孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  鎮痛剤「オピオイド」乱用による死者が年間3万人超 トランプ大統領「緊急事態宣言」

2017-10-27 23:10:37 | アメリカ

(画像はヴァイコディン(コデインから合成されたヒドロコドンとアセトアミノフェンを配合したもの)【8月26日 ロイター】 アメリカでは、薬物乱用で亡くなった人の死因ナンバーワンは、厳しく取り締まられるヘロインやコカインなどでなく、医者から処方される鎮痛剤であることが2014年の調べでわかっています。【2016年03月10日 GIGAZINE】)

トランプ大統領の緊急事態宣言 鎮痛剤の乱用による薬物中毒で年間3万人を超す死者
アメリカ・トランプ大統領が「緊急事態」を宣言しています。

対象は、“フェイクニュース”、与党・共和党や政権内部との対立、移民対策・国境の壁、オバマケア、税制改革、ロシア疑惑といった国内の問題でもなく、また、北朝鮮や中東情勢、対中国関係といった外交問題でもなく、あるいは自身の精神状態や人格・品位の問題でもなく、鎮痛剤の乱用による薬物中毒の蔓延です。

****トランプ大統領 鎮痛剤乱用の薬物中毒で緊急事態を宣言****
アメリカのトランプ大統領は、鎮痛剤の乱用による薬物中毒で国内で年間3万人を超す死者が出ていることを受けて、緊急事態を宣言し、対策を一段と強化する方針を発表しました。

アメリカでは、本来は鎮痛剤として使われる「オピオイド」と呼ばれる薬物を乱用して中毒となる人があとを絶たず、おととしは3万3000人余りが死亡しました。

トランプ大統領は26日、薬物中毒で死亡した人の遺族をホワイトハウスに招いて会見し、こうした状況について「国の不名誉であり、人類の悲劇だ。われわれは薬物中毒を克服する」と述べて緊急事態を宣言しました。

そのうえで、依存患者を迅速に治療するほか、「中毒性のない鎮痛剤の開発を進めていく」として、対策を強化する方針を発表しました。

薬物中毒による死亡率は、トランプ大統領の支持基盤である白人労働者層の間で急増していて、薬物対策を強化することで、支持を訴える狙いも見られます。

また、トランプ大統領は「中国で製造された安価で致死性のある薬物があふれてしまっている」と述べて、来月の中国訪問の際、習近平国家主席と話し合う考えを示しました。

中国からの薬物の流入をめぐってアメリカの司法省は、今月、中国で違法に生産された薬物を数年間にわたってインターネットを通じて販売し、アメリカ人を死傷させたなどとして、中国の密売業者とする2人を起訴しています。【10月27日 NHK】
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もちろん、アメリカ社会が各種ドラッグの蔓延という深刻な問題を抱えていることは周知のところです。
アメリカのドラマ・映画を観ているだけで、その程度が容易にわかります。

ただ、内外の多すぎるほどの問題・トラブルを抱える状態で、オピオイド乱用に対する「緊急事態宣言」というのは、国民の批判の目をそらす意図でもあるのでは・・・・とも勘繰ってしまいましたが、改めて確認するとオピオイド乱用は深刻な状況となっており、最近各方面から警鐘が鳴らされているようです。

適切な目的と用法・用量で使う限り、オピオイド鎮痛薬は強い痛みの治療に欠かせない有益な薬
最初にアメリカの現状と併せて、アヘン由来の鎮痛剤、および類似合成薬物「オピオイド」が本来“まっとう”で有用な薬物であることも医療サイト記事で確認しておきます。

****薬物大国アメリカでは年間1,150万人がオピオイドを乱用している 2015年の全国調査から****
アメリカでは薬物乱用が大きな問題となっています。背景として、モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬が処方されすぎているという見方があります。全国調査により乱用をした人の数などが推計されました。

アメリカ全国の薬物使用状況の調査
アメリカ合衆国の薬物乱用・精神衛生管理庁などの研究班が、2015年に行われた全国調査のデータをもとに、国内でオピオイドの乱用をした人の数などを推計し、医学誌『Annals of Internal Medicine』に報告しました。(中略)

オピオイドとは?
モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどが、オピオイドという種類に分類される薬剤です。オピオイドは治療上いろいろな用途で使われますが、中でも痛みを和らげる効果から、中等度から高度の痛みの治療としての用途があります。

一般的なNSAIDs炎症を抑える薬剤の総称(ただしステロイドを除く)で、鎮痛薬や解熱薬として頻用される。nonsteroidal anti-inflammatory drugsの略やアセトアミノフェンといった痛み止めの薬では効果が不十分な場合に、オピオイド鎮痛薬は非常に重要な役割を果たします。

多くのオピオイド鎮痛薬に共通する副作用として眠気、便秘、吐き気、依存何かしらの刺激や快楽を繰り返し経験した結果、求める欲求が抑えられなくなり、精神的にも肉体的にもそれ無しでは異常をきたしてしまう状態性、呼吸抑制などがあります。

依存性は時として薬物乱用につながる可能性もあります。犯罪行為とも関係する薬物乱用の問題の中でオピオイドもしばしば話題となります。

乱用の可能性がある一方で、適切な目的と用法・用量で使う限り、オピオイド鎮痛薬は強い痛みの治療に欠かせない有益な薬です。

オピオイド使用は37.8%、乱用は4.7%
調査結果からオピオイド使用について以下のことが見積もられました。(中略)

軍人や施設に入っている人を除くアメリカの市民の成人のうちで、2015年のうちに処方薬のオピオイドを使用した人は全体の37.8%にあたる9,180万人と推計されました。この中には乱用も含まれますが、適切に処方された人も含まれます。

そのうち1,150万人がオピオイドを乱用していると見られました。薬物使用障害にあたる人は190万人と見積もられました。(中略)

乱用・薬物使用障害は以下に当てはまる人に多い傾向がありました。
無保険 失業中 低収入 行動上の健康問題がある

また、(乱用した成人のうち、59.9%がオピオイドを処方なしで使用したと答え)乱用した人の40.8%が、最後に乱用した時には友人や親族から処方薬のオピオイドを無料で手に入れたと答えました。

研究班は「この結果から、証拠に基づいた痛みの管理にアクセスしやすくすること、未使用のオピオイドを潜在的に濫用可能な状態にする過剰な処方を減らすことが必要と思われる」と結論しています。

オピオイドの適正使用と、アメリカが抱える問題
アメリカのオピオイド乱用についての調査結果を紹介しました。オピオイド鎮痛薬が有効だといっても、人口の3割近くに処方されるといった状況は、やはり行き過ぎかもしれません。

アメリカで行われている薬物乱用の中でもオピオイド乱用は一部にすぎません。同じ2015年のNSDUHのデータでは、12歳以上のうち10.1%が最近1か月以内に薬物乱用を経験していること、そのうちマリファナの乱用が最も多く2,200万人以上にのぼることなどが推計されています。(中略)

オピオイド鎮痛薬が犯罪のイメージと結び付いた結果、本当にオピオイド鎮痛薬を必要としている患者が不当な扱いを受けたり、自分でもオピオイド鎮痛薬による治療をためらったりする事例が報告されています。

オピオイド鎮痛薬は現代の医療には欠かせない薬です。必要な人に必要な薬を届けるために、乱用やそれによる社会の偏見といった問題に取り組むことをアメリカは迫られています。【8月6日 MEDLEY】
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日本の医療現場では、法律上“麻薬”扱いになる煩雑さや、“麻薬”のマイナスイメージの問題もあって、オピオイドの利用はそれほど多くありませんでしたが、終末期医療における患者の痛み負担の軽減が重視される流れの中で、オピオイドの有効活用をもっと進めることが求められています。

労働市場、地域財政にも大きな影響
“オピオイド使用は37.8%、乱用は4.7%”というアメリカの現状に対する警鐘は、全くの畑違いとも思われるイエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長からも。

****アメリカ労働市場をむしばむ「オピオイド系鎮痛剤****
オピオイド系鎮痛剤の拡大と米経済との関係-FRBも関心
米国の労働市場をむしばむオピオイド系鎮痛剤の中毒は、イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長も無視できないほどに影響が拡大している。
  
ペンシルベニア州ジョンズタウンで工場を経営するビル・ポラチェク氏は数年前、機械工と溶接士の採用候補者を100人に絞ったところ、犯罪歴がある、あるいは薬物検査で陽性反応が出た候補者が半数を占めた。「適性のある人材が来てくれない」と同氏は嘆く。
  
オピオイド中毒の問題がアメリカ社会で深刻化するにつれ、雇用主が抱える人材難の問題も拡大している。イエレン議長は先週の上院公聴会で、この問題について時間を割いた。オピオイド中毒が雇用の妨げになっていると報告した地区連銀も複数ある。

オピオイド乱用者
FRBが通常なら管轄外の薬物中毒問題を気にする理由は2つ。
一つは、働き盛り世代の労働参加率が歴史的に低い現状を理解する上で重要だということ。もう一つは、この数年にコミュニティーと労働力動向への関心を高めているFRBとしては、オピオイド危機は全米の人的リソースを損なう悲痛な現実であるということだ。

米薬物乱用・精神衛生管理庁によると、2015年時点で26歳以上の成人推定270万人が鎮痛剤を乱用していた。これとは別に現在では23万6000人がヘロインを使っている。
  
イエレン議長は先週の上院証言でオピオイド中毒について問われ、「働き盛り世代で労働参加率が低下していることと関係があると考えている」と発言。「問題はコミュニティーをむしばみ、雇用の機会が低下している労働者に特に影響している。これが偶然なのか、あるいは長期的な経済への弊害なのかは分からない」と続けた。
原題:Here’s Why Yellen’s Fed Cares About America’s Opioid Epidemic(抜粋)【7月21日 Bloomberg】
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地方自治体の財政にも、青少年対策や様々な面で大きな負担となっています。

****ヘロインなど「オピオイド系薬物中毒」 米国の地域社会に深刻な影****
米国でオピオイド系鎮痛剤の乱用による死者数が増加するなか、この新たな薬物危機の最前線に立つ地域社会が、財政負担という思わぬ打撃に直面している。

オハイオ州コロンバスから南に1時間の距離に位置する人口7万7000のロス郡は、オピオイド系鎮痛剤の乱用に関連する死亡件数が急増している。2009年の19人に比べ、昨年は44人に。薬物乱用のまん延は、人命を奪うだけでなく、郡の財政にも負担をかけている。

同郡当局者によれば、州の養護施設に収容されている児童200人のうち、両親がオピオイド中毒に陥っている割合は、5年前の約40%から約75%に上昇。こうした児童の場合、専門家によるカウンセリングや、長期収容や治療が必要になるため、養護コストがかさむという。(中略)

トランプ大統領は先月、オピオイド中毒を「国家的な緊急事態」と呼んだが、まだ国家非常事態宣言は発令されていない。もしそのような動きがあれば、各州は対策のために連邦予算を利用できるようになる。

全体像の把握はこれから
薬物過剰摂取の増加に取り組む郡は、緊急通報の増加、監察医や検視官への支払い増加、刑務所や裁判所の過密状態によるコスト高に直面している、と全米3069の郡や地方自治体を代表する全米カウンティ協会のエグゼクティブ・ディレクター、マット・チェイス氏は語る。(後略)【9月26日 ロイター】
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医師らに賄賂を渡し、オピオイドを必要ない患者にまで処方させた“製薬会社の過剰な売り込み”】
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2016年3月中旬、処方される鎮痛剤の量を減らすことを目的として、医師が鎮痛剤の処方を管理するための新しいガイドライン(PDF)を公開しています。

****米国経済を蝕む「オピオイド中毒****
製薬会社は長年にわたり鎮痛剤を販売しており、そうした薬品を扱うディーラーや密輸業者が暗躍する闇市場は、活況を呈している。だがその一方で、鎮痛剤中毒を巡る米国の経済活動は、社会の中心にまで広く浸透している。

米ナショナル・フットボールリーグ(NFL)の王者を決める「スーパーボウル」では、鎮痛剤のオピオイド摂取による便秘の治療薬が宣伝される。

ニューヨークの駅には、中毒を治療する薬剤の広告がたくさん貼られている。リハビリ施設や警備会社、刑務所、そして葬儀場も、この国を飲み込む悲劇から利益を得ている。

今や、ペット用薬品のオンライン小売業者までが、この危機に乗じて利益を上げていると非難される事態となった。

アメリカ疾病予防管理センターの調査によれば、鎮痛剤乱用による2013年の経済損失は785億ドル(8兆6043億円)に上った。

医療費と薬物中毒の治療費は280億ドルに達し、そのほとんどが保険で支払われた。捜査・裁判費用は約80億ドルだった。その他の損失は、ほぼすべてが生産性低下と、若年死によるものだ。

現在の数字はさらに高いだろう。2015年にはオピオイド乱用による死者は3万3000人を数え、2013年から3割も増加した。そして、今も増加を続けている。(後略)【8月26日 ロイター】
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“ペット用薬品のオンライン小売業者まで”云々は、ペット用医薬品販売のペットメド・エクスプレス(PETS.O)がオピオイド常習者を対象にペット向け鎮痛剤をオンライン販売していたとの空売り調査会社の告発を受けた件です。

当然ながら、批判の矛先は今日の事態を招いた製薬会社にも向けられています。

***米製薬大手、中毒性のオピオイド「密売」でCEOら逮捕***
<トランプ米大統領が非常事態を宣言した「オピオイド危機」の背景には、製薬会社の過剰な売り込みがあった>

米捜査当局は10月26日、医師らに賄賂を渡し、鎮痛剤「オピオイド」を必要ない患者にまで処方させたとして、米製薬会社大手インシス・セラピューティクスのジョン・カプール最高経営責任者(CEO)らを逮捕した。

アメリカではオピオイドの乱用による死者が急増しており、ドナルド・トランプ米大統領は同日、全米を蝕む「オピオイド危機」に対して公衆衛生上の非常事態を宣言した。乱用の背景にあるとされる製薬会社の過剰な売り込みに対し、当局も取り締まりを強化していた。

オピオイドは、ケシを原料に作る医療用鎮痛剤の総称で、モルヒネ、コデイン、フェンタニルなども含まれる。がんの強い痛みに効果があるが中毒性も強い。

それが怪我や関節痛など通常の痛みに対しても安易に処方されてきたせいで中毒になる人が続出。米疾病対策センター(CDC)によれば、中毒患者数はざっと200万人、過剰摂取による死者は2016年だけで6万4000人に達している。

今回逮捕されたインシスの創業者でビリオネア(富豪)のカプールの容疑について、米司法省は「本来はがん患者の痛みを抑えるために処方されるオピオイドの一種、フェンタニル・スプレーを過剰に処方させ、不当な利益を得た」と発表した。医師に賄賂を渡し、フェンタニルを有効成分とする鎮痛剤「サブシス(SUBSYS)」を患者に処方させた罪に問われている。

「麻薬密売人も同然」
裁判所の記録によれば、カプールとマイケル・バビック元CEOは、医師や薬剤師に対し、講演料やマーケティング費、食費、娯楽費などの名目で、リベートや賄賂を渡していた。

同社のアレック・バーラコフ元営業担当副社長は、講演を依頼する医師について、「講演の質は問わない」と部下へのメールに書いていた。「必要なのは、大量の処方箋を書いてくれる医者だ」

がん以外の患者にはオピオイドを認めない保険会社には、従業員が身元を偽って電話をかけ、患者の病状や痛みの程度などについて嘘の説明をさせた。

「がん患者のための鎮痛剤で中毒性が高いオピオイドをがんでもない患者に売りつけるのは、麻薬密売人と変わらない」と、米連邦捜査局(FBI)ボストン支局主任特別捜査官ハロルド・ショウはインシス幹部を非難した。【10月27日 Newsweek】
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こうした流れで、鎮痛剤オピオイド使用に対する制約が大きくなれば、比較的副作用が軽いとされる大麻(マリファナ)が慢性疼痛緩和に更に利用されることになるのかも。

マリファナについては、10月15日ブログ“合法化が進むアメリカの大麻(マリファナ)事情”でも取り上げました。(最近、ネット動画配信で“Weeds ママの秘密”というTVドラマをよく観ていますが、夫をなくした主婦がマリファナの売人とななって生計を支えるコメディが成立するというあたりに、アメリカの現状にの一端が感じ取れます。)

言うまでもなく、乱用を防止し、“適正使用”に心がけることが重要です。
先述のように、日本ではむしろオピオイドをもっと広く利用してがん患者等の苦痛を軽減することが求められています。

日本の病院・薬局に対する麻薬規制の現状からすると、アメリカのような形で社会にオピオイドが流れ出す事態は想像しづらいものがありますが、今後より広範に使用されるようになる場合は、そうした乱用に対する注意も必要になります。
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