孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国大統領選挙  安氏辞退で、朴・文氏の“代理戦争”へ

2012-11-27 23:54:03 | 東アジア

(11月23日 安氏の辞退会見 “flickr”より  By dhslove http://www.flickr.com/photos/81865699@N04/8211368527/)

【「韓国のビル・ゲイツ」安氏の辞退
お隣韓国では、12月19日に大統領選挙の投開票が行われますが、事実上、与党セヌリ党の朴槿恵候補と最大野党民主統合党の文在寅候補の対決となっています。

****朴、文両氏が第一声=公式の選挙戦開始、早くも火花―韓国大統領選****
12月19日投開票の韓国大統領選は27日、公式の選挙戦が始まり、与党セヌリ党の朴槿恵候補(60)、最大野党民主統合党の文在寅候補(59)が第一声を上げた。両候補は、互いに相手候補を攻撃、初日から激しい火花を散らした。

朴氏は保革の色分けの薄い忠清道地域の大田駅前で初演説。「野党候補は失敗した(盧武鉉)政権の最高幹部だった。国民生活を破綻させ、国民を対立させた。私とセヌリ党は違う。国民大統合へ力を合わせよう」と訴えた。
朴氏は、前日深夜に始まったテレビ討論中に27日を迎え、「政治人生全てを懸けて国民の幸福のために献身する」と決意を誓った。27日朝、父の故朴正煕元大統領や朝鮮戦争の戦没者らが眠るソウルの国立墓地を参拝し「責任ある変化で新しい韓国をつくる」と記帳した。

文氏は空路地元の釜山入り。ソウルでは自宅から地下鉄で空港に向かい、庶民派をアピールした。約600人(陣営発表)の市民の前に立った文氏は「今回の選挙は過去勢力と未来勢力の対決だ。朴氏は朴正煕独裁政権の残存勢力代表で、経済民主化、福祉国家を実現できるのか」と朴氏を攻撃した。
釜山は、文氏との一本化協議の末、出馬辞退した安哲秀氏の出身地でもある。文氏は「私を支持した人々、安氏を支持した人々、見守った市民、みな一緒に手をつないでほしい」と、反与党勢力の結集を訴えた。【11月27日 時事】
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周知のように、選挙戦はこれまで朴槿恵候補、文在寅候補に加え、安哲秀候補(50)の三つ巴で争われてきました。
文在寅候補・安哲秀候補にとっては、どちらかに一本化して野党統一候補とすることが与党・朴候補に勝利できる必要条件であり、候補者登録のぎりぎりまでどちらが降りるかという厳しい交渉が行われてきました。
結局、23日、「韓国のビル・ゲイツ」とも呼ばれ若者や無党派層から支持を集めていた安哲秀候補が突然の選挙戦辞退を発表、文在寅候補を野党統一候補とすることが決まりました。

****韓国大統領選:朴氏と文氏の対決に 安氏が出馬辞退****
12月19日に投開票される韓国大統領選は23日、無所属の安哲秀(アン・チョルス)候補(50)が出馬辞退を表明した。25、26日に候補者登録(告示)が行われるが、これによって与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)候補(60)と、最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補(59)による保守と進歩の対決の構図が固まった。

文陣営と安陣営はこの日も野党陣営の一本化の方式で協議を続けていた。しかし、安氏は23日午後8時過ぎから記者会見し、「これ以上一本化の方式を巡り対立するのは国民に対する道理がない。政治家として国民との約束を守るのが何よりも大事な価値だ」と述べ、政権交代という共通の目標のために自ら苦渋の決断をしたことを強調。文候補を支持するとした。

一本化協議は両氏が合意し6日に始まったが、両陣営が互いに相手陣営を非難するなど、交渉は難航していた。
両陣営間では「一本化は世論調査方式」が共通認識だったが、具体的なやり方をめぐり、自陣営に有利となる方法を互いに譲らず、候補者登録の直前になっても野党候補が決まらない異例の状況となっていた。

安氏は医師時代に自分のコンピューターがウイルス感染したことから対策ソフト開発にのめり込み起業。韓国最大のITセキュリティー会社に育て「韓国のビル・ゲイツ」と呼ばれた。政治経験はないが、既存政党を嫌う若者や無党派層から支持を集め、今大統領選の台風の目となっていた。【11月23日 毎日】
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野党候補の一本化は、どちらかが降りなければ共倒れになるという状況でのチキンレース的な展開で、交渉は難航していました。両者は21日深夜、初のテレビ討論も実施しています。
“韓国大統領選ではこれまでも最終局面での「劇的一本化」で有権者の関心を集めて勢いに乗る戦術がみられた”【11月23日 産経】ということもあって、「劇的一本化」が成立するのか、共倒れ覚悟の三つ巴選挙に突入するのか、成り行きが注目されていましたが、安候補の涙の辞退会見となりました。

政権交代という共通の目標のための“苦渋の決断”とは言いながらも、突然の涙の辞退発表の背後には何かあるのでは・・・とも考えたくもなりますが、そこはよくわかりません。
最大野党である民主統合党を背負う文在寅候補としては、選挙戦辞退は組織の存続をも危うくするもので、どうあっても辞退は出来ないのでは・・・との感がありましたが、結果的は、降りる余地のある無所属・安候補が降りたという形になりました。

****改革の旗手」安氏、なぜ突然退場 韓国大統領選****
韓国大統領選は25日、公示にあたる候補者登録が始まる。与党セヌリ党の朴槿恵(パククネ)氏(60)と最大野党、民主統合党の文在寅(ムンジェイン)氏(59)が届け出る予定だ。だが、韓国国内では「改革の旗手」とされた安哲秀(アンチョルス)氏(50)の突然の退場に衝撃が広がっている。

24日付の韓国各紙は、安氏が前夜の緊急会見で口を真一文字にしめ、涙を浮かべる写真を掲載した。支持率の伸び悩みや、5年後の大統領選への出馬説など様々な臆測をしているが、真相は定かではない。緊急会見後、一切姿を見せていない。
安氏は会見で文氏への支援を呼びかけた。だが、陣営関係者は「当分、地方で休息をとるようだ。その後のことは未定だ」と述べ、少なくともすぐには文氏の応援演説などに加わらない見通しを明らかにした。

医学博士であり、コンピューターウイルス対策ソフトを無料で提供したことで「韓国のビル・ゲイツ」の異名をとる安氏が、若い世代の声に押される形で大統領選の有力候補に浮上したのは昨年秋のことだ。
ソウル市長選への出馬の意向を固めたが、市民団体出身の候補と競合することがわかると、2人で会談。約20分の話し合いで、あっさりと相手側への譲歩を表明した。直後から大統領選への待望論が噴き出したが、態度を留保し続けた。

その間も、時価100億円以上を、低所得者家庭の子どもの教育のために寄付することを表明。理想の社会像などを語った対談集はベストセラーになるなど旋風を巻き起こした。熟考の末、出馬の意思を明らかにしたのは今年9月だった。

出馬前から一貫して訴え続けたのは「常識に照らした判断」だった。日韓が領有権を主張する竹島問題は大統領選候補として言及しにくいテーマだが、李明博(イミョンバク)大統領の訪問について安氏は周辺に「国益も日本との関係も損なう行為だ」と明確に批判。外国人記者との会見では「(日韓)共同で解決するための装置が必要だ」と述べ、紛争は存在しないとする韓国政府の立場との微妙な違いも見せた。

地縁血縁や派閥の結びつきが強い既存政治の改革は、むしろ政治経験がない人物の方が断行しやすいと主張し、弱者重視の政策を次々に発表した。
こうした改革の訴えを与野党とも無視できず、民主統合党執行部の総退陣などに追い込んだ。今後の選挙戦は安氏支持票の争奪戦が予想され、大統領選レースの舞台から去ってなお、安氏は存在感の大きさを見せつけている。 【11月24日 朝日】
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安氏支持層の動向が勝敗のカギ
与党セヌリ党の朴槿恵候補と野党民主統合党の文在寅候補の争いは、世論調査では僅差の争いとなっています。
辞退した安氏を支持していた層が、どこまで文候補支持に回るのか・・・という点に、今後の勝敗の行方がかかっています。
世論調査では、安氏の支持層の45~55%が文氏の支持に、17~24%は朴氏の支持に動いたとも報じられています。
“セヌリ党は安氏支持層の「離脱票」攻略に、民主統合党は「完全な吸収」に躍起になるとみられ、安氏支持層の浮動票が大統領選の勝敗を大きく左右するとみられる。”【11月25日 聯合ニュース】

ただ、選挙戦を辞退した安氏自身が、今のところ文氏支援の前面に出てきておらず、その動向が注目されています。

****安氏動向、辞退後も注目=一本化、しこり残す―韓国大統領選****
12月19日投開票の韓国大統領選は27日、公式の選挙戦に突入、与党セヌリ党の朴槿恵候補と最大野党民主統合党の文在寅候補は各地での遊説を開始した。ただ、文氏との一本化協議中に出馬を辞退した無所属の安哲秀氏が、文氏をどこまで積極的に支援するかが明確でなく、選挙戦の変動要因となっている。

安氏は23日に突然、出馬辞退を表明し、「一本化候補は文氏だ。文氏に声援を送ってほしい」と求めた。しかし、自分が文氏をどう支援するかなど具体的考えを示さぬまま、休養を続けている。

文、安両陣営は一本化候補を決める世論調査の質問内容をめぐり激しく対立。21日のテレビ討論では文氏が安氏の対北朝鮮政策について、「李明博政権とどこが違うのか」と攻撃姿勢をあらわにし、安氏や陣営に、しこりが残っているといわれる。【11月27日 時事】
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代理戦争
選挙戦は、「朴正煕大統領の娘」(朴槿恵候補)と「盧武鉉大統領の秘書室長」(文在寅候補)の争いということで、故人となった過去の大統領を背負った戦いともなっています。

****韓国大統領選 朴、文氏届け出 “代理戦争”色濃く****
 ■朴槿恵氏 朴正煕氏の愛娘 政治手腕十分のお姫様
 ■文在寅氏 盧武鉉氏の側近 獄中体験もある庶民派
韓国大統領選で与野党一騎打ちとなった朴槿恵・文在寅対決は左右対決であるとともに、それぞれ「朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の娘」および「盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の秘書室長」という故人を背負った“代理戦争”の色合いが濃い。

朴氏は60歳、文氏は59歳で同世代。朴氏はテロで急死した母に代わり20代でファーストレディーの役割もこなし、長く「お姫さま」と皮肉られてきた。これに対し文氏は反政府活動で獄中体験もあり、苦労して弁護士になり人権弁護士として弱者支援でがんばった庶民派。同郷(釜山地域)で同じく反政府派の弁護士だった盧武鉉氏にピックアップされ知られるようになった。

性格も朴氏は品があって毅然(きぜん)としている半面、今でも周りが気楽に声をかけにくい雰囲気が残っている。文氏は逆に物言いや立ち居振る舞いがざっくばらんで“アジョシ”(おじさん)といわれ親しみがある。

しかし朴氏はすでに15年の政治家経歴がある。各種選挙で先頭に立ちしばしば与党の危機を救った。与党内の反主流派で李明博大統領と対立し、新行政都市建設復活をはじめ「約束を守る原則主義者」として政治力を発揮した。
これに対し文氏は今年初めて国会議員に当選したばかり。政界では「永遠の秘書室長」との評があり、与えられたことは無難にこなすが先頭に立つ指導力は今ひとつといわれてきた。大統領選出馬も自分から言い出したのではなく、“盧武鉉勢力”から担ぎ出された。

朴氏は女性ながらどこで誰に会っても物おじしない「品位と度胸」の持ち主だが、彼女に比べると文氏はアマチュアを感じさせる。そこが新鮮ではあるが。

尊敬する人物は、朴氏が同じく独身を通しながら英国を富強国家にした女王、エリザベス1世であるのに対し、文氏は1930年代の米国を恐慌から立て直したフランクリン・ルーズベルト大統領という。

朴支持派は韓国現代史を経済発展で語る「産業化勢力」といわれる保守派。文支持派は「北の脅威」を理由に政治的に抑圧された左派系の「民主化勢力」が中心だ。
韓国発展を父の業績として肯定的に考える朴氏と、その過去を政治弾圧を理由に否定的に見る盧武鉉氏の側近・文氏とはイデオロギーや歴史観で厳しく対立する。代理戦争として“過去論争”が再燃しそうだ。

【プロフィル】朴槿恵
パク・クネ 1952年、韓国・大邱生まれ。西江大卒。故朴正煕元大統領の長女。74年、母親が殺害され、79年には朴大統領が暗殺された。98年にハンナラ党(現セヌリ党)から国会議員となり、その後、同党代表。2007年の大統領選の党予備選で李明博大統領に敗れた。独身。

【プロフィル】文在寅
ムン・ジェイン 1953年、韓国・巨済生まれ。慶煕大卒。75年、朴正煕政権に反対する民主化闘争で投獄。82年、故盧武鉉氏(後に大統領)と法律事務所を開設し弁護士として活動。2003年発足の盧政権では大統領秘書室長など要職を歴任。12年4月の総選挙で初当選。妻と1男1女。【11月26日 産経】
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