孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  高速鉄道建設の一方で、優先して取り組むべき社会に根深い差別意識等の問題も

2017-10-03 23:06:57 | 南アジア(インド)

(インド西部グジャラート州アーメダバードで、「グジャラート州では牛殺しは罪だが、ダリット殺しは容認されている」などと書かれたプラカードを持って抗議するダリットの人々(2016年7月31日撮影)【10月2日 AFP】)

高速鉄道建設の必要性に疑問を示す声も
安倍首相は9月14日、インド西部グジャラート州アーメダバードで、日本の新幹線方式を導入したインド高速鉄道の起工式にモディ首相とともに出席し、インドでの“新幹線建設”が動き始めています。

インドにおける高速鉄道については、中国も別路線への参入を目指していますが、中印間の領土問題などで難しい事情もあります。

日本では“中国は日本の新幹線技術をパクった”と評判はよくありませんが、中国世論が自国の高速鉄道に非常に大きな誇りを感じていることは多くの報道で目にするところです。

“パクり”云々は、成長・発展過程ではすべての国が通る道であり、日本もアメリカなどの自動車等、多くの技術を“参考”にして成長してきたところで、程度問題の部分もあります。(中国の高速鉄道技術がこの“程度”を超えたものななかどうかについては知りません)

中国世論は、自国の目覚ましい成長が実は多くのものを犠牲にしており、巷には多くの怪しいものが出回っている現状はある程度認識しているので、世界最高水準をいく高速鉄道網とその技術に対しては、数少ない本当に世界に誇りうるものとしてひときわ力も入るのでしょう。

中国政府も、高速鉄道輸出にひとかたらぬ力を入れており、各地で日本の新幹線と競合することにもなっています。
そのため、日本の新幹線への対抗意識も尋常ならざるものがあります。

****インドで「日本の新幹線」導入に批判、「高額紙幣廃止と同様に悲惨****
2017年10月1日、中国メディアの人民網によると、インドのモディ政権が導入する「日本の新幹線」に対し、同国内では昨年11月の高額紙幣廃止と同様に悲惨だとする批判が出ているという。

記事はインドメディアの報道を引用し、同国の鉄道で設備の老朽化や整備不良による事故が多発していることを受け、元財政相で議会の指導者のチダンバラム氏が先月30日、日本の新幹線方式を採用するムンバイとアーメダバードを結ぶ高速鉄道プロジェクトに疑問を示し、政府は鉄道安全対策に焦点を当てるべきだと主張したと伝えている。

チダンバラム氏は、高速鉄道プロジェクトを昨年11月のモディ政権による衝撃的な「高額紙幣廃止」措置に結びつけ「同様に悲惨だ」とし、「高速鉄道は普通の人のためのものではない。富裕層の自我旅行のためのものだ。それは安全を含む他のすべてを犠牲にするだろう」と批判したという。

記事によると、インド国内では、高速鉄道建設の必要性に疑問を示す声が相次いでおり、そうした資金は既存の鉄道の安全対策や貧困対策に使われるべきだとする主張が叫ばれているという。【10月2日 Record china】
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中国の高速鉄道に対する“思い入れ”や“日本の新幹線への抵抗意識”は脇に置くとしても、中国メディアが“そうした資金は既存の鉄道の安全対策や貧困対策に使われるべきだとする”との批判を取り上げたのは、視点としては的を射たものでもあります。(その中国もインドへの高速鉄道輸出に躍起になっていますが・・・)

実際、在来鉄道の鉄道安全対策に焦点を当てるべきという批判もあって、インドが計画する別の6路線については時間を要する・・・との見方もあります。

老朽化したインド在来鉄道においては、事故が頻発しており、しばしばその報道を目にします。

****インド 10日間で3度目の列車脱線事故****
インドで、列車の事故が相次いでいることを受けて、日本の安全対策の専門家チームが鉄道の調査を行っているさなかに、この10日間で3度目となる脱線事故があり、ずさんな安全管理の早急な改善を求める声が高まっています。

インド西部の都市ムンバイ郊外で、29日朝、中部のナグプールからムンバイに向かっていた19両編成の列車が脱線し、一部の車両が周辺のやぶなどに突っ込みました。(中略)

インドでは、今月19日に北部を走っていた列車が脱線して22人が死亡したほか、23日には、同じ北部でトラックに衝突した列車が脱線して多数のけが人が出ていて、今回の事故は10日間で3度目になります。(後略)【8月29日 NHK】
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日本なら10日間に3回もの列車脱線事故が起きたら、内閣の責任が問われます。

輸送力も需要を大幅に下回っており、ムンバイの通勤列車が世界でも最も混雑する、そして最も危険な列車と言われていることなども、2008年6月28日ブログ「インド・ムンバイ 最も危険な列車と女子登校促進“現ナマ”作戦」で取り上げたことがあります。

****1日平均死者12人****
ラッシュ時には乗車率は250%にもなり、定員200人の車両に500人が詰め込まれます。
鉄道警察の発表では、昨年は3997人が死亡、負傷者が4307人。
今年は、1-4月ですでに1146人が死亡し、1395人が負傷しています。
1日平均12人が列車で死亡していることになります。

にわかには信じがたい数字ですが、死因の3分の1、負傷原因の多くを占めるのは、混雑のため車両に乗り込むことができず、車両の端につかまった状態で無理やり「乗車」したものの、手が離れてしまったというケース。【2008年6月28日ブログより再録】
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かなり古い数字で、現在がどうなっているのかは知りませんが、そんなに改善もされていないのでは・・・。

列車だけでなく、駅舎などの施設にも問題があるようで、ムンバイで9月29日朝のラッシュ時、鉄道駅に至る歩道橋上で通勤客が殺到して倒れ、少なくとも22人が死亡した件も大きく報じられています。

鉄道に限らず、インドにあっては“遅れた面”“改善が急務なことがら”が多々あるのは事実です。

衛生面についても、あの中国から見てもインドの現状は信じがたいレベルにあります。

****われらの隣国「日本とインド」その衛生面の差はあまりにも「両極端」だ=中国****
中国には衛生面で相反する2つの隣国があるという。それは「日本」と「インド」だ。

日本の清潔さは世界的に有名であり、日本と比較すると中国はひどいといった話題がよく取り上げられるが、中国メディアの今日頭条は9月29日、インドは中国の比ではないと主張し、インドと日本という中国の隣国は衛生面で「両極端」にあると主張した。(中略)

では、記事が主張する「日本と逆の極端」にあるというインドはどうなのだろうか。たびたび日本と比較され、街が汚いと言われる中国からみても、行ったら「常識が覆される」ほど汚れているという。

その汚れの程度については、「3歩ごとに1個のゴミがあり、5歩ごとに1個のフンがある」ほどだと表現。誇張した表現にも思えるが、記事が掲載している写真を見てみると大げさな表現とは言いがたい状況が写っている。
1日中清掃員が掃除している中国は、日本ほどではないとはいえ、そこそこ清潔さが保たれている。(後略)【10月3日 Searchina】
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より問題が根深い差別意識
鉄道にしても、衛生面にしても、今後インドが経済的に成長するに伴い、ある程度改善されていくものでしょう。
それらより問題なのは、インド社会に根強く残る身分制度・格差意識の問題ではないでしょうか。

****インド最下層カーストの男性、伝統舞踊を鑑賞し殺害される****
インド西部で1日夜、カースト(身分制度)の最下層「ダリット(Dalit)」出身の男性が、ヒンズー教の伝統舞踊を鑑賞したことに腹を立てたカースト上位の男らに暴行を受けて死亡した。地元警察が2日、明らかにした。
 
死亡したのはジャイエシュ・ソランキさん(21)。ソランキさんはいとこと共に、グジャラート州ボルサドで9日間の日程で開かれたヒンズー教の祭り「ナブラトリ」を訪れ、民族舞踊のガルバを見ていた際に襲撃されたとみられている。
 
地元のアナンド・サウラブ・シン警察署長はAFPに対し、「被害者を撲殺した容疑で8人を逮捕した」と認めた。
 
警察がいとこから受けた訴えによると、2人はガルバを鑑賞中、男1人になぜ踊りを見ていると聞かれた。男は「カースト絡みの罵声を浴びせた」後に去ったかと思うと、仲間7人を引き連れて戻り、ソランキさんらを暴行し始めたという。
 
男らはまずいとこを殴打し、止めに入ったソランキさんを強く押しのけた。ソランキさんは壁に頭をぶつけてその場に倒れたという。警察は搬送先の病院でソランキさんの死亡が確認されたと明かした。
 
PTI通信によると、容疑者らはダリットには「ガルバを見る権利は一切ない」と供述したという。【10月2日 AFP】
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インドにおけるカースト制、ダリット(不可触民)の問題は、7月18日ブログ“インド 被差別民ダリット出身の新大統領選出でも続く、よそ者には理解しがたい差別社会”でも取り上げましたので詳述はしませんが、インド社会に根深く存在している問題です。

****インドの教師、首相の誕生日祝うためトイレの穴掘り命じられ怒る****
2017年9月19日、米華字メディアの多維新聞によると、インド中央部、マディヤ・プラデーシュ州のティカンガル地区にある公立学校の教師らがこのほど、モディ首相の誕生日を祝うためにトイレのための穴を掘るという屈辱的な任務を与えられたとして怒りの声を上げた。

インドメディアによると、与党インド人民党(BJP)政府は、17日のモディ首相の誕生日を祝うため、ティカンガル地区の公立学校の教師らに、16日に複数の村でトイレのための穴を掘るプログラムに参加するよう求めたという。

政府の命令は、教師らを怒らせ、屈辱を与えた。ある教師は「政府は教師の尊厳を傷つけるためにあらゆる手段を講じている。トイレ建設は教師の名誉の破壊を通じて行われるべきではない」と怒りを隠せない。【9月19日 Record china】
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上記の話はよくわかりませんが、一政治家の誕生日のためにトイレの穴掘りをさせられた・・・という点では、怒るのも無理からぬものもありますが、インドにおいてトイレの整備は(モディ首相が自身の公約にしているように)極めて重大な問題です。

もし、(敬われるべき)教師である自分たちにトイレの穴掘りなどさせて・・・という意識であれば、誤った身分意識でしょう。

カースト制などの身分制度はインド社会と一体となっており、軽々に日本的常識で論じることはできない・・・というのはそうでしょうが、時代とともに変わるべきものが多々あるように思えます。

インド社会では、カースト制などの伝統的差別のほかに、国内アフリカ人への人種差別という新たな差別も問題になっています。

****カースト制に国にもう一つの差別****
・・・ 今年3月、(ニューデリー近郊の)オコイーグベのアパートの近くでアフリカ人学生が集団暴行された。
ネットなどで拡散した動画を見ると、インド人の男たちがショッピングモールに乱入して、黒人の若者を蹴ったり、金属製の椅子などで殴り付けている。被害者はナイジェリア人で重傷を負ったが、命は取り留めた。(中略)
 
きっかけはインド人少年の死だ。事件の数日前、ある少年が行方不明になったと伝えられたが、このとき「ナイジェリア人が誘拐して肉を食べた」というおぞましい噂が流れた。少年はその後、意識がはっきりしない状態で発見され、病院で死亡した。
 
すると今度は「少年はこの辺りに住むナイジェリア人から渡されたドラッグを過剰摂取して死んだ」という根も葉もない噂が広がった。少年の両親が訴えを起こし、警察は容疑者とみられる男たちを拘束。彼らは証拠不十分で釈放されたが、アフリカ人犯人説は消えず、彼らへの怒りが爆発した。
 
この緊張状態を生んだ要因の1つは、インド人がナイジェリア人に対して抱いている固定観念だ。ナイジェリア人
はみんなドラッグの売人や、社会の敵だと見なしてしまう。
 
確かにインドの一流紙は、いくつかの都市では麻薬密売に関与しているのはナイジェリア人が群を抜いて多いと報じている。インドに住むアフリカ人は国籍に関係なく、犯罪に関係していると疑われがちだ。しかもインド人はアフリカ人との交流が少ないため、こうしたイメージがなかなか消えない。
 
インドに住むアフリカ人は推定約4万人で、多くが留学生だ。ここ数年は、インド人とアフリカ人が衝突する事件
が目立つ。

13年には、ゴア州の人臣がナイジェリア入を「癌」と呼んで批判された。14年にはニューデリーで、ガボンとブルキナファソ出身の若者クループが襲撃され、その動画がYouTubeにアップされた。昨年1月には南部バンガロールでタンザニア入学生か車から引きずり出され、殴られ、半裸にされた。(後略)【9月26日号 Newsweek日本語版】
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インドでは肌の色は白いほどいいとの固定観念があり、そうした意識がアフリカ人差別にも影響している・・・とも。

急速な経済成長で社会が変化する時代にあっては、波に乗れない者の不満が伝統的差別、あるいは上記のようなアフリカ人差別といった形で、特定のグループに向けられがちになることも注意が必要です。

インド社会は女性の自由な恋愛(特にカースト違いの恋愛)を一族の恥として殺害するような“名誉殺人”が横行する社会でもあります。

下記はそうした名誉殺人ではありませんが、意に添わぬ女性を殺害するという点では共通する意識もあるようにも。

****インドの18歳女性、元恋人の男とその父親が火を付け死亡****
インドの警察当局は25日、元交際相手の女性(18)に生きたまま火を付けた疑いで男とその父親を逮捕したと発表した。女性は火を放たれた翌日、死亡した。
 
警察によると、同国西部ラジャスタン(Rajasthan)州で女性は2人に殴られた後、灯油をかけられて火を付けられた。(後略)【9月26日 AFP】
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また、インドでは近年、女性に対するレイプ事件など性的暴力が問題となっています。
しかし、そうした犯罪を取り締まる立場の警察に腐敗・汚職が蔓延しているのはインドに限らず多くの途上国に見られることです。

****7歳少女を官舎でレイプか、インドで警官逮捕****
インド北部ウッタルプラデシュ州で、7歳少女をレイプした容疑で警察官の男が逮捕された。地元の警察高官が1日、AFPに明らかにした。逮捕された警察官は当時、酒に酔っていたとみられるという。(中略)
 
インドでは未成年に対する性的暴行事件が多発しており、政府の統計によると2015年には2万件が報告されている。

同国は2012年に首都ニューデリーで起きた医学生に対する集団レイプ殺人事件が国際社会の批判を招いたことを受け、性的暴力を取り締まる法律を厳格化したが、性犯罪が後を絶たない。【10月2日 AFP】
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最近目にしたインドでの事件の記事をいくつか列挙しましたが、高速鉄道建設よりも優先して取り組むべき課題が山積しているように思われます。

もちろん、高速鉄道やIT技術の活用などを梃子にして、社会全体の改革を促していく・・・ということであれば結構な話でもありますが、モディ首相の姿勢は先端技術活用の一方でヒンズー至上主義を助長している・・・という話は再三取り上げているところで、そうした姿勢で差別意識や社会の改革が進むのか・・・やや疑問でもあります。
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