孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ問題  脅威を煽り対立構造をつくるミャンマー政府 政府を擁護する中国・日本

2017-10-01 23:26:49 | ミャンマー

バングラデシュ・バルカリにある難民キャンプで、雨をよけるロヒンギャの人々(2017年9月17日撮影)【9月18日 AFP】

進行する“民族浄化”】
グテレス国連事務総長が「人道と人権における悪夢」と表現するミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの現状について。

スー・チー国家顧問は21日の演説で“9月5日以降、武力衝突は起きておらず、掃討作戦は行われていません。それでも多数のイスラム教徒が国境を超えてバングラデシュに逃れていることを聞き、懸念しています。私たちは、なぜ大勢の人が出国しているのか、突き止めたいと考えています。・・・・”と語っており、チョーティン国連代表は「残虐行為や民族浄化、ジェノサイド(大量虐殺)は起きていない」とも主張していますが、現実には今も大量の難民が発生しています。

****国連安保理、ロヒンギャ問題で公開会合 さらに25万人が避難の恐れ****
国連安全保障理事会は(9月)28日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが大量に隣国バングラデシュに避難している問題について公開会合を開いた。

難民が50万人以上に上っている他、ロヒンギャを乗せたボートが転覆し、少なくとも19人が死亡する事故も発生している。
 
国連(UN)のアントニオ・グテレス事務総長はロヒンギャ難民の状況を「人道と人権における悪夢」と訴えるとともに、ミャンマー指導部に事態の収拾を強く求めた。国連安保理がミャンマーに関する会合を行うのは極めてまれ。
 
ミャンマー西部ラカイン州では先月以降、ロヒンギャの武装集団と政府の治安部隊との衝突の影響により、ロヒンギャ50万人以上がバングラデシュへと避難。グテレス氏はミャンマー政府に軍事行動を停止し、衝突により荒廃した地域への人道支援を受け入れるよう求めた。
 
また、軍事行動について「組織的な暴力」と批判。ラカイン州の中部をも不安定な状況に置き、さらに25万人のロヒンギャが家を追われる恐れがあると指摘した。(後略)【9月29日 AFP】
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ラカイン州のロヒンギャは約100万人とも言われていましたので、50万人がすでに難民となり、更に今後も25万人が・・・ということになれば、ミャンマー政府が意図したかどうかはともかく(国軍及び協力する仏教ナショナリストは意図しているのでしょうが)ロヒンギャを国外に追放する“民族浄化”がほぼ完成します。

実際、多くが難民となって去るとコミュニティーが崩壊しますので、残された人々もこれまでのようには暮らせず、やはり国外に去る選択を強いられるという事情もあり、直接の戦闘行為はなくても難民発生が続きます。

****ミャンマー沿岸部、今週だけで新たに2000人超のロヒンギャ****
ミャンマー西部ラカイン州の沿岸部で、隣国バングラデシュに逃れようと同州内陸部の村々から避難し集まったイスラム系少数民族ロヒンギャの数が今週だけで2000人を上回った。国営メディアが30日、報じた。(中略)
 
英字紙「ミャンマーの新しい灯」は、今週、沿岸部に集まったロヒンギャたちについて、「9月26日以降、多くが避難し人がほとんどいなくなった地域にとどまるのは不安だとして居住地を離れてきた人々で、彼らの親族の多くはすでにバングラデシュに向かっている」と報じている。
 
沿岸部に集まった人々がそこからバングラデシュに向かうのか、また向かうとすればどのような手段を使うのかは明らかではない。(後略)【9月30日 AFP】
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バングラデシュへボートで渡るには大きな危険が伴い、上記記事で“ロヒンギャを乗せたボートが転覆し、少なくとも19人が死亡する事故も発生”としている事故は、28日にベンガル湾で起きたもので、国際移住機関(IOM)は死者数が60人を超えるとの見方を示しています。

ひとつの事故で60人ですから、ベンガル湾や国境のナフ川でどれだけの犠牲者が出ているのか・・・。

バングラデシュに入っても飢え、豪雨・・・と、苦難は続きます。

****<ロヒンギャ難民>船転覆、生き別れ…、キャンプ食糧なく****
水死した20代ぐらいの女性の遺体がトラックに積み込まれていた。黒い布にくるまれ、顔にハエがたかっている。「昨日からこれで19人目だよ。いやな仕事だ」。29日朝、遺体を運んだ警官の男性(21)がつぶやいた。(中略)

ミャンマーとの国境を流れるナフ川沿いでは、女性や子供が列をなして歩いていた。前夜に到着した難民たちだ。1歳の娘を抱いたノズマ・ベガムさん(25)は数日前、「村に軍人が来て追い出され、家を燃やされた」という。夫(30)と娘2人は逃げる途中ではぐれ、連絡がつかなくなった。

28日夜にナフ川までたどり着き、船頭に金の耳飾りを渡して乗せてもらったという。「昨夜、ビスケットをもらったが、体調が悪くて吐いてしまった。友人を頼ってキャンプに行くしかない」
 
多数の難民が暮らすバルカリでは28日、約1000人の難民がぬかるんだ地べたに座って食料の配布を待っていた。雨の中にときおり汚臭が混じる。「3日前にコメとイモをもらったが、今はもう尽きてしまった。支援だけが頼りだ」。8歳と5歳の子供と座っていたビビさん(27)が嘆いた。
 
ビビさんは9月上旬、軍とみられる集団が家に来て夫を連れ出し、火を付けたという。家の中に3カ月の次男を置いたまま飛び出し、4日間山に隠れた後、国境の川を渡った。「子供は焼け死んだ。夫も殺されたはずだ。もう何も残っていない」
 
今回の難民流出は、8月25日にミャンマーで武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が治安部隊を攻撃し、戦闘が激化したのがきっかけだった。

ARSAとは何者なのか? この問いかけに、難民のアユブ・アリさん(70)が「若者たちが戦っている」と言いかけると、周囲から「その話はするな」と声が上がった。別の男性(50)は「彼らは外から来た」と言葉を濁した。(後略)【9月30日 毎日】
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ロヒンギャ武装組織指導者アタ・ウラー氏
“ARSAとは何者なのか?”ということに関しては、その指導者アタ・ウラー氏はパキスタン出身で、サウジアラビアに移住した人物とのことで、土着のロヒンギャではないようです。

****自由の戦士か災いをもたらす者か?ロヒンギャ武装組織指導者 異色の人生****
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」の指導者アタ・ウラー氏は、敵から見れば、ミャンマー治安部隊を相手に戦いを挑み数十万人のロヒンギャに計り知れない苦しみを与えている向こう見ずな素人だ。
 
一方、ARSAの支持者にとってウラー氏は、サウジアラビアでのぜいたくな生活を捨て、国を持たないロヒンギャを守るため圧倒的に不利な戦いに挑んでいる大胆不敵な戦士だ。
 
ミャンマーを拠点に活動している独立系アナリストのリチャード・ホーシー氏は「彼には非常にカリスマ性がある」とAFPに語った。「(ロヒンギャの)コミュニティーが感じている不満に共鳴するような発言をしている」(中略)
 
ウラー氏に近い複数の関係者がAFPに語ったところによると、ウラー氏の年齢は30代前半で、末端組織を寄せ集めたネットワークを監督しているもようだ。こうした末端組織は簡単な軍事訓練を受けたメンバーで構成され、棒やなた、わずかな銃で武装しているという。

■サウジでの厚遇
ウラー氏はパキスタンの港湾都市カラチの中流家庭に育った。AFPが親族を取材したところによると、父親はカラチの名門イスラム神学校に学んだ後、一家を連れてサウジに移住。リヤドで教職に就き、続いてターイフでも教えた。
 
サウジ在住時のウラー氏は、モスク(イスラム教礼拝所)で聖典コーランを朗誦して現地の富裕層の目に留まり、子どもたちの家庭教師を依頼された。間もなく富裕層の内輪の集団に招かれるようになり、深夜のパーティーや豪華な狩猟旅行を楽しんでいた。
 
しかし、2012年にラカイン州で仏教徒とイスラム教徒の衝突が発生し、ロヒンギャを中心に14万人が避難を余儀なくされたのを契機に、ウラー氏はミャンマーでの戦うため、サウジでの快適な生活を捨てた。

■過激派への不信感
まずウラー氏はパキスタンに戻った。2012年に移動中のウラー氏とカラチで会ったというイスラム武装グループの関係者3人によると、同氏は豊富な資金を持っており、パキスタンで銃と戦闘員を調達して有力なイスラム過激派グループによる軍事訓練を行う考えだった。資金の出所は、サウジの富裕層やサウジ在住のロヒンギャのようだったという。
 
ウラー氏は、アフガニスタンやパキスタンのタリバン、カシミールの分離独立を求めるラシュカレトイバといった過激派組織とつながりを持つ人物らに接触し、大金を提示して支援を要請したものの、無駄に終わった。

パキスタンのイスラム過激派の大半は、ウラー氏の依頼を鼻であしらったり、あからさまに無視したりといった反応を示し、同氏から武器調達資金として渡された金を着服した者もいた。(中略)
 
2012年にパキスタンでウラー氏を見かけた複数のイスラム武装グループの関係者によると、同氏はロヒンギャの苦境に口先では同情しながら具体的な協力になると難色を示したイスラム過激派に根強い不信感を持つ、熱心な民族主義者になってパキスタンを出国した。
 
専門家らは、ウラー氏が公然と掲げているミャンマーのロヒンギャを守るという目標が裏目に出ていると警鐘を鳴らしている。ホーシー氏は「人々の人権を守ろうとしているというARSAの主張を信用するのは非常に難しい」と述べ、ARSAは「おそらく(ロヒンギャの)人たちにとって史上最悪の危機を引き起こした」と指摘した。【10月1日 AFP】
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ロヒンギャの脅威を煽るミャンマー政府
ミャンマー政府は、ARSA・ロヒンギャ側の暴力を強調しています。

****ミャンマーで新たにヒンズー教徒17人の遺体発見、政府はロヒンギャ非難****
ミャンマー政府は25日、西部ラカイン州で新たにヒンズー教徒17人の遺体が見つかったと発表した。

付近では前日にもヒンズー教徒28人の遺体が埋められた集団墓地が発見されており、政府はイスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団が殺害に及んだと非難している。(中略)

(国連等がロヒンギャ難民を問題視していることに対し)同地域に暮らしていた数万人の仏教徒や少数のヒンズー教徒らも避難を余儀なくされており、彼らはロヒンギャの武装集団に襲われたと主張している。【9月26日 AFP】
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ロヒンギャを敵視するラカイン州の仏教徒ラカイン族も、ミャンマー中央からすれば少数民族で、蔑視されることもある人々です。

ミャンマー政府がロヒンギャの脅威を煽ることでラカイン族とロヒンギャの対立の構図を作り出しているとの指摘も。
そこには経済利権も絡みます。

****ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(後編****
「無国籍難民」がハードルに
少数民族の反乱の怖さを知るミャンマー政府は、ラカイン州全土が反政府になることを恐れている。ロヒンギャがラカイン族にとって脅威だとあおり対立構造をつくり出し、彼らにロヒンギャを襲わせている。

アブールカラム(日本在住のロヒンギャ難民)によれば、ラカイン州でロヒンギャを虐殺する者の多くは恐怖心を植え付けられたラカイン族で、大半が仏教徒だ。

「ロヒンギャを悪玉に仕立て上げるというのは言い得て妙だ」と、ミャンマーに詳しいジャーナリストの田辺寿夫は言う。「中央政府は、ラカイン族やラカイン州に住む仏教徒に対して決まってこう言って脅威をあおる。『ロヒンギャはムスリムだ。一夫多妻だ。放っておけば、どんどん増えてラカイン州はロヒンギャに占有されるぞ』と」

ラカイン族の目をそらせたい目的がもう1つあると、アブールカラムは言う。経済利権だ。
ミャンマー内陸部には巨大な天然ガス田があり、国内経済にとって重要な資源だ。輸出のために港まで運ぶパイプラインは、ラカイン州を横切る必要がある。

ラカイン族は当然、その恩恵にあずかろうとするが、分け前を与えたくないミャンマー政府はロヒンギャとの衝突に集中させることで、その話題に触れさせない。軍の息がかかったラカイン州の政治家が全てを取り仕切っているという。

ラカイン族の反ロヒンギャ感情をあおることで彼らの反政府活動を抑え込み、かつ地域の経済利権を手中に収め、自らの手を血で染めることなくロヒンギャを始末できる――。ミャンマー政府にとって一石三鳥とも言える浄化戦略だ。

政府や軍の迫害に耐え切れなくなったロヒンギャは、不本意ながら祖国を脱出するしかない。そうなれば、救いは国際社会や各国の難民対策だ。ただ、ロヒンギャは(無国籍という)その存在の特異性ゆえ対策が容易でない。結果として、国際社会の反応も鈍い。(後略)【9月21日 前川祐補氏 Newsweek】
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再びミャンマーを引き寄せる中国
ラカイン州の経済利権に着目して、ミャンマー政府を後押しているとも指摘されるのが中国です。

****ロヒンギャ問題】大量脱出から1カ月 中国、ミャンマー擁護で存在感****
・・・・国際社会がミャンマーの対応を非難する中、同国を擁護する中国の影響力が東南アジア一帯で強まる可能性がある。(中略)

中国の洪亮駐ミャンマー大使は13日、ロヒンギャ武装集団への掃討作戦を「テロリストへの反撃」として理解する中国政府の立場を早々に伝達するなど、対応の違いを見せつけている。中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の要にミャンマー西部ラカイン州が位置する地政学的事情を指摘する声もあがる。
 
インド洋に面した同州チャウピューでは、中国内陸部の雲南省・昆明とを結ぶ全長約1420キロの原油パイプラインが5月に稼働。輸送能力は昨年の中国の原油輸入量の約6%に過ぎないが、中東・アフリカ産原油をマラッカ海峡を通さずに運べるため、エネルギー安全保障上の意味合いが大きい。

チャウピューでは、中国が深海港の開発権を得て整備中で「軍港化」されるとの見方もあるほか、パイプライン沿いに道路や鉄道の建設計画もある。
 
ミャンマー国軍は近年、軍事政権時代に過度に依存した中国から距離を置こうと欧米に接近し、民政復帰や総選挙も容認してきた。だが、中国は国境沿いの少数民族武装勢力とミャンマー政府の和平協議などで存在感を維持している。(後略)【9月25日 産経】
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こうした中国の影響力拡大を懸念することもあってか、あるいは人権問題そのものに関心がないのか、アメリカ・トランプ政権は、アメリカの歴代政権がミャンマーの人権問題・民主化を重視してきた姿勢と異なり、ミャンマー政府批判を控えていました。

ただ、“米国のニッキー・ヘイリー国連大使は「ビルマ(ミャンマー)当局による行動は残忍で、少数民族を浄化するためのキャンペーンを続けているようだと言うことを恐れてはならない」と述べ、「少数民族の浄化」という言葉を使いながら批判。また「ビルマの幹部指導者らは恥を知るべきだ」と述べ、ミャンマーの事実上の指導者アウン・サン・スー・チー国家顧問を暗に非難した。”【9月29日 AFP】とのこと。

ただ、ヘイリー国連大使とトランプ大統領が共通の認識かどうかは知りません。9月19日、アメリカのティラーソン国務長官はアウン・サン・スー・チー国家顧問と初めて電話で会談し、事態の収拾に向けた行動を直接促したとのことです。

日本政府の事なかれ主義
一方、日本もミャンマー政府との間でことを荒立てないようにしています。

****ロヒンギャ弾圧に不感症な日本外交*****
「加害者」を擁護する?
外務省の姿勢を表すものの1つは、既にロヒンギャ弾圧への世界の注目が高まっていた8月29日に外務省が発表した外務報道官談話だ。そこにはこう書かれている。「ミャンマー・ラカイン州北部各地において発生している治安部隊等に対する襲撃行為は絶対に許されるものではなく、強く非難するとともに、犠牲者のご遺族に対し、心からの哀悼の意を表します」

この談話を読む限り、外務省にとって主たる犠牲者はロヒンギャではなく、ミャンマーの治安部隊ということになる。これは、かねてミャンマー政府が繰り返してきた主張と一致する。(中略)

不思議なことに、談話にはロヒンギャという言葉がひとことも出てこない。(中略)

日本がロヒンギャ問題で国際社会に反するような動きをしたのは今回が初めてではない。今年3月、国連人権理事会は弾圧の実態を調べるために「事実調査団」設置の決議を採択した。(中略)問題なのは、日本政府がこの調査団の設置に不支持を表明していたことだ。(中略)

戦後メンタリティーの影響
なぜ、日本はそこまでミャンマー政府の肩を持つのか? 土井は「(日本にとってミャンマーは)ODA(政府開発援助)との関係もあるし、地政学的に中国の隣ということもあり重要な国。ひとことで言えば、軍を主とするミャンマー政府を怒らせたくないということだろう」と指摘する。そのため「通常は欧州(の動き)に呼応する日本だが、ミャンマーの人権関連ではダブルスタンダードも多い」。

(中略)一方で、人権問題を表立って批判しないのは日本人の戦後メンタリティーに由来するとの声もある。
元外交官で岡本アソシエイツの岡本行夫代表は、戦後の十字架を背負っていることと無関係ではないと指摘する。「人権問題について何か言うと、『そんなこと言えた義理か』という反発を気にして、しゃべらないほうがいいというメンタリティーになっている」。(後略)【9月26日号 Newsweek日本語版】
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“戦後メンタリティー”のほか、ロヒンギャ難民受け入れを国際社会から求められても困る・・・という思いもあるのかも。

なお、風当たりが厳しくなるスー・チー氏ですが、“スー・チー国家顧問の母校、英オックスフォード大学は9月30日、これまでホールに展示していたスー・チー氏の肖像画を撤去したことを明らかにした。”【10月1日 AFP】とのことです。
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