も新浪微博で嘲笑の的となり、もっと長い時間でも中国人は喜んで待つだろうとの書き込みが多く寄せられた。「われわれは63年待っているが、いまだに投票がどのようなものかさえ分からない。恥ずかしいのはどっちだ?」と、あるユーザーは匿名で記している。

こうした米大統領選に対する中国人の関心に関する最も端的で、印象深いコメントの1つは、「Yimaobuba」のハンドルネームで投稿している人気のネットコメンテーターの次の書き込みだろう。
「ポルノ映画が人気なのと同じ理由だ。それをしたくても自分ではできない。だから、他人がしているのを見て満足するんだ」【11月9日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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昔、「無党派層は寝ていてくれればいい」と本音を語り、ひんしゅくを買った首相もいました。
最近、日本の選挙を見ていて、「どの勢力が勝った、負けたより、投票率がどの程度だったかが重要なのでは」と思うことがあります。
投票率が一定限度を切るような選挙の結果は無効にする・・・としてもいいのではとも思いますが、実際そういう制度にすれば、無効狙いのボイコット戦術が出たりするのかも・・・。

今日の報道では、“野田佳彦首相は11月30日に会期末を迎える今国会中に衆院解散に踏み切り、年内に次期衆院選を行う方向で調整に入った”【毎日】とのことですが、かなり慌ただしい選挙になりそうです。
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