孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮問題  核開発断念と政権存続保障の米中合意の可能性 “信頼”を損ねるイラン核合意“破棄”

2017-10-17 23:11:13 | 東アジア

(「頭越し外交」と日本を驚愕させた1972年のニクソン訪中【https://jaa2100.org/entry/detail/045215.html】)

【“対話の余地がありうるのは、11月の米中首脳会談まで”】
北朝鮮とトランプ大統領の激しい罵りあいが続くなかで、核戦争を含む軍事衝突の緊張も高まっています。

****米空母打撃群、朝鮮半島周辺で訓練へ 北朝鮮反発「超強硬対応措置の引き金****
米海軍第7艦隊司令部(神奈川県横須賀市)は13日までに、朝鮮半島周辺の日本海と黄海で韓国海軍との共同訓練を16〜26日に実施するとウェブサイトで明らかにした。米軍側は原子力空母、ロナルド・レーガンを中心とする空母打撃群などが参加する。
 
北朝鮮外務省米国研究所の研究員は13日、原子力空母を派遣するなど圧迫を強めるトランプ政権を非難し「こうした軍事的妄動は、われわれに米国を炎で罰すべきだとの決心を固めさせ、超強硬対応措置の引き金を引くよう後押ししている」と警告する論評を発表した。朝鮮中央通信が報じた。(後略)【10月13日 産経】
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****北朝鮮の国連次席大使、核戦争は「いつでも起こり得る」米国けん制****
北朝鮮のキム・インリョン国連次席大使は16日、国連総会の軍縮委員会に出席し、朝鮮半島情勢について「一触即発の時点にまで達しており、核戦争はいつでも起こり得る」と述べるとともに、米国が北朝鮮に対する敵対的な政策を変えない限り、核兵器廃棄の交渉には応じないと言明した。(後略)【10月17日 AFP】
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現在の状況、軍事衝突の可能性について、高橋洋一氏は“対話の余地がありうるのは、11月の米中首脳会談まで”とも指摘しています。

****衆院選前に把握しておきたい、北朝鮮への武力行使の現実度 米中軸に北の軍事拠点攻撃も****
・・・・今の中国が北朝鮮を抑えることはできないだろう。両国首脳が一回も面会したことがなければ、やりたくてもできない相談だ。
 
中国は、最後の最後に北朝鮮を見捨てて、中国の国益になる南シナ海問題で、米国とバーター取引する可能性すらある。
 
ロシアは米中の交渉を見守っている。そしてロシアの存在感を高めるように、北朝鮮と交渉しているのだろう。正恩氏の亡命先をロシアが保証するという噂も出ているほどだ。
 
米国は国連などでの対話を続けつつ、既にカウントダウンに入っているだろう。これは本コラムでも書いているとおりだ。
 
以上の状況を総合すると、対話の余地がありうるのは、11月の米中首脳会談までだ。それまでに北朝鮮が折れないと、軍事オプションが浮上する。国連軍または多国籍軍となるが、事実上、米中が中心だろう。
 
軍事オプションは短期間で終わる可能性が高いが、想定外の事態はいつもつきものだ。米軍は北朝鮮の軍事拠点のほとんどを一撃で壊滅できるが、それでも韓国や日本に一定のリスクはある。

日本は憲法の制約があるので、軍事では部外者に近い。米国との良い関係から情報が早く入ることだけが救いだ。事実として現状はここまできていることを認識したほうがいい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)【10月17日 産経】
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核開発断念と引き換えに北朝鮮政権存続を保障する内容で米中合意の可能性も
北朝鮮にとって、“対話”の目的は、“政権存続の保証”です。

****核戦力、唯一の自衛手段=北朝鮮代表団がロ議長に****
タス通信によると、ロシアのマトビエンコ上院議長と北朝鮮の安東春最高人民会議副議長が16日、サンクトペテルブルクで会談した。安氏は、核戦力は「国と国民を守るための唯一の有効な手段」と主張した。
 
サンクトペテルブルクでは各国の議員が参加する国際会議が開かれており、北朝鮮は安氏を団長とする代表団を派遣。会議には韓国の代表団も参加していることから、ロシアは南北の対話仲介に意欲を示してきた。
 
しかし、マトビエンコ氏は会談後、「北朝鮮側は今は対話の準備はできていない」と述べ、現時点で実現は難しいという認識を示した。【10月16日 時事】
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北朝鮮には、リビアのカダフィ政権やイラクのフセイン政権のように、核を放棄した国家はアメリカにやがて潰される・・・という恐怖があります。(それは一定に事実を反映していますが)

逆に言えば、核に依らずに「国と国民を守る枠組み」が保障されるなら、核開発放棄も・・・という話にもなる余地があるとも言えます。

そこで注目されるのが、「アメリカは北朝鮮の政権交代も、政権崩壊も、朝鮮半島再統一の加速も求めない。(南北朝鮮を隔てる)北緯38度線の北側に米軍を派遣する理由も求めない」というティラーソン国務長官が5月に説明した対北朝鮮政策です。

この考えを土台に、11月の米中首脳会談で大きな外交的転換が話し合われる可能性の指摘もあります。

****北朝鮮危機、ニクソン訪中に匹敵する米中合意の可能性****
<ティラーソン国務長官、マティス国防長官らトランプ政権の賢人閣僚は対話路線。あとはトランプに、外交的偉業は戦争よりカッコいいことをわからせればいい>

近代外交史のなかで、それは最も大胆で危険な行動の1つだった。

リチャード・ニクソン米元大統領は冷戦下の1972年、極度に貧しく世界から孤立した中国の首都北京を訪問し、共産革命の父とされる中国の毛沢東主席と歴史的な会談を行った。

アメリカは当時、国民党が率いる台湾を、中国の唯一の合法的政府として認めていた。ニクソンが訪中した目的は、時代の潮流を変えるためだった。当時ニクソンの国家安全保障問題担当補佐官を務めたヘンリー・キッシンジャーは後年こう言った。「ニクソン訪中は、米中和解の可能性を見極めるためのものだった」

10月初めにホワイトハウスでドナルド・トランプ米大統領と会談したのが、94歳で弱りきっているとはいえ、やはりキッシンジャーだったことは、多くを物語る。トランプ政権は、11月初旬にトランプが東アジア歴訪に出かける前に、対中政策を見直そうと必死だ。

キッシンジャーとトランプの会談はまさにこのタイミングで行われた。中国も日本も韓国も、北朝鮮の核・ミサイル開発の加速を非常に憂慮しているからだ。

北朝鮮が「炎と怒りに直面する」と発言したり、「嵐の前の静けさだ」と開戦前夜のようなことを言ってのけるトランプの好戦的なレトリックは、アメリカの同盟国だけでなく中国をも不安にさせた。(北朝鮮の激しい反発のレトリックが、関係国の不安に拍車をかける)。

トランプがキッシンジャーと会談
だがレックス・ティラーソン米国務長官とジェームズ・マティス米国防長官は、上司のトランプよりよほど外交的解決の必要性を強調しており、中国は困惑している。果たしてこれは、脅したりすかしたりするトランプ政権の戦術なのか、それともトランプが単に愚かなのか。

キッシンジャーは過去にもトランプと外交政策について意見を交わしたことがあるが、今回ホワイトハウスに招かれたのは、トランプは正気、というシグナルを中国に送るためだったと情報筋は言う。

中国指導部はキッシンジャーのことを中国の古い友人と見なしている。中国という国を理解し、正当な歴史的文脈で中国を捉えてくれる人物だと評価している。

だがキッシンジャーのホワイトハウス訪問には、それ以上の意味がある。北朝鮮の核の脅威が高まっているのを受け、トランプ政権は中国との重大な取引を視野に入れている。それは、ニクソンの電撃訪中に匹敵するほど大胆だ。

もし中国が、外交面、経済面で北朝鮮に対する影響力を徹底的に行使して金正恩政権を核開発断念に追い込み、検証可能な方法で核開発放棄の要求に従えば、アメリカは北朝鮮を国家として承認し、経済支援を行い、将来的に2万9000人の駐韓米軍を撤退させることに合意するという内容だ。

これには、北朝鮮の長年にわたるアメリカへの要求が集約されている。

この構想の土台になっているのは、ティラーソンが5月に説明した対北朝鮮政策だ。ティラーソンはこう言った。「アメリカは北朝鮮の政権交代も、政権崩壊も、朝鮮半島再統一の加速も求めない。(南北朝鮮を隔てる)北緯38度線の北側に米軍を派遣する理由も求めない」

戦争ではなく外交的偉業を
ティラーソンが「4つのノー」と命名したこの発言に、中国は注目した。中国共産党の一部は、アメリカはむしろこの4つすべての実現を目指しており、北朝鮮核危機を口実に金政権の崩壊するつもりだと信じている。

だが中国共産党の幹部は米政府に対し、ティラーソンの構想は米中合意の土台になり得ると伝えた。

(中略)米国務省のヘザー・ナウアート報道官は記者会見で、もし北朝鮮が「検証可能で完全な」非核化を行えば、その後にトランプ政権はティラーソンが披露した構想の実現に取り組むと言った。(後略)【10月17日 Newsweek】
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もちろん、北朝鮮が“唯一の有効な手段”とする核を断念することがありうるのか、“断念”ではなく“抑制”がせいぜいではないか、イラン核合意をも忌み嫌うトランプ大統領がこうした外交的譲歩に本気で取り組むつもりがあるのか、中国に北朝鮮をコントロールする力があるのか、経済関係で米中が対立するなかで、こうした米中の外交的合意が可能なのか、日韓が同意するのか(同意しなくても、アメリカは踏み切るだろう・・・と言うのがニクソン訪中の教訓ですが)・・・・等々、疑問は多々あります。

疑問は多々ありますが、軍事的衝突を避けて外交的に緊張を緩和させる道筋としては、こういう方向での交渉しかないようにも思えます。

時間もかかり、曖昧な余地を残すような合意しか得られない・・・ということで、こうした交渉を嫌うなら、あとは東京・大阪に核爆弾が降ってくる危険性もはらんだ軍事的解決しか残されません。

北朝鮮としても国際的環境がこれまでになく厳しくなりつつあることは認識しています。

“マレーシアが北からの輸入停止、大使館も閉鎖へ 狭まる包囲網”【10月13日 産経】
“北朝鮮からの輸入額、9月は38%減 中国税関が発表”【10月13日 朝日】
“北朝鮮労働者へのビザ発給停止 UAE”【10月13日 朝日】
“EU、原油禁輸など対北朝鮮制裁強化で合意へ 域内労働者にも制約”【10月16日 ロイター】

中国に代わって北朝鮮との関係を強化しているとも言われるロシアも、深入りは避けたいようです。

****ロシア プーチン大統領 対北朝鮮協力を制限する大統領令署名****
ロシアのプーチン大統領は、国連安保理の制裁決議に基づき、北朝鮮との協力を制限する大統領令に署名しました。ロシアとしては、決議を履行し、北朝鮮と一定の距離を取ることで、国際社会からの批判をかわすとともに、北朝鮮にくぎを刺し、対話を促す狙いがあるものと見られます。(中略)

北朝鮮は、核・ミサイル開発をめぐって、アメリカのトランプ政権との対決姿勢を強めているだけでなく、後ろ盾の中国ともぎくしゃくした関係が続いていて、ロシアに接近する動きを見せています。

ロシアとしては、国連安保理の制裁決議を履行し、北朝鮮と一定の距離を取ることで国際社会からの批判をかわすとともに、このままでは孤立することになるとくぎを刺すことで、北朝鮮に対話を促す狙いがあるものと見られます。【10月17日 NHK】
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“まとも”な国家なら、真剣に出口を模索するでしょう。

アメリカの“誠意・信頼”を北朝鮮に疑問視させるトランプ大統領のイラン核合意“破棄”問題
“まとも”かどうか・・・ということでは、“トランプは正気、というシグナルを中国に送るためだった”というようなシグナルが必要なトランプ大統領の方も困ったものだと言うか・・・・。

何をするかわからない・・・・というイメージは相手に不安感を与え、ときに非常に効果的であるのは事実ですが、長期的には同盟国を含めた国際関係を壊してしまいます。

外交的合意のためには、“まとも・正気”であることに加え、“約束は守る”という誠意・信頼も不可欠です。

その点において、トランプ大統領が北朝鮮問題と並行して、イラン核合意の問題で、合意を破棄するような動きを示していることは大きな問題があります。

オバマ前大統領の最大の「レガシー(政治的遺産)」を否定したいトランプ大統領が、合意対象外のミサイル開発やヒズボラ・ハマス支援などをあげつらう「無理筋のこじつけ」とも評される形で“破棄”を主張しつつも、議会には制裁措置の発動を勧告せず、議会にその後の対応を委ねるという形になっていることには、“トランプ氏が最大の公約の1つを実行した、という政治的ポーズを示す国内向けの戦略にすぎない、との声もある”【10月10日 WEDGE
】とも。

もっとも、正気かどうか定かでない大統領は、重ねて“破棄”の可能性を強調しています。

****イラン核合意、改めて破棄示唆 米大統領、修正へ圧力****
米欧など6カ国とイランが2015年に結んだ核合意について、トランプ米大統領は16日の記者会見で、「完全な終結はあり得る。非常に現実的な可能性だ」と改めて破棄を示唆した。

トランプ氏は合意を当面は維持する意向を示しつつ、議会や関係国に事実上の修正を迫っており、破棄をちらつかせて圧力をかけているとみられる。
 
トランプ氏は「米国は何十年も利用されてきた。嫌悪感を覚える」とした上で、「イラン核合意は何らかの手立てを加えられなければならない」と核合意への不満をあらわにした。
 
米法では、イランの合意の順守状況や実効性などについて、90日ごとに大統領が認定する。トランプ氏は今月15日の期限までに議会に認定を報告することを拒否。議会が制裁を再発動するかを60日以内に判断することになっている。
 
だが、トランプ政権は合意の崩壊につながる制裁の再発動をしないよう議会に働きかける一方で、イランの弾道ミサイル開発を規制するため国内関連法の改正を求めている。さらに、関係国とも新たな合意の協議を模索する考えだ。
 
トランプ氏はこの日の会見で、事実上の修正に向けた動きを「第2段階」と呼び、「非常に前向きにも、非常に後ろ向きにも(結果は)なり得る」と話した。「何が起きるか様子を見よう」として、トランプ政権が望む形の修正がなされなければ、合意を破棄することを明言した。【10月17日 NHK】
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この問題はまた別機会で取り上げるとして、北朝鮮問題との関連で言えば、“欧州連合(EU)の高官らは、イランによる合意順守が繰り返し確認されているにもかかわらず破棄されれば、北朝鮮に対して国際社会との交渉は時間の無駄だというメッセージを送りかねないと警告している。”【10月17日 AFP】という問題があります。

慰安婦問題で合意を破棄しようとする動きが韓国であることに、日本国内では“信用できない”“交渉しても時間の無駄”といった反応が出ていますが、それと同じでしょう。

核開発抑制を合意し、それを履行しているイランに対し、「無理筋のこじつけ」で難癖をつけて“破棄”を迫る姿を見ては、北朝鮮もおいそれとアメリカを信用できないでしょう。
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