孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  経済失政で、議員が首相に退任を促す 20歳女子大生の政府批判ビラまき事件

2012-11-17 22:03:25 | 東南アジア

(ベトナム当局に逮捕されたグエン・フォン・ウエンさん 食品産業大学での様子だそうですhttp://www.rfa.org/vietnamese/in_depth/reaction-from-family-against-student-nguyen-phuong-uyen-s-arrest-10162012154755.html より)

【「謝るだけでなく本当の責任をとるときだ」】
日本企業の海外進出先としても注目されているベトナムですが、不動産バブル崩壊による経済危機、共産党独裁政権下における政府と企業の癒着など、ベトナム経済の問題点が表面化し経済成長も鈍っていること、また、政治的には、共産党の一党独裁下で言論統制を続いており、ネット空間で体制批判が広がる現状に対して、当局側が政府批判ブログの摘発を強化していることは、9月26日ブログ「ベトナム  経済減速と相次ぐ大手企業の不祥事 ネット社会へ厳しい言論統制」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120926)で取り上げたところです。

今日も、その話の追加・補充といったところですが、経済問題に関しては、共産党一党支配の政治体制内部からも政権批判が出ているという興味深い記事がありました。

****ズン首相に公然と退任迫る ベトナムで異例の国会質疑****
共産党が一党支配するベトナムの国会で14日、グエン・タン・ズン首相が議員に退任を促される異例の場面があった。テレビで中継された一般質疑の場で、経済低迷の責任を問われた。首相は先月、国会で経済政策の誤りを認めるなど、厳しい状況が続いている。

発言したのは、ズン・チュン・クック議員。経済が低迷している問題などを念頭に、ズン首相に「あなたは党に重い責任を負っているが、国民への責任は軽いのか。謝るだけでなく本当の責任をとるときだ」と詰め寄った。ベトナムに「辞職の文化を」とも述べ、穏やかな口調ながら退任を促した。別の議員からは「経済立て直しの失敗が、党の指導力への信頼を損なっている」との批判も出た。
ズン首相は「私はこれまでと同様、真摯(しんし)に遂行していく」と述べた。

ベトナムは共産党一党制。グエン・フー・チョン党書記長を筆頭に、チュオン・タン・サン国家主席、ズン首相のトップ3人を中心とする集団指導体制をとる。国会は500人の議員で構成。首相に対して議員が公然と辞任を迫るのは極めて異例だ。

ベトナム経済は今年上半期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比約4・4%で過去10年の最低水準となるなど低迷。最近は、国営の造船会社や海運会社で経営破綻(はたん)や汚職事件が相次ぎ、党内外で経済政策のかじ取りを問題視する声が高まっていた。

批判に対し首相は、10月22日の国会での政府報告で「政治的責任を深刻に受け止め、政府の弱点と欠点を誠実に認める」と述べ、自ら責任を認める異例の発言をしていた。ズン首相は5年任期の2期目。【11月16日 朝日】
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どのような政治事情が背景にあるかは全く知りませんが、政権批判が議会で公にされること自体は、共産党大会での閉鎖的な権力闘争が連日のように報じられている同じ共産党一党支配の中国の政治状況に比べれば、好感が持てる感はあります。

【「システムの内側にいなければ、機会はない」】
ベトナムの経済不振(といっても成長率は5%超で、日本にすればうらやましい数字ではありますが)の根幹には共産党独裁政権下における政府と企業の癒着、それに伴う非効率性があります。
この点においては中国も同様であり、改革開放にしろ、ドイモイにしろ、赤い資本主義の構造的宿命のような問題です。

****ベトナム経済、落とし穴 銀行改革も成長鈍化、海外投資は周辺国へ流出 ****
ベトナムのコーヒー農家のレ・ティ・ドーさんは6LDKタイプの自宅の屋根を見上げてから、傍らの小さな家を指差した。「以前はこちらに住んでいた」

ドーさんの人生は、1954年にフランスが撤退してからのベトナムの運命そのものだ。
国が南北に分断されると、彼女の一家は南ベトナムへ逃れた。その後は戦争を生き抜き、共産体制下で苦難の10年を過ごし、農業に従事する。86年に経済開放路線が導入されると、コーヒー農家に転向。経済成長率が5年で3倍に上昇するなか、事業は成功を収めた。

 ◆中小融資は消極的
ベトナムでは、ドーさんをはじめ数百万人に恩恵をもたらした経済成長が鈍化しはじめている。通貨の下落に伴い、燃料費、原材料費、賃金が高騰。銀行は国営の大企業に資金供給を行う一方で、中小企業への融資には消極的になっている。
2008年の成長率は7年ぶりに7%を下回り、政府試算によると、今年は99年以降で最も低い5.2%にまで下落する可能性がある。

ドーさんは「今年はみんなにとって大変厳しい年だ。耕作の資金が必要だが、限られた銀行融資しか受けられない。良いコネがあれば融資が受けられるのだが、そうでなければごく少額の融資が受けられるかどうかだ」と話した。ドーさんは収穫労働者の賃金を20%増の日給12万ドン(約460円)に引き上げる必要に迫られた。

20年にわたって発展を続けたベトナムは、所得とコストの上昇が生産性の上昇ペースを上回る、中所得経済のわなに陥る危険性がある。政府は銀行改革、腐敗抑制、民間部門の再編を誓っているが、実現には数年かかるかもしれない。このことから投資がフィリピンやインドネシアなど、東南アジアの成長著しいライバル国に流れる動きが加速している。

政府発表によると、ベトナムへの海外直接投資(FDI)は12年1~9月に前年同期比28%減少した。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、マレーシアとインドネシアへのFDIは11年に31%超増加。ミャンマーに至っては89%増加したと見積もられている。ベトナムは7%の減少だった。

AIMキャピタル・マネジメントのマーク・ギリン氏は「とりわけ大きなミャンマーをはじめ、インドネシアやフィリピンといった国々への世界の投資意欲は、ベトナムのパフォーマンスが期待よりも低かったことに対する幻滅に基づいている部分がある。労働倫理と国民の活力を考えれば、ベトナムは今よりずっと良くなっていなければならない」と話した。

 ◆法整備や規制導入
ハーバード大学ケネディ行政大学院のベトナムプログラムのエコノミスト、ジョナサン・ピンカス氏は「政府は経済改革に向けてさらなる施策を行い、持続可能な高成長を再び達成する必要がある。機関・法制度の整備、金融機関監督規制の導入といった難しい部分に取り組まなければならない」と述べた。

政府は成長持続と所得格差縮小に向けて、銀行と多額の融資を受ける国営企業との関係を通して肥大した非効率性に対処すると誓っている。
出版社、レ・メディア・ジョイント=ストックの最高責任者、レ・クオック・ビン氏は「システムの内側にいなければ、機会はない。銀行と親しくなければ、借り入れはほぼ不可能だ。国営企業と親しくなければ、契約を勝ち取ることは難しい」と話した。

ハーバード大学ケネディ行政大学院が1月に発表した政策リポートによると、国営銀行が国営企業に貸し付けを行うよう政治的圧力にさらされることがよくあるという。国家銀行(中央銀行)のグエン・バン・ビン総裁は4月、一部銀行の不良債権比率が報告よりもかなり高い可能性があると指摘した。中銀は3月末時点の不良債権比率を8.6%と見積もった。

ビン総裁は、既得権益を持ち、銀行改革に反対する団体による違法行為に断固たる措置をとると宣言している。7日に政府のウェブサイトに掲載されたインタビューで同総裁は「1つの銀行の業務を操作することが、システム全体に影響を及ぼす可能性がある。ベトナムの銀行システム再編プロセス全般において、グループの利益が最大の障害である」と語った。(【10月23日 SankeiBiz】
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労働コストの上昇、「システムの内側にいなければ、機会はない」といったコネ社会、国営銀行から国営企業への非効率な融資・・・やはり中国にも共通する問題です。

【「政府に必要なのは情報統制ではなく、きちんとした説明」】
政府による言論統制に関しては、政府批判ビラをまいた容疑で20歳の女子大生が逮捕される事件が報じられています。

****ベトナムの女子大生、政府批判で逮捕 釈放求める声続々****
共産党一党支配下のベトナムで、政府を批判するビラをまいた容疑で20歳の女子大生が逮捕された。釈放を求める意見や署名が海外からも次々とインターネットに寄せられ、政府に不満を抱く人々の象徴的存在になっている。政府側は国営メディアを通じ「逮捕は正当」とする記事を発信し、反論に躍起だ。

「反国家宣伝」の容疑で逮捕されたのは、ホーチミン市食品産業大学3年のグエン・フォン・ウエンさん。国営メディアが伝えた逮捕容疑は、ウエンさんが10月、政府に批判的な団体の指示のもと、南シナ海の領有権問題を巡る中国への対応や土地収用などについて政府を批判するビラをつくり、ホーチミン市の高架道路からまいた、というもの。

10月、地元の警察当局が逮捕状をとって身柄を拘束すると「かわいそう」「慈善活動にも熱心だった」「早く帰ってきて」などの声がネットなどで噴出した。若い女性が反国家宣伝の容疑で逮捕されるのは極めて異例だ。父親が「なぜ逮捕されたのかわからない」と心配している様子などが報じられると、釈放を求める109人の同大学生の署名や国家主席あての文書などが、次々とインターネットのサイトに集まった。

ベトナムでは最近、政府をネットで批判したブロガー3人に禁錮4~12年、政府批判の楽曲をつくった音楽家2人に禁錮4~6年が言い渡され、米国政府や海外の人権団体がベトナム政府に対し、表現の自由の尊重を求める意見を表明したばかり。交流サイト・フェイスブックに釈放を求めるページができたほか、海外で暮らす有識者ら144人分の署名がネットに掲載されるなど、波紋は国際的に広がり始めた。

これに対し、今月9日、国営のベトナム通信が「事件の真実」と題するネットの記事を配信。逮捕が海外で批判的に報じられていることを「事実をゆがめている」と強調。ウエンさんが「私の行為は法律に違反し、党や国会に背いた」と自供し、「パソコンや携帯電話、学費をもらうためにやった」と動機を説明していると主張した。ネットの署名リストについても「多くの学生は署名していないと言っている」とし、逮捕は適切だったとした。

国営放送のVOVはネットの日本語や英語、フランス語などのページで同様の内容を報じたが、「供述」はウエンさんが司法当局に拘束された状況で得られたもので、真相はわかっていない。
ネットで署名をしたというベトナム人の男性は「市民はいま、正確な情報を求めている。政府に必要なのは情報統制ではなく、きちんとした説明。我々はネットなどで今後も、言うべきことは表明していく」と話した。 【11月13日 朝日】
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もちろん、政府批判ビラをまいて逮捕されるというのは、日本・欧米の基準からすれば不当な言論統制であることは言うまでもないことです。

ただ、あの国で政府批判ビラをまけば当然に警察沙汰になるだろう・・・ということは、外国人でもあっても容易に想像されることで、20歳の女子大生ウエンさんがどういうつもりで行ったのか、不思議な感じもします。
「かわいそう」「慈善活動にも熱心だった」「早く帰ってきて」・・・というネット上の反応も、そういう問題かな・・・という感もあります。

なお、【NAVERまとめ】(http://matome.naver.jp/odai/2135278202378281901)によれば、“「健康のため中国製を買わないで」と彼女は言ったらしい”とのことで、それなら食品産業大学の学生ということで分かります。
“大学の寮の彼女の部屋に捜査令状もなしに10人の警官が乱入した後に連れ去られた ”とも。
彼女が電柱などに貼ったとされるビラの写真がアップされています。ベトナム語が分かる方はそちらを見てください。

詳細はわかりませんが、別の見方をすれば、20歳の女子大生が安易に(かどうかは分かりませんが)政府批判ビラをばらまいてしまう、その逮捕に「かわいそう」といいた同情が寄せられるというのは、ベトナム社会が変質していることの一端であるとも言えます。
そして事件と反応は、社会の変質・人々の意識の変化と共産党一党支配という硬直的な政治システムが齟齬をきたしつつあることの表れとも見ることもできます。
ベトナムであれ、中国であれ、硬直的な政治システムが国民の意識についていけないという大きな問題なのかもしれません。

【“若い国”ベトナムへの投資熱は高まる一方
なお、日本企業、特に小売り・サービス業の“若い国”ベトナムへの熱い視線は今も変わりがないとのことです。

****若きアジア 流通を魅了 カンボジア・ベトナム 進出熱衰えず****
ファミマ出店加速
一方、隣国ベトナムでは、外資小売業の多店舗展開を阻む規制が立ちはだかる。それでも、日系流通業の進出の勢いは衰えを知らない。

最大都市ホーチミン市で27店舗を展開するファミリーマートは、15年に300店、20年に1000店舗を計画し、鼻息が荒い。来年には北部の首都ハノイ進出も狙う。最大の武器は地元の商慣習を知り尽くす2位のフータイとの提携関係にある。フータイによる直営店に加え、昨年7月に設立した「ビナ・ファミリーマート」を通じ、今後は一気に多店舗展開を加速する。

国民の8割が25歳以下 高校生も有望な顧客
25歳以下が80%という若者社会では、高校生も有望な将来の顧客だ。おにぎりに人気アニメのドラえもんをプリントしたり、今後は鍋文化を当て込んだおでんなど、あの手この手で若者の心をつかむ狙いだ。
ベトナムの小売市場は、売上高が約9兆円、年率約20%増の成長が試算される。だが、山下純一ビナ・ファミリーマート社長は「実態はそれをはるかに上回る」と確信している。

ホーチミンの中心街では1人当たりのGDP(国内総生産)は4000ドル、5000ドルの地域もあるのが実情で、「1万ドルのバンコクに追いつくのは時間の問題」との期待は大きい。
福岡市の健康食品通信販売事業のやずやが経営する日系ファッションビル「ZEN PLAZA」の福川資朗社長も「足元の景気は悪いが、スマートフォン(高機能携帯電話)の普及率やファッションなど若者は流行には敏感でチャンスが大きい」と話す。高島屋も15年に中心街に出店する計画で、投資熱は高まる一方だ。【11月14日 SankeiBiz】
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