孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国の“台湾進攻”の可能性は? 今後も続く“一つの中国”をめぐる綱引き

2017-10-12 22:30:39 | 東アジア

(台北市で9月24日、台湾大学で開かれた中国の歌手らが出演する中国側主催のコンサートに抗議し、ステージで「台湾独立」などと書かれた旗を掲げる学生ら これに対し、中国との統一を支持する台湾の政治団体のメンバーが学生らに暴力を振るい、複数の学生らが骨折するなどのけがをした。【9月25日朝日より】)

現時点では考えにくい“台湾進攻”】
中国の台湾進攻、武力統一・・・・もちろん、台湾の併合は中国にとって“核心的利益”の最大のものであり、こと台湾の話になると、中国人はその政治的スタンスを問わず、民主・人権を標榜する人々まで含めて異様に熱くなるとも言われていますので、できるものなら今日・明日にでも・・・という思いは中国側には常に潜在的にあります。

戦略的に考えても、常に台湾側に“台湾進攻”の可能性という圧力をかけ続けることは、台湾を独立宣言に走らせないためにも有効でしょう。

ただ、現実問題としては、軍事的にその能力があるか否かという話のほかに、国際的に着実に存在感を高めている中国が、アメリカとの衝突の危機、国際的孤立を招く超ハイリスクの“台湾進攻”に敢えて踏み切るとは考えにくいものがあります。

アメリカとしても、そのような事態を許せば世界のリーダーとしての地位と信頼を完全に失います。NATO加盟国でもないウクライナの一部クリミアがロシアにかすめ取られるという話とは次元が違います。

まあ、“世界の警察官”を否定するトランプ大統領が、自国第一で、中国との棲み分け・経済関係重視の観点から、太平洋の西半分は中国に委ねるということで習近平主席と話がつけば、風向きも多少変わるでしょうが。

【“2020年に台湾侵攻の極秘計画”に台湾ネットユーザーは冷ややか
現時点での可能性ということではあまり考えられない台湾進攻ですが、最近幾つか、その可能性に触れたものも目にします。

ひとつは、アメリカの中台問題研究家とされるIan Easton氏の新著『中国 侵略の脅威』

****中国が2020年に台湾侵攻? 米学者「中国にその能力ない****
アメリカの中台問題研究家、Ian Easton氏が、中国が2020年に台湾侵攻の極秘計画を立てていると暴露し、議論を呼んでいます。

元ホワイトハウス官員やシンクタンクの学者たちが、中国は台湾を攻撃する能力を有せず、アメリカは座視しないと指摘しています。

中国は2020年に台湾に武力侵攻するのでしょうか?Easton氏の新著『中国 侵略の脅威』が台湾で話題になっています。

カーネギー財団中国安全保障問題専門家 Michael Swain氏:「この本を基にこう解釈するとすれば、まさにフェイクニュースである。」

戦略国際研究所軍事問題研究員 Richard Fisher氏:「彼は2020年に中国が台湾に侵攻すると言ってはおらず、2020年以降、台湾に侵攻する可能性が増加すると言っている。」

著者のEaston氏は、メディアに対し、2020年の台湾侵攻については、台湾の国防白書が記していると述べています。また、アメリカに台湾が直面している軍事的脅威を知らせるために、この本を著したと説明しました。台湾侵攻はすなわち、全アジアの民主制度との対決であり、中国には台湾に攻め込む力も勇気もなく、自殺行為だと指摘しています。

戦略国際研究所軍事問題研究員 Richard Fisher氏:「ノルマンディ上陸の時と同じで、短期的、中期的に未来を予見することは不可能だ。中国の台湾侵攻は政策的にも軍事的にも力不足であり不可能である。中国にできることは台湾封鎖だけだが、それもアメリカとの大きな衝突を招くだけだ。」

元ホワイトハウス国家安全局官員のDennis Wilder氏は、2020年は中国の軍事力増強の目標に過ぎず、侵攻計画があるわけではないと指摘します。もし一たび台湾が攻撃を受ければ、アメリカは黙って見ていないとも言います。

元ホワイトハウス国家安全局官員 Dennis Wilde氏:「台湾が孤立無援になることはない。アメリカがついている。アメリカは台湾の国防戦略を理解しており、もし中国が台湾に侵攻すればアメリカがどういう行動を取るかを、台湾も知っている。」【新唐人2017年10月10日】
*******************

この件に関する台湾ネットユーザーは、“冷ややか”なものだったとか。

**** 中国、2020年までに台湾を武力侵攻か=台湾ネットは意外な反応****
2017年10月4日、環球網は記事「米研究者が予言、中国は2020年までに台湾を武力侵攻する=また金をせびる気なの?と台湾ネットユーザー」を掲載した。

「中国本土は秘密の軍事計画を持っている。2020年までに台湾を武力侵攻する計画だ」 米保守系メディア「ワシントン・フリー・ビーコン」は3日、中国人民解放軍の内部文書を入手したと称する研究者Ian Easten氏の署名記事を掲載した。

ところが台湾ネットユーザーの反応は意外なものだったという。

「2020年は台湾総統選の年ではないし、わざわざ台湾を侵攻する意味はない」「中国は20〜30年前から米国をターゲットにしている。世界のリーダーを狙うためだ。台湾だけを見ているわけではない」「やれやれ、また中台緊張を煽って、米国の兵器を台湾に買わせるつもりかね」など、冷ややかなコメントが寄せられていると記事は伝えている。【10月5日 Record china】
******************

軍首脳人事は「台湾進攻シフト」か?】
一方、中国の軍首脳部の交代人事を、習近平主席の“台湾進攻シフト”と解釈する見方も。

****中国軍部「台湾進攻シフト」の不気味 習近平二期目の隠さぬ野望****
(中略)
台湾専門家で固めた軍首脳
党大会を前に軍首脳部の顔ぶれは一新した。連合参謀部に直属する陸、海、空、ロケットの四軍と情報戦の主体となる戦略支援部隊の司令官、政治委員がほぼ全員変わった。

新しい顔ぶれは習近平の縁故者が多く起用されたが、見逃せない共通項がある。台湾と向かい合う「福建省」と、福建省の部隊が所属していた旧「南京軍区」だ。
 
福建省はかつて習近平が省長までつとめた土地で、台湾海峡を挟んで台湾軍とにらみ合っている。習近平外交は「一帯一路」外交で西のシルクロードを向いているはずなのに、なぜか軍首脳は台湾攻略戦に特化している。(中略)

解放軍のトップをこれだけ台湾正面の専門家で固めた以上、習近平主席が二期目の政治的実績として台湾統一を意識していないはずがない。米国第一のトランプ政権の登場は、習近平の目に、まさに千載一遇のチャンスと映っているのだろう。
 
朱日和基地の閲兵を映した中国国営中央テレビの映像には、背景に台湾総統府の実物大のビルが映し出されていた。計算されたアングルの映像は、まさにこれから台湾シフトが強まるという威嚇に他ならない。【「選択」 2017年10月号】
**************

軍首脳人事が旧「南京軍区」に集中しているのは事実ですが、それを「台湾進攻シフト」と見るのは“深読み”に過ぎる感も。単に、太いパイプを持つ同軍区軍人の抜擢で権力固めを図った・・・というだけなのかも。

****習氏、軍中枢権力固め 旧南京軍区関係、4人****
18日に開幕する中国共産党大会に向け、軍中枢の新たな人事が固まってきた。

軍の最高指導機関である中央軍事委員会主席を兼ねる習近平(シーチンピン)国家主席は、ゆかりのある「旧南京軍区」から信頼する幹部を続々と登用。人事を通した権力固めを支えるのが、地方で軍と関係の深いポストを兼任してきた習氏の異色の経歴だ。(中略)
 
特徴的なのは、習氏が福建省や浙江省で勤務した時期に、両省を管轄内に含む「旧南京軍区」(現東部戦区)で勤務経験がある幹部が4人も昇格したことだ。
 
習氏は清華大学を卒業した1979年、中央軍事委に配属され、父親の習仲勲の戦友だった耿ヒョウ(コンピアオ)秘書長(のちの国防相)の秘書を務めた。

その後、福建省や浙江省で勤務した約20年間、民兵などを管理する軍分区党委員会や、兵力や物資の確保などで地元と調整する国防動員委員会など、旧南京軍区の機関幹部を兼務してきた。この経験が同軍区の軍幹部との太いパイプを生んだとされる。(中略)
 
ただ、習氏が意中の幹部を抜擢(ばってき)する傾向が強いあまり、人材の昇格が追いついていない状況だ。新たに軍中枢ポストに就いた8人のうち、4人が将校の最高位である上将ではなくまだ中将だ。(後略)【10月8日 朝日】
*******************

国民党サイドからは、台湾独立を主張する勢力のせいで「武力統一」に対する懸念が高まっている・・・とも
前出Ian Easton氏の著書との関連は知りませんが、国民党・馬英九政権で総督府副秘書長などを務めた羅智強氏は「中国大陸が台湾を武力統一する可能性が皆無でなくなってきた」とも。

****台湾で中国による武力統一への懸念高まる、「ゼロではなくなった****
馬英九(マー・インジウ)政権下で中華民国(台湾)総督府副秘書長などを務めた羅智強(ルオ・ジーチアン)氏は9日、フェイスブックに「中国大陸が台湾を武力統一する可能性が皆無でなくなってきた」と書き込んだ。台湾ではこのところ、「武力統一」に対する懸念が高まっている。

羅氏は1970年生まれで、国民党の将来を担う人物の一人とみなされている。フェイスブックに「私は以前、台湾が法的な独立宣言さえしなければ(中国大陸側による)武力統一はありえないと断言していた。しかし、現在は予想可能な将来の範囲内ではあるが、武力統一の可能性は『高くない』との認識だ」「武力統一はありえないと信じることはできない」などと書き込んだ。

羅氏は危険な兆候として、大陸側で台湾を敵視する世論が高まっていると指摘。「民主的政治体制であろうと非民主的体制であろうと、政府は人民の感情を映し出す鏡だ」「大陸当局も(民衆の声)に連帯して、衝突の度合いを高める可能性がある」と論じた。

羅氏は、台湾独立を強く主張する勢力を「口先の戦士」と批判。大陸側が武力統一をする具体的動きが出れば「開戦前に米国に逃げて亡命政府を樹立し、台湾独立の口先攻撃を続けることを保障する」などと書き込んだ。

羅氏のこの書き込みは、中時電子報などの台湾メディアや環球網、新浪網などの中国メディアが紹介している。

2016年に蔡英文(ツァイ・インウェン)政権が発足して以来、中国は同政権が「一つの中国」の原則を認めていないとして、台湾側との対話の停止や、政治面の各種圧力、軍事分野における威嚇などを繰り返している。そのため、台湾では大陸による武力統一の可能性に対する懸念が発生した。

10月になってからは、武力統一についての懸念や関心がさらに高まった。第19回中国共産党全国代表大会(党大会)が18日に始まることが影響していると考えられる。中国共産党は5年に一度の党大会の前には、表立った動きを示さないことが通例で、大会後に思い切った動きを示すことが多いからだ。ただし中台の専門家の多くは現在のところ、全面的な武力衝突の可能性は高くないとの見方を示している。

中時電子報は9日、大陸側の台湾研究会の王在希(ワン・ザイシー)副会長が、台湾問題について「最終的に『和』か『戦』か。鍵を握るのは台湾当局」と述べたと報じた。

王副会長は武力統一の可能性を完全には否定しなかったが、「台湾側が遠慮なく『脱中国化』と称して『台湾独立』の分裂活動を進める」場合を想定した上で「(台湾回教の)両岸関係が緊張していくことは避けられない。面倒な事も増えるだろう。ただし、大局はコントロール可能だろう」との考えを示したという。

自由時報は9日、台湾側の対大陸窓口組織である海峡交流基金会の洪奇昌(ホン・チーチャン)元董事長(理事長)が、中国共産党が第19回党大会の後に、台湾の武力統一に向かうことはないとの見方を示したと伝えた。

洪元董事長は、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が優先する戦略目標は「大国としての勃興」や軍事、経済、法治であり、台湾統一も含まれるが武力統一を優先しているわけではないと説明。

台湾で1947年に発生した2.28事件を挙げ、「発生後70年も経過しているが今もなお台湾社会の問題になっている」として、中国側が台湾を武力統一する道を選んだ場合「この社会がどれだけ長く、問題を残し続けることか」と論じたという。

洪元董事長は、中国が台湾を武力統一した場合、台湾が極めて長期にわたり中国の重荷になると指摘したことになる。

2.28事件は、国民党政権の強引な台湾統治に対する不満が爆発し、1947年2月28日に台北で民衆が蜂起し台湾全土に広がった事件。国民党はだまし討ちの形で軍を投入し、多くの台湾人を虐殺した。犠牲者数については諸説があるが、台湾政府は1万8000人〜2万8000人としている。同事件に伴う戒厳令は87年まで続き、恐怖政治により多くの人が投獄・処刑された。【10月11日 Record china】
*******************

新首相「私は台湾独立を主張する政治家」】
羅智強氏の攻撃の対象は、台湾の独自性を重視し、中国との関係を悪化させているとする民進党・蔡英文政権であり、「そんなことをしていると・・・・」と言いたいのでしょう。

羅智強氏は「「私は以前、台湾が法的な独立宣言さえしなければ(中国大陸側による)武力統一はありえないと断言していた」とも語っていますが、新首相の頼清徳行政院長が「私は台湾独立を主張する政治家だ」と明言して注目されています。

羅智強氏の書き込みは、こうした動きを牽制するものと思われます。

****私は台湾独立を主張する政治家」台湾の行政院長が言及、中国の反発招く可能性****
台湾の頼清徳行政院長(首相に相当)は26日、立法院(国会)の本会議で「私は台湾独立を主張する政治家だ」と述べた。

就任後初めて行った施政方針報告の質疑で、野党の立法委員(国会議員)の質問に答えた。蔡英文総統が中台関係の「現状維持」を掲げる中での踏み込んだ発言で、中国当局の反発を招きそうだ。
 
頼氏は「現実的な『台湾独立』主張だ」とも述べ、独立宣言を行わないことや、台湾の将来は住民投票で決める必要があることを強調した。
 
「台湾共和国」の建国を目指す党綱領を事実上修正した1999年の党決議におおむね沿った内容だが、中国共産党の党大会を来月に控え、中国側を刺激する可能性が高い。
 
頼氏は与党、民主進歩党の中でも独立色の強い最大派閥「新潮流派」に属しており、台南市長時代にもたびたび独立に言及してきた。ただ、6月には、自分は「親中愛台」だと述べ、軌道修正を図ったとみられていた。
 
頼氏の発言について、側近は「政治家個人の立場を改めて述べたもので、行政院長として蔡政権の路線から離れるものではない」と解説した。【9月27日 産経】
********************

当然、中国側は「いかなる形であれ『台湾独立』の言動に断固反対する」「『一つの中国』原則を堅持しなければ、平和発展の正しい方向を維持できない」と反発しています。

これに対し台湾側は、中国が何を言おうとも、「中華民国」が主権国家であることは「客観的事実」だと反論しています。

蔡英文総統は“新たなモデル”を提唱 中国側は一蹴
一方、「1992年コンセンサス」を認めていない蔡英文総統は“新たなモデル”を提唱しています。

****台湾・蔡総統「新たなモデルで」 中国に対話呼びかけ****
台湾の蔡英文総統は10日、総統府前で行われた建国記念日に当たる「双十節」の式典で演説し、中国に対し「両岸(中台)交流の新たなモデルを探すべきだ」と対話を呼びかけた。
 
蔡政権は「一つの中国」原則に基づく「1992年コンセンサス」を認めておらず、中国側は当局間対話を停止し圧力を強めている。

蔡氏は中台関係の停滞を認めた上で、「関係改善の突破口を探るべきだ」と述べた。ただ、「われわれは最大の善意を尽くした」とも述べ、台湾側からはこれ以上、譲歩する意思がないことも強調した。

また、中国軍が台湾周辺での活動を活発化させていることを念頭に「全力で戦力を強化し、台湾の自由と民主主義を守る」と訴えた。(後略)【10月11日 産経】
******************

中国側はこの呼びかけを“一蹴”したとのこと。

****台湾総統の呼び掛け一蹴=中国****
新華社電によると、中国国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は10日、台湾の蔡英文総統が演説で中国に関係改善に向けた対話を呼び掛けたことに関し、「どんな主張をしようと、カギは台湾と本土が『一つの中国』に属するという核心的な認識を認めるかだ」と指摘。

その上で、「『一つの中国』と台湾独立反対を堅持して初めて、両岸(中台)関係は安定的に発展できる」と述べ、「一つの中国」原則を受け入れない蔡総統の提案を一蹴した。【10月10日 時事】 
*****************

“台湾進攻”はともかく、“一つの中国”をめぐる綱引きは今後も中台間で続きます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする