孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン・カタルーニャ  州議会選挙で「独立派」が過半数 ただし、穏健独立派の州与党は大幅議席減

2012-11-26 21:59:05 | 欧州情勢

(18世紀のスペイン継承戦争でカタルーニャが陥落した「カタルーニャの日」にあたる9月11日、同州の州都バルセロナでは、経済危機にあえぐスペインからの「独立」や自治権拡大を求めるデモに100万人以上が参加したと報じられています。“100万人”というのは、想像を絶する人数ですが、銀座でロンドン五輪メダリストのパレードが行われた時の沿道の観衆が50万人ということですから、あり得ない数字ではないのかも。
“flickr”より By Tartanna http://www.flickr.com/photos/tartanna/7977556154/)

【「独立を問う住民投票の実施」を支持する4党は合計87議席(定数135)】
スペイン・カタルーニャ自治州(州都はバルセロナ)での分離・独立運動の高まりについては、同じスペイン内で独立を目指す動きが強いバスク自治州の州議会選挙で独立推進派政党が議席を増大させたことと併せて、10月22日ブログ「スペイン バスク、カタルーニャで強まる自立を求める動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121022)で取り上げたところです。

****スペインの自治州*****
スペインではフランコ独裁政権下で中央集権化が進んだが、1970年代後半からの民主化により自治州の権限が拡大。計17の自治州は独自の議会と政府を持ち、中央政府から移譲された税源をもとに、特に医療や教育の分野で独自の政策を展開できる。中央政府は外交や防衛、年金をはじめとする社会保障の分野で権限を持つ。

自治州のなかでもバスクとナバラについては「特別財政制度」があり、州内の各県が所得税や法人税を含む大半の税を徴収する権利を持ち、州警察で治安を担う。一方、輸出産業が盛んなカタルーニャでは、経済危機に伴いバスク並みの徴税権を求める声が高まっている。【10月18日 朝日】
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注目されていたカタルーニャ自治州の州議会選挙が25日に投開票され、「独立派」が過半数を占める結果となりました。ただ、これまで分離・独立運動をリードしてきたマス州首相率いる与党自身は大きく議席を減らしており、微妙な結果とも言えます。

****スペイン:カタルーニャ自治州の州議会選「独立派」過半数****
スペイン政府からの「分離・独立」が最大の争点となった東部カタルーニャ自治州の州議会選(定数135)が25日、投開票され、独立推進派のアルトゥール・マス州首相率いる与党「カタルーニャ集中と統一」(CiU)が第1党を維持した。

同様に独立を掲げたカタルーニャ左翼共和党(ERC)も議席をほぼ倍増させ、第2党に躍進。両党合わせて「独立派」が過半数を占める結果となった。スペインでは税収の多い一部の州が、中央政府により多くの納税を求められていることから住民が反発。独立を求める動きが目立ち始めており、今後の展開が注目される。

スペインでは北部バスク自治州でも先月、州議会選が実施され、独立を前面に掲げる第2党が議席を伸ばした。欧州に広がる経済危機を背景に、財政再建のため地方の財政規律強化を進めたいラホイ政権は、難しい政権運営を迫られそうだ。

地元メディアによると、CiUは62議席から50議席に減少したが、ERCは選挙前の10議席から21議席に伸ばした。「独立派」の両党は計71議席となり、過半数を獲得した。

CiU党首のマス州首相は開票後の演説で「我々が州政府を率いることのできる唯一の勢力だ」と強調。連立政権樹立に意欲を見せた。マス首相は選挙前、政権を維持した場合は4年以内に自治権拡大を問う住民投票を行うと公約していた。ただ、州独立には国の憲法改正が必要で、住民投票で支持を得たとしても、さらに多くの手続きが求められる。

カタルーニャ自治州の州都はバルセロナ。人口は約750万人でスペイン全体の約16%だが、州内の総生産(GDP)は国全体の5分の1を占める。
GDPが国内トップクラスにあることから、国に対しより多くの納税を求められている。このため財政赤字が累積し、州政府の債務残高は17州で最大の440億ユーロ(約4兆7000億円)に達している。
住民は「我々の富が中央政府に搾取され、貧しい州に再配分されている」と反発。最新の世論調査では、住民の約半数が独立を「好ましい」と答えた。【11月26日 毎日】
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定数135議席に対し、「独立を問う住民投票の実施」を支持する4党は合計87議席を占めており、今後も「独立を問う住民投票の実施」に向けた動きが続くことは間違いないでしょう。

【「今後の政策を考える時間が必要」】
ただ、選挙前の予測では、“マス州首相が率いる穏健民族派「集中と統一(CiU)」(現有62議席)は、独立の是非を問う住民投票の実施を公約しており、各種世論調査によると、60~64議席を獲得して第1党を維持する見込みだ”【11月25日 読売】と言われていましたので、与党CiUの大幅議席減は意外でした。同じ「独立派」でも急進派のERCに票が流れたのは明瞭です。
“マス氏は同日夜、「単独過半数の目標には程遠い結果となった。今後の政策を考える時間が必要」と述べ、投票について明言を避けた。”【11月26日 読売】

議会の任期を2年残した時点で解散・州議会選に打って出たマス州首相にとっては大きな誤算と言えます。
カタルーニャの政党事情はまったく知りませんが、一般論で言えば、分離独立を掲げて戦い、結果、急進派が大幅に増加し、自党は大幅に議席を減らすということになれば、組織内で見直し論や慎重論が出てきても不思議ではありません。

運動の中核となるCiUの意気が上がらないと、運動も盛り上がりを欠きます。
今後も「独立を問う住民投票の実施」に向けた動きは続くものの、中央政府サイドの対応と併せて、どのように展開するのか不透明な部分もあります。

自分たちの富が貧しい地方に奪われているとの不満
スペインではカタルーニャの他、かつては過激なテロ・武装闘争を展開していたバスクでも分離独立運動があります。欧州全体でみると、ベルギーのオランダ語圏、イギリスのスコットランドなどで、同様の分離を求める動きがあります。

****きょうスペイン・カタルーニャ議会選 各地で活発化 背景に「格差****
欧州各地ではスペインのカタルーニャ自治州だけでなく、分離独立の動きが活発化している。債務危機対応をめぐる中央政府への不満などが、独自の民族的、文化的意識と相まって独立機運を高めているとみられるが、実現への道筋が描けているわけではない。
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スペインでは10月、北部バスク自治州の議会選で、独立急進派の地域政党バルドゥが第二党に躍り出た。独自言語を持つなどカタルーニャ同様に独立意識が高く、過去には武装闘争も繰り広げられた。

ベルギーでも10月の統一地方選で、北部オランダ語圏のフラマン地域の分離独立を狙う中道右派「新フランドル同盟」が躍進。南部フランス語圏のワロン地域との「連邦国家」から、緩やかな「国家連合」の実現を目指すが、将来的な独立も視野に入れるとされる。

これらの地域に共通するのは、国内の他の地域よりも裕福な点。債務危機で、自分たちの富が貧しい地方に奪われているとの不満が独立機運に拍車をかける。
英国ではケルト系の文化を持つ北部スコットランドが10月、独立の是非を問う住民投票の2014年実施で英政府と合意した。世論調査では経済的な影響を懸念する独立反対派が賛成派を上回るが、地元の行政府は北海油田の収入で経済的自立を図る考えだ。

欧州統合の進展で各国が権限を欧州連合(EU)に移譲する中、中央政府の存在意義が薄れるとの見通しが、独立機運を後押ししているともされるが、独立後も加盟国の地位が維持される保証はない。【11月25日 産経】
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根底には、「豊かな地域」から「貧しい地域」への再分配に対する「豊かな地域」側の不満があります。
その不満の背景には、歴史的・文化的な独自性(逆に言えば、国家としてのアイデンティティーの欠如)が存在します。
こうした再分配に対する不満は、一昨日取り上げたEU予算に関するイギリス・フランスの対立でも見られる問題です。

各地の分離独立への動きのハードルを下げているのが、上記記事でも指摘されているEUの存在です。
日本などでは、分離独立と言っても現実性があまりありませんが、欧州の場合、地域・国家・EUの三層構造になっており、中間の国家を取っ払っても、外交・防衛などはEUレベルに委ねる形でやっていける・・・という思いにもなります。
今後EUが更に「共同体」として深化すれば、国家の存在意義も不明確にもなってくる・・・とも言えます。
もちろん現実問題としては、国家の枠組みはそう簡単には揺らぎませんが、国家としてのアイデンティティーが弱い部分では、分離独立の動きが加速されることにもなるのでしょう。
コメント
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