孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ロヒンギャ問題でスー・チー氏 “支持することはできない”との発言

2012-11-08 23:46:01 | ミャンマー

(今年9月の訪米時、クリントン米国務長官と会談するスー・チー氏 なお、今月18日、オバマ大統領がミャンマーを訪問することが発表されています。スー・チー氏との会談もあるとみられています。 “flickr”より By U.S. Department of State http://www.flickr.com/photos/statephotos/8000222693/

【“存在を否定された民族”ロヒンギャ
ミャンマー西部のラカイン州で、ミャンマーにおける多数派である仏教徒とミャンマー国内では市民権が与えられていない“存在を否定された民族”ロヒンギャ族(イスラム教徒)の間で衝突が起き多数の死傷者・難民がでていることについては、これまでも何回かとりあげてきました。
(10月26日ブログ「ミャンマー  西部ラカイン州でのロヒンギャ族と仏教徒の衝突が再燃拡大」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121026

この問題に関して、民主化運動指導者であるアウン・サン・スー・チー氏の発言・関与がないことに、ロヒンギャ族やロヒンギャ族に対する弾圧を懸念する国際社会・人道支援団体からは不満も出ていました。

スー・チー氏の消極的な対応の背景には、ロヒンギャ族はバングラデシュからの不法移民であり、ミャンマー国民ではないとミャンマー国内では考えられており、仏教徒である一般国民のロヒンギャ族への嫌悪感が非常に強いことがあります。
こうした状況でロヒンギャ族支持を打ち出すことは、一般国民からの反感を買う恐れがあります。

ただ、不法移民・侵入者とは言っても、“かつて、ロヒンギャは東インド(現在のバングラデシュ)に住んでいたが、ミャンマー西部に存在したアラカン王国に従者や傭兵として雇われたり、また商人としてもとビルマ(現在のミャンマー)の間を頻繁に往来していたため、その後ビルマ(現ミャンマー)国境に定住したイスラム教徒がロヒンギャの祖先とされる。バングラデシュへ難民化したり、ミャンマーへ再帰還したりしたため、現在では居住地域が両国を跨っている”【ウィキペディア】とあるように、長い年月をかけてこの地に住むようになった経緯がり、昨日・今日の話ではありません。

また、現実問題として、ミャンマーにおいては、これまで軍事政権による大規模なロヒンギャ弾圧・追放が行われきましたが、一方でバングラデシュも彼らを受け入れることを好まず、UNHCRの仲介事業によってミャンマーに再帰還させられるというように、両国から迫害・追放を受ける形となっています。
更に、海に小舟で出た難民を、タイ海軍が強制的に海に押し戻すといったこともありました。
このように、ロヒンギャ族が安心して暮らせる土地がないというのが現状で、国連など国際社会も憂慮する人道問題となっています。

【“政治家”スー・チー
先述のようにロヒンギャ族に関する発言を控えてきたスー・チー氏ですが、3日、「問題の原因を見ずしてモラルリーダーシップ(道徳的指導力)なるものを発揮するべきではない」と、ロヒンギャ族への厳しい見解を表明しています。
“問題の原因を見ずして”という表現からは、やはりロヒンギャはミャンマー国民ではない、彼らは不法移民にすぎない・・・という考え方が窺えます。

****スー・チー氏、ロヒンギャ人の支持明言せず  西部の衝突めぐり****
ミャンマー西部で仏教徒とイスラム教徒が衝突している問題をめぐり、アウン・サン・スー・チー氏は3日、自分の「道徳的指導力」を行使していずれかの側を支持することはしないと語った。

ミャンマー西部のラカイン州で発生した衝突について、ノーベル平和賞受賞者でミャンマーの最大野党、国民民主連盟(NLD)党首のスー・チー氏はこれまで発言を避けており、このことがスー・チー氏の国際的な支持者らを失望させるとともに、当事者双方からは自分たちの味方に付かなかったと「不満」の声も出ている。

ラカイン州の衝突では、6月以降10万人以上の住民が避難を余儀なくされている。先月も衝突があり、新たに約3万人の住民が避難した。また、これまでに双方でそれぞれ数十人が死亡し、数千戸の住宅が放火されている。

スー・チー氏は3日、欧州連合(EU)欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長と首都ネピドーで会談後、BBC(英国放送協会)に出演。バローゾ委員長は衝突による暴力と衝突がミャンマーの改革にもたらす帰結に対して、EUは「深く懸念」していると表明していた。

スー・チー氏は「私は寛容を呼びかけている。だが、問題の原因を見ずしてモラルリーダーシップ(道徳的指導力)なるもの─あなたたちが仮にそのように呼ぶとして─を発揮するべきではないと考えている」と述べ、国を持たないロヒンギャ人を擁護する発言はできないと語った。

ミャンマーに暮らすロヒンギャ人80万人は、政府をはじめ国内の多くから、近隣バングラデシュからの不法移民とみなされている。活動家らは、激しい差別により、ロヒンギャ人らはいっそう疎外されることとなっていると主張。国連も、ロヒンギャ人を世界で最も迫害されている民族の1つと位置づけている。【11月5日 AFP】
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自宅軟禁されていた頃であれば理念を語っていれば済みましたが、現実政治における野党政治家としては、政治と理想のバランスをとる必要があります。
今年3月、クリントン米国務長官はニューョークで聞かれた世界女性サミットの席上、民主化運動の象徴から政治家へと転身したスー・チー氏について、「政治の世界で求められるものと理想や夢との間でバランスを取るのは非常に難しい」と、この問題を指摘しています。

今回の現実を強く意識したスー・チー氏の発言は、民主化運動の象徴・アイドルから、現実政治家への転身を感じさせるものがあり、彼女が今後のミャンマー政治のなかでなにがしらかの役割を担っていくためには、いたしかたないところかとも思えます。
スー・チー氏は10月8日、ヤンゴンで記者会見し、「政党の指導者として、大統領になる勇気を持たなければならない」と述べ、将来的な大統領就任に向けた意欲を明らかにしています。

政治家スー・チーはいいとしても、「じゃ、ロヒンギャ族の現状、保護はどうするのか」という大きな問題は残ります。

****ミャンマー西部ラカイン州の避難民キャンプ、衝突激化で定員オーバー****
ミャンマー西部ラカイン州で、仏教徒のラカイン人とイスラム教徒のロヒンギャ人の衝突が再燃している問題で、支援にあたる国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は30日、周辺の避難民キャンプはすでに大幅に定員を超えており、食糧や水などの支援物資が不足しているほか、医療体制にも不備が生じていると明らかにした。

今月21日に再び激化した衝突では、放火によって数十人が死亡。今月に入って双方の暴力が原因で自宅から避難した住民は少なくとも2万8000人に上り、UNHCRによれば「破壊と避難が拡大」している状況だ。
イスラム教徒が大半を占めるラカイン州では数千人の住民がキャンプに流入しているが、今年6月の紛争で自宅を追われた7万5000人の避難民を受け入れていた避難キャンプはすでに定員をオーバーしている。

UNHCRは現状について、「すでに過密状態の避難キャンプは、スペース、シェルターをはじめ水や食糧などの支援物資の面でも大幅に許容能力を超えている」と指摘。「この地域では食料品の価格が2倍に跳ね上がっている。負傷者や病人に対応する医師も足りない」と警告した。

匿名を条件にAFPの取材に答えた政府関係者によると、30日に再び発生した衝突で警察官がラカイン人の住民1人を射殺し、最新の衝突による死者は89人に達した。暴力の終息に向けた当局の取り組みは難航している。【10月31日 AFP】
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なお、政治家スー・チーについては、ロヒンギャ問題だけでなく、ミャンマーが抱える多くの少数民族問題で、期待されながら存在感を示すことができないことから、厳しい見方もあります。

****色褪せるアウンサンスーチー****
・・・・「スーチー氏への過大な期待はするべきでない。少数民族問題について彼女はほとんど知らない」(現地紙記者)
少数民族のどこにアクセスすればチャネル加開けるのかわからないのだ。スーチー氏は反政府運動のプロだが、実際の政治や経済、外交については全くの素人だ。

もちろん十五年に及ぶ軟禁生活を考えれば無理もない。しかし、彼女の周囲にもそれをサポートできる人付加いない。軍政は終了したが、この国を動かしているのはいまだに軍のテクノクラートである。この国の有能な人材は軍に集まるシステムだった。政治を動かすことはもちろん、外国の事情にも通じている有能な人材である。実際、現在の民主化を主導しているのは彼らなのだ。

アイドルではあるが
スーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の人材不足は、「スーチー氏が後継者を育ててこなかった」(前出全国紙記者)ことも大きな原因だ。NLDの実態は「スーチー党」である。建国の父アウンサン将軍の娘である彼女の人気は根強い。しかし、一挙手一役足に注目が集まる姿は文字通り崇拝の対象としての「アイドル(偶像)」
である。

外部からの人材を受け入れなくてはならないが、NLDは「民主化運動をしてきたものとしか組めない」とむしろ閉鎖的になっている。このままでは、仮に三年後の総選挙でNLDが圧勝しても政権担当能力はない。(後略)【11月号 選択】
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コメント (1)
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