孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・ムンバイ 最も危険な列車と女子登校促進“現ナマ”作戦

2008-06-28 19:48:40 | 世相

(ムンバイの通勤列車 “flickr”より By Globe Treader
http://www.flickr.com/photos/globe_treader/2245979671/)

【1日平均死者12人】
未だに旧名称ボンベイのほうが馴染みがいいムンバイ、人口1400万人とも1800万人とも言われる世界最大規模の都市です。
個人的には、3年前に南インドを旅行した際に最後に立ち寄り、両替詐欺で1万円ほど巻き上げられたことがあって、非常にイメージがよくありません。

そんなムンバイから2件、面白い記事がありました。
最初は通勤列車の話題:【6月27日 AFP】。
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2411105/3081207
なにしろ世界最大規模の都市で、しかも日本ほどは交通インフラも整備されていませんので、ムンバイの通勤列車は世界でも最も混雑する、そして最も危険な列車だそうです。

ラッシュ時には乗車率は250%にもなり、定員200人の車両に500人が詰め込まれます。
鉄道警察の発表では、昨年は3997人が死亡、負傷者が4307人。
今年は、1-4月ですでに1146人が死亡し、1395人が負傷しています。
1日平均12人が列車で死亡していることになります。

にわかには信じがたい数字ですが、死因の3分の1、負傷原因の多くを占めるのは、混雑のため車両に乗り込むことができず、車両の端につかまった状態で無理やり「乗車」したものの、手が離れてしまったというケース。
鉄道当局は「乗客数を制限するという手もあるが、どちらにしても人々は出勤しなければいけない。こうした人々は線路に座り込んで列車の運行を邪魔する」と話しています。

日本の終戦直後の“鈴なり”状態のイメージです。
よくインドやバングラデシュなどの写真で見て“危なくないのだろうか?”と思っていましたが、やはり危ないようです。
話がそれますが、こういった国ではバスの混雑も殺人的で、バングラデシュなどでもバスの屋根に大勢人が乗っています。
車内より若干安く、ずっと涼しい・・・ということのようですが、道路事情の良くない国ですから、大きく揺れたりすると“命と引き換え”になりそうです。

そして、死因の半分近くを占めるのが、線路上を歩いていて列車にはねられるというケース。
隣のホームに移動する陸橋が整備されていないためで、線路を渡るのは違法ですがインドでは珍しくないそうです。

インドに限らず、アジアの国々では“陸橋”なんてしろものがあるほうが珍しいぐらいです。
今年5月に旅行したベトナムでも、ハノイ駅でやはり陸橋がなく、深夜、寝台列車に乗るため荷物を引きずりながら線路を歩いて横断しました。
乗車券のゴタゴタで頭がいっぱいで、何も考えずに手前の線路に止まっている列車の直前を横切ったとき、その列車から大きな警笛。
飛び上がるぐらいびっくりしました。
列車のライトが目に入り、一瞬“轢かれる!”と思ったほどです。

【命の重さ】
1日平均12人通勤列車で死んでいる、それでも乗る方も運行する方も“まあ、仕方がない”・・・通勤事情とか交通問題といったことに留まらず、インドいう社会における“命の重さ”が日本で考えるものとは大きく異なっているということを示唆しているように思えます。
そうでなければ、ムンバイのすさまじいスラムでの生活なんて、想像することすらできません。

【1ルピーの教育革命】
もう1件の話題は、“ムンバイ市内の公立の小中学校では、この4月から、女子にかぎり登校すると1日1ルピー(約2・5円)が支給される”というもの。【6月17日 産経】
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/world/m20080617019.html 

授業料は無料ですが、「家の手伝いをさせられるなどで女子児童の出席率が非常に悪い。少しでも、登校させようという気持ちに親がなってくれれば…」・・・ということのようです。
1ルピーの現金収入は、少額とはいえ、スラムに住む貧困層にとって貴重な小遣い銭となっています。

この女子の登校率が悪いという問題は、インド社会における劣悪な女性の地位という根本問題に根ざしたものです。
インドでは妊娠中に胎児が女性と分かった段階で中絶する行為が広く行われています。
医師が胎児の性別を告げることはインドでは禁止されていますが、親の求めに応じ「お子さんは立派な兵士になりますよ」と示唆しているのが実情とか。
その結果、男児と女児の比率は2001年が1000対927。

女の子の誕生が歓迎されない風潮の背景には、一般的な男尊女卑の考え方が根強いということだけではなく、結婚の際、娘の実家が嫁ぎ先に金品を贈るダウリという因習もあります。
経済発展とともにダウリが高額になり、娘をもつ親の負担が増しているという事情があるそうです。

男尊女卑の風潮などから、妊娠・出産時に男女の選別が行われる問題は中国などでも顕著です。
“一人っ子政策”のため、インドなどより激烈とも言えます。
中国では、05年の出生比率は女児を100とすると男児は118.88といびつになっており、この差は農村部では更に大きな数字になっています。
江蘇省連雲港においては、女児100人に対し男児163.5人という結果が出たそうです。
結果として生じた嫁不足のため、女性を無理やり誘拐してくるというような犯罪行為も地方では多く見られるそうです。

【女性大統領は誕生したものの・・・】
インドでは女性大統領が誕生しましたが、それとこれ(一般社会における女性の地位)とは別問題のようです。
インディラ・ガンジー元首相の権威も、彼女がネール元首相の血筋を引いているという事情によるものです。

社会全体における女性の地位の見直しが不可欠なのは言うまでもありませんが、そうは言っても先ずは可能なところから・・・ということでは、“1ルピー”で女性の就学率が少しでも改善するなら結構なことかと思います。
少なくとも“何もしない”よりはずっとましでしょう。
女性胎児の中絶対策などを話し合う会議の場で、「こんなことでは文明社会の一員であると胸を張れない。国家の恥だ!」とシン首相が激怒したそうですから、インドも今後変わる・・・のかな?

コメント (2)
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