孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

女性の権利に関する問題  インドの名誉殺人 イタリアのDV被害 日本は?

2012-11-04 21:18:34 | 女性問題

(マイクロファイナンスを利用して小商いを始め、経済的、ひいては家庭内・社会的地位の向上を手にしようととしているインド女性 もちろんマイクロファイナンスについては問題も提起されてはいますが。 “flickr”より By mckaysavage http://www.flickr.com/photos/mckaysavage/2229763779/

【「若い女性を誘惑の危険から守るためだ」】
女性の社会的立場・権利状況は各国の文化によって様々ですが、女性の教育を受ける権利をブログで主張した少女がイスラム過激派によって銃撃されたパキスタンの事件のように、日本や欧米の価値基準からするとなかなか受け入れがたいものが多々あります。

そうした現状からすれば、下記の携帯をめぐるインドの事例などはとるに足りない些細なものと言えます。

****誘惑から守る…未婚女性の携帯禁じたインドの村****
インド西部ラジャスタン州の村で先月末、未婚女性の携帯電話の使用が禁じられた。
カーストの違う男女が駆け落ちし、「女性がみだりに男性と連絡を取るのは良くない」と、村の伝統的な自治組織が全会一致で決めた。

カースト間の差別意識が根強いインドでは、親が決めた相手との結婚を拒んだ子女を殺害する「名誉殺人」の風習もあり、女性の行動に特に厳しい目を向ける傾向がある。自治組織の決定に法的拘束力はないが、組織幹部の一人は読売新聞に、「若い女性を誘惑の危険から守るためだ」と語った。

この村では、未婚女性のスカーフ使用についても、「女性であることを隠すもの」と禁じられた。女性自立支援団体は、「インドが遅れた国と世界に知らしめる男尊女卑の恥ずかしい考えだ」と非難している。【11月4日 読売】
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名誉を汚す娘が殺されるのは当然だ
事象としては“とるに足りない”ものではありますが、問題の根っこは深いものがあります。
記事にもあるように、インドでは「名誉殺人」の風習が根強く、年間数百人から一千人ぐらいの女性が殺害されているとも言われています。

これまでも何回か取り上げたことがありますが、「名誉殺人」とは、“女性の婚前・婚外交渉(強姦の被害による処女の喪失も含む)を女性本人のみならず「家族全員の名誉を汚す」ものと見なし、この行為を行った女性の父親や男兄弟が家族の名誉を守るために女性を殺害する風習のこと”【ウィキペディア】です。

インドや、パキスタンなどイスラム圏で多く見られる風習ですが、“アムネスティ・インターナショナルは名誉殺人が行われている国および地域として、バングラデシュ、トルコ、ヨルダン、パキスタン、ウガンダ、モロッコ、アフガニスタン、イエメン、レバノン、エジプト、ヨルダン川西岸、ガザ地区、イスラエル、インド、エクアドル、ブラジル、イタリア、スウェーデン、イギリスを挙げている”【同上】とのことです。

インド国内でも「名誉殺人」の風習が問題視されていない訳ではありません。

****名誉殺人が増加するインド、刑法改正を検討****
インド政府は、刑法を改正して名誉殺人に厳しい罰則を設けることを検討している。名誉殺人の増加傾向に対処するためという。内政省当局者が9日明らかにした。

インド国内における名誉殺人件数の公式データはないが、社会活動家らによると、名誉殺人で殺される男女は毎年数百人にのぼっており、特にパンジャブ州、ハリヤナ州、ウッタルプラデシュ州で多いという。
別のカーストの相手と結婚して共同体全体を「侮辱した」として、家族に殺されたり、自殺に追い込まれたりするケースが目立つという。

9日の同国紙タイムズ・オブ・インディアは、首席法務官のG.E. Vahanvati氏が、名誉殺人に法律で介入することの必要性を政府に助言したと伝えている。【2010年2月10日 AFP】
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インド政府は、上記記事が報じられた2年半ほど前から、名誉殺人の「教唆」に新たに罰則を設ける等の刑法の改正に取り組んでいますが、明確な改正案が出されたとの報道は目にしていませんので、恐らく未だ“取り組み中”なのではないでしょうか。
(なお、パンジャブ州とハリヤナ州では、名誉殺人になりかねない危険性を持つ状況の夫婦を対象にした保護シェルターの設置といった措置はとられているようです。【3月1日 印度扉ニュースより】)

今年6月にも、インド北西部ラジャスタン州の村で、娘(22)の不倫に怒った父親がこの娘の首を剣で斬り落として殺害し、首と剣を持って村の中を練り歩くという事件がありました。
そのときの報道では、“こうした名誉殺人は伝統的な正義として通報されない場合も多く、警察や地元政治家も見て見ぬふりをしているのが実情だ”【6月22日 AFP】とされています。

なお、刑法改正で「教唆」への罰則が検討されているのは、下記記事にあるような、風潮を助長する村の長老グループ「カップ」などの地域住民の存在が念頭に置かれているのではないでしょうか。

****インド、伝統の犠牲「名誉殺人」 家族が阻む異なる身分の恋愛****
インド北部ではカーストが異なる、あるいは同じ村出身の男女の交際や結婚を認めない伝統が強く残り、このしきたりに背く若い恋人たちが、両親や兄弟に殺害される事件が後を絶たない。家族が伝統を守るためのものとして、「名誉殺人」と呼ばれるこうした殺人は、保守的な大人の世代と、自由恋愛など現代的な価値観をもつ子供の世代とのあつれきによって招かれ、急速な発展を遂げるインドの苦悩となっている。(中略)

 ◆同じ村も結婚認めず
「祖先が異なっても、同じ村に住んでいれば、同じ血縁関係にある『ゴートラ』とみなされる。ゴートラでは全員が兄弟、姉妹。だから、同一ゴートラの結婚は認められない」
ジンド地区から車で1時間半ほど。ダンカール村の「カップ」と呼ばれる長老グループのリーダー、ジラ・シン氏(79)は、こう説明する。そして「私の娘がそんな結婚をすれば、伝統を守るために娘を殺す」と言い切る。
カーストが異なっていなくても、ゴートラが同じであれば恋愛や結婚は認められない。ビカスさんのケースは、出身の村が同じであることから、ゴートラの問題も絡んでいた。

カップが、伝統を守ることを恋愛中のカップルの家族に強要しているとの指摘もある。カップ側は「名誉殺人を指示することは絶対にない」と否定しつつも、「古代叙事詩のマハーバーラタの中でも名誉殺人はあり、同一ゴートラの結婚は医学的にも問題があると証明されている」と、カップルの殺害を正当化する。

同州で、性的被害や人身売買にあった女性を保護する非政府組織(NGO)「アプナ・ガル」の創設者、ジャスワンティさんは「人々の考え方は、『村は一つの家族』。村全体のエゴとプライドが個人の命よりも優先されてしまう」と説明する。

 ◆死者は年間1000人?
インド刑法は、名誉殺人を一般の殺人罪と同様に扱う。このため名誉殺人による死者数は不明だが、犠牲者は年間1千人にのぼるとの調査もある。報道によると、9月は7件の名誉殺人で9人が命を落とした。

名誉殺人の問題に取り組む弁護士のラビ・カント氏によると、「名誉殺人の7割は異カースト間で起こっており、うち9割は女性の家族によるもの」という。自分の娘に手をかける家族が多いのは「家族の名誉を引き継ぐのは娘」(カップのシン氏)であり、名誉を汚す娘が殺されるのは当然だとの考えがあるからだ。

だが、男性の親の方は、ハリヤナ州やパンジャブ州などでは、若年層の男性人口が女性を上回っていることから、「結婚相手を見つけられただけでも十分だと思い、大目にみる傾向がある」(ジャスワンティさん)という。

インドでは、親が選んだ相手との結婚が主流だが、若年層の教育レベルの向上や社会の変化に伴い、恋愛する若者が増えている。カント氏によると「結婚をめぐる世代間ギャップも存在する」といい、子供が親の言うことをきかなくなったことも背景にある。

名誉殺人をめぐっては、犯行に及んだ家族だけでなく、カップのように殺人を教唆した地域住民も罪に問えるよう、殺人罪に名誉殺人罪を加えることを求める動きもある。だが、政治の動きは、大票田であるカップへの配慮から、鈍い。【2010年10月3日 産経】
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冒頭で示した名誉殺人が行われている国々のなかにスウェーデンやイギリスが含まれているのは、伝統的にこうした風習を持つ国からの移民の流入によるものではないでしょうか。

【「自分の所有物だと思っていた女性が突然、反抗したり言うことを開かなかったりすると、男性は感情が爆発して暴力に発展する」】
イタリアは・・・どうでしょうか?この国は女性に関しては問題を抱えているようです。

****女性の自立を恐れるイタリア男の横暴****
女性蔑視の国イタリアでは夫や元恋人によるDV殺人が増加の一途

ジュリアナ(仮名)は7月からローマ郊外の女性用シェルターに身を潜めている。夫に刃渡り30惣のナイフで殺されかけたのだ。両手に50針以上縫う傷を負いながらも、彼女の叫び声を聞いた隣人が警察を呼んでくれたため奇跡的に助かった。

46歳のジュリアナの全身が、20年以上に及ぶ地獄を物語る。両腕は火の付いたたばこを押し付けられたやけどの痕だらけ。3回骨折した鼻は曲がっている。
夫に見つかれば今度こそおしまいだと、ジュリアナは不安そうにたばこを吸い続ける。「私を待ち構えているのよ。もう家には帰れない。逃げたことを理由に殺されるわ」

イタリアでは配偶者・恋人間の暴力(DV)を受けた女性の90%が、報復を恐れて刑事告訴をしない。もっとも、ジュリアナは生きているだけ幸運だろう。
今年に入ってからイタリアでは、少なくとも100人の女性が、かつては愛し合っていた男性に殺された。3日に1人が犠牲になっている計算だ。

DV被害女性の支援団体「私たちは共犯者にならない」によると、イタリアの女性殺人事件は過去3年間に年約10%のぺースで増えている。そのうち70%近くが同居男性に、残りの大半は元恋人や元夫に殺された。

女性を自分の所有物と思っている男性は、彼女たちが周囲の強い女性に影響を受けて意識が変わることを恐れていると、文化研究者のジョルジア・セルゲッティは言う。「女性の役割に関する社会の考え方が大きく変わっているのを受けて、この種の暴力が起きる。女性の解放に対する暴力でもある」

法改正も、DV殺人と認定される数が増えている一因だ。イタリアでは96年まで、恋人や夫婦間のレイプは犯罪と見なされなかった。つい5年前まで、嫉妬に駆られて「激情的に」女性を殺した男性の大半が法律的に許され、家庭内の「事故死」として処理されていた国だ。

ただし、DV殺人を訴追しやすくなったからといって、女性の身が守られるわけでは決してない。変わらなければならないのは国全体の意識だ。

3人に1人が耐えている
寝室ではなく取締役会で活躍する女性がメディアで取り上げられる機会が増えるにつれ、男性は自分の妻や恋人、さらには母親が意思を持ち始めることを恐れていると、DVに関するルポ作品のあるローレラ・ザナルドは指摘する。
「女性は従属的で男性より劣る役割だったが、最近は家庭でも組織でも意思決定を担うようになった。女性を尊重して対等な 関係を結び、被女たちの声に耳を傾けろと言われても、男性にとっては容易でない」
 
25年前にガブリエラ・モスカテッリがDV被害者のホットライン「テレフォノ・ローザ」を開設した当初は、電話はほとんど鳴らなかった。「DVは内輪の恥とされていた」と、モスカテッリは言う。
現在テレフォノ・ローザは年間約1200人の女性の相談に乗り、慢性的なDV被害者の安全を確保する支援をしている。

とはいえ、依然としてさまざまな数字が深刻な状況を物語る。イタリアの国立統計研究所によると現在も16~70歳の女性の推定3人に1人が、慢性的なDV被害を受けている。

社会の女性観とプライペートでの女性の扱われ方は直結していると、モスカテッリは言う。社会で優秀な実績を挙げているからこそ、DVで殺害されるような女性もいる。
「自分の所有物だと思っていた女性が突然、反抗したり言うことを開かなかったりすると、男性は感情が爆発して暴力に発展する」と、モスカテッリは言う。「感情の爆発から女性殺害に至るのはあっという間。そうなったときには手遅れだ」【11月7日号 Newsweek日本版】
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大筋においては日本も同様ですが、“つい5年前まで、嫉妬に駆られて「激情的に」女性を殺した男性の大半が法律的に許され、家庭内の「事故死」として処理されていた国だ”というのは意外です。
ベルルスコーニ前首相の女性問題、それでも政治生命が断たれない(さすがに首相復帰は諦めたようですが)あたりも、こうした女性に関する文化的土壌があってのことでしょう。

なお、世界経済フォーラムが10月24日、世界135か国を対象に、社会進出などでの男女平等の度合いを比較したランキングを発表しましたが、イタリアは80位と、北欧・西欧諸国のなかでは低い順位にとどまっています。

日本は更に低く101位。名誉殺人が横行するインドが105位ですからいい勝負です。
このことは、このランキングがどのような視点・基準で作成されたものかということに依拠しますが、たとえどのような“物差し”であったとしても、インド並みということは、日本社会に私たちが普段意識しない大きな問題が横たわっているということを示しているとも言えます。
コメント (1)
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