孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ASEAN会議  南シナ海問題での進展見られず 日中韓の首脳会談も見送り、FTA交渉は開始か

2012-11-18 20:50:58 | 東南アジア

(17日、ASEAN外相会議の恒例セレモニー “flickr”より By The ASEAN Secretariat http://www.flickr.com/photos/65679481@N07/8194779595/in/photostream

日中対立で国際的孤立を避けたい中国、中国とこれ以上波風を立てたくないベトナム
中国とフィリピン・ベトナムを中心とする周辺国がその領有権を争う南シナ海ですが、このところはあまり大きな動きもなく、比較的“平穏”に過ぎています。
その背景には、尖閣諸島をめぐる日中の緊張激化で、国際的孤立を避けたい中国側が南シナ海での対立拡大を抑制しているという事情があるようです。

****巨龍が狙う資源の海、南シナ海 日中対立でしばしの平穏****
広大な海原に点在する数百の島々の領有権をめぐり、ベトナムやフィリピンなどが長年、中国と争ってきた南シナ海。東南アジアの「海の火薬庫」と呼ばれるこの海域の情勢に、尖閣諸島をめぐる最近の日中対立が微妙な変化をもたらしている。

今月6日、ラオスの首都ビエンチャンで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会合。尖閣問題で野田佳彦首相と中国の楊潔●(●は竹かんむりに褫のつくり、ヤンチエチー)外相が非難の応酬をした同じセッションで、ベトナムのズン首相が発言した。「国際法と協定に基づき、紛争を解決しなければならない」。フィリピンのアキノ大統領も「紛争は国際法に基づき、公平に解決されるべきだ」と続いた。

南シナ海の紛争に対処するため、東南アジア諸国連合(ASEAN)は平和的解決を法的に義務づける「行動規範」の策定を求め、中国と非公式協議を続けていた。2人の首脳の発言は、名指しは避けたが、消極的な姿勢を崩さない中国に向けられていた。

楊外相の反応は、日本に対する激しさとは違って、淡々としたものだった。「中国の立場は歴史的、法律的な根拠に基づき、一貫している。南シナ海で航行の自由や安全が問題になったことはないし、今後もない」
今年4月、中国とフィリピンの船舶がスカボロー礁周辺でにらみ合いを続けた際、一気に冷え込んだ両国関係には、最近変化の兆しが見えてきた。

10月19日には中国の傅瑩(フーイン)外務次官がマニラを訪れ、アキノ大統領に「両国の友好関係を重視する」とする胡錦濤(フーチンタオ)国家主席のメッセージを伝達。中国では「氷を溶かす旅」と報じられた。
アキノ大統領は「状況は数段良くなっている」と認める。実際、中国は南シナ海に派遣する海洋監視船の数を減らすなど、攻勢を一時的に弱めている。フィリピン政府高官は「日本と対立を深めたことで、国際的な孤立を避けるためにも南シナ海では友好的にという狙いでは」とみる。

ベトナム側の見方も一致する。政府関係者は「中国の矛先が日本に向いたことでベトナムへの攻勢がおさまり、ほっとしている」と打ち明ける。中国の海洋進出を念頭に、10月には国内最大級の海上巡視船「DN2000」(全長90メートル)の進水式を行うなど、領海警備を強化する一方で、「中国とこれ以上波風を立てたくない」というのが本音のようだ。

南シナ海情勢の変化を横目に、日本側には懸念が募る。とりわけ、18日から始まるASEAN首脳会合や東アジアサミットを控え、議長国のカンボジアの動きには敏感だ。
カンボジアは7月のASEAN外相会議で、中国寄りの運営に終始した前例がある。フィリピンやベトナムが反発し、共同声明をまとめられない異例の事態となった。直後のASEAN地域フォーラム(ARF)では、中国が嫌う「南シナ海の航行の自由」を求めた日本や米国、豪州などの発言を議長声明に盛り込むことを拒否した。

最悪のシナリオは、中国の求めに応じて、尖閣問題が領土問題として議長声明などで言及されることだ。最大の援助国としての日本の自信は揺らいでいる。
今月5日には野田首相がフン・セン首相と会談。玄葉光一郎外相も親書を送り、大使経験者や官房副長官を相次いでプノンペンに派遣するなど、根回しに躍起だ。(後略)【11月14日 朝日】
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ASEANの再分裂回避を優先
カンボジアの首都プノンペンでは、この南シナ海問題が取り上げられる東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が17日に開かれ、18日の首脳会議、20日の東アジアサミットという一連の関連会議が始まっています。
南シナ海問題をめぐっては、今年7月の外相会議で、「行動規範」に関する議論を進めたくない中国に配慮する議長国カンボジアと、直接の利害関係があるベトナムやフィリピンが対立。議論が紛糾し、共同声明を出せない異例の事態となりました。

17日の外相会議は、比較的“平穏”な現状を維持したい関係国の思惑、中国の意向に配慮した議長国カンボジアの議事進行もあって、特段の進展はなく終わったと報じられています。

****南シナ海」進展なし…ASEAN再分裂回避で****
東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議が17日、プノンペンで開かれ、焦点の南シナ海での領有権問題に関する「行動規範」の策定をめぐり、進展がないまま終わった。

ASEANは7月の外相会議で、親中国の議長国カンボジアと、中国と緊張関係にあるフィリピンなどが対立し、共同声明を採択できない異常事態を招いた。17日の会議は南シナ海問題を主要議題とせず、ASEANの再分裂回避を優先させた形だ。

外相会議後に記者会見したカンボジアのカオ・キムホン外務副大臣は、南シナ海問題に関する議論に関して、「ASEANと中国が行動宣言を実行することを確認した」と述べるにとどめた。さらに、法的拘束力を持つ行動規範の策定のメドについては「時間的な枠組みはない」と明言し、中国とASEANの作業が進んでいないことを認めた。【11月17日 読売】
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インドネシアの「ゼロ草案」】
もっとも、まったく動きがなかった訳でもなく、インドネシアは法的拘束力を持つ「行動規範」づくりのたたき台としての「ゼロ草案」を外相会議に向けて提示しています。

****対中の領有権争い、規範づくりへ草案 ASEAN****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は17日、カンボジアの首都プノンペンで外相会議を開き、一部加盟国が中国と領有権を争う南シナ海問題などについて議論した。紛争の平和的な解決を図るため、法的拘束力がある行動規範作りの早期着手を視野に入れた草案も提示されており、具体策を話し合った。
ASEAN内で調整役を務めてきたインドネシアは、中国との規範作り開始へ向けた動きを加速させるため、「ゼロ草案」と呼ぶたたき台を作成し、今会議前にASEAN外相らに配っている。

朝日新聞が入手したゼロ草案「南シナ海の地域行動規範」によると、国連憲章や国連海洋法条約、現在ある行動宣言などを原則とし、履行事項など全9章で構成。「領海や法的論争の包括的、永続的な解決が地域の平和と安定に貢献する」「規則に基づく枠組みで、統率する規則と手続きである」と、法的拘束力を明言している。
域内では、軍事演習・偵察や新たな構造物の建築、現在無人の島などでの居住、航行の自由を脅かす活動などを禁止。船舶の故障など緊急時の警報の出し方や、新たに設立する救助調整機関からの要請で救助活動を行う手順などまで規定している。
違反した場合は、平和的手法で解決することを原則としつつ、「ASEANの枠組み内でできなければ、国連海洋法条約を含めた国際法に基づくメカニズムに持ち込める」と、第三者の介入も認めている。

「あくまでもたたき台で、すんなり通るとは思っていない」(インドネシア外務省筋)と言うように、ゼロ草案は、中国と交渉を始める前に規範の具体的なイメージを共有し、議論を進めるのが狙いだ。当事国のフィリピンやベトナムと、中国を配慮するカンボジアなどには意見の隔たりがあり、7月の外相会議では初めて共同声明が採択できない事態となった。

インドネシアのマルティ外相は、16日夜のASEAN外相非公式夕食会後、「南シナ海で、外相間にホットラインを持とうと提案した」と話した。ゼロ草案では履行事項で「各外相は緊急時用ホットラインを確保」としており、草案作りへ向けた議論の具体策のひとつとみられる。

ASEANと中国は、19日に首脳会合を行う。規範策定へ向けて高級事務レベルで会合を開いてきたが、外相や首脳レベルでの公式な交渉開始では合意できていない。今年は法的拘束力のない行動宣言の採択から10周年となる節目で、共同声明を出す予定だが、中国側は「行動規範の作成開始」という文言をめぐり、議論を続けている。(後略)【11月18日 朝日】
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しかし、今回の会議の流れから見て、「ゼロ草案」に関する議論が深まることはあまりなさそうです。
“「行動規範」策定に向けた中国とASEANの公式協議の年内開始見送り”の方向で事前のコンセンサスも出来ているようです。

****ASEAN:「行動規範」中国との協議 年内の開始見送り****
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部加盟国が領有権を争う南シナ海問題で、法的拘束力のある紛争防止の規則「行動規範」策定に向けた中国とASEANの公式協議の年内開始が見送られる見通しとなった。
ASEAN内での調整が難航しているため。南シナ海での不測の事態を回避する枠組み作りが年明けに持ち越されることで当面は緊張状態が続く。複数のASEAN外交筋が明らかにした。

中国は7月のASEANとの外相会議で「行動規範」策定に向けたASEAN側の骨子案に難色を示し、協議開始に応じていない。さらにASEAN内部でも対中強硬派のフィリピンやベトナムと親中派の議長国カンボジアが対立し、意見がまとまらない状況だ。

インドネシアのマルティ外相は9月、係争地での紛争回避のための具体的方策を規定した独自の「行動規範」草案をASEAN各国に非公式に提示し、協議の進展を促した。
しかし、ASEAN内部の親中派は「草案は(中国が反対した)骨子案を基にしており受け入れ難い」(カンボジア外交筋)と消極的で、先月29日のタイ・パタヤでの中国との高級事務レベル非公式会合でも「行動規範」に関する実質的な議論は行われなかった。

インドネシア外務省高官は1日、草案について「(今月中旬にカンボジアで開かれる)ASEAN首脳会議では議論されない。今は草案について議論できる状況ではない」として、年内の意見集約は難しいとの見通しを明らかにした。中国はカンボジアやラオスに多額の経済援助を行い切り崩しを図っている。【11月4日 毎日】
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政権過渡期の首脳が顔をそろえる会議
首脳会議には緊張関係が続く日本・中国・韓国の首脳も参加しますが、三国とも重大決定がしにくい「政権過渡期」(あるいは“レームダック”状態)にあり、首脳会議での新たな展開もなさそうです。

****ASEAN 「政権過渡期」の首脳らが出席…進展見込めず****
日本 野田佳彦首相/中国 温家宝首相/韓国 李明博大統領
東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が17日、カンボジアの首都プノンペンで開かれ、東アジアサミット(EAS、20日)で締めくくられる一連の関連会議が始まった。中国の温家宝首相、野田佳彦首相ら政権過渡期の首脳が顔をそろえる会議は、レームダック(死に体)の色彩がにじみ、南シナ海の領有権問題も進展がないまま、今年1年の幕を閉じる。

レームダック状態にある首脳は、習近平氏を総書記とする中国共産党の新指導部発足に伴い、退任が決まった温首相、解散・総選挙に踏み切った野田首相、来年2月に任期を終える韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領だ。

南シナ海問題の平和的解決へ向けASEANはこの1年、法的拘束力がある「行動規範」の草案をまとめ中国に提示し、規範の策定を強く働きかけてきた。だが、規範に手足を縛られるのを嫌う温首相は「ボールをASEANに返さず、テーブルに着こうとしない」(フィリピン外交筋)という姿勢を貫いてきた。

そのうえ退任が決まり、ASEANなどには「少なくとも来春に習氏が国家主席に就任するまで、事態は動かない。誰も中国を交渉に引き込むことも、南シナ海での実効支配をやめさせることもできない」(外交筋)との無力感が漂う。習氏の国家主席就任以降、「中国はこれまで以上に強い姿勢に出てくるだろう」との懸念もある。

温首相とは対照的に意気揚々と乗り込むのが、再選されたオバマ米大統領だ。会議への出席に先立ちクリントン国務長官、パネッタ国防長官と役割分担し東南アジアを歴訪、テコ入れした。一連の会議でも米国のアジア・太平洋地域、ASEANへのいっそうの関与強化と、対中再均衡戦略が際立つことになりそうだ。

こうした米中の変化をにらみ、ASEAN内には「米中のせめぎ合いは来年、一段と高いレベルになるだろう」(会議交渉筋)との見方が強い。このためインドネシアは、中国の交渉拒絶による事態の膠着(こうちゃく)化もあり、17日の外相会議などで当面の措置として、南シナ海における不測の武力衝突に備え、関係国間に「ホットライン」を開設することを提案した。

一方、親中派のカンボジアは今回の会議をもって、ASEAN議長国の役目を実質的に終える。中国の意に沿った仕切り役も「無事に」果たしたことになる。【11月18日 産経】
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実際、18日の首脳会議での進展はありませんでした。
****ASEAN:首脳会議 南シナ海問題踏み込んだ議論なし****
東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が18日、カンボジアの首都プノンペンで開かれた。中国と一部加盟国が領有権を争う南シナ海問題を巡り、策定作業が難航する紛争防止の規則「行動規範」については協議の継続で合意しただけで、踏み込んだ議論はなかった。

ASEAN外交筋によると、発表予定の議長声明では、当初案には明記されていた「南シナ海で航行の自由を尊重する」など、中国側には不都合な文言が削除される。

本会議終了後、ASEANのスリン事務局長は「(各国首脳は)行動規範策定に向けた協議を続けていく重要性を確認した」と強調。しかし、議長声明には「早期策定」という文言を盛り込まない方向で議論が進んでおり、中国側との本格交渉開始のめども立たない。(後略)【11月18日 毎日】
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日中韓の関係も、恒例会議が見送られ、膠着状態が続きそうです。
****日中韓首脳会談が見送り ASEAN会合****
18日にカンボジアで始まる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議の場で、恒例の日中韓3カ国による首脳会談が見送られることになった。
北東アジアの安全保障や経済協力を話し合うため1999年からほぼ毎年開かれてきたが、尖閣諸島国有化に対する中国の反発が影響したとみられる。日中首脳会談も開かれないことになった。

外務省によると、日中韓関連の会議の今年の議長国は中国だが、首脳会談を調整する連絡がないという。日中韓では自由貿易協定(FTA)の年内交渉開始という懸案があり、3カ国は経済貿易相会合を開くことも検討している。【11月16日 朝日】
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中国政府が経済協力へ動き始めた可能性?】
ただ、上記記事にもある自由貿易協定(FTA)については中国側が前向き姿勢を見せており、“中国政府が経済協力へ動き始めた可能性”への言及も見られます。

****日中韓FTA交渉開始へ…中国が前向き姿勢****
20日にカンボジアで行われる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の閣僚級会合で、日中韓3か国の自由貿易協定(FTA)の交渉開始が宣言される見通しとなった。

中国商務省の梁文トウアジア局副局長が17日、北京で記者会見し、「必要な準備は基本的に終わった。3か国とも積極的に準備している」と前向きな姿勢を見せたためだ。
野田首相が環太平洋経済連携協定(TPP)への参加に意欲をみせていることや、日中関係悪化が中国経済にも悪影響を与えていることから、中国共産党の党大会が終了したのを機に、中国政府が経済協力へ動き始めた可能性がある。

閣僚級会合には枝野経済産業相らが出席するが、日中韓の3か国首脳会談は開かれない。中国外務省の傅瑩次官は、「日程がきつく、期間が短い」と説明した。【11月18日 読売】
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