孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  謎の“音響兵器”で対アメリカ・キューバ関係は更に悪化

2017-10-07 22:34:31 | ラテンアメリカ

(日本がシー・シェパードに対して使用してもいる音響兵器LRAD ただ、目立たずに使うのが難しい、空気を伝うため壁を通過することができない、ピンポイント放射ではなく30~60度という幅を持った放射になるので、LRADを操作する者もプロテクターをする必要がある等々の理由で、可能性は低いとも。【9月26日 GIGAZINE より】)

オバマ“レガシー”否定のトランプ大統領による「制裁強化」】
オバマ前大統領のもとで歴史的転換を実現したキューバとアメリカの関係改善の停滞の気配については、5月27日ブログ“キューバとアメリカ 国交正常化への交渉は消極的なトランプ政権のもとで停滞 キューバ側の不透明さも”で取り上げたところですが、その後、トランプ大統領はキューバへの制裁強化に転じて“一歩後退”の状況にあります。

****<米国>キューバ政策転換 トランプ氏「制裁強化」表明****
トランプ米大統領は16日、南部フロリダ州マイアミで演説し、オバマ前政権の対キューバ制裁緩和策の転換を表明した。キューバのカストロ政権を「60年近く国を支配し、何万もの自国民を殺害してきた」と強く非難。

「前政権が結んだ一方的な取引を中止する」と述べ、渡航や企業取引の制限を強化する方針を示した。2015年にハバナに再開した大使館は維持し、外交関係は保つとしている。
 
新たな政策では、緩和方向にあった米国民のキューバ渡航を制限。キューバ軍や情報機関が関係する企業との取引も規制する。

トランプ氏は、亡命キューバ人の多く住むマイアミでの演説で「カストロ政権が北朝鮮に武器を供給し、ベネズエラの政情不安を助長した。ハイジャック犯やテロリストをかくまっている」などと批判。政策転換は「軍政への資金を断ち、国民に資するものだ」と強調した。
 
トランプ氏は「キューバ政府がすべての政治犯を釈放し、民主的な選挙を実施するまで制裁は解除しない」とも宣言。キューバ政府の反発は避けられず、オバマ前政権で進んだ両国関係の改善は停滞が予想される。【6月17日 毎日】
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トランプ大統領が指摘するように、キューバにおいては大きな人権問題が存在しているのは事実です。

****キューバの人権状況悪化 昨年は9千人超を拘束、7年間で最多****
トランプ米政権は16日、人権問題を念頭にキューバ政策の見直しを発表したが、キューバでは昨年、9000人超の活動家が政府当局に拘束されるなど、2015年7月の米国との国交回復以降も、人権状況の悪化が指摘されている。
 
米国の国際人権団体「フリーダムハウス」は最新報告書で、「キューバ人権和解委員会」(CCDHRN)の調査結果を紹介。それによると、16年1〜10月に政府当局に「恣意的に拘束」された活動家などは9125人で、「過去7年間で最も多い拘束者数」と指摘した。
 
また、ハバナ市内の有料のWiFi区域が200カ所に増え、接続料も安価になっている一方、キューバ政府は、政治系サイトなどへの閲覧制限を強化。また、新規レストランの営業免許発行もより厳しくしているという。

フリーダムハウスは、「オバマ前政権下で進められた米国との関係強化は、(キューバ政府の)制限の撤廃につながっていない」と指摘している。【6月17日 産経】
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しかしながら、およそ人権などには関心がないトランプ大統領が“人権”を云々するのは“ご都合主義”で笑止です。

また、始まったばかりのオバマ前政権下で進められた米国との関係強化について、「(キューバ政府の)制限の撤廃につながっていない」と言うのであれば、それ以前の“50年にわたるタカ派的な制裁は、反カストロ運動家が望むようなキューバの共産政権を追い出すような成果は何ら上げることはなかった。”とも言うべきでしょう。

とにかくオバマ前大統領のレガシーを否定・破壊することで、自分の存在をアバマ嫌いの支持層にアピールしたい・・・それしか頭にないようにも見えます。

****トランプのキューバ政策変更の思惑****
トランプ大統領が、オバマ前大統領が決断したキューバとの和解政策の一部を覆す決定を行ったことに対して、6月16日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説は、疑義を提示しています。その要旨は以下の通りです。
 
トランプは、6月16日マイアミにおいて、対キューバ雪解け外交を後戻りさせる決定を発表した。その目標は自由なキューバの実現であると述べたが、真実は、彼の当選を助けたマイアミの亡命キューバ人に迎合するとともに、前任者オバマの重要な政治的遺産を覆す執念深い政治的行動の1つだった。
 
トランプは前政権によるキューバへの一方的な譲歩を取り消すと宣言したが、それは、誇張であって、覆したのはその一部である。キューバ製のラム酒や葉巻の愛好者等にとっては一安心であるが、キューバへの旅行者やビジネスマンにとってはより状況は難しくなる。
 
結局のところ、米国・キューバ関係は冷戦時代のようなより敵対的な関係に戻り、ラテンアメリカにおける米国の立場を害するものとなろう。
 
新たな政策の下では、米国人は、もはや私的なキューバ旅行を計画することはできなくなる。米国企業や市民は、キューバ軍や秘密警察が支配するキューバ企業とビジネスを行うことが禁止され、これは、観光分野を含むキューバ経済の重要な部分に米国がアクセスできないことを意味する。
 
トランプの政策は、歴史的に誤った基礎に基づいている。トランプは、その目的をキューバの指導者の弾圧を止めさせ、民主主義を採用し、経済を開放するよう強制することだと述べ、キューバの圧政の前に黙ってはおられず、オバマの短期間のデタントは、共産政権を強化し軍を豊かにしただけだと批判する。

しかし、50年にわたるタカ派的な制裁は、反カストロ運動家が望むようなキューバの共産政権を追い出すような成果は何ら上げることはなかった。
 
トランプの人権に関する突然の懸念をまともに受け取ることはできない。近年の大統領の中で、人権をここまで軽視し、プーチンやサウジ王家のように国民を虐待する独裁者の国々にこのように好意的に接した者はいない。
 
ただ、言えることは、トランプの政策変更は、懸念されていたほどにはひどくなかったということであろう。双方の大使館は維持され、両国間の直行便は継続し、キューバ系米国人は、キューバに自由に渡航でき、親戚に送金することもできる。

トランプの辛辣な言説からすれば、これは多少の慰めではあるが、他方、保健分野の協力、石油漏出の防止に関する共同計画、麻薬取締りに関する調整や情報交換といった懸案や、トランプが新たに敵視しようとしているキューバとの間の真に建設的な関係といった実質的問題は放置されたままである。(後略)【7月24日 WEDGE】
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ニューヨーク・タイムズ紙も指摘している“トランプを支持したマイアミのキューバ系米国人への配慮とオバマのレガシーの否定が目的”に加え、“ロシア・スキャンダルを審議する上院情報委員会の有力議員であるルビオ等に対する考慮もあるのでしょう。また、中東外交、北朝鮮問題等でさしたる外交的成果も収められていないことからも、このタイミングでの政策発表となったのでしょう。”【同上】とも。

“共産政権を強化し軍を豊かにしただけ”というトランプ大統領の指摘については、“これがキューバの現実であり、このような現状が改革されるには相当な時間がかかります。オバマは、むしろ米国企業にとって利益になる点を重視したのでしょう。”【同上】というように、関係改善のなかで時間をかけながらキューバ体制の変更を求めていく形で取り組むべき問題です。

アメリカ:キューバ政府には駐在している他国の外交官らの安全を守る責任がある
アメリカとキューバの関係は、その後はもっぱら“音響兵器”の件に集中しているのは周知のところです。

****米大使館職員の体調不良、原因は「音響兵器」 ロシアなど第三国が実行か キューバ****
キューバの首都ハバナにある米大使館の米国人職員が身体的被害を受けた問題で、AP通信などの米メディアは10日、米政府高官の話として、人間の耳には聞こえないが身体に悪影響を及ぼす「高度な音響兵器」による攻撃が原因とみられていると伝えた。

国務省や連邦捜査局(FBI)はキューバではなくロシアなど第三国が実行したとの見方を強めているという。
 
APによると、米大使館では昨年秋頃から原因不明の聴覚障害を訴える職員が出始め、5人が身体的被害を受けた。カナダ大使館でも少なくとも1人の外交官が聴覚障害の症状を訴え、治療を受けていることが10日、明らかになった。
 
音響による攻撃は、職員の住居の内部か外部から実行されたとみられるが、外交官らの身体に影響を与えるため実行されたか他の目的があったかは不明だ。

捜査状況に詳しい米政府当局者によると、「ロシアなどの第三国」がキューバ政府に知らせずに実行した可能性があるとみて捜査しているという。
 
米政府は5月にワシントン駐在のキューバの外交官2人を国外追放処分にしたが、キューバは米外交官らへの攻撃を否定。国務省のナウアート報道官は10日の記者会見で捜査中を理由に詳細な説明を避けた。
 
音響兵器としては大音量で暴動鎮圧などに使われる長距離音響発生装置(LRAD)が知られているが、超音波など可聴域外の音波を使った兵器が存在するかは不明なことが多い。【8月11日 産経】
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“米政府が最初にこの事案を把握したのは2016年末だった”【8月10日 ロイター】とのことですが、今年6月のトランプ大統領の発表にこうした事態が影響しているのかどうかは知りません。
“攻撃”は、すでに停止しているようです。

****在キューバ米大使館の「音響攻撃」 職員16人がけが****
在キューバ米国大使館の職員らが音響兵器による攻撃を受けたとされる問題で、米国務省は24日、けがをした米国人は少なくとも16人に上ることを明らかにした。

国務省のヘザー・ナウアート報道官は記者団に対し、攻撃は既に止まったようだが、治療が必要となった米政府職員が複数いると述べた。(後略)【8月25日 AFP】
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アメリカ国務省によると、これまでに計22人のアメリカの外交官らが聴覚障害や頭痛などを訴えています。
当然ながらキューバ政府は“攻撃”を否定しています。アメリカは、キューバ政府が行ったものでないにしてもアメリカ外交官を守る責務があるとしています。

****キューバ外相、「音響攻撃の証拠見つからず」 国連総会で演説****
キューバのブルノ・ロドリゲス・パリジャ外相は22日、国連総会で演説し、キューバの首都ハバナで米国の外交官らが健康を害する「音響攻撃」を受けたとする米側の主張を裏付ける証拠は見つかっていないと述べた。(中略)
 
米当局は当初、大使館員らは謎の「音響装置」による被害を受けたとみられるとしていたが、現在も調査を続けており、国務省は詳細を明らかにしていない。
 
ロドリゲス外相は国連総会で、この件についてキューバ当局は独自に調査を行い、米大使館から提供された証拠を吟味したと述べた。
 
同外相は「これまでのキューバ当局の調査では、米国の外交官とその家族らが訴えた健康障害の原因を裏付けるような証拠は一切見つかっていない」として、「問題を解明する調査は続行する。結論にたどり着くには米当局との協力がカギとなる」「この手の問題が政治利用されるとすれば遺憾である」と述べた。
 
ティラーソン国務長官は今月17日、在キューバ米大使館の閉鎖も選択肢の一つとして検討していることを明らかにした。
 
米政府は、キューバ当局が事件に関与しているとは主張していないものの、キューバ政府には同国に駐在している他国の外交官らの安全を守る責任があると再三訴え、今年5月には米国に駐在していたキューバの外交官2人を国外追放処分にしている。【9月23日 AFP】
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しかし、“事件”の影響は拡大しています。

****<米国>在キューバ職員帰国へ 市民に渡航自粛も要請****
キューバ駐在の米国の外交官らが相次いで健康被害を訴えている問題で、米国務省は29日、ハバナの米大使館職員の半数以上を帰国させると発表した。

キューバ人への査証(ビザ)発給も停止する。米国とキューバの関係正常化が停滞するのは避けられない情勢だ。(中略)

米国務省は29日、緊急的な業務に携わらない職員とその家族に退避を命じた。町中のホテルでも外交官が被害を受けており、国務省は米市民に渡航自粛を要請した。安全性が確保されるまで一連の措置を継続する。
 
ティラーソン国務長官は声明で「外交関係は維持する」と表明しつつ、「キューバ政府が攻撃を防ぐ適切な方法をとる責任がある」と強調した。ティラーソン氏は17日、米テレビ番組で大使館閉鎖を検討中だと明らかにしたが、閉鎖にまでは踏み込まなかった。(後略)【9月30日 毎日】
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アメリカは、自分の方が員数を減らしたのに合わせて、キューバ側にも減員を求めています。

****米国務省、在米キューバ外交官15人に退去要請****
米国務省は3日、在米キューバ大使館の外交官15人に対し、7日以内に退去するよう要請した。キューバに駐在する米国の外交官やその家族に原因不明の聴覚障害が起きていることへの対抗措置だが、外交関係に変更はない。(中略)
 
米国務省高官は、今回の措置は「キューバが我々の外交官を守れていないため」と説明し、キューバ政府が攻撃に関与していることを示すものではないとしている。
 
米国務省は、9月29日に在キューバの米大使館職員の半数以上を退避させると発表している。ティラーソン国務長官は3日の声明で、両国の大使官職員の数を均衡させるためだとし、「キューバとの外交関係は維持する。キューバ側と協力して捜査をする」とした。(後略)【10月4日 朝日】
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何が起きているのか?・・・・については、いろいろと取り沙汰されてはいますが、わかりません。

“「音響攻撃」が報告されたキューバのアメリカ大使館では一体何が起こっていたのか?”【9月26日 GIGAZINE 】では、アメリカ海軍が研究していたマイクロ波聴覚効果を使った非殺傷型兵器「MEDUSA」のような“兵器”の可能性も指摘していますが・・・。

キューバ政府がアメリカ大使館に“攻撃をしかける”ことは考えにくいので、素人考えでは、あるとすれば何らか通信傍受用機器、あるいはその無効化のための機器の副作用では・・・とも。

****キューバ米大使館に対する「音響攻撃」説の真実味****
<冷戦時代のモスクワでも米大使館の職員にマイクロ波による健康被害が出ていた>
・・・・健康被害の原因は不明だが、冷戦時代のスパイ合戦の記録が謎を解く手掛かりになるかもしれない。

1970年代、ソ連は首都モスクワの米大使館にマイクロ波ビームの攻撃を仕掛け、当時のAP通信の記事によると職員の間に健康被害が発生した。

ソ連はこの時期、通信システムを無線信号からマイクロ波通信に切り替えていた。無線信号は地球を取り巻く電離層に反射するので、米国家安全保障局(NSA)は大型アンテナで信号を傍受できた。

一方、マイクロ波は伝送距離がずっと短く、ビームの伝送経路が見える場所に受信装置を設置しなければ通信を傍受できない。そのためNSAとCIAはソ連圏の東欧諸国などにスパイを送り、高速道路や電柱などに偽装した受信装置を設置した。

NSAはモスクワの米大使館の10階にも、大掛かりな通信傍受用機器を持ち込んでいた。当時のモスクワは高層ビルがほとんどなかったので、10階からの見晴らしは抜群。マイクロ波受信装置はソ連の当局者間の通話を大量に拾い上げた。市内を車で移動するブレジネフ共産党書記長の電話も傍受できた。

40年前の事件の再来か
この盗聴活動はやがてソ連の情報機関KGBに嗅ぎつけられた。78年1月、ボビー・レイ・インマンNSA局長はウォーレン・クリストファー国務副長官からの電話で起こされた。

モスクワの米大使館で火事が発生し、消防署長は10階への立ち入り許可がなければ消火活動をしないと主張しているという。

どうしたらいいか尋ねるクリストファーに、傍受設備の発覚を恐れたインマンは「火事なんて放っておけ」と言った(結局、地元の消防士は消火活動を行った。この時期の米大使館では、原因不明の火事が何度も起きていた)。

アメリカ側の盗聴活動を確信したソ連は、報復として大使館10階の窓にマイクロ波ビームを照射するようになった。正確な狙いは今も不明だ。

「おまえたちがやっていることはお見通しだ」と伝えたかったのか、マイクロ波受信装置を無効化しようとしたのか、大使館内部の会話を傍受したかったのか。(中略)

キューバ政府がハバナの米大使館に何らかのビームを照射していると断言することはできない。だが、キューバが75年頃にソ連から導入した通信技術に今も頼っている可能性は十分ある。

私は引退した米情報機関の元高官に、ハバナの問題は40年前にモスクワで起きたマイクロ波照射事件の再来ではないかという質問をぶつけてみた。

すると、この元高官は報道を目にして全く同じことを考えたと答えた。「(この件については)私には何の情報もないが、おそらく君の言うとおりだろう」【10月3日号 Newsweek日本語版】
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真相はわかりませんが、大使館員帰国措置などを受け、両国関係がさらにぎくしゃくすることは間違いありません。
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