孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  “民族浄化”で増え続けるロヒンギャ難民 イスラム教徒全体への嫌悪を扇動する仏教僧

2017-10-25 23:04:12 | ミャンマー

(ヤンゴンの集会でイスラム排斥の熱弁をふるう過激派仏教僧ウィラトゥ師(8月下旬)【10月13日 WSJ】)

スー・チー氏、国民が根強い差別感情を持つ中、問題の解決に向け理解を求める
再三取り上げているミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する国軍や一部仏教徒による“民族浄化”とも言えるような迫害の問題。

前回10月10日ブログ“再び増加するロヒンギャ難民 スー・チー国家顧問自身のロヒンギャに対するネガティブな意識”では、民主化運動の象徴でもあったノーベル平和賞受賞者スー・チー氏の消極的対応の背景には、単に軍への影響力を持たないことや、国民世論がロヒンギャを嫌悪しているという“動きにくい状況”の問題だけではなく、彼女自身のロヒンギャに対する認識も、「彼らはベンガル人であり、外国人なのだ」といった発言に見られるようにネガティブなことがあるのでは・・・という件を取り上げました。

スー・チー氏も全く動いていない訳でもなく、12日には、ロヒンギャの帰還を支援する資金や物資を集める組織を自ら主導して政府内につくることを明らかにしています。

****ロヒンギャ問題 スー・チー氏が新たな支援の枠組み作り表明****
ミャンマー西部の戦闘の影響で、少数派のイスラム教徒、ロヒンギャの人たちが隣国のバングラデシュに避難し、国際的な批判が高まる中、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は、政府や国際機関などが連携して避難民の支援に当たるための新たな枠組みを作り、みずからトップを務めて事態の打開を目指す方針を明らかにしました。

ミャンマー西部ラカイン州では、ロヒンギャの武装勢力と政府の治安部隊の間で起きた戦闘の影響で、これまでにロヒンギャの住民51万人以上が隣国のバングラデシュに避難したと見られています。

この問題について、ミャンマーを事実上率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問は12日夜、首都ネピドーで国民に向けたテレビ演説を行いました。

この中でスー・チー氏は、「私たち国民は、ミャンマーの平和を誰よりも強く願っているからこそ、団結して問題に取り組まなければならない」と述べ、国民の多くがロヒンギャの人たちに対し根強い差別感情を持つ中、問題の解決に向け理解を求めました。

そのうえで、政府や民間企業、NGO、国連などが連携して人道支援や復興に取り組むための新たな枠組みを作り、みずからがトップを務める方針を明らかにしました。

国際社会からは、政府がロヒンギャの人権を侵害しているなどと批判が高まっていて、スー・チー氏がみずから問題の解決に向け、取り組む姿勢を示したことで、今後、事態の打開につながるのか注目されます。【10月13日 NHK】
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ロヒンギャだけでなく、掃討作戦で家を追われた仏教徒やヒンドゥー教徒も援助の対象になるということですが、受け入れを拒んでいる国連人権理事会の調査団についての言及はありませんでした。【10月13日 朝日より】

国籍も付与されておらず、着の身着のままで非難したロヒンギャも多いなかで、帰還がどれだけ進むかはやや疑問もありますが、根強い差別感情を持つ国民に対し、彼女自身の言葉で訴えかけた点は評価できるでしょう。

なお、国軍も過激派掃討作戦が適切に行われたかどうかを調査するとのことですが、こちらは全く期待できません。形式的なものでしょう。

****ロヒンギャ問題「作戦適切か」 ミャンマー国軍が調査へ****
ミャンマーから50万人を超える少数派イスラム教徒ロヒンギャが隣国バングラデシュに難民として逃れている問題で、ミャンマー国軍は掃討作戦が適切に行われていたかどうかの調査をすると表明した。治安部隊がロヒンギャを迫害しているとの国際社会からの批判を受けた措置とみられる。(中略)

ミンアウンフライン国軍最高司令官は12日、日本の樋口建史ミャンマー大使と会談し「民族浄化は行われていない。写真を見れば、(ロヒンギャが)恐怖から逃げているわけではないとわかる」などと発言した。(後略)【10月15日 朝日】
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【“民族浄化”が進行する現状
国際人権団体等によって伝えられる情報は、ミンアウンフライン国軍最高司令官の認識とは大きく異なっています。

****掃討終了」後も焼き打ち=ロヒンギャの村破壊と人権団体―ミャンマー***
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題で、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは17日声明を出し、アウン・サン・スー・チー国家顧問が武装集団に対する掃討作戦の終了を宣言した後も、ロヒンギャの村に対する焼き打ちが続いていたと明らかにした。最新の衛星写真の分析で判明したという。
 
9月21日に撮影したとされる衛星写真では、ロヒンギャの村が灰燼(かいじん)に帰しているのに対し、隣接する仏教徒の村は無傷のままとなっている。
 
声明によると、ロヒンギャの武装集団と治安部隊の衝突が8月25日に始まって以降、焼き打ちで少なくとも288の村が完全あるいは部分的に破壊された。

スー・チー氏はロヒンギャ問題に関する9月19日の演説で、掃討作戦は同月5日以降は行われていないと語ったが、その後も少なくとも66の村が焼かれていた。
 
国連などによれば、戦闘を逃れるため、隣国バングラデシュに脱出したロヒンギャ住民は衝突開始後、53万7000人に達した。

ヒューマン・ライツ・ウオッチは「ミャンマー国軍は殺害や性的暴行、その他の人道に対する罪を働きながらロヒンギャの村を破壊し、住民を脱出に追い込んでいる」と非難。「関係各国は迫害を終わらせるよう強く求めるべきだ」と訴えた。【10月17日 時事】 
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****治安部隊が数百人のロヒンギャ殺害か アムネスティ報告****
ミャンマー西部ラカイン州から逃れた50万人を超すイスラム教徒ロヒンギャが難民になっている問題で、国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」は18日、難民への聞き取り調査から、ミャンマー政府の治安部隊が数百人ものロヒンギャを殺したとする報告を発表した。国際社会に同国への武器禁輸などを求めている。
 
アムネスティは、バングラデシュに逃れた120人以上のロヒンギャの証言や衛星写真などを元に被害を検証。住人のほとんどが殺されたとされる村の12歳の少女は、「軍服を着た男たちが逃げる私たちを後ろから撃ち、父と10歳の妹が殺された」と証言。治安部隊によるレイプや焼き打ちの証言も数多くあったという。
 
アムネスティは報告の中で、「国際社会は制裁など行動を取り、軍による犯罪に明確なメッセージを送るべきだ」と主張した。
 
一方、国連児童基金(ユニセフ)は17日、8月以降に難民となったロヒンギャ計58万2千人の約6割が子どもだと発表した。必要額の7%程度の資金しか集まらず、極度に物資が不足しているという。【10月18日 朝日】
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アメリカ 「民族浄化」との認定を検討
こうした状況で、人権問題に関心がなく、ロヒンギャ問題への“腰が重かった”アメリカ・トランプ政権内部にも、ようやく動きが見えます。

****ミャンマー軍に責任=ロヒンギャ問題で米国務長官****
ティラーソン米国務長官は18日、ワシントンで講演し、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害問題について、「非常に懸念している」と述べ、ミャンマー軍指導部が責任を負っていると強調した。迫害が起きている地域への人道支援団体や国連機関の立ち入りを完全に認めるよう軍当局に求めた。【10月19日 時事】
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“米国は23日、ロヒンギャの住民に対する暴力行為に関わったミャンマー軍の部隊や幹部らに対する軍事支援を停止すると発表した。”【10月24日 AFP】

****民族浄化」と認定検討か=ロヒンギャ迫害で米国務省****
ロイター通信は24日、米政府当局者の話として、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害問題で、国務省がミャンマー当局による迫害を「民族浄化」と見なすことを検討していると報じた。実現すれば、米国がミャンマーに対して制裁を科す可能性もあるという。
 
「民族浄化」認定を含むミャンマー政策の見直し案が週内にもティラーソン国務長官に提出される見通し。長官が採用するかどうか判断する。【10月25日 時事】
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ただし、“マーフィー国務副次官補(東アジア・太平洋問題担当)は、追加制裁を検討中としながらも、制裁を発動すれば米政府のミャンマーに対する影響力低下につながる可能性があると慎重な姿勢を示した。”【10月25日 ロイター】とも。

悪化する避難先バングラデシュの状況
バングラデシュに避難したロヒンギャは今も増え続けており、60万人を超えたとされ、国連の部門間調整グループ(ISCG)の報告書によると“この1週間だけで1万4000人以上が越境したことが確認された”。【10月23日 AFP】とのことです。

避難先のバングラデシュの状況も悪化しています。

****ロヒンギャへの性暴力増加=国際機関が懸念表明****
国際移住機関(IOM)は27日、声明を出し、ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャに対する性暴力が増加しているとして、深刻な懸念を表明した。(中略)性暴力の現状は、コックスバザールでロヒンギャ難民の支援に当たる職員らの報告で明らかになった。女性や少女だけでなく、男性や少年も被害に遭っている。(後略)【9月28日 時事】 
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****<バングラデシュ>ロヒンギャ流入、宗教対立の飛び火懸念****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民流入が続くバングラデシュ・コックスバザールで、ヒンズー教徒の難民や地元の仏教徒ラカイン族の間にロヒンギャへの警戒感が強まっている。

これまでミャンマー国内で両グループとロヒンギャとの対立が表面化してきたためだが、9月に入り、バングラ側でロヒンギャによるヒンズー教徒殺害事件が発生。宗教対立がバングラ側に飛び火する懸念が現実化しつつある。(中略)

コックスバザールに暮らす少数民族の仏教徒ラカイン族にも不安が広がっている。ミャンマーではラカイン族がロヒンギャと衝突を続けており、「報復」を恐れているためだ。(後略)【10月3日 毎日】
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****<ロヒンギャ>伝染病の懸念高まる・・・・バングラ・難民キャンプ****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民が集中するバングラデシュ南東部コックスバザール周辺で、伝染病への懸念が高まっている。国連などによると8月末以降だけで50万人以上が流入し、難民キャンプの衛生状態が悪化しているためだ。現地の医師らは「発生すればすぐに広まる」と危惧している。(後略)【10月4日 毎日】
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こうした状況を受けて、バングラデシュ政府は大規模な難民キャンプ拡張計画を明らかにしています。

****バングラ、ロヒンギャ難民80万人超収容の巨大キャンプ建設へ****
バングラデシュは5日、隣国ミャンマーでの暴力行為から逃れてきたイスラム系少数民族ロヒンギャ80万人以上全員を収容できる世界最大級の難民キャンプを建設する計画を発表した。現在、国境付近の複数のキャンプに収容しているロヒンギャ難民全てを移す方針。(後略)【10月6日 AFP】
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財政的に余裕がないバングラデシュ政府が実行できるためには国際援助が必要となるでしょう。
国際社会は資金援助とともに、一定水準の質を確保するようにバングラデシュ政府に要請することも必要でしょう。

難民のミャンマー帰還に向けた、ミャンマー、バングラデシュ両国の協議も始まってはいます。

****国境に連絡事務所設置へ=ミャンマーとバングラデシュ****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャがバングラデシュに大量に脱出している問題で、両国政府は24日、国境に連絡事務所を設置することで合意した。
 
ミャンマーのチョー・スエ内相とバングラデシュのカーン内相がネピドーで会談。ミャンマー内務省によれば、ロヒンギャ難民の帰還に向けた身元確認作業について協議したほか、国境警備の強化やテロ対策をめぐり意見を交わした。【10月25日 時事】
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ロヒンギャから更にイスラム全体への嫌悪を拡散させる過激仏教僧
しかし、ミャンマー側のロヒンギャに対する否定的な意識が根強く、国軍が“民族浄化”を先導している状況では、あまり多くを期待できないようにも思えます。

ロヒンギャ差別の国民世論を煽っているのが、民族主義的な仏教僧勢力で、なかでも仏教指導者のウィラトゥ師が中心となっていることはこれまでも取り上げたことがあります。

軍政時代は、その過激言動で収監されていましたが、“民主化”によって釈放され、野に放たれたことが今日の状況をつくっている側面もあります。

ウィラトゥ師と軍情報部との密接な関係もあるようです。刑務所に入っていたときも、軍の情報部からの差し入れがあり、特別待遇だったようです。【10月13日 WSJ“ロヒンギャ排斥を主導するミャンマー仏教僧”より】

“ロヒンギャを除いてもミャンマーの人口の4%程度にとどまるイスラム教徒に対し、ウィラトゥ師はあらためて攻撃対象を広げる兆しを見せている。

「ミャンマーが抱えるのはベンガル人(ロヒンギャを指す表現)の問題だけではない」と同師はパアンの町の聴衆に告げた。「ムスリムという問題がある」”【同上】

ミャンマー国内には、ロヒンギャだけでなくイスラム教徒全体に対する不穏な空気もあります。
ウィラトゥ師等による扇動は、国民を分断する深刻な問題を惹起します。

****イスラム教徒お断り」拡散 民主化進むミャンマー****
仏教徒が9割近くを占めるミャンマーには「イスラム教徒お断り」を掲げる村や地区がある。「イスラム教徒がいるとトラブルが起こる」と住民たちは異教徒の居住を拒否する。英領植民地時代から続く反感は、民主化が進む中で強まる気配すら見せている。

中部のターヤーエー村で7月下旬の夜、ショベルカーが窓の少ない白壁の建物を崩すのを数千人が取り囲んだ。
「壊せ、とみなが口々に叫んでいた」と村に住むミンサンさん(36)は振り返った。

騒動のきっかけは、この村でモスク(イスラム教礼拝所)が建てられている、といううわさが、フェイスブックで拡散されたことだった。(中略)
  
しかし、後日、建物は映像編集用のスタジオだったとわかった。うわさが独り歩きした結果だった。
 
「人々のイスラム教への反感は今に始まったことではない」とユザナ師は言う。地区政府によると、2014年の国勢調査で約26万人が住むチャウパダウン地区に、イスラム教徒は1人もいない。「イスラム教徒は域内で一晩以上過ごせない」との不文律があるという。
 
住民らによると、1998年、地区政府の許可なしにモスクの建設が進められていることが判明。反対運動が起き、住んでいたイスラム教徒は地区を去った。その後、この地域の軍幹部から、「今後はイスラム教徒を住まわせないように」との指示が出たという。
 
この地区で生まれ育ったチョウトンさん(66)は「キリスト教徒やヒンドゥー教徒はいい。でも、イスラム教徒はダメ。彼らの目的は世界のイスラム化だと聞いた。仏教徒と結婚してイスラム教に改宗させている」と話す。
 
少数派のイスラム教徒らでつくる「ビルマ人権ネットワーク」(BHRN)によると、国内の少なくとも21の村が「イスラム教徒お断り」の看板を掲げる。

国内ではイスラム教徒ロヒンギャへの迫害が問題となっているが、BHRNのチョーウィン代表は「ロヒンギャ迫害の問題は歴史や国籍の問題が複雑に絡むが、根底には国民の反イスラム感情がある」とみている。

 ■表現過激、深まる溝
「インドネシアは仏教国だったが、イスラム教徒の国になった。同じことが起きないようにしたいだけだ」。最大都市ヤンゴンで取材した仏教僧のパーマウカ師(54)は口調を強めた。今年5月に解散した急進派仏教徒団体「マバタ」に所属し、週刊紙でイスラム批判を続けてきた。
 
イスラム教徒の多くは19世紀に始まる英領植民地時代以降に英領インドから流入したとされる。上智大の根本敬教授(ビルマ近現代史)は、「独立運動の過程で多数の市民が仏教国であることを強く意識し、『後から来た』イスラム教徒への反感を強めた」とみる。
 
ただ、反イスラム感情はここ数年で強まっている。英字紙ミャンマー・タイムズの元記者ジェオフレイ・ゴダードさんは、「民主化で言論の自由が広がり、過激な表現が宗教間の溝を深めた」とため息をつく。
 
マバタの中心メンバーで反イスラム仏教僧として有名なウィラトゥ師は、軍事政権下で人々を扇動したとして投獄されたが、民政移管後に改革を進めたテインセイン前大統領の恩赦で12年に釈放された。師の運動は広がり、15年には仏教徒女性と異教徒との結婚を規制する法律ができた。
 
マバタは高僧でつくる会議に「正式な団体でない」と宣告され解散したが、ほぼ同じメンバーが「慈善団体」を立ち上げ、週刊紙などの発行を続ける。
 
拍車をかけるのがインターネットだ。ミャンマーでは携帯電話がここ数年で急速に普及、9割の人々が使う。ネット上ではイスラム教徒への中傷が飛び交う。

 ■有効な対策、政府打てず
敏感な問題のため、政府も有効な対策を打てていない。文化宗教省の担当局長は、「イスラム教徒が入れない地区があるとは初めて聞いた。不文律だと政府が指導するのは難しい」と答えた。具体的な質問には、アウンサンスーチー国家顧問の役所である国家顧問省が「適切に処理するはずだ」と繰り返した。(後略)【10月24日 朝日】
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特定宗教を住まわせない不文律が存在するというのも憂慮すべき事態ですが、ウィラトゥ師のような扇動者とインターネットによる情報拡散で分断が深まっているのが現状のようです。
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