孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ・ガザ地区  調停難航、依然消えない地上侵攻の可能性 双方とも強気の姿勢を変えず

2012-11-19 21:42:13 | パレスチナ

(ガザ境界から10kmほどのイスラエル南部アシュケロン ガザ地区からのロケット弾攻撃を避けてシェルターに避難するイスラエル人家族  “flickr”より By Israel Defense Forces http://www.flickr.com/photos/idfonline/8199423322/

増える犠牲者、高まる憎悪
連日の報道のように、パレスチナ・ガザ地区をめぐり、イスラエルによる空爆とハマスなどイスラム武装勢力によるロケット弾攻撃の応酬が続いています。
停戦の合意が得られないまま、犠牲者の数だけが増えています。

18日には、イスラエル軍の空爆により幼い子供4人を含む12人が死亡しています。14日以降のガザ側の死者は全部で95人、そのうち3分の1が民間人と報じられています。【11月19日 読売より】
14日以降のイスラエル側の空爆は合計で1350か所にのぼるということで、イスラム武装勢力側も武器を一般民家に隠しているため一般民家も攻撃対象になっていることを考え合わせると、むしろこれだけの犠牲者数にとどまっていることが不思議なくらいです。

****ガザ地区:イスラエルの空爆、子供も犠牲…誤爆の可能性も****
住宅密集地の真ん中にがれきの山が築かれていた。イスラム原理主義組織ハマス支配下のパレスチナ自治区ガザ地区。イスラエル軍の空爆は18日、幼い子供4人を含む12人が死亡する最悪の事態を招いた。

ハマス幹部の殺害を狙ったとするイスラエル軍の主張は、現場取材で住民から得られた証言と食い違っており、誤爆の可能性も出てきた。AP通信によると、14日以降のガザ側の死者は77人。ガザの人々は空爆の理由を考える余裕もないままイスラエルへの憎悪を膨らませている。

「突然稲妻が走り、建物が目の前に迫ってきた」。18日午後2時半ごろ、ガザのジャマル・ダルさん(50)宅を訪ねようとしたアブアナスさん(19)は目の前で起きたダルさん宅爆撃の瞬間を振り返った。鉄筋コンクリート4階建ての住宅がつぶれ、がれきの山から次々と子供や女性の遺体が引き出された。ダルさんは礼拝所に出かけていて無事だったという。

イスラエル軍は空爆直後、「ハマス・ロケット部隊隊長、ヤヒア・ラビアを殺害した」との声明を発表。その後、この人物はロケット部隊幹部で、殺害を免れた可能性があると訂正した。
だが、近所の住民は、ダルさんはハマスとは無関係の貿易商と口をそろえる。ダルさん宅の隣の自宅で頭を負傷した親類のファハミさん(27)は、入院先の病院で「一族はみなまっとうなビジネスマンばかりで、攻撃される理由はない」と話した。

イスラエル軍報道官は毎日新聞の取材に「目下調査中だ」と回答。調査は標的とは別の建物を空爆した可能性も視野に入れている模様だ。
ガザではハマスとの関係が明らかな施設だけでなく、多数の一般民家も空爆の対象になっている。中には、秘密の武器集積所やロケット弾発射台の隠れみのとして使われている場所もあるからだ。
地元ジャーナリストによると、ガザの人々は報復を恐れてハマスに不利な証言をしない傾向にある一方、イスラエル軍も個別の空爆の理由を明確にしないため、ガザ住民の不信感をますます高める悪循環に陥っている。【11月19日 毎日】
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停戦条件のハードルを上げるハマス 地上侵攻準備完了のイスラエル
もし地上侵攻となれば更に双方の犠牲者も増大しますが、いまのところ停戦の調停はエジプト・モルシ大統領を中心として行われています。

また、潘基文(バン・キムン)国連事務総長は18日、イスラエルとハマスに対して「即時停戦に向けたエジプト主導の仲介努力に協力するように強く要請する」との声明を出しており、停戦を訴えるために自身も近く現地入りすることを明らかにしています。

“モルシ大統領は17日、「まだ保証はない」としつつも「停戦に至る兆候がある」と指摘。イスラエルのペレス大統領も18日、「エジプトの努力に敬意を表する」と、停戦に前向きともとれる態度をみせた”【11月19日 産経】とのことで、停戦への兆候も報じられていますが、「作戦を大幅に拡大する用意がある」とするイスラエル・ネタニヤフ首相、「我々の条件を受け入れない限り停戦には応じない」とするハマス側、双方とも強気の姿勢を崩しておらず、調停の結果はまだ出ていません。

****ガザ地区:イスラエルとハマス、停戦条件に隔たり****
イスラエル軍の大規模攻撃で緊迫するパレスチナ自治区ガザ地区の情勢は18日、エジプトがイスラエルと、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの双方と個別に停戦を巡る協議を始め、調停を本格化させた。しかし、停戦条件を巡る溝は深く、合意に至るのは容易ではないのが現状だ。交渉決裂などでイスラエル軍が準備を進める地上侵攻へ突入すれば、中東情勢のさらなる混迷は必至だ。

エジプトのモルシ大統領は18日、ハマス亡命指導者のメシャール氏やガザの別のイスラム原理主義組織イスラム聖戦幹部とカイロで停戦条件を協議。イスラエルも政府密使をカイロに送り、エジプト治安当局と協議した。

AP通信などによると、ハマスはエジプトなどアラブ同胞の「連帯」を期待して停戦条件のハードルを上げている。イスラエルに▽ガザ封鎖の解除▽ハマス幹部の暗殺やガザ攻撃を停止する国際的な保証−−を要求。ハマス側の交渉関係者は「我々の条件を受け入れない限り停戦には応じない」と強調した。

これに対し、イスラエルはガザからのロケット弾攻撃の即時停止などを要求。ネタニヤフ首相は仲介を探って訪れたファビウス仏外相との会談で「停戦を検討するのはハマスの攻撃がやんでからだ」と強気の姿勢を示した。ガザ情勢を巡っては、国連の潘基文(バンキムン)事務総長が19日にもエジプトを訪れてモルシ大統領らと会談する予定。

 ◇「侵攻準備完了」
一方、地元紙エルサレム・ポスト(電子版)によると、イスラエル軍はガザ地区との境界付近への軍部隊の集結を終了し、地上侵攻への準備を整えた。侵攻訓練も実施したという。交渉決裂なら地上侵攻の可能性が高まる。
イスラエル軍は16日夜、ガザ周辺の幹線道路を封鎖し、軍事地域に指定。以後、戦車や砲兵隊、歩兵隊の移動に使ってきた。

オバマ米大統領は訪問先のバンコクで記者会見し、「イスラエルは領内にミサイルが撃ち込まれるのを阻止する権利がある。しかしガザでの軍事行動を、これ以上は強化しないことが望ましい」と語った。ガザ住民とイスラエル軍兵士の死傷者が増える懸念から、地上侵攻については慎重な姿勢を求めた。【11月19日 毎日】
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【「アラブの春」による情勢変化
“ガザ封鎖の解除”などは、この状況でイスラエルが了承できるものではありませんが、ハマス側の強気の背景には、イスラエルとの協調姿勢を維持していたエジプト・ムバラク政権の崩壊など「アラブの春」により中東情勢が変化し、エジプト・チュニジア・カタールなど周辺国のハマス支援の姿勢が強まっていることがあります。

****ガザ地区:イスラエル軍攻撃 アラブ連盟が緊急外相会合****
イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ攻撃を巡り、アラブ連盟(22カ国・機構)は17日、カイロで緊急外相会合を開き、アラビ事務局長が率いる代表団を近日中にガザへ派遣することを決めた。
連盟は従来、イスラエル批判の表明などにとどまってきたが、昨年来の中東の民主化要求運動「アラブの春」に伴う情勢変化を受け、具体的な対応を示すべきだとの内部批判が噴出する事態になった。

ロイター通信によると、カタールのハマド首相兼外相らが会合で「(アラブ連盟として)具体的な何かを示さなければならない」と提起し、代表団派遣で合意した。カタールは10月、ハマド首長がガザを訪問して総額4億ドル(約325億円)相当の支援を表明し、国際社会から孤立してきたガザの「表舞台」への復帰に道筋を付けた経緯がある。また、アラブ連盟は今回のイスラエル軍の攻撃を「侵略」と非難した。

一方、エジプトのモルシ大統領も17日夜の記者会見で、ガザ情勢の調停に乗り出したことを明らかにした。エジプト治安当局がイスラエルと、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの双方に接触しており、大統領は「停戦が近い兆候はあるが、まだ確証はない」と述べた。

モルシ大統領はハマスの源流であるエジプトの原理主義組織ムスリム同胞団の出身で「ガザを一人にしない」と繰り返し連帯を表明。ただイスラエルとも一定の関係を維持しており、米国も「極めて重要な指導的役割」(国務省高官)とエジプトに期待している。

しかしイスラエル、ハマス双方とも攻撃停止を要求し、調停は曲折しそうだ。ハマス報道官は毎日新聞の取材に、イスラエルによる将来的な不可侵の保証も停戦条件に挙げた。【11月18日 毎日】
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イスラエルに囲まれて封鎖が続くガザ地区ですが、唯一のイスラエル以外への出口であるエジプト・ラファ検問所については、エジプト側はこれを開き、人道援助物資などの搬入を認めているようです。この一点においても、ムバラク政権時代とは異なります。

打つ手がないアメリカ
イスラエル側の支持勢力はアメリカですが、和平交渉に消極的なイスラエル・ネタニヤフ首相とアメリカ・オバマ大統領の間には溝があることは以前も触れたところです。
ただ、アメリカとしてもイスラエル支持の姿勢は表明しています。

****ガザ地区:米大統領 イスラエル軍の攻撃を支持****
オバマ米大統領は18日、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃について「ミサイルの雨を降らされて黙っている国は地球上にない」と述べ、イスラエルの自衛権に基づく攻撃として全面的に支持する考えを強調した。訪問先のタイで行われた同国のインラック首相との共同記者会見で語った。

大統領は、事態の悪化がイスラエル・パレスチナ間の和平交渉を「一層困難にする」と指摘。イスラエル軍が地上侵攻の構えを見せていることについて「イスラエルの軍事活動が激化せずに済むことが望ましい」と述べ、慎重な対応を求めた。【11月18日 毎日】
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オバマ大統領は東南アジア外遊中で、今日はミャンマーのテイン・セイン大統領やスー・チー氏と会談を行っています。
従前から予定されていたスケジュールであり、外遊中もエジプトなど関係国と連絡はとってはいますが、イスラエルとやや距離を置いた感もあります。有効な打つ手がない・・・といった方が正しいのでしょうか。

****対話できない仲介役の米国 ****
イスラエルとパレスチナの2国家共存を目指す中東和平交渉は完全に行き詰まっている。
仲介役の米国のオバマ大統領は18日、訪問先のバンコクで「イスラエルの自衛権を全面的に支持する」と改めて述べ、今回のイスラエルの対応を支持している。
ただ、オバマ氏とネタニヤフ氏は、イラン問題への対応をめぐる違いなどから首脳間の信頼関係はなく、米国が自制を促してもイスラエルが応じる可能性は低い。
米政府は、武装闘争を続けるハマスを「テロ組織」(国務省)と認定しているため、ハマスとは対話のパイプがない。【11月19日 朝日】
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最悪のシナリオ
万一、今後イスラエルが地上侵攻に踏み切ると、レバノンのヒズボラ、シリアのアサド政権、更にはイランをも巻き込んだ中東危機に発展する可能性もあります。

****地上戦なら中東危機 ****
イスラム組織ハマスの壊滅を狙うイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザへの攻撃が本格化している。「アラブの春」後、周辺の安全保障環境は激変しており、イスラエルが地上軍を投入すれば、地域全体が不安定化する恐れがある。

「アラブ諸国はアラブの春後、多くの国内問題を抱えているが、パレスチナ問題は最も重要な問題だ」
17日のアラブ緊急外相会合で、アラブ連盟のアラビ事務局長はそう語った。

イスラエルと境界を接するのは、エジプト、ヨルダン、シリア、レバノンの4カ国。エジプトでは昨年の革命後、ムスリム同胞団出身のムルシ政権が発足。ムバラク前政権時代に築いた治安や中東和平仲介をめぐるイスラエルとの対話チャンネルは事実上途絶え、同胞団から派生したハマスとの結びつきを強めている。

ヨルダンはパレスチナ系住民が多く、平和条約を結んだ後もイスラエルには批判的だ。「アラブの春」を受けて、民主化を求めるデモが頻発し、政情は不安定化している。

シリア領ゴラン高原は第3次中東戦争(1967年)でイスラエルが占領した。国連の兵力引き離し監視軍が展開し、「冷たい平和」を維持していたが、今月に入り、占領後初めてシリアから迫撃砲が着弾。緊張が高まっている。周辺国でイスラエルと安定した関係を持つ国はない状態だ。

イランと開戦、最悪のシナリオ
イスラエルと敵対するイランと同盟関係にあるシリア・アサド政権にはトルコ、レバノン、イスラエルなどに紛争を拡大させ、政権の延命をはかる選択肢がある。カギとなるのは、イラン、シリアが支援するレバノンのシーア派武装組織ヒズボラだ。イスラエルがガザに地上侵攻した場合、レバノンからイスラエル北部を攻撃すれば、イスラエルはガザとの二正面作戦を強いられる形となる。

だが、イスラエルの強硬派ネタニヤフ首相にすれば、ハマス、ヒズボラにとどまらず、両者を支援し、核開発を続けるイランを攻撃する格好の口実になる。イランとイスラエルが全面戦争に突入すれば地域全体を巻き込み大混乱に陥る「最悪のシナリオ」へとつながるのは必至だ。【11月19日 朝日】
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対外脅威を作り出すことで国内求心力を高めるのは権力一般に共通したことで、今回のイスラエル・ネタニヤフ首相についても、ハマスへの強硬姿勢をとることで総選挙を控えて国内支持を高めたい思惑があることは指摘されてところです。

もっとも、09年3月のネタニヤフ首相就任以来、イスラエル国内ではテロの発生率は下がり、経済も比較的安定しており、首相の右派勢力はガザ地区の問題がなくても高い支持を保っています。
むしろ、テルアビブやエルサレムがロケット弾攻撃の標的にされるという、これまでにない状況変化、また、今後地上侵攻に突入した場合の混乱・犠牲者増大、将来の反イスラエル運動の高まり・・・など、混乱拡大に伴う国内の動揺の危険の方が大きいのではないでしょうか。
これ以上の混乱拡大はネタニヤフ首相にとっても得策ではないように思えるのですが・・・。
弱腰批判を抑えながら、いかに事態を収めるか・・・というところでしょう。

ハマスにしても、すでに相当のダメージを受けていると思われますし、ロケット弾攻撃もイスラエル側の対空防衛網アイアンドームによって多くが阻まれています。

常識的にはこれ以上続けても・・・といった判断になるところですが、それを阻むものは憎悪、面子、政治的思惑・・・・何でしょうか?

モルシ・野田電話協議
なお、総選挙を控えて国内政局に忙しい日本ですが、エジプト側の要請で野田首相とモルシ大統領の電話協議が行われたそうです。何を話したのでしょうか?

****ガザ地区:エジプト大統領、野田首相と電話協議****
野田佳彦首相は18日夜(日本時間同)、カンボジア・プノンペンで、エジプトのモルシ大統領と電話で協議した。モルシ大統領はイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ攻撃について「平和をもたらすため、日本を含む大国に国連の場を含めて協力してほしい」と要請した。
野田首相は「事態を深く憂慮している。イスラエル・パレスチナ双方に最大限の自制を求めている。(事態収拾への)各国の努力を最大限後押しする」と応じた。協議はエジプト側の呼びかけで急きょ行われた。【11月19日 毎日】
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