孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン制裁で追い詰められるアフガニスタン難民 イランとアフガニスタンの関係

2012-11-14 22:48:50 | イラン

(イランで暮らすアフガニスタン難民の女性 “flickr”より By UNHCR http://www.flickr.com/photos/unhcr/7308014978/)

【「(イランは)アフガン難民に寛容で、国際的義務を十分果たしてきた」】
最近、報道を目にする頻度が減っているようなアフガニスタンですが、アメリカ撤退を睨んで膠着状態といったところなのでしょうか。

そのアフガニスタンからは戦火を避けて多数の国外難民が発生しています。
避難先で一番多いのが隣国パキスタン、次いでやはり隣国のイランとなっています。
イラン政府はアフガニスタン難民にこれまで比較的寛大な対応をとってきたようです。

****イランのアフガニスタン難民****
国連によると、イランはパキスタンに次ぐ世界2位の難民受け入れ国。イラン内務省の統計では正式登録されたアフガン難民は102万人。
イラン政府は現在、新たな難民受け入れを中止しているが、流入は続き、不法難民は推計150万〜200万人。大半は都市部に居住。登録難民は基本的な医療、教育の提供を受けている。不法難民の大半も滞在は黙認されている。【1月27日 毎日】
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しかし、欧米の経済制裁でイラン自身の経済・財政が疲弊するなかで難民保護も難しくなり、イラン国内のアフガニスタン難民の生活も苦しくなっています。

****揺らぐイラン:制裁下の市民は/3 アフガン難民「苦渋の選択」 保護に陰り****
テヘラン北部の山間に小さな住宅が密集するファラザード地区。「建設現場から声がかからなくなった。今月の家賃が払えるだろうか」。アフガニスタンからの難民、バシールさん(31)は子供を抱え、途方に暮れていた。

アフガン西部ヘラートの出身。反政府勢力タリバンが町に入り込み治安が悪化した96年、イランに逃れ、2年後に父や弟らを呼び寄せた。テヘランでアフガン人女性と結婚。2人の子供も生まれ、家族11人で暮らす。「必死に働き、平和でそこそこ幸せだった。しかし、昨年から仕事が急激に減って苦しくなった」。
9月にはイラン通貨が急落し、アフガン通貨に換算すると収入は2年前の3分の1になった。

バシールさんが住むアフガン人居住地区では、この1年で少なくとも約40家族が母国に帰還した。2歳の長女と生後まもない長男を抱えるバシールさんも帰国を考えないではないが「もはやアフガンに頼れる親族はいないし、治安も心配」。子供の将来のため、豪州や北欧など「第三国」への難民申請も検討しているが、認められるケースはまれだ。

79年のソ連侵攻、90年代後半からのタリバンによる実効支配、01年の米軍侵攻。アフガンが混乱するたび、イランとパキスタンは多くの難民を受け入れてきた。イラン内務省によると、昨年7月時点でアフガン難民約102万人を受け入れ、学校教育や医療を提供した。奨学金に支えられ、イランの大学を卒業したアフガン人はこれまでに1万3000人を数える。

しかし、イラン政府が米欧の経済制裁下に置かれるにつれ難民の生活は変わった。政府の財政悪化に伴い、ガソリンや食料の価格高騰を抑止するための事業者への補助金は大幅に削減された。物価高が進み、イラン政府は生活支援のため国民に給付金を支給したが、難民は対象外となった。手厚い難民保護で知られてきたイランはいま、その「余裕」を失いつつある。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、イランでは11年、前年比120%増の難民約1万8667人が母国に帰還。今年もすでに8月時点で1万人を突破した。イランからトルコに密入国するアフガン難民も目立ち、数千人規模に達しているという。

ベルナルド・ドイルUNHCR駐イラン代表は特に、アフガン難民の直面する「苦渋の選択」を強調した。
「一般的には難民は母国に帰還するのが望ましい。だがアフガンは現在も情勢が不安定で、仕事や教育の機会も十分ではない。彼らは帰国しても生活の改善は望めない」。
ドイル氏はイラン政府について「長い間、アフガン難民に寛容で、国際的義務を十分果たしてきた」と評価。むしろ米欧の制裁という「外的要因」が弱い立場の難民を追い詰めていく現状に「複雑な思い」を抱かずにはいられないという。【11月14日 毎日】
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イランが「長い間、アフガン難民に寛容で、国際的義務を十分果たしてきた」というのは、欧米社会で根付いたイランの人権抑圧イメージからすると意外な感もあります。

イラン制裁の効果
イランのNGO「子供の権利保護協会」の推計では、街頭でティッシュやガムを売り歩くなど、働く子供は180万人。これまで大半はアフガニスタン難民でしたが、経済制裁によるイラン市民の生活悪化により、この1年間でイラン人の子供が急増したそうです。
「米欧の経済制裁はイランの中間・貧困層を傷つけ、働く子供まで増やす。一方で、政府要人や富裕層には何らダメージを与えない。政府の支持者ではないが、意味のない制裁には反対だ」(上記「保護協会」理事)

一般的には対米で強硬な発言が目立つイランのアフマディネジャド大統領ですが、欧米指導者同様に選挙で選ばれた政治家であり、選挙民の意向を無視できないのも欧米指導者同様です。大統領自身は国内経済状況を踏まえた現実的判断も有しているようにも聞きますが、現在のイラン政治では最高指導者ハメネイ師に近い保守派内の反大統領派の勢力が強く、アフマディネジャド大統領も欧米との妥協・交渉の余地が少ないのが実態のようです。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は10月20日、アメリカ政府高官の話として、イランの核開発問題を巡り、米イラン両国が直接協議に臨むことで合意したと報じました。
また、アフマディネジャド大統領は9月末、米メディアとのインタビューで「米大統領選後、重要な決定が出る可能性がある」と発言しています。【10月21日 毎日より】

しかし、核政策は最高指導者ハメネイ師の専権事項で、大統領の「越権」には批判も多いとされています。
“核政策を取り仕切るハメネイ師は7月以降、原油・天然ガスの輸出に頼った国内経済の構造を改める必要性を強調。「制裁への抵抗力を強めることが発展の唯一の道だ」と説いている” 【10月27日 朝日】

軍事的な手法に比べれば穏やかな経済制裁という手法ですが、外交的妥協が難しく制裁だけが続くとなると、難民や貧困層など一番生活が厳しい人々の暮らしを更に追い詰める性格があります。
制裁の妥当性はその目的との兼ね合いでしょうが、自分たちの核保有は許されるがイランの核開発は認められないという理屈は、核廃絶を国是とする日本の立場からするとしっくりこないもののあります。

イランからタリバン支援
話をイランのアフガニスタン難民に戻すと、イラン政府がこれまで難民に寛容だったのは、人道的配慮だけではなく、イランの国益を踏まえた思惑もあってのことと当然に思われます。

パキスタンが、米軍撤退後のアフガニスタンでカルザイ政権に近いインドの影響力が強まることを懸念して、タリバンへの支援を続けている・・・という話はよく聞きますが、イランのアフガニスタンへの対応については、個人的にはよく理解できていません。

もともとシーア派のイランとスンニ派原理主義のタリバンは、宗教的に対立関係にありました。
1998年には、タリバンがイラン人外交官らを殺害した事件が発生し、両者の関係は険悪になっています。
“1998年8月8日、ターリバーンはドスタム派の幹部を買収して勢力下に入れ、再度マザーリシャリーフを攻撃し、占領した。この際、5000人以上のハザラ人市民が殺害され、イラン総領事館の外交官10人とジャーナリストが殺害された。この攻撃はイランや国際社会から激しい非難を受け、一時は国境地帯にイラン軍が集結する事態となった”【ウィキペディア】

ただイラン制裁が展開されるなかで、アメリカという共通の敵を有する両者は接近、2010年にはイランからタリバンへの武器供与が取り沙汰されるようになります。

****イランのタリバン訓練(米司令官の非難****
イランのアフガニスタンとの関係については、イラン政府の否定にもかかわらず、タリバンを内々支援しているのではないか、という疑惑がつきませんでしたが、31日付のal jazeerah net はアフガニスタンの米軍司令官がイランはタリバンを訓練していると発言したと報じています。

同紙は同時にイランはアフガニスタンの反政府勢力を支援していることはないと否定していること、また両国化の経済関係、特にイランに近いアフガニスタン西部との通商は極めて盛んであることを報じています。

要点のみ
「カブールでの30日の記者会見で米司令官マクレスタル将軍(注:アラビア語からの音訳)は、イランがタリバンのメンバーを訓練していると発言した。
もっとも、将軍は一般的にはイランはアフガン政府を支持していると指摘したが、タリバンに武器を供与したり、兵士を訓練したり、その主張する政策と合わないこともやっていると述べ、このイランのタリバン支援については,NATOは十分な証拠を有していて、武器の密輸防止のために努力していると述べた。
またその訓練はイラン領内で行われ、米軍等が捕獲した兵器にはイラン性が含まれていると指摘した。(後略)【野口雅昭氏「中東の窓」 2010年5月31日】
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カルザイ政権への資金供与も
上記にもあるように、“イランはアフガン政府を支持している”という関係もあります。
“イランは・・・・アフガニスタンについては、その安定・復興を望んでいる。イランには250万におよぶアフガン難民の存在と、アフガニスタンからの麻薬の流入がその背景にある”【ウィキペディア】
イラン南東部はスンニ派住民が多く、パキスタンやアフガニスタンと国境を接し、イラン国内でも貧しい地域である同地では反政府勢力の活動もおこなわれています、そうした反政府活動を刺激しないためにも、イランはアフガニスタンの安定を望んでいるとされます。

アフガニスタンのカルザイ政権への支援も実際に行っており、イランのタリバン支援が話題になった同じ2010年には、イランからカルザイ大統領側近に多額の現金が渡っていることも話題になりました。

****イランがアフガニスタンに現金支援、両国政府認める****
イラン政府は(2010年10月)26日、アフガニスタンの再建支援として同国に現金を渡していたことを認めた。23日の米紙ニューヨーク・タイムズの報道を受け、25日にはアフガニスタンのアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領も側近がイラン側から多額の現金を受け取っていたことを認めていた。

イラン外務省のRamin Mehmanparast報道官は「イランは隣国としてアフガニスタンの安定を深く憂慮しており、アフガニスタンの再建のために多くの支援を行った」と発表。「イランはアフガンスタンの再建と経済開発のために自らの役割を果たしてきたのであり、今後もそうするつもりだ」と語ったが、イランがアフガニスタンに行ってきた「支援」の具体的な内容は明らかにしなかった。

■ニューヨーク・タイムズ紙報道が発端
23日にニューヨーク・タイムズ紙が、カルザイ大統領の首席補佐官、Umar Daudzai氏が、イランから現金を受け取っていると報道。アフガニスタン政府内での影響力拡大がイランの狙いだと伝えた。

これに対し、アフガニスタンのカルザイ大統領は25日、カブールで記者会見し、「多くの友好国が大統領府に行っていることだ」と語り、秘密の資金援助だとしたニューヨーク・タイムズ紙の報道を強く否定した。
カルザイ氏は、イランから年に1~2回、最高で1回あたり現金70万ユーロ(約8000万円)を大統領府への正式な支援として受け取っていたと説明。透明性も確保されていると述べた。

現金を首席補佐官が受け取っていたことについては「わたしが指示したものだ」と述べ、「秘密は何も無い。イランの支援に感謝している。米国も同じことをしている。米国もアフガニスタン政府の高官に現金を渡している」と述べた。

カルザイ氏の会見の直前には、在カブール・イラン大使館がニューヨーク・タイムズ紙の記事について「デタラメでばかげた、侮辱的な」報道だと批判し、「そのような根拠の無い憶測は、一部の西側メディアが、世論を混乱させ、アフガニスタンとイランの強い関係を損なうためにしていることだ」と非難していた。

しかし、ビル・バートン米大統領副報道官は25日、「米国国民と国際社会は、イランがアフガニスタンに悪い影響を及ぼそうとしていることに懸念するに足る理由を十分持っている」と懸念を表明した。
バートン副報道官は、イランには「アフガニスタンの政府を作っていく上で良い影響を及ぼす」責任があると述べ、アフガニスタンを「テロリストが安全な隠れ家を得られたり、攻撃の計画を練ったりできるような国ではないように」しなければならない責任があると語った。【2010年10月26日 AFP】
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カルザイ大統領が認めているように、アフガニスタンへの資金供与は欧米も行っている話ですが、当初イランがこの話を否定したのは、イランからの資金供与がアフガニスタンにおけるイランの影響力を確保し、アメリカやNATO諸国とアフガニスタンとの関係を阻害することにあると報じられたためです。
認める・認めないは別にして、イランからすれば当然の話でしょう。

【「すべての問題は外部によって作られている」】
今年2月には、アフガニスタン、パキスタン、イランの首脳会談が行われています。
それぞれ三者三様の思惑があるように思われますが、共通するのはアメリカへの牽制ということでしょうか。

****イラン、アフガン、パキスタン首脳会合****
アフガニスタン、イラン、パキスタン3カ国の大統領は17日、パキスタンの首都イスラマバードで首脳会合を開き、テロ対策や経済関係の拡大での協力について合意した。欧米が核開発疑惑のかかるイランに圧力をかけるタイミングで、米国と微妙な関係にあるパキスタンとアフガンが顔をあわせたことは米国への牽制(けんせい)になりそうだ。

「この地域の国家間に根本的な問題はない。すべての問題は外部によって作られている」
17日の共同記者会見で、イランのアフマディネジャド大統領はこう語った。特定の国名には言及しなかったものの、批判の矛先が米国に向いているのは明らかだ。アフマディネジャド氏は、アフガンのカルザイ、パキスタンのザルダリ両大統領と並んで、「われわれは3カ国間の協力を強固にするために集まった」と述べ、対米勢力として結集していく意気込みも示した。

ただ、米国との関係は三者三様だ。ザルダリ氏は16日、イラン産天然ガスをパキスタンに輸出するパイプライン建設計画について、早期実現に尽くすことをアフマディネジャド氏に約束した。
パキスタンに対し、計画から手を引くよう求めている米国からの反発が予想されるが、エネルギー不足が深刻化しているパキスタンにとっては、実利面でイランと手を組まざるを得ない。
だが、パキスタンは、テロとの戦いへの協力をめぐりぎくしゃくした米国との関係改善への動きも見せているとされる。

一方、イランはアフガンのイスラム原理主義勢力タリバンを後押ししているとも言われており、カルザイ氏には、イランとの関係安定によって、同国によるタリバン支援を阻止したいとの思いがある。また、アフガンには、対イラン牽制として、米国との関係維持が欠かせない側面もある。【2月17日 msn産経】
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イランとしては、タリバン支援もちらつかせて影響力を誇示することでカルザイ政権をアメリカからできるだけ引き離し、自国に近付けたい・・・といったところなのでしょうか。
コメント (1)
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